184:トイリアメンバーのお迎え

<じゃあ、また明日。おやすみなさいーー>

通話を切って、レナパーティは顔を見合わせる。
明日、久しぶりに従魔が全員揃うのだ!
レナの友達も、アネース王国トイリアからやってくる。
空を飛んで大陸を越えて。

「パーティしなきゃね!」

レナがウキウキと言う。

「レベリングはよろしいのですか? どれだけでも戦力を強化しておかないと……」

「じゃあ戦力強化のついでにパーティ……」

思わず口を挟んだレグルスに、レナがえへへと笑いかける。
この笑顔には従魔みんなが弱い。
従魔のことを思って浮かべる、とっておきの[友愛の笑み]なのだ。

「サディス宰相に”武闘大会会場”の開放許可をしてもらおう!」

「従魔のためなら国の宰相すらも使うその心意気、まさしくレナ様……」

遠い目でツッコミをした護衛部隊にカルメンがパチンとウインクしてみせたので「承知致しました」と王宮への連絡を約束した。
とはいえもう夕方で、明日の予定として急きょ提案するには大事(おおごと)すぎる。いくら聖霊の望みとはいえ。

そういうと思った?

(先にこの展開を予想して、相談しておきました☆)

キラがこっそり考えて、ピカッと光った。
さすが宰相仕事が早い! と彼の評価になるのだから、現実を受け止めて対応してもらおう。
キラは今夜も[トリックルーム] で宰相とモスラと打ち合わせをして、とっておきのエリクサーを提供しておいた。

***

強力な結界が張られた”王国武闘大会会場”が解放される。
空に豪風が吹き荒れている。
風の渦が落ちてきた!

「「「「にゃにゃーーー!」」」」

ケットシーたちが会場を開けたついでに、流れるように制風魔法陣を発動させる。
ズオオオオオオオオッッ!!
ーーフワッ………………と風が解かれていって、巨大な蝶々が魔法陣上に音もなく降り立った。

「『モスラーーーー!!』」

大きく手を振るレナたちを眺めて、ギガントバタフライ・モスラは触角をゆらゆら揺らす。
翅をふわりと曲げて、まるで優雅な礼をしているよう。

「お久しぶりで御座います。レナ様」

カリスマオーラが溢れて、薔薇の花が舞っているような錯覚すらある。
イケメン蝶々とはこのこと。と、レナが褒めた。

モスラが抱えてきた卵型の魔道具から、アリスが降りてくる。

「こんにちは! レナお姉ちゃん、従魔のみんな」

「アリスちゃん! 会えて嬉しいよ! あれ? パトリシアちゃんは……」

レナが名前を呼ぶと、待ってましたとばかりにパトリシアが蝶々の背から飛び降りてくる。
まさかあの超上空・超速飛行に耐えて掴まっていたのか!? と、魔王国の者たちが信じられないものを見る目で少年(・・)を眺めた。

「よう! レナ!」

「ありえないよ!?」

「ははっ! まあ聞いてくれ。私、ネッシーと仲良しじゃん? なんと[精霊の大親友]に昇格しました」

パトリシアのピースサインが頼もしすぎる。
そのおかげで風はパトリシアに影響を及ぼさないのだという。パトリシアを避けて通って行くようだ。

「すごくすごい」

「あざっす」

驚きの共有ができたパトリシアは満足そうだ。
トイリアでは「まあそういうこともあるよね」「そのうちって思ってた」なんてみんなに諦めた目で見られていた。
大精霊シルフィネシア(愛称はネッシー)は今では3日に1度は<フラワーショップ・ネイチャー>に遊びに来る常連客だ。
おもしろフラワーの種が何種類か<ラビリンス:青の秘洞>で芽吹いて活躍しているとか。

「どうして今回パトリシアが蝶々騎乗していたのかといえば、飛行の状態を観察していたのです。グレンツェミレー・ジーニ港をつなぐ空便があるでしょう? ドラゴンが行う特別便ですが、この度、バタフライ便が年二回ほど通ることになったので」

