188:魔王ドグマとの訓練1

王国武闘大会会場が開かれる。
(最近よくここに呼ばれるにゃあ)(会場もきっとよろこんでるにゃあ!)ケットシーたちが目配せしてうんうんと頷きあい、「「にゃにゃーーー!」」魔法を発動させた。
空調魔道具などが動き出す。

「今日はここで訓練だ」

大柄な男性がまっすぐ会場に入っていく。
見事な紫がかった黒髪と獣の尻尾をなびかせて、くるりと振り返った!

「我と!!」

ビシッ! と親指で自分を指し、尖った犬歯をギラリと光らせた。
興奮しているのだろう、ピリピリとした闘気が溢れ出す。

▽魔王ドグマが 訓練教官として 現れた!

<ドドーーーーーーーーーン!!!!>

キラが効果音をドグマの背後に出現させる。
「ちょっ……ふふっ……! キラ、登場の音自重して……ッ!」
レナパーティが必死で笑いをこらえた。

<緊張がほぐれたでしょう? オホホホホホホ! 主導権をあちらにとられるわけにはいきませんから!>

悪びれずに堂々と言い放つ。
キラは理由があってこのような演出をしたのだから。
レナの背後に映像の炎を立ち昇らせた!
従魔たちの絶対的なご主人様レナはもーーっと目立つべきー!

「ふははははははは!」

<ホホホホホホホホ!>

ドグマとキラが大音量で笑いあっている。
レナが「スキル[従順]おだまり」とキラを黙らせた。電子ウィンドウにてへっと舌を出す絵文字が浮かぶ。

バサァッ! とレナが[赤ノ祝福ヲ賜リシ覇衣(はごろも)]を手で払った。

「本日は訓練のお誘い、誠にありがとうございます。ドグマ様」

にこりと笑顔を向ける。
できあがったばかりのオーダーメイド衣装を早速着こなしている。くぅーー! イイネ!

「本日は従魔たちへのご指導、よろしくお願いいたしますわ。さあいってらっしゃい、私の可愛い子たち!」

お分かりだろう。
レナはすでに称号をセットした女王様状態である。

「<おおせのままに!>」

従魔たちがきりりと顔を引き締めて、ドグマに対峙した。
あちら側には宰相と護衛部隊が背後に控えている。そしてなぜか、経済部の大悪魔マモンの姿も。
ドグマが暴走した時のストッパー、という役割|も(・)ある。

「約束だからな。我が直々にお前たちを鍛えよう。とはいえ……魔物型にはならないつもりだが」

ドグマはそう言うと、親指の先を噛んで、半獣人の姿に変身した。

(ドグマ様のことだから思い切り戦闘を楽しみたいって主張してくるかと思ったけど……?)

レナが怪訝そうに眉をひそめた。
オズワルドも不思議そうな顔をしている。
そして(あ。父様が半獣人姿になってもちゃんと闘気を制御できてる……?)と気づいた。
実はこの日のために宰相と特訓していたのだ。

ドグマが真剣にレナたちを眺めた。

「これは訓練だ。レナパーティにとって最も必要な特訓がなされるべきだ、と宰相たちと相談してな」

「ご立派な判断で御座いました。ドグマ様」

後ろで宰相が一礼する。
なんと、ドグマの提案でそのような話し合いがされたとのこと。
▽オズワルドは 父親を ちょっぴり尊敬した!

