174:今夜もイートミィ♡(ミディ視点)

デリシャスクラーケンのミディアム・レア!
それがミィの名前なの。
名前の意味、焼かれて半生状態のことなんだって。
アーン♡ 白炎に芳ばしく焦がされることを考えるとドキドキしちゃうネ……♡

そして美味しく喰べられるの。ミィはそのために生まれてきたんだもん。
齧(かじ)って、啜(すす)って、飲み込んで♪ お腹いっぱい、ミィで満たしてね。

クラーケンストーンの時にぼんやりとご主人サマの声を聞いていたノヨー。食材にしようか、従魔にしようか迷うなぁって言ってた。
どちらもクリアして、さらに美味しくしてもらったから……♡
さぁ、遠慮せずに、イートミィ!

「ご主人サマっ。今夜も召しませ、イカ娘♪」

「げほっごほっぐふっげっほっ……!」

ご主人サマにアピールして、頭のエンペラをぴらぴら揺らしてみせると、飲みかけの粗茶を喉に詰まらせて咳き込んじゃったぁ。
鼻に入った! って言ってる。
あっ、エリクサーの鼻うがい? お鼻が健康になって良かったネ。

にこにこしながらご主人サマの顔を覗き込むと、あらら? 涙目? 涙ってどんな味がするんだろう。うずうず。

「ご主人サマ。涙舐めてみてもイイ? イイ?」

「ミディ!? 好奇心旺盛が過ぎるんじゃないかな!? どうして!?」

「味が不思議なノヨー。真水? 塩水? 血とは味が違うの? あとで血も舐めて比べてみたいナ。リリー先輩みたいに。
ミィは食材魔物だから必然的に全身美味しいけど、ヒト族は美味しいの? 美味しくないの? ねぇねぇどうして?」

「こ、これが生まれたての魔物のなになに期……しかもとことん食材系。とんでもない……外聞がまた裸足で逃げ出しちゃうぅ……!
せめてここがお宿♡の中で良かった」

んー? ご主人サマは乗り気じゃなさそう……ざんねーん。
もっと押すか、引くか、どうしようカナァ。

「とても大変そうだね、レナ」

「ヘルプミー、ルカぺディアさん!」

「あっ懐かしい呼び方。いいよ。手助けしようか」

ルーカが私たちの隣にストンと座った。
みんながルーカって呼んでるし、本名は長くて覚えられないから、ミィもルーカって呼んでるの。

ルーカがネコミミを嬉しそうに揺らしながら、ミィたちに向き直る。
ご主人サマが「ぱふぱふー」って言った。

「ミディ、よく聞いててね。まず涙の味について。ヒト族の涙は少ししょっぱい。海水ほどじゃないけどね。
魔物の涙も基本的にヒト族と同じ味なんだけど、妖精の涙は甘かったり、天使族の涙には治療効果があったり、アンデッド族の涙には毒が混ざっていたり、種族によっては違いがあるよ。
ミディの涙は……旨みがある? って視えてる。僕もピンとこないけどね」

「えっ、実技希望カナ? 舐めてみたい? イイノヨーええーーいっ」

興味があるのかなって思って、頑張って泣こうとしたんだけど、泣き方、わかんなーいっ! しょぼん。
ん? 気づけばルーカが少し遠ざかっている。

「ごめん、その涙はいざとなったらレナに提供してあげて。追加情報。ミディの涙は栄養満点」

「ルーカさぁーんっ!?」

ルーカは美味しい涙をご主人サマに譲ってあげるんだって。
えらーい! 優しい!
ご主人サマ、さすが従魔に慕われているノネー♪

ご主人サマはルーカのネコミミをマッサージして可愛がってあげてる。うずうず。

「ミィのエンペラも触っ……齧ってイイノヨー♡」

「「どうしてそうなるの」」

食材魔物のサガ、なのかしら?
声を合わせたご主人サマとルーカは、ほんわりと笑っているばかり。もー、遠慮しなくていいのにぃ。

「ごほんっ。さっきの話を再開するよ、ミディ。
血と涙の味は違う。血は鉄を舐めた時の味に似ている」

「今度、鉄を舐めてみたいナ。ご主人サマ」

「ミディ、ミディ、落ち着いて。味に対して貪欲すぎる」

「血は一般的なヒト族にとっては”まずい”と感じるんだけど、血を好む種族というのが存在する。ダークフェアリー、獣人全般、アンデッド族など。彼らにとっては血がとっておきの嗜好品なんだ」

