177:服飾店[エルフィナリー・メイド]2

「オーダーメイドの内容をまとめるわ。
冒険者パーティお揃いの戦闘服。ベース色は赤色、それぞれの戦闘スタイルに合わせてデザインを考える。レナさんの服装はマイルドで少女的な雰囲気を醸しつつ高貴な女王様スタイルね」

「エリザベートさん、その最後の再確認はメンタルに堪えます……!」

レナがささやかに抗議したが、「あっはっはっは」と笑って流されてしまった。
エリザベートのペースがどう足掻いても崩せない。

「おばあちゃん。従魔たちの一覧を見せて」

「はい」

エリザベートは片眼鏡(モノクル)をかけて、真剣に体格表を見る。
普通にしていると超絶美女なんだよなぁ……とレナが生あたたかくエリザベートを眺める。

「人数が多いわね。予算はどれくらい?」

聞かれたレナは、

「どれだけでも」

堂々と答える。あまりにも頼もしい返事にエリザベートがぎょっとして、店主に視線で問う。

「本当よ。レナさんたち、こう見えてお金持ちなんだからー」

「そうなんだ……驚いたわ。
よーし、普段はなかなか使えない高級生地を使いまくってスペシャルオーダーメイド衣装を作っちゃおうっと! 楽しみー!」

エリザベートが高く拳を振り上げる!
自重しない!

「ぜひ、それでお願いします。デザインも性能も最高のものをお願いしたいです。エリザベートさんの全てをぶつけて下さい」

レナがさらに煽る。

「わぁ、言うわねぇ!
そこまで言われると職人としてゾクゾクしちゃう。いいわよぉ」

エリザベートはにんまり笑って頬を染めた。

「うちの従魔たちが着るんですものね!」

「「我らのご主人様が着用するんだもんねぇーー♡」」

レナと従魔たちがひしっと抱き合い、相思相愛さを見せつけた。

エリザベートはレナパーティの服装をガン見する。
今のコスプレ衣装のアレンジを頼んでいるので、合法の熱視線だ。

「うふふふふ……お嬢さんたち、そのかーわいい服どこで買ったのぉ……!?」

エリザベートが業務中に話を脱線させかけたので、店主がスパンと背中を叩いて正気に戻す。

「いった! ああ、ごめんね、つい。また後で尋ねることにするわ。
デザインを進めていきましょう」

さらさらと迷いなく、エリザベートが仮デザインを描いていく。
頭の中にイメージがはっきりと浮かんでいるのだろう。
レナたちが目を輝かせた。

「わあ! カッコいいし可愛い戦闘服、すごい! 要望通りです。
みんなによく似合うだろうねぇ」

「「素敵ーーー!」」

「ああああもっと褒めていいわよー!」

思いっきり褒められて、エリザベートの鼻が天井よりも高くなってしまいそうだ。
褒めてやる気を出させるのはタダなので、積極的にやっていこう。
▽レナパーティの 追撃! 褒める攻撃! 褒める攻撃! 褒める攻撃!

エリザベートは素材を書いていく。

「悪魔の翼膜、綿雲アメフラシの紡ぎ糸、ハペトロッティの絹織り、麒麟(キリン)の雷衣、ユニコーンのなめし皮……。軽くて丈夫に作るわね」

「ご配慮ありがとうございます」

レナの背後から、レグルスが口を挟んでくる。

「失礼。どれも防御力が高いレア魔物素材ばかり……冒険者ギルドでも取り扱いがないような逸品だ。
贅沢な素材を考えてもらえるのは光栄だが、手に入れられるのか?」

家柄的に名品に触れる機会が多いレグルスでも見たことがない素材らしい。
エリザベートは自信満々に鼻を鳴らした。

「もちろん! 入手できる見込みはある。
こういう服の防具に使えるレア魔物素材は、冒険者ギルドや商人ギルドの店頭に並ぶことなく、高級店が優先的に卸していくものなの。
加工せずに店頭に並べておいて品質が下がるなんて、損だものね。
私、あの有名なルネリアナ・ロマンス社のデザイナーをしているから、最優先で譲ってもらうつもりよ! 権限はこういう時に使わなくっちゃね!」