「レナパーティの戦闘力はかなり磨かれている、とギルド長から聞いている。では、足りない部分を補ってやるべきでは? と思ったのだ」

「足りない部分……」

レナが呟く声を、ドグマの獣耳がしっかり拾う。
(まあまだ自覚がなくても仕方がない。戦闘力が高かろうと、全員幼く、実戦経験が少ないのだから)と思考した。

「精神干渉などの特殊能力を使ってくる敵との対峙経験が少ないだろう。これからレナパーティが対峙する敵の中には、それに特化した者がいるはずだ」

「!!」

レナが気づいた。

(犯罪組織の夢魔・ナイトメアの対処には、後手に回らざるをえなかった。影響を受けてからなんとか反撃したんだもんね……。そもそもの精神防衛ができるようになればいいな)

「確かに。物理攻撃として特殊な技を使う相手はいたけれど、精神的に干渉する技への対処は……経験があまりありませんわ」

「そういうことだ」

「そこを強化特訓して下さるのですね。とても助かります」

「光栄だろう?」

「ええ。魔王様直々にだなんて……ゾクゾクします」

「そうか! ふははははははは!」

レナ女王様と魔王ドグマがともにサディスティックな笑みを浮かべた。
どちらも”頂点に立つもの”。
魂が「精神的に相手を屈服させたい!」と訴えている。
好戦的に見つめあった。

「というわけで。威圧感が凄い者を揃えた」

「理解しました」

レナがふうっと息を吐く。ドグマの背後を眺めていく。
威圧感がすごい者……サディス宰相、大悪魔マモン、護衛部隊。

((((いや、ついで感がすごい……なんだかすみません))))

気まずそうに護衛部隊が考える。
まあ今はこういう仕事、と気持ちを「のほほんレナパーティ見守り」モードから、戦闘モードに切り替えた。
護衛部隊の雰囲気が凍るように冷たくなる。
……寂しそうにレナが眉尻を下げたので、罪悪感を抱いた。立場以上にだいぶ入れ込んでいるなぁ、と自分たちの内心を知り、心の中で苦笑する。表情には出さない。

「称号[魔王]セット!」

”グオオオオオオオン!!” ーーデス・ケルベロスの魔人族が魔王として吼える!

[魔王]の称号効果、[絶対王者の覇気]が溢れて、この場にいる全員を包む。
魔王の部下たちは目を爛々と光らせて、普段は隠している魔物の闘争心を剥き出しにした。
大悪魔マモンが銀髪の美貌紳士に変身し、威圧感を放つ。
獰猛に「ぐるるっ」と喉を鳴らした獣人もいる。
宰相がメガネをとった。

ドグマの覇気はレナたちの息を奪うかのよう。呼吸がしづらくなり、ズシンと身体が重くなった。
気を抜いたらあちらに魂を持って行かれてしまいそうだ、と生唾を飲み込んだ。

(これは確かに、精神修行だな……!)

レグルスが頭を振る。
しっかりと脚に力を入れて、レナの後ろに立った。
(……俺はこちら側だ。レナ様の従魔としてここに立っている以上、ドグマ様に頭を下げてしまってはいけない!)
一瞬ブレていた目の焦点が合う。
レナの赤い覇衣(はごろも)を目に映し、ホッと安心した。胸に手を当てると、従魔契約の熱が手に伝わってくるよう。

(……ここまでしてくれるんだ。俺たちのことを、本当にいろいろと考えてくれている。現魔王に本気で戦ってもらえるなんて、すごい経験だよな)

オズワルドが尊敬の目で、魔王としての父を見た。
レナを守るように、一歩踏み出して横に立つ。
この一歩は恐ろしく足が重かった。
魔物の王であるドグマに対抗するということなのだから。

それでも、従魔たちは全員レナを守るという意思を持ち、力強く彼女の周りに立ち続けた。
自分の主人を間違えなかった。

魔王がぐいっと口角を上げる。

「己を見失うのではないぞ。ーーさあ、こい!!」

大切なレナの盾となるべく、従魔たちが鋭い矛のように、魔王国の重鎮たちに向かっていく!
これは訓練、手加減して組手をしようと事前に話し合われていた。
魔法は少しだけなら使用可能。

レナが鞭を地面に打ち付けた!

「スキル[鼓舞]!!」

▽ぐーーん! と従魔のテンションが上がった!