「ルーカさんはマイペースすぎです……」

「あ。リリー先輩って……そういうこと?」

確かダークフェアリーだもんネ。牙があるのは血を飲むためなのカナ。

「あと、レナの血は従魔にとってちょっと特別みたいで……おそらく従魔全員への嗜好品になる。主従契約の影響だろうね。
もともと血を好む種族のリリーほど熱中することはないだろうけど」

「ご主人サマ! 血、舐めさせて♡」

「あのねミディ、リリーちゃんは種族的に[吸血]が必要なの。だから仕方なくそうしてるの。
他の子たちみんなに血を提供すると、私が干からびるから、勘弁して……」

「…………………………味見…………我慢、するぅ」

「「えらい!」」

つらかったけど血液を諦めたら、ご主人サマとルーカに褒められた。
えへっ。ミィ、えらいみたい! やったー♪

(ルーカさんはあとでOHANASHIです。わざわざ関心を持たせる補足説明まですることないでしょう!)

(えー。今の僕はルカぺディアだから細部まで説明しないと気が済まなくて)

(厄介)

やっかい……? やかい? 夜会? クラーケンパーティ!

一人ではしゃいでいたら小声をうまく聞き取れなかったけれど、きっと今夜もミィのクラーケンボディが食べられるってことなのネ?
アーン、楽しみ……♡

自分を抱きしめるように腕を回して、くねくねと動く。
ヒト型のミィのボディは、肌がむっちりと柔らかい。
「お餅みたい」ってご主人サマは褒めてくれたノヨー。
オモチってよく分かんないけど、きっと美味しい食べ物に例えられたに違いないの。

クラーケンの切り身を、ご主人サマはいろんなレシピで調理してくれる。
定番の生イカソーメンに、白炎のイカ焼き。それぞれ調味ソースやお醤油をつけてイートミィ。
あらかじめ味付けした切り身を焼いたり、タレ漬け生イカに卵を乗せたり、シーフードシチューにしたり。
ミィをさらに美味しくしてくれる……♡

白炎は派手に使わなければ、部屋の中で[サンクチュアリ]を何重にも展開してイカ焼きが作れるの。
オズ先輩、訓練を頑張っているノヨー。
ミィも、もっともーっと……

「ねぇご主人サマ。
ミィ、貴方のためにもっと美味しくなりたい。どうしたらイイカナ?」

ご主人サマがそおっと撫でてくれる。あう。とろーんと眠くなってくるぅ……。

だめだめ。あとでお風呂に入らなきゃいけないんだモン。そのあとはご飯。まだ、寝られない……喰べられることを想像して、目をギンッと見開く。
眠気なんかに、負けないモン!

「そ、そういうのはルーカさんに聞くのがいいよ。魔眼の調教師だから。
ホラ、笑い転げていないで後輩の成長相談に付き合ってあげて下さいな」

「……だ、だってミディが……『いイカな』なんて言うから……なんか、おかしくって……! ふふふふっ! あはは!」

ありゃー? ルーカは笑い始めるとなかなかおさまらないノヨー。
ご主人サマは仕方なく鞭を手にして[従順]スキルで大人しくさせた。
こうして笑いを強制終了してあげると、ルーカのお腹に負担があんまりかからないんだって。
へーー。
そんなことよりも、美味しくなる方法、教えてっ。わくわく、うずうず。

ルーカは紫の目でミィをじぃーーーっと視る。

「……まだ生まれてからあまり運動してなくて、脂肪が柔らかすぎるから、身体を鍛えていこうか。
クラーケンボディに程よい弾力がうまれると思うよ。噛んだ時の歯ごたえが良くなる」

「そーなの!?」

二の腕をふにふにと揉んでみる。確かに、肌がぷにょぷにょ、ふーわふわ。

「これが少し引き締まるといいのネー? やってみようじゃなイカ」

「ふふふふっ」

意識して言ってみたら、またルーカが転がった。おもしろーい! これからたまにイカイカ言おうっと。

ご主人サマは「スキル[従順]子ネコになーれ」って命令して、今度は子ネコルーカをくすぐり倒して大人しくさせた。
笑いの衝動が尽きた小さなルーカはくにゃりとソファに伏せっている。
こういう時のご主人サマにふさわしい言葉は…………えっとネ、きちく! だよネ?
キラ先輩がピカッて光って同意してくれた。

『うあぁ……ひどい目にあった……たまにこうして悪運を発散させなきゃいけない自分の体質がつらい…………。
ミディの強化訓練、まずはダンスレッスンに参加することをオススメするよ』

「わぁい! 先輩たちと踊るぅー♪」

くねくねと手足を動かしてみせると、笑い切ったルーカはもう反応しなかったけど、ご主人サマはくすっと笑った。

ルーカが『油断した。今度はレナと[感覚共有]しよう』ってぼそっと呟いてたけど、楽しく踊っていたらご主人サマに伝えるのを忘れちゃった。
そういうこともあるよネ!