所属情報を軽率にバラしたエリザベートは店主に叱られた。

「デザイナーに復帰したんですか……!?」

思わず声を上げてしまったレナ。
アリスの話では「失踪中」とのことだったのだ。

「ん? 復帰……って、どうして知っているの?」

「ああっ」

アリスにいいお知らせができる、と思ってしゃべりすぎたレナは口を押さえた。
ルーカが割って入る。

「僕たちもルネリアナ・ロマンス社にコネがあるので。新商品について聞いている時に、優秀なデザイナーがいなくなってしまい大変困っていると聞いていました」

「…………あちゃー」

痛いところを突かれて、エリザベートが額を押さえる。

「ちょっとね、”新作作りたい病”を患っちゃってたの。えへへへへへ。まあこの話はこれで終わりにしましょう……」

「そうですね」

レナパーティへの追及は免(まぬが)れた。

数日後に訪れるアリスはこの連絡を喜んで、さっそくルネリアナ・ロマンス社を訪問し、新商品の定期購入交渉を持ちかける、と先に言っておこう。

エリザベートは微妙な空気をごまかすようにガラスペンを持つ。

「試しに赤色で塗ってみましょう」

オーダーメイドは赤のベースカラー。
全身赤色状態のレナ女王様をちらりと見てから、エリザベートがデザインを真っ赤に塗ってみると、とても面白い絵面になる。

「「「こ、これが集団で? ぷぷぷぷっ」」」

ルーカとクーイズが笑い出してしまった。

「目立つこと間違いなしですねーー! あーもー……! エリザベートさぁん、なんとかして下さーいっ」

「そうね、まかせて」

エリザベートはガラスペンを一振りして、赤色の一部を消していく。
いや、正確には白く塗ったようだ。
クーイズとミディが興味深そうにペンの動きを追って、頭を動かす。

「赤色の部分を少し減らして、白を入れたわ。どう?
全身真っ赤よりもナチュラルになった。
レナパーティはみんなの髪色が派手だから、白が一番馴染むと思ったの」

「わあ、さすがです! すごく素敵。ぜひこの通りにしてください」

レナは満足そうに(赤と白か。紅白で縁起がいいかも。祝福装備にピッタリか……)と考えた。
思考を覗いたルーカが、フラグが立ったと確信した。

▽全員分のデザイン画ラフが できあがった!

「よし。見栄え良く仕上げてみせるわね! みんな美形だからきっと着こなせるわ。
ねぇレナさん?
服を作り始める前に本人を見たいの。この場にいない従魔をまた連れて来てくれるかしら?せっかく高級衣装を作るんだもの」

「分かりました。数日後に全員揃うので、また伺いますね」

にこにことレナが快諾する。

「お願いね」

エリザベートがデザインラフ画の紙をまとめ始めた。

ここで、ルーカがそっとレナにテレパシーで話しかける。

「(このデザイン、白の面積が多すぎるかもしれない。もう少し赤の比率を上げたら、祝福装備として確実に変化するはず)」

「(そうなんですか!? ていうか、祝福装備は確定なんですか!)」

「(だいたい確定かな。レナと[感覚共有]するから、僕の魔眼を使いながらうまくエリザベートさんと交渉してみて)」

「(修正依頼ということ……?)」

レナの瞳が紫みを帯びる。

「!」

エリザベートを、そしてガラスペンの効果を視て、レナは驚いた。

(エリザベートさんの虹色の目。こういうことだったのか!)

じーっと見られたエリザベートが「ん?」とレナを見返してきた。
いや、正確には顔周辺の衣類を見ている……本当にブレない。

「エリザベートさん。相談が」

「なぁに?」

「諸事情あって、オーダーメイド衣装の赤色面積を増やしたいのですが」

「あら……デザイン変更する?」

エリザベートが瞬きする。

「いいえ。配色はとても気に入っているのでこのままで……エリザベートさんの『衣類の色を変化させる』能力を反映した魔道具の作成をお願いできませんか?」

レナがズバリ口火を切った。
エリザベートは驚いて、それからスッと目を細める。

「色々と知っているのね……? ルネリアナ・ロマンス社でもトップシークレットのはずなんだけどな。
貴方たちって、本当に何者なのかしら?」

「眼がいい冒険者なんですよ」

「ああ、魔眼」

エリザベートはポンと手を叩き、あっさりと納得した。
低レア度の[魔眼]ギフトはラナシュでは一般的なのだ。

「でもそんなことまで視ることができるなんて! 私、これでも[透視阻害]のブローチを身につけているのよ。
へぇー、ふぅーん?」

「私の目を覗き込むフリをして衣服をチェックしてるの分かってますから! エリザベートさん」

「まあ鋭い」

ペロリと舌をだして、エリザベートが離れる。
レナは不審者に絡まれてドキドキとしている胸をなでおろす。

「服の色を真っ赤に変えるブローチを人数分? とんでもないことを頼んできたわね」

「難しいでしょうか? でも、お願いします」

従魔のために、レナは頑張って交渉する。

「できなくはない。でも対価は? お金以外のものがいいわ」

「うっ」

金貨を積もうとマジックバッグに手を入れかけたレナが動きを止める。

「なにかとても珍しい魔物素材……レナさんたちなら持っていそうな気がするのよ。
私がワクワクしちゃうようなすごーーいの!
さあ、出して。首を縦に振らせてちょうだい」

エリザベートがにっこり微笑んで、手のひらをレナに突き出す。
遠慮がない。店主に頭を叩かれてもめげない、微動だにしない。

店主がため息をついた。
しかし、彼女も興味深げにレナの手元を見ている。職人として珍しい素材に興味があるのだろう。

(キラ、何か服飾に使える魔物素材ってあったっけ?)