モスラが光をまとってヒト型になり、華やかに微笑んで説明した。
装飾保存ブレスレットで執事服を纏っている。
レナの前に跪いた。

「お疲れさま。モスラ。とってもすごいねぇ! 誇らしいよ」

「お褒めの言葉、光栄でございます」

レナがモスラの黒髪をサラサラと、愛情をもって撫でてあげた。

***

武闘大会会場の上空に、ドンドン! と花火が上がる。一緒に聖霊カルメンが舞う。

「さあ、歓迎パーティの始まりだよ! レッツモンスタークッキング!」

レナパーティが「えいえいおー!」と拳を振り上げた。
ゲストのアリス、モスラ、パトリシア、ケットシー、宰相、魔王は着席して様子を見守っている。
そろそろ退屈と息子に会いたい欲が爆発しそうだった魔王もこの際連れてきたのだ。……と言いたいところだが、別の事情もある。護衛部隊(マリアベル含む)はレナパーティの補佐兼魔王のお守りである。

「まずは食材がないとね?」

<おまかせあれ! あーーらよっと!>

キラが夢産の「とっても大きなお皿」と買い集めた・採取した食材を異空間から出して流れるようにセッティングしていく。

「フルーツと野菜の水洗い、ゴー!」

『イズの出番だね〜!? スキル[鉄砲水]』

イズミが魔物型に戻り、フルーツなどの下にスッと滑り込むと、[鉄砲水]を小さな噴水のように使って打ち上げた。水柱の上で器用にフルーツや葉野菜を洗っていく。
また、水しぶきをシャボンのようにまん丸くしてみせたり、魅せる下ごしらえだ。
ルーカが[サンクチュアリ]を纏わせた魔剣を抜く。

「フルーツをカットしていこうか」

「ああこれ、お土産の新作の花の種。一緒にカットして食べようぜ」

パトリシアが種をパラパラとイズミの水の中に投げ入れると…………超速発芽! 開花! 実り! あっという間に巨大な果物が出現した。
樹人族のクドライヤが目を剥く。

「このスイカ、直径70センチもあるんだけど……大きすぎない?」

ルーカはそう言いながらも「ありがとう」とパトリシアに伝えて、巨大なスイカを掌の上でボールのように回して、魔剣を添わせて皮剥き。
獣人になってからより腕力がついた。
くるくると螺旋階段のように落ちていくスイカの皮の上を、妖精リリーがリズミカルに歩いた。
マリアベルが鼻血を吹いて倒れた。

スイカ、パイナップル、などが芸術的にカッティングされて皿に盛られる。
野菜サラダもできた。オズワルドの[シャドウ・ナイフ]スキルだ。
ちょっとした前菜が揃った。

「次はー……ここに白い塊がありますね? 小麦粉を捏ねたものです」

「[腕力強化]されたシュシュが捏ねたの!」

シュシュが胸を張ると、モスラの目がキランと光る。
あとで肉体強化談義が開催されることをお知らせしよう。

「ドライイーストが混ざっているんだよねー。ということは? ご主人様だって頑張っちゃうんだから! 緑魔法[|熟成(エイジング)]」

レナが魔法を使って、生地をぷくーーっと発酵させた。

「スキル[衝撃覇]オラオラオラオラオラー!」

「シュシュの投打でガス抜きができました。さらに緑魔法[|熟成(エイジング)]」

二度目の発酵。つややかな真っ白いパン生地ができた!