「ミディの今後の方針はひとまず決まったね。
あとは……一般常識を教えるつもりだったんだけど……脱線しちゃってばかりだなぁ。もうこんな時間。みんながお風呂から上がってきちゃうよ」

「ミィ、ご主人サマとたくさんお話できて楽しかったノヨー♪」

「ミ、ミディ……!」

ご主人サマとたーくさんぎゅってするー、わーい!
ふあ……でも、ダメダメぇ……眠く……なるぅ……

この眠気は幼いから仕方ないんだってー。
あ、ヒツジのハマル先輩。

『ミディ、眠そうだねー。ちょっと[快眠]してスッキリするー? 夜に寝れなくなると困るからー、10分くらいだけー』

ふあぁ。フラフラと近寄って、ハマル先輩の金色のもふもふに、子ネコのルーカと一緒に埋もれた。
気持ちイイ〜。
[快眠]してから、パチっと目覚める。
ん、晴れやかな気持ち!

このタイミングで、バスタオルを適当に巻いたシュシュがバスルームから飛び出してきた。
なーに?

「シュシュ?」

「あのねっ、ご主人様! レグルスも一緒にお風呂に入ることになったんだー。でも大人一人だから寂しいんだって。ご主人様も来て?」

「そうなの……!? まさかレグルスがこんなに早くみんなと打ち解けてくれるなんて。嬉しいね。
分かった、バスルームを広くしてもらえないかネレネさんに相談してくるよ」

ご主人サマは部屋に備え付けられたルームコールでオーナー・ネレネと話して、無事に改装を承諾してもらった。
シュシュ先輩が「さすがご主人様!」って胸を張ってる。
バスタオルがはだけかけたので、男の子たちがさっと目を逸らす。

ご主人サマとミィも入浴に参加することになったノヨー! 楽しそうー!

「一緒に行くうううう」ってハマル先輩が可愛く荒ぶっているけど、オズ先輩に止められちゃってる。
魔人族になった時には男女の差を気にしなくちゃいけないんだってー。
魔物型の時にはみんな服なんて着ないし、ミィにはその感覚、まだよく分からないノヨー。そのうち理解できるのカナ?
まあいーや!

女の子みんなで愉快に入浴したよ。
キサがとくに嬉しそうだった。お肌がスベスベになったんだって。

夕飯は炙り角切りクラーケン・コーン・枝豆の黒胡椒炒めに、クラムチャウダー、パンとたっぷりキャベツのマヨサラダ。
みんなが美味しいってミィのことを喰べてくれたから、もーー嬉しくて嬉しくて、つい[イカスミバブル]を浮かべちゃった。
慌ててルーカが[サンクチュアリ]で回収してくれて、夕飯にイカスミパスタが追加された。

歯が真っ黒になって、みんなで大笑い。
スライムジェルの歯磨きで色を落とした。今夜もたっぷりお楽しみだったノヨー!
おやすみなさい。

***

朝になって、ダンスレッスンの時間がやってきた。
さぁ! ミィも頑張るモン!

ルーカが[調教師]の称号をセットして、パンパンと手を叩く。

「まずは簡単なステップから。おやすみだった身体を慣らしていきましょう。幼児向け体操ソングをお願い、キラ」

<みーーんなーー! 元気ーー? ちびっこ体操がはーーじまーーるよーー!>

「「「はぁーーい!!」」」

参加するのは、まだ子どもの従魔たちだけ。
お兄さんとお姉さんたちは、ラジオ体操っていうのをしてる。

<ウサギの真似して、ぴょんぴょんぴょん♪ くるっと回って、ピタッ! 隣の子とお手手を合わせて、にっこり笑顔♪ そしたらハイ、たーのしー♪ スキップスキップ>

歌に合わせて、リズミカルに踊る。
先輩たちはとっても上手ネ。
ミィはちょっとステップが遅いんだけど、クーイズ先輩が手を取って助けてくれたよ。

「次は初心者向けアイドルダンス。さあテンション上げてっ」

ルーカが楽しげに手を叩く。そしたら、なんだか身体がそわそわ、ヤル気が出てくるの! 称号ってすごーい。

これは大人も一緒に踊る。
うわわっ、獣人のみんなのステップが早いー! 足がどうしてあんなに早く動くのー!?
軽やかに難なくターンを決めてる。ウワーオ、かっこいいー!
あっ、ハマル先輩は転んだ。でもめげないで踊りを再開する。えらいっ。