レナが視線で問いかけると、キラが察して、脳内アナウンスをかける。

<……公(おおやけ)にはできないものばかりかと思われます。赤の祝福装備や、夢産の衣類など、このエリートエルフの二人は絶対に素材を細部まで調べつくすでしょう>

それはまずい。レナが悩む。

「……今は思い当たりません! また次回来る時までに、何かないか考えてみます」

「そう? 楽しみにしてるわ。
対価さえ払えるなら、色を変えるブローチ作りを受けてあげる」

エリザベートは笑顔で言った。
レナたちが何かを持ってくるだろうと確信しているようだ。このあたりは服変態の勘が働いたのかもしれない。

しょんぼりとレナが振り返ると、ルーカが苦笑して「(また帰ってからみんなで相談しよう。きっといいアイデアがあるよ)」と励ました。
ミディから「ミィのイカの切り身はだめ?」と申し出があったが、衣類ではないので優しく却下した。

「今日はとても有意義なお話ができて嬉しかったです。相談に乗ってくださってありがとうございました。近々、また来ますね」

「待ってるわ」

レナと店主がにこやかに話し合うと、エリザベートがガッとレナの腕を掴む。

「え”っ」

「こら、エリザベート!」

「ダメよ、おばあちゃん。そしてレナさんもね?
オーダーメイドの服を作るなら、身体のサイズをしっかりと計らなきゃ」

「……? サイズは目測で計ったわ。私の経験を信用できないかしら?」

店主が目を吊り上げるが、

「もちろんおばあちゃんの経験を尊敬してるわ。でもレナさんには秘密があってね」

エリザベートはギラリと目を虹色に光らせて、レナの服をうっとりと視る。
レナがゾワゾワと背筋を粟立たせた。
店主は眉をひそめながらも、孫の言葉を待つ。

「レナさん。そのスペシャルな補正下着、脱いでみせて♪」

「……えーーーーーーっっ!?」

「採寸のためよ!!」

「目が怖い!」

「生まれつきなの!」

「生まれつきその性格なんですか!? あっ、つい失礼なことを……」

「ああ本当に傷ついた! この傷を癒すには素敵な服を見ないと心が壊れちゃいそうだわぁーっ!」

「レアな補正下着を見てみたいだけなのではーーー!?」

「いやぁねレナさん。趣味と実益を兼ねるって素敵じゃない?」

趣味(服を見たい)実益(採寸)ということなのだろう……。
エリザベートが引き剥がせないし、正確な採寸のためと聞くとレナの味方はいなくなった。

「レナ様に最高の衣装を着てほしい」

従魔にそう言われると、レナは頷かざるをえなかったのだ……。
▽レナは 奥の部屋に 連行された。

「きゃー! なにこの下着! すんごくえっちー! 淫魔サキュバスの下着屋さんで買ったの? ねぇねぇねぇ」

「いやあああ引っ張らないで下さい!? 紐が解けるぅ!」

▽乙女の叫び声が聞こえてくる……

ギリギリで[感覚共有]を切ってよかった、とルーカがびくびくしながら思った。

「完璧に採寸できたわ。大満足ぅ。まあほとんど変化はなかったけど。レナさんとってもスレンダーボディね」

「この下着にはバストアップ効果があるんですけどー!?」

▽乙女の悲痛な叫びが漏れた。

レナが自発的にランジェリーのプレゼンを始めてしまったので、エリザベートが興味津々に聞く。
空気を読んだクーイズが介入して、ようやくレナは正気に戻りしょんぼりと服を着た。

「……なんだかとっても疲れたよ……」

「レナはよく頑張ったよ」

従魔たちがそっと優しく主人を気遣う。

「「またのお越しをお待ちしております!」」

[エルフィナリー・メイド]の服飾職人エルフがにこやかに手を振る。

▽戦闘服をオーダーメイドした!
▽次回の来店時までに、珍しい魔物素材を探そう。

「……あれ? 小さな女の子が主人を務める魔物使いのパーティ……。
宣教師のジミーとモスさん、魔物たち。ムーンライトパワーアップ、赤の女王様爆誕! 正義の鞭をくらえ!
……ライアンとオーウェンが語ってた赤の伝説って、あの子たちのことなのかな!?」

「まあ。なぁにそれ?」

「あのねー。エルフの里で流行ってるのよ」

「シヴァガン王国でも流行ってきてるわねぇ。似た噂話を聞いたわ」

ーーレナたちが去った後、店内ではおかしな赤の伝説が語られて、エルフの家族は楽しいひと時を過ごしていた。
レナがこの事情を知り頭を抱えるのは、数日後。

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!