180:<勇者の伝説>観劇

レナたちは王都の中央広場にやってきた。
今日はここで、「勇者の伝説」の観劇がある。
広場には大きな馬車が何台も停まっていた。馬車を引いているのは魔道具木馬だ。

「「イリュージョン!!」」

ピエロのような派手な服を着た魔人族が、高らかにラッパを鳴らす。
馬車の前に並んだ劇団員たちが、ばさっと絨毯を広げた。

「「フレアシート!」」

絨毯はぐんぐんと長〜く扇型に伸びていき、石畳をカラフルに彩る。
待ちきれなかった子どもが絨毯にそっと足を置くと、ふわんと足首まで埋もれた。

「何これーー! きゃあ!」

子どもたちが次々なだれ込んできて、絨毯はあっという間に大賑わいになってしまった。
座っていても痛くないように、ペラペラだった絨毯は魔法で厚みが足されている。
それぞれの保護者がなんとか子どもを落ち着かせる。
ここは自由席。

「うわぁ。賑わってるぅ」

一足遅れたレナたちは、広場に入りかけたところで、ぽかんと口を開いて足を止める。観劇への期待に頬が染まる。

「立ち止まっているとよその子どもたちがぶつかってきますよ。混雑していますから、早く観覧席に行きましょう」

あちらです、とロベルトが案内する。
手に持っているのは『特別席観覧券』。
このスペシャルチケットを手に入れるために、諜報部の後輩たちは早朝からチケット売り場に並んだのだとか。

こんな平和な諜報業務あります!? と部署内の笑い話になっている。

「特別席はレナパーティで埋まってしまいますが……不審者が紛れないのでいいでしょう。幼児姿の従魔と一緒ですし、周りからおかしな目で見られることはありませんよ。お坊ちゃんとお嬢様と思われるくらいで。
ちゃんとお金も払いましたからね」

「けっこうな魔王国の特別待遇ですけど……チケット、プレゼントしてもらっちゃいましたし」

レナがちらりと伺う視線を向ける。

「皆さんが自由席でバラバラになると護衛が困難になります。見通しのいい席でまとまっていて下さい。
チケットは前回の、ラミアの里報酬の一部ということにしましょう」

おとなしくしているように、と言外に伝えられたので、レナパーティは好意を甘受することにした。

ここで「申し訳ないです」なんてゴネると、「じゃあ次の依頼の報酬としましょうか」とか厄介な交渉を持ちかけられそうである。

「ありがとうございます!」

ニコッと笑顔を見せておいて、手を回してくれたのであろう宰相にレナパーティみんなでそっと合掌しておく。

(息子と一緒に劇を観るんだー! ってワガママを言った魔王様を止めてくれてるそうだし)

威圧感のある魔王がどっしりと観覧席に構えていたら、劇団員も観客も落ち着いて劇を楽しめないだろう。ナイス判断だ。
感謝が高まり、合掌した手をそっと擦り合せる。

レナたちの席は人数分の1人がけソファ。

「ふっかふか!」

「ふわふわー!」

シンプルなおめかし服を着た幼児従魔たちが楽しげに腰掛けた。

「まあ、ボクのゴールデンベッドには敵いませんけどねー?」

ハマルがソファの感触を確かめながら、ふふんと鼻を鳴らす。
大人たちもソファに腰掛ける。
ハマルボディほどではないものの、なかなか座り心地がいい。

「我々はこの劇の警備員として動きますので。それでは皆さん、劇を楽しんで下さいね」

ロベルト、クドライヤ、リーカ、ドリューが気配を消してスッと立ち去る。
レグルスは尻尾をうずうずさせながらも、椅子に座り直した。
「レナパーティの一員として動け。最も近くで見守るんだ」と護衛仲間に指示されているのだ。

ぽちゃっと太った団長が登場した。音声拡散魔道具(マイク)を手にする。

<それでは〜! ただいまより、勇者の劇の開幕でーす!>

にこやかに子どもたちに笑いかけると、わーーっ!! と歓声が上がった。
馬車が巨大化して、舞台が現れる。
舞台から観客席までが、テントのような布で覆われた。

レナたちは居住まいを直す。
真剣な目で、幕が上がっていくのを眺めた。

***

ーーその昔。大陸のあちらこちらで争いがあった。
強大な力を持つはるか古代の猛者たちが、力を競い、時に弱いものを迫害して、ラナシュ世界の自然を破壊していった。

ここはナレーション。
舞台はライトが消されていて、奥の壁に[幻覚]によるイメージ映像が流れる。

ーー世界が傷ついていく。

獣人の劇団員が魔物姿になり、黒いボロ布を纏って舞台を駆け回った。
恐ろしい咆哮と[威圧]による恐怖感で、「きゃーー!」と観客席から幼い悲鳴が上がる。
轟くような足音。