ミィも踊るんだけど、動きについていけない……うーーーーん! それそれ! あっ間違えちゃったぁ。まあいっか。えいえい。
曲が終わって、へにゃんと座り込む。疲れたぁ。
体力不足なのかもネー。

「ミディ。成長のために、少し厳しいことを言うね。
このダンスレッスンは、身体を動かして体力をつけることと、イメージ通りに身体を動かすための訓練だから、オリジナルじゃなく指導通りにダンスしてほしいんだ。
最初から全部完璧にするの難しいけど、まず、意識を心がけてほしい」

アッ…………ルーカに叱られちゃった。
ううう、ミィがまあいいやってテキトーに考えてたことも視抜かれちゃってたのネ……。
眉尻を下げて項垂れると、慰めるようにポンポンと肩を叩かれる。
にこっと笑いかけられた。

「とーーっても美味しい食材をレナが待ち焦がれてるよ」

ミィ、頑張るーー!!!!!!!!

「イーートミィーー!!」

両手を振り上げて、ミィ、復活!
転んで膝を治療してたご主人サマは、ふんわり柔らかい目でミィとルーカを見上げた。
期待しててネ、ご主人サマ。最高のお味で貴方の心も身体も満たしてアゲル♡

「それじゃ、次の曲にいこう。
ゆったりフラダンス。動きはゆっくりだけど、ずっと中腰で動くから、足腰が鍛えられる。
レナとハマル、クレハとイズミが得意だね」

クーイズ先輩はどんな踊りも上手ですごいなぁ。
きらびやかだった照明が、優しい自然の色味に変わる。

ゆったり優しいメロディに合わせて、腰をクネクネ。あ……ミィ、これ得意かもしれない!
一つもミスすることなく踊れたよ。ウワーーオ♪

「「「上手にできましたー!」」」

先輩たちがいっぱいミィを褒めてくれた。えへへ。
ご主人サマもルーカもにこにこしてくれてる。えへへへへ!

そのあとも何曲かダンスをして、心地よく疲労した頃にシャワーを浴びる。
少しだけ[快眠]して、体力復活ナノヨー! お目目パッチリ。
あ、ご主人サマ!

「ミディ、頑張って踊ったね。
今朝はストックのじゃなくて、その、えっと、より新鮮で美味しくなったクラーケンの切り身を頂こうかな……?」

「ウワーーオ! まかせてご主人サマ♡ 水魔法[ウォーターカッ……」

「待って待って待って! 魔物型になってからにしよう!? ね!?」

えー? でもせっかく服を着たのに。いったん魔物型になったら、着替え直しになっちゃうノヨー。
……そーだ!

「身体のどこかからイカゲソを生やせばイイノネー!」

「解決方法が予想外……!」

予想外? 知らないことを知るのって楽しいよネ! うわーい!
にょろん、とミィの腰の辺りから、イカゲソが生えてきた。
ちょうどトカゲの尻尾みたいに。

「さあ。水魔法[ウォーターカッター]」

「躊躇がなさすぎる!」

「あっはっはっは!」

「ルーカさん笑ってないで! ……はい、切り身を鑑定して下さいな!」

ご主人サマが尻尾の先端を拾って、渡す。
ルーカが涙を浮かべた紫眼で、ミィのイカゲソの先端をじーっと視てる。ドキドキ。

「ほんのりと弾力に変化があるかな……?
うわ、成長早いね。レナの体質の影響を受けてる新種の魔物なだけあるよ」

「うわーーいっ!」

頑張ったかいがあったノネー♪
ミィはデリシャスクラーケンだから、ボディが硬くなりすぎるってことはないみたい。
つまり、ベストな噛み心地になるまで、しっかり鍛えていきましょうって。イエス、教官。ミィ頑張るっ!

「朝食の前菜はさっぱりイカマリネにしようかな」

また、新しいお料理。
ご主人サマはどんどんとミィの初めてを知ってくれるノネ♡

どうしたら美味しくなれるのかしら。
ミィのボディを、しっかり咀嚼して味わって。
いつかきっと至高のお味になった頃、一番美味しいトコロを貴方が召し上がってネ♡
イートミィ、ご主人サマ!

本能のままに美食を求めるデリシャスクラーケンのミィは、今日も幸せに美味しくナルノ♪

 

 

 

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