『オーブンへようこそ〜♪』

四角くなったクレハがパン生地に挨拶する。
クレハオーブンの天井にはジュエルスライムの宝石が輝き、底には黒ずんだ金属球もとい白炎聖霊杯(カンテラ)が装着されている。

『クーも頑張るね! 白炎焼きパン』

贅沢!!!!
美味しくなる追加効果があるのかはわからないが、とにかく贅沢。

「カルメン、火加減よろしくお願いね。本当に気をつけてね。ちょっっっっっと力を貸すだけでいいからね」

『分かっておるわ』

レナの注意に空から答えるカルメンの周囲には、カラフルな花火がパチパチと開花していて、テンションが上がっているのがよく分かり、不安しかない。

「ーー称号[お姉様][赤の女王様][サディスト]セット。私の従魔に影響を及ぼす以上、カルメン自身にもきっちりと力加減を学んでもらわなくちゃ困るのだわ。いいわね!?」

鞭をピシーーン!
カルメンがゾクゾクと肌を粟立たせて「そこまで言うなら力を貸してやろうではないか」と言う。「いやだから力をほとんど貸さない訓練をして欲しいの」「案ずるな。作戦に力を貸してやる、という意味だ。さっきの不満そうな顔にはそそられた」などとどうしようもない会話をした。

(((レナパーティの変態さに磨きがかかっている……)))

モスラ、アリス、パトリシアはフルーツを咀嚼しながら重い溜め息をついた。
この状況を目にしてなお、前菜を楽しむ余裕があるところがすごい。
この三人も魔王国の者たちから「変人」と見られた。

じんわり、じわじわ…………クレハオーブンの内部が熱くなると、パン生地が膨らんでくる。
レナの故郷で人気の、バターや牛乳をたっぷり使った柔らかい日本式パンだ。
ルーカが温度を視極める。

「メインのステーキ作り。先日、魔王ドグマ様に頂いたドラゴン肉を使わせてもらいますね」

「おおいに使え!!」

ドグマがドン! と効果音を背負いつつ凶悪な笑顔で言い放つ。
声量が大きくて、つい覇気が溢れてしまったのでアリスとパトリシアがびくっと反応して、モスラがじっとりと魔王を見た。視線を向けられると表情を取り繕ったが目が笑っていない。宰相がドグマの覇気について苦言を呈した。お疲れさま。

レナは女王様を早々に解除している。

「今日はドラゴン肉にすでに塩胡椒と香辛料をすり込んでありまーす。ここにローズマリーを乗せて。ルーカさーん」

「光魔法[サンクチュアリ]」

ルーカが聖結界の大釜を作り上げた。
二段になっていて、仕切りには穴が空いている。
レグルスがドラゴン肉を上段に、下段にはエリクサーをレナが注いだ。

「さあ見せ場だよレグルス!」

レナに背中を押されたレグルスが緊張しながら頷いて、前に出る。
最上位の上司たちがじっと行動を観察しているのだ。緊張するのは仕方がない。その期待を、やる気に変えてみせるまで!

「赤魔法[フレイム]!」

小さな炎が生まれ、その上部がわずかに白く染まっている!
炎の大きさに関係なくとんでもない高温である。
魔王ドグマが目を輝かせた。
レグルスは気をつけて炎を制御しながら、上司たちに軍式の一礼をした。

レナも手助け。ドラゴン肉に[|熟成(エイジング)]を施す。

「これからミディの見せ場ナノヨー♪」

ミディがイズミを抱えてトイリア組の元に行き、うきうきと宣言する。
微笑ましそうに二人を眺める三人だが、この後の展開を知っている魔王国の者たちは意味深に頷いている。それはもうとんでもない活躍なのだ。

広場の中央に駆けて行った二人は、途中でドリューを引っ張っていって、魔物型に変化。

『「青魔法[アクア]」』

イズミとドリューが大量の水を生み出して、

『水魔法[アクアフュージョン]〜!』

▽デデーーーン! デリシャスクラーケンが巨大化した! 10メートル級!

「どわあぁ!?」

ドリューがクラーケンの頭に乗って上昇したので、悲鳴をあげる。
ぬるぬるして今にも滑り落ちそう! イズミがスライムロープで支えてあげた。降ろして欲しかったのでは。

『水魔法[ウォーターナイフ]』

流れるようなイカボディの切断。スパァン! 食材一丁上がり!