ーーこのままではいけない。そう考えた者たちが、立ち上がった。

ここでぱあっと照明が輝いた。
子どもたちの表情も照らし出される。
目を見開いて、舞台に希望を見出そうとしている。

細身の魔人族たちが、獣に立ち向かっていった。
しかし、倒されてしまう。…………

(この場の誰も知らない、1000年以上前のことを模して物語をつくっているのかな……)

レナがそっと、隣のクレハの頭を撫でる。
ぽすん、と肩にルビーのような赤髪が触れた。
頭が熱いと感じたのは、クレハの身体の中にいるカルメンがこの物語に興奮しているから……かもしれない。

話は少しだけ真実をなぞっている、とレナは思った。
白炎の一族は戦いを好んだそうだから。
リアリティが物語に厚みを与えている。

再び舞台に集中する。

様々な魔人族の中に、ヒト族の姿もある。
後方で魔法杖を振っていたヒト族が、声を張り上げた。

「それぞれがバラバラに戦っていてはダメだ! 連携して、作戦を立てよう。
野生界では、強い相手に従う……だからまずは”勝つ”ことを考えよう。そうでなければ話を聞いてもらえない。
それぞれ相性がいい相手とだけ戦って、得意な戦闘をするんだ!」

しかし、味方の魔人族はこの意見に噛み付く。

協力者であるものの、ヒト族こそ牙を持たぬ、爪を持たぬ、少しの魔法を扱えるだけの弱い種族なのだ。
剣術についても「あのような道具を使って」と内心あなどっていた。
それなのに、出会った相手と正々堂々戦うという伝統を否定されたと思った。

「後方支援をしているだけなのに、我々の誇りある戦闘方法に口出しをするな!!」

味方はいっそうバラバラになってしまう。
戦いは長引き、たくさんの命の灯火が散った。
再び舞台が暗くなる……。

(うっ、重い……! これ子ども向けの観劇なんだよね!?
子どもたちは「仲良くー!」「がんばれー!」って叫んでいるし……ラナシュ式情操教育としては、アリってこと?
「道具を使ってもいいじゃんね」って言ってるから、今ここにいる子たちはヒト族に肯定的な価値観を持ってるみたいだね。よかった……)

レナがむむむ、と口を引き結んだり、ホッと胸をなでおろしたりする。
物語が停滞している。
そろそろメインの勇者が登場するか、と生唾を飲む。

(私はガララージュレ王国の[勇者召喚の儀式]に巻き込まれて、ラナシュにやってきた…………きっかけは、どういう物語だったのか。知りたい!)

レナから数席離れた場所で、ルーカはどこか遠くを見ているような目をしていた。

ーーヒト族が思いたつ。

「なにか、味方をまとめる強大な力が必要だ!!」

ここで、観客たちがハッと息を呑む。目が輝き始める。

「世界の調整を成し遂げられるような者を……そうだ。[勇者召喚の儀式]を行おう!」

待ちきれなかった子どもが数人、ぱちぱち拍手した。

耳が丸いヒト族たちが相談をする。

「とにかく強いやつ」
「大木のような太い脚に」
「闇を切り裂く正義の爪」
「相手を威嚇する咆哮も欲しい」
「空を飛び」
「大地にも潜る!」
「かっこいい!」

ハイタッチをした……

(ちょっと待ってぇ!?!?)

レナが思わずガタッと立ち上がりかけた。
いつの間にか後ろに来ていたリーカがそっと肩を押さえて座らせてくれる。
一瞬注目されたが、観客たちはまた舞台に集中した。

「(レナちゃん、落ち着いて。それから、不審者を3名確保したわ。報告よ)」

「(このタイミングでそんな落ち着かないことを言われても!? ええいお疲れ様です!!)」

ヤケクソで言って(リーカさんもテレパシーを使えたんだね。なるほど……)とレナは納得し、どかっとソファに座り直した。
嫌な汗をかきながら続きを観戦する。

もはや己のメンタルとの戦いである。

「「「[勇者召喚]!」」」

カッ!! と舞台いっぱいに魔法陣が映し出された。

<あれはデタラメだけどね、ってルーカティアスさんが言ってます>

レナの懐に入っていたキラが、そっと伝えてくれた。
レナがルーカの横顔を見ると、ちらりと視線が交わる。

「(『勇者召喚の儀式の論文』を書いた科学者は、このような観劇をもとにして、ラナシュ世界の仕組みをいい具合に魔法陣に反映させていたんだよ。だからガララージュレ王国の実験が半分成功してしまった。
本人はそのことに気づいていなくて、論文をギルドに寄贈してしまったけどね)」