駆けながら、獣人たちは指の先を噛み、半獣人の姿になる。
真っ先にドグマに向かった。

ドグマが咆哮を上げ(半獣人状態で結界の中なので、ケットシーが制御したら声は会場外に届かない)前に踏み出した!
従魔を迎え撃つ。

(………………ッ!)

[絶対王者の覇気]により、ドグマが恐ろしく大きく見える。
獣の本能がドグマに逆らうことを拒もうとして、従魔の足を鈍らせた。
呑まれそうだ、と感じる。

『これは精神干渉の状態異常だな。どうする? レナよ』

カルメンが問いかけた。

「スキル[鼓舞][伝令]……恐れないで進みなさい。大丈夫、貴方たちは私の従魔にふさわしい!」

▽レナが手を打ち鳴らす。ピチューン!
▽従魔の心が 奮い立った!

カルメンが楽しげに真似をすると、白炎の火花が舞った。
ドレスの裾をひらりと揺らして、カルメンが空中で踊る。

レナは従魔の戦力を認め、自分の従魔を誇りに思っていると明言したのだ。安心感を与えた。
こう言われて、張りきらないはずがない!
従魔たちは、蹴りや拳をドグマに叩き込もうとする!
鋭い接近!

「やるではないか!」

ドグマは攻撃を受け止め、ことごとく跳ね返した。
蹴られた腕はノーダメージ、ブンッ! と払うと従魔が体勢を崩し、遠方に吹っ飛んでいく。圧倒的な力技だ。
すぐにまた向かってくるので、楽しそうに格闘した。
本能のままに吠えると、その場の空気を我が物に変えてしまう。

(これが、魔王……っ!!)

レナもびりびりと鼓膜が震える耳の痛みに耐えながら、戦況を見る。
ドグマがレナに比較的近い場所で戦っていて、宰相たちは後ろに控えたまま。
「視やすいように」とルーカと[感覚共有]した目を瞬かせて、宰相たちの思考を探る。……思考を読まれないように魔道具を使っていたので、護衛部隊の中で一番未熟そうなドリューを眺めた。

(! なるほどね。強力な部下が背後にいるほど、魔王の称号効果が上がるんだ。威圧感や覇気を出しやすいということね……)

リリーやシュシュがロベルトたちに向かっていく。
適度に教育的戦闘をしてもらっている。

モスラは魔王に一撃入れてから、宰相の足払いをかわし、大悪魔マモンの前にやってきた。
宰相たちは深追いはしなかった。
従魔が戦いたい相手がいるなら尊重することにした。
従魔たちは、強い相手だからと恐れをなして避けていくのではなく、自分を鍛えるために最も適した相手に向かっていくだろうと考えた。
若者たちはがむしゃらに強くなろうとしている。大人は手助けだ。

モスラとマモンの間に、凍てつくような空気が流れる。

「是非、お相手をお願い致します。私たちが出払うことになった際、アリス様を任せることになりますので……マモン様の戦闘力を知り、安心したいのです」

優雅に一礼。しかし威圧感はとんでもない。

「ええ。ぜひよろしくお願いします。アリス様の従者にも納得して頂けるといいのですが」

にこやかに笑うマモン。
……と、本人は努めているのだが、冷笑にしか見えない。
マモンが普段は偽りの冴えない姿で過ごす理由である。商業取引において、愛想は大切だ。

「戦闘にもそれなりには自信がありますよ。なにせ経済部の取り立てで、荒くれ者を相手にすることもありますからね」

「ひとつ安心できました。では、あとは実戦で」

マモンの手が黒い靄をまとい、背には膜のある翼が生える。
腕を一振りすると、モスラに黒い斬撃が向かっていって、爪で切り裂いたような跡を手の甲に残した。フェニックス素材の手袋はすぐに再生する。内側に血が滲み、べたりと気持ちが悪い。