トイリア三人組が白い目でミディとレナを見た。
しかしすぐに「そういえば海航のおみやげのエンペラー・クラーケンの切り身は美味しかったっけ」と思い出してモチベーションを上げる。
壮絶な記憶を覗いたリーカの額の目の方が白くなってしまった。

「炎魔法[オーバーフレイム]」

危なげなく、オズワルドがイカの切り身を焼いていく。慣れたものだ。
もちろん結界を張っているのでご安心を。
しかし会場の温度が上がり暑くなってきている。

広い会場の中央でデリシャスクラーケン焼き、右側でパン焼き、左側でドラゴン肉焼き。
ダイナミックな白炎祭りだ。
ヒト型のリリーとシュシュが[軽業][護身武術]などでアクロバットを披露しているので、まさにお祭り騒ぎである。
ハマルは戦力強化のためにポンポンとお遊び用の[夢吐き]を使用して(ルーカによれば[夢見心地]スキルを取得する期待値が高まったとのこと)キラは録画やら照明やら演出に忙しい。

「水魔法[クリスタロスドーム]」

キサが進化時に贈られた水の極大魔法を使い、会場中を覆うような澄み切った水の膜を創り上げた。
快適温度になった。
パトリシアが「ネッシーまたどえらい加護の大盤振る舞いしたなぁ」と乾いた笑みを浮かべた。

▽調理完了!
▽頂きまーす!

今夜のメニューは芸術カットフルーツにサラダ、焼きたてパン、イカ焼きにドラゴン肉のローストドラゴン。
モスラたちのおみやげの各種高級ソースやジャムがずらりと並んだ。
いい香り〜、と幼従魔たちがほんわり頬を染める。

がぶり! モグモグ。しょりしょり。ふわわん。
みんなの食がとても進む。
魔王ドグマは満足げに醤油マヨイカを齧り、宰相はローストドラゴンを上品に食べて、ケットシーが小さな口でもぐもぐ、護衛部隊も静かに会話をしながら食事を楽しんでいる。
アリス、モスラ、パトリシアがにこにことナイフとフォークを動かす。

「デリシャスクラーケンのミディアム・レア焼きはイカガ……? イートミィ!」

お皿を持ったミディが満面の笑みでトイリア組の前に現れると、先ほどの光景を思い出してしまって「げほごほっ」と飲み物を噎せた。
ご機嫌でノンアルコールビールを飲んでいたパトリシアは炭酸が喉を焼き、一番重症である。

「あちゃーパトリシアちゃん、どんまい。緑魔法[グレートヒール]」

「あ、ありがとレナ……」

”うちの子”のフォローをすぐにするレナは見事だ。ただの親バカではない。

「ミディ。料理をオススメするならもうちょっと推し方を考えてみるといいかもしれないよ?」

さらにアドバイス。驚かせてはダメ、とそっと伝える。

「ウーン。そうだ! 美味しそうに‪食べている姿を見せるとイイ、トカ!?」

「そうそう」

ミディは魔王ドグマの背中に張り付くと、片手を上げて「ジャジャーーン! 美味しそうに食べてるでしょ?」とトイリア組に宣伝。
魔王はイカの切り身で口をふくらませたまま。ポカンと振り返る。
レナが頭を抱えた。

「この細腕が巨大なイカの切り身となるとは。不思議なものよ」

「犯罪」

魔王がミディをひょいとつまみ上げて腕を観察していると、隣に座っていたオズワルドがさっと取り返して険しい目で親を眺めた。
これが思春期というやつか……とため息まじりに愚痴話を振られた宰相は壮絶に眉をしかめてメガネの位置を直した。大変めんどくさい。

場の空気を和ませるために、とりあえずみんなでイカ食べようぜ!