レナはなんだかやるせない気持ちで頷く。
随分な運命のいたずらで召喚されたものだ。

「(私、みんなに会えて嬉しいって思ってますからね!)」

「!」

レナが友愛の笑みを浮かべて伝えると、伏せていたルーカの耳がぴょこんと立った。
お互いに、少し肩の力が抜けたようだ。
仲間の従魔たちがにこにこしている。

ーー勇者が現れた!!

ヒト族たちが頭を垂れて、舞台の端で戦い続けていた魔人族も驚きながら寄っていく。

「おや?」
「我々ヒト族となんら変わらない見た目ではないか!」
「正義の爪は? 太い脚は? 咆哮はどうした!?」

ヒト族が嘆き、魔人族はため息をついて立ち去ろうとする。
しかし勇者が拳を地面に打ち付けると、大地が割れた。
圧倒的な力を見せつける!!

(勇者ァーーーーーー!?!?)

レナが思わず、ダァン!! と自分の膝を拳で叩く。
こちらは、ただジンジンと痛くなっただけであった。

戦力で味方の尊敬を得た勇者は、落ち着いた声で演説する。

「この世界で生き続けるために協力しようと話していたんだろう?
己が固執している古代の誇りと、これからを生きる子どもたちの未来、どちらが大切なんだ? 一族が滅べば、誇りを受け継ぐ者も結局居なくなってしまうな」

魔人族たちがハッと胸を押さえて、ヒト族が再び跪いた。

「勇者様!」

「そういうことか。それならば応えよう。みんなの力を貸してくれ!」

ここで勇者が輝きを放つ!

「合体!!」

「合体ィーーー!?!?」

レナが今度こそ立ち上がってしまった。
すみっこにいた劇団員が「お嬢さん、お静かに」と困り顔のジェスチャーで注意してくる。
客席の子どもたちには「あのお姉ちゃん、幼い子みたいに興奮してるぅ!」とクスクス笑われた。
レナは赤い顔で座り直した。頭が痛すぎる。

「ラナシュの平和は我々が守る!! 」

(戦隊ヒーローかな……?)

レナがジト目でつっこむ。

勇者は鳥人の翼、ドラゴンの爪などを吸収し、まさに召喚者たちが願った通りのとても強い姿になった!!

ーーしかしそれは勇者1人の力ではない。
ーーみんなの長所が融合してこそ、最強になれたのだ!!

ナレーションがドドンと言い放つ!

(アーーーッ……!! ブレーメンの音楽隊のごとしだよ!?
大柄な獣人の上に何人もの劇団員が乗って合体って、ああもう、絵面的な意味ですごく面白いよ!!)

もうめちゃくちゃである。

レナがギリギリと奥歯を噛み締めて、衝撃の光景に耐える。
ルーカは修行僧のような無表情で震えていたわざと。口の内側を噛んでいるようだ。
従魔たちはわくわくと拳を振り上げている。

「「うおおおおーーー!!」」
「「勇者ーー! いっけぇーーー!!」」

子どもたちが大興奮で声援を送る!

勇者はばっさばっさぼきっぐしゃっそおいっと荒くれ者たちをなぎ倒していく!!

「もう悪いことはやめるんだ!」

「ははーー!」

荒くれ者がついに勇者に屈服した。

「「きゃーー! 勇者ーーーー!!」」

ここで勇者が手を振ると、子どもたちがぶんぶんと振り返す。

「勇者はラナシュ世界のみんなと仲良く暮らしましたとさ」

(コラーーーーー!?)

なんて適当なシメなんだろう。
ラストの肝心なところを観るため、これまで衝撃に耐えてきたレナは涙目で脱力した。

(ラスト、勇者は元の世界と交信できたのかを見たかったのにぃ。……帰らなかったのか、帰れなかったのか。うーん。
わ、分かった。もう勇者のやばさはよく分かったから……勇者、いつまで観客席に手を振ってるの! 早く解放されたいよぉ……)

レナの疲労が限界に近づいて、目元がピクピクしてきた時。

ビシャァァーーーン!! と雷の音がして、舞台がまた暗くなった。

(えっ、第2部? まだ続くの?)