「! 本当に頑丈な魔人族ですね。手加減はしたものの、骨の目前まで切れると思いましたが……」

モスラは軽症だったものの、一瞬意識を途切れさせてしまっていた。
死を連想させ、絶望を与える大悪魔マモンの精神干渉のせいだ。
悔しげに唇を噛む。

「私は精神干渉防御がまだまだ……ということですね。鍛えなければいけない」

「この戦闘を経験値として利用して下さっていいですよ。おっと、商業的には対価を頂きたいところですが」

「では私との戦闘によるそちら側への経験値というのはいかがでしょう」

「自信がおありなのですね。大切なことです。自己肯定感は、外部からの精神干渉への一番の防御となりますから。
さあ、楽しませて頂きましょう」

モスラが地を割るようにダッシュし、マモンに襲いかかる。
マモンは小さな結界を使いつつ(強度を凝縮していても一撃で粉砕されたが)モスラの攻撃を受け流し、反撃した。

(さすが、新種の魔物……! 従魔も中でもケタ違いだと感じます)

レナパーティの魔物について、マモンが頭の片隅で考える。

(ギガントバタフライ、ネコミミヒト族、パンドラミミック、デリシャスクラーケン……でしたか)

[並列思考]しつつちらりと魔王の方を見ると、モスラとの戦闘に一瞬気を取られて振り向いていた。
(そんな隙を見せていいんですか? ドグマ様ならば対応できるでしょうし、この魔人族とは以前戦闘のチャンスを逃したとぼやいていましたが……)

隙を見逃さず、ネコミミヒト族のルーカが攻撃した。
[魔眼]で魔王の死角を察し、鋭くした爪で背を切り裂こうとする。

「おお!? そうはいかないな!」

本能的な直感で超反応したドグマが、ルーカを弾き飛ばした!
腕には3センチほどの切り傷ができる。

「お前との勝負も楽しみにしていたのだ。ネコミミヒト族! ……おおおおお!?」

拳を握ろうとしたドグマの手に力が入らない。
ルーカはにやっと笑う。

「魔力がよく通る神経を狙ったから。戦いにくくなったのではないですか?」

さらにオズワルドが、

「スキル[|重力操作(グラヴィティ)]!」

従魔たちの身体を軽くする。物理的に動きやすくなった。
心に白炎を灯し、獣人がいっせいに向かう!

「面白い! 逆境は大好きだ。
それにツェルガガの技でハンデを追うのも、また良い心地だなッ! 久しぶりに獣の血が疼くぞ!」

ざわざわとドグマの毛並みが逆立って、”グオオオオオオオン!!”大音量の咆哮!
従魔たちの鼓膜がビリビリと震えて顔を顰める。魂が乱暴に揺さぶられる。
ケットシーたちが大慌てで会場の結界を強化する。

積極的に攻撃に向かっていき、自らも傷つきながら見事に迎え撃ってみせたドグマ。
まだまだ、魔王として情けないところは見せられない。

「ふははははははははは!!」

「少々やりすぎです」

宰相が蜘蛛糸でドグマの動きを一瞬封じて、怪我をしていたハマルとルーカを回復。

「この場に一番ふさわしいご活躍を期待しております。我らが魔王様」

スマートにフォローして一礼した宰相は、クーイズやパトリシアに向き直った。
少し落ち着いたドグマは、また従魔の訓練相手を務めた。

(他の新種の魔物は……補助特化か。デリシャスクラーケンは食材だとか。それにしても、一番潜在力がとんでもないのはあのパンドラミミックだと聞いているが)

マモンが宰相の言葉を思い出す。

キラはレナの懐からちらっと本体を覗かせていて、映像の子ども姿がにこにこと従魔たちの戦闘を眺めていた。
宙に浮かんで、全体を眺めているようだ。
(指揮官向きか)とマモンが考える。

従魔たちが疲労してきた頃。
キラがニヤーーーっといやらしい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

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