「あ、美味しい!」
「歯ごたえがとてもいいですね」
「んん〜! イカの白炎焼きの醤油マヨがビールに合うねェ〜!」

アリス、モスラ、パトリシアがクラーケンに舌鼓を打った。
「醤油マヨが気にいったか! 語るとしようか!」とご機嫌な魔王に絡まれたパトリシアはまたビールを噎せた。今夜はのんびりとビールを楽しめる気がしない。
(これからの話し合いが怖いから勇気づけのためでもあったんだけどなァ……)と口の中の苦味を噛み締めた。

「個性的な後輩が増えましたね」

自由すぎるミディ、白炎を練習中というレグルス、極大魔法を披露したキサを眺めながら、モスラが小さく笑う。だれもがレナ贔屓のようなので、モスラに不満はない。

『我々を後輩と呼ぶか!!』

(呼んでいません)

内心で(レナ様をまた厄介ごとに巻き込みやがって)と思いながらも、モスラは「滅相もありません。白炎聖霊様と呼ばせて下さいませ」とカルメンににこやかに返事をした。
隣にいるパトリシアが冷気を察してガクブルしているので、彼女は今日はとことん損な役回りである。

顔合わせを済ませて「よろしく」とそれぞれ挨拶をした従魔を、レナが感激しながら眺めた。
モスラとルーカの時は大変だったなぁ……と隣でエッグペーストパンを頬張っているルーカを眺めながら、しみじみと思い返した。

(平和にみんなが笑っていられる今が一番好き。だからこの環境を守るために……頑張らなくっちゃね)

テーブルの下でそっと拳を握りしめた。
少し震えそうになったが、従魔の力を信じている。平常心を取り戻した。

食事がだいたい終わり、宴もたけなわ。
大皿料理はぺろりと平らげられて(食べ残った分はスライムが美味しく[溶解]した)みんながフルーツをちまちま摘んでいる。その時、

「シヴァガン王国からの差し入れです」

満を持して、宰相が手土産をテーブルに広げた。

「各種チョコレートデザート。料理管理部の悪魔(デーモン)ニスロクが手がけたショコラコレクションです。お召し上がり下さいませ」

「わああああ……!!」

一口サイズのショコラコレクションに、チョコクリームマカロン。チョコチップ入りの焼き菓子。小さなカップに入ったホットチョコレートも。

レナパーティとトイリア組が目を輝かせる

「頂きます……!」

口の中で滑らかにとろける風味豊かなチョコレート。舌を魅了する濃い甘み。
生クリームと合わさればミルクチョコレートの優しい味わい、ナッツが混ぜ込まれたらチョコナッツの楽しい食感。
うっとりと丁寧に味わっていく。
チョコレートは高級品なのだ。

「うま……!」
「美味しいぃぃ」

レナとパトリシアがほうっと表情を綻ばせているのを、宰相はしっかりと確認していた。

「お楽しみ頂けたようで何よりで御座います。これらは”チョコレートモンスター”というレア魔物のドロップアイテム”チョコレート”を使用し作られました。
レナパーティの皆様、パトリシア様には、この魔物が活動する『特別保護域SS区スウィーツパラダイス』への観光許可を提案致しましょう」

宰相がズバリ斬りこむ!
チョコレートドリンクでホッと一息ついていたレナたちはカップを落とさないように必死だった。

「えぐぅい」

レナが引きつった顔でぽつりと零した。
無言で頷いている宰相にモスラがコーヒーデザートを贈る。難なく完食。特訓して耐久をつけてきている!

「はあ。つまりそれは、今後のどエライ依頼の報酬として、ということですね……?」

「お察し頂き助かります。報酬の一部で、というつもりです。……その場合は最高難易度の依頼になりますので、もちろんそれ以外にも各種報酬を用意致します。シヴァガン王国にできる最大のサポートを約束申し上げます」

ここまで、思わせぶりに発言した宰相は「まだ、諜報内容を分析しておりますので、この場で正式依頼とはなりませんが」としっかり付け加えた。
心の準備を、と言外に訴えかけてくる。

冒険者ランクから考えると、レナパーティはシヴァガン王国直々の依頼を断ることはできない。
あまりに実力以上の成果を求められる場合は、虐待疑惑として依頼拒否することもできるが、レナたちなら、こなせてしまいそうなのだ。