レナが白目になる。

ーーそもそも、争いがこんなに激しくなったのはなぜ?

ゾッとする重い声のナレーション。
観客席に冷気が漂ってくる。

ーーワタシを倒していないのに、世界の平和など笑わせてくれる!

[威圧]がズシンと腹に響く。

「お前は誰だ!?」

合体系勇者が前に出た。

「悪の聖霊さ。お前たちが抱いた嫉妬、暴力、優越、怨嗟…………暗い感情から生まれたんだ」

漆黒の女王が空中で一礼する。
長いドレスの裾が、ヒラヒラと不気味に揺れる。

「勇者よ。この世界にさらわれて幸せかい?」

ニヤァ、と笑うと唇が頬まで裂けて、周囲の悲鳴にあおられてレナの心臓がドクドク鳴り始める。
彼女はレナの方を見た気がしたのだ。
鞭をたぐり寄せて、柄をぎゅっと握り込んだ。
この鞭で[従魔契約魔法]を操り、レナは尊い仲間を得たのだと思い出している。

悪の聖霊が大嵐を起こすと、勇者と合体していた仲間たちは吹き飛ばされてしまった。

勇者に悪の聖霊が近寄り「お前の中の暗い感情が愛おしいね」と手を取る。
そこから悪意に侵食されて、勇者に黒い翼が生える。

(だから!! 勇者、人外すぎじゃない!?)

レナが内心で元気にツッコむ。

「そうはさせるか!」
「勇者よ、我らの力を使うといいぞ!」

先ほどまで敵として登場していた魔物が、勇者に突っ込んできた!
獣が黒の翼を食いちぎる。
勇者は光に包まれた。

「合体!!」

(だからねーーッ!?!?)

…………
……………………

劇が終了した。
ラスボスの悪の聖霊は倒された。
レナはドッと疲れて、立ち上がることができない。

『怖かったのか? レナ。まああの悪の聖霊役の者はスキルを使用していたからな。
我々の白炎花火で舞台をぱあっと明るくしてやっても良かったのだぞ』

「怖がり? 私が……? そう見えるかしらー!?」

レナがカルメンの戯言をハン! と鼻で笑い飛ばし、勝気に笑った。ヤケクソである。
『あっそういうのも良い』とカルメンがぞくぞく震える。放っておく。

「私、決めたよ」

レナが従魔たちを振り返って宣言する。

「悪党も悪の聖霊も、私の前に立ち塞がるなら潰します!」

「「「<し、従えてーーー!!>」」」

従魔全員の主人愛メーターが振り切れた。
レグルスとキサが感動に頬を赤らめながら、レナの前に跪く。

「……是非、レナ様の従魔としてこれからよろしくお願い申し上げます」

「レナ様ぁ……妾を側に置いてほしいのじゃ。従魔契約、よろしく頼むっ!」

よろしくお願いしまぁす! と手を差し出す。

「もちろん。たくさん可愛がってあげましょう!」

レナが華やぐ笑顔で言い切った。

<<[従魔契約]が成立しました!>>
<従魔:レグルスの存在が確認されました>
<従魔:キサの存在が確認されました>
<[仮契約]は解除されました>

<職業:魔物使いのレベルが上がりました!+1>
<スキル:[体力向上]を覚えました>
<ギルドカードを確認して下さい>

「確かに。こんなにたくさんの従魔を従えていると、体力は必要なんだよね」

レナと従魔たちが仲良く笑いあった。

▽レナパーティは 絆を深めた!

「……レナちゃん……」

後ろに潜んでいたリーカがつんつんとレナの肩をつつく。

「とても注目されているけど。大丈夫?」

ここは特別観客席。舞台がよく見えるスペシャルステージだ。つまり劇団員や自由席の観客から、レナパーティがよく見えているということ。

「あっちでも劇やってるよ! あれなに!?」

子どもの無邪気な声が、実に耳に痛い……。

「午後公演の[赤の女王様]の宣伝かな?」

「なんですって!?」

レナは切実な悲鳴を上げた。

▽噂が一人歩きしている……
▽運命! 運命!
▽Next! 舞台背景

 

 

 

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