(それにモスラが俄然ヤる気だし。シュシュとオズくん、キサが目をつけられたから、今後そのことで危険を招くのは避けたい……。パトリシアちゃんも納得してトイリアから駆けつけてくれたんだから、きっと、大丈夫)

レナは力強い目で宰相を見た。
宰相は少し安堵した……ようにレナは感じた。彼にも申し訳なさがあるのだろう。

「続きをお願い申し上げます」と、宰相がドグマに進行を譲る。

「うむ! ……とはいえ我が活躍できないのが悔やまれる案件だな」

ドグマが「ごほん」とらしくもない咳払いをして、不機嫌そうな表情を収めて、真面目な顔になる。
事態の深刻さを理解はしているのだろう。

「マリアベル」

「はぁーい! 自己紹介しますね。私、マリアベル。年齢は……みんなよりもちょっぴりお姉様よ♡」

100歳超えである。

「レナちゃんたちの入国審査を担当したり、リリー様に宝飾職人技術書を渡したり、たまに会っているわよね♡ 覚えているかな!? かな!? ねっ!
ルーカくんの首輪は私の作品なの」

パトリシアが興味深そうにルーカの首元を見た。
視線に剣吞さはなく、キラの通話などを通じて多少親しくなっている。

「諜報部から、聖霊対策本部の副部長になりましたっと。
最近の活動は…………みんなが知っての通り! 夢組織のアジトへの潜入捜査よ。人材が足りなくって私一人でこなすから疲れちゃってー」

この報告は今会議でまとめてるとこだから、とマリアベルが言う。

「さて。称号[精霊の友達]を持つこのワタクシ! どうやって精霊と仲良くなったのでしょう?
なんとピンチの土精霊を助けたことがあるんだよね! 悪人のブラウニーたちに追っかけられて膝に矢を受けても精霊を守り抜いたの。すごいでしょっ。加護は[ミラクルガール]の称号と、土魔法[|地面陥没(シンキング)]。あの子と友達になった私はあらゆる大地を掘り起こし落とし穴の達人として多方面から尊敬とともに怒られ」

「長い」

魔王ドグマに止められて、マリアベルの自己紹介が終わった。
なんとも彼女らしい波乱万丈さであった。
勢いに任せてマシンガントークし、情報を適度に隠している(かもしれない)ところはさすが諜報部と言える。
まあルーカがお視通しなのだが。

「次は、藤堂レナ、ルーカティアス、パトリシア。それぞれの精霊との絆について語ってくれるか」

この場の会話は内密にする、と宰相が悪魔(デーモン)文書を掲げる。
パトリシアが手を挙げる。しんどいことは早く終わらせておきたいと思ったのだ。

「パトリシア・ネイチャー。アネース王国トイリアで、花屋をしています。
職業は[花職人]……レナの友達の”大精霊シルフィネシア”様がしょっちゅう花屋を訪れるんで、いつの間にか大親友に昇格しました。
称号の効果は、水の極大魔法を与えてもらうことと、大親友になったから風の攻撃的影響を受けなくなった。風耐性マックス、って感じです。
攻撃手段は各種魔法と、花の種、ちょっとした剣技」

パトリシアがそう言って、これまでの戦闘実績などを告げる。武器フラワーの性能も。
精霊の加護を期待しながらも、生産職メインでは……と不安に思っていた魔王国の面々は「おお」と少し安心したようだ。
それでも、無茶なお願いをしなければならない負い目はとても大きいが。

「パトリシアちゃんのことは私たちがバッチリ守りますとも!」

レナがパッと手を挙げて「大大大親友なのでー!」と張り合った。
パトリシアが照れて真っ赤になったので、よかったねぇとアリスがにやけ顔で肘でつつく。

「二番、藤堂レナ! そして従魔のルーカティアス!」

「はい」

ルーカがくすぐったそうに小さく笑いながら手を挙げる。

「いきます! えっと、称号[精霊の友達]を送られているのは私たち二人ですけれど、従魔全員に加護は行き渡っています」

羨ましいものだな、と魔王が拗ねた顔で息を吐いた。

「この称号効果は、大精霊シルフィネシアから光・風・水の極大魔法を贈られること。
仲良くなった経緯は、アネース王国ラチェリで呪いが蔓延したことがあったんです。精霊が苦しんでいて、その解決を手助けした時に称号をもらいました。
それから、じゃーん。
称号[聖霊の友達][|白炎聖霊杯(カンテラ)の司祭]〜!」

レナが吹っ切れた(ヤケクソの)笑顔で、いえーい! と拳を振り上げた。
その手に纏わりつくように、カルメンが現れる。

「称号を得た経緯はもう皆様ご存知ですよねー?」

護衛部隊が深ぁく頷いて、魔王たちも首を縦に振った。
トイリア三人組の目が鋭く光る。
ラミアの里での無茶をお叱りされる雰囲気にレナがだらだらと冷や汗を流しつつも、ひとまず説明を優先する!

「カルメンと友達になった恩恵は、古代に失われた白炎を赤魔法適性の従魔が使えるようになること。たくさん訓練が必要だけれど。
あと|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)も少しなら生み出せます。
この強力な力の対価は、カルメンの双子の片割れを見つけてあげること! です!」

トイリア三人組が重い溜め息を吐いた……。
レナへのOTEGAMIを持ち込んでいるが、まだ溜まる気配だ。

「戦力は期待して下さい」

レナの思いがけない断言に魔王国の面々が驚く。

「……だって誰かがやらなくちゃいけなくて、私たちしか選択肢がないんですもんね。
本当ならドグマ様たちがやりたかったんだろうな、って理解してます。
覇気が……溢れていますし……今……あの、抑えてもらっていいですか?」

叱られたドグマが「むむむ」と唸りながら努力した。なんとか覇気が収まった。「えらい」とオズワルドが感心しながら褒めると「ふふん」と鼻を鳴らす。単純……なのも事実だが、不機嫌になりまた覇気が溢れないように機嫌をコントロールしているのだ。

なんとか聖霊の友達になれないだろうか、とドグマはカルメンに話しかけを試みていた。ここ数日、真剣な訴えで宰相の許可を得て、レナパーティの元をたまに訪れていたのだ。

しかしカルメン曰く「聖霊は美しく可憐な乙女しか友達としない。無理。おそらく精霊も同様だろう」とキッパリ断られている……。
世界のシステム的に無理そう、とキラも残念そうに認めた。
「じゃあ僕はどうして……」とルーカが重く悩んだが、真実は精霊しか知らないのだ。

このクエストには魔王ドグマは参戦できない。

「シヴァガン王国の全力のサポート、期待していますから。自分たちの日常を守るために、頑張りましょう!」

レナが凛とした声で宣言すると、全員がはっきりと頷く。
首の朱色の飾り紐にレナが触れたことに宰相が気づいて、

「依頼期間中はいつでも非常事態に対応できるよう、我々も心構えをしておきますので」

と約束した。

「準備は万全に、だな。危険な場所に送り出す以上、サポートはどれだけでもしよう。何でもシヴァガン王国に言うように!」

ドグマがまた覇気をまとって力強く言うので、レナたちは「ありがとうございます」と伝えた。

みんなが真剣だ。
今の日常を守るために。

「有意義なパーティ……に、しちゃったねぇ」

レナが苦笑してトイリア三人組に話しかけると、

「おう。やったろうじゃねーか!」

「レナ様の不安の種は潰しましょう。やっと主人のピンチに助力できます。ふふ、ふふふ……!」

「アイテムと金銭援助はまかせてっ」

頼もしい言葉を返される。
全員目がギラギラしているので、レナは食事のシメのプリンを出して、みんなの表情をとろけさせた。

▽会合終了! お疲れさま!
▽たくさん準備をして特別依頼の時を待とう。
▽ケットシーもちゃんと話を聞いていたよ!

▽Next! 服装準備のため[エルフィナリー・メイド]へ

 

 

 

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