172:従者として(レグルス視点)

俺はレグルス・カーネリアン。
誇り高き炎獅子家系の一員であり、聖霊対策本部の所属員、そして魔物使いレナ様の仮従魔だ。

俺、という一人称を使い男装して過ごしているが、性別は雌(メス)。

それゆえに、炎獅子特有のタテガミを持たないことが生来のコンプレックスだったが……レナ様が力を貸してくれて、上位種族の火炎獅子にレアクラスチェンジすることができた。
このチャンスをきちんと生かし、全力で戦力強化したいと考えている。
ドグマ様の戦闘訓練もとても楽しみで、胸が躍る思いだ。

こんなに恵まれた環境にいることを、ありがたく思う。
赤の運命とやらに、感謝を捧げよう。

「……あ。レグルスの髪が緋色のグラデーションになってる! [|陽光吸収(フレアチャージ)]したの?」

「! レナ様」

「綺麗だねぇ」

「またそのようなことを……ッ!」

……主人のレナ様はすぐに従魔のことを褒める。慣れない。

思わず声を荒げて、ぐるるっと喉を鳴らすと、彼女はくすくすと笑った。
今の俺はいかにも可愛げのない怖い顔をしているだろうに、優しい手つきで触れられる。
頭が沸騰しそうなので、数秒で距離をとった。

「……考え事をしていました。
感情の変化に合わせて、炎獅子は髪の色がわずかに揺らぎます。獣型の時は毛皮の色が変わります」

「へぇ」

「スキルを使用する場合、もっと派手になりますよ。[|陽光吸収(フレアチャージ)]、[|陽光放出(フレアブースト)]」

室内なので、最小限の魔力でスキルを使う。
吸収の時は髪が金色みを帯びていき、熱が溜まっていく。
放出すると、ぶわっと髪が膨らんで、真っ赤な炎そのもののようになった。

「うわあっ!」

レナ様がキラキラ目を輝かせて見上げてくる。
部屋に熱がこもり始めているが、少しだけこの状態を維持しようか……。
上司が部下のスキルを把握しておくのは、大切なことだからだ。

「……終わりです。
室温を上げてしまい、申し訳ありませんでした」

一礼すると、レナ様はほうっと息を吐いた。

「確かに、ちょっと暑いかもしれないね。イズミ、冷やしてくれる?」

『あいよっ! 青魔法[アイス]〜、ついでにスキル[氷のつぶて]〜!』

『「きゃー! きゃーっ!」』

部屋がひんやりしたのは良いが、幼児たちが遊び始めてしまった。
俺の従魔の先輩……だ。あまりに幼いので複雑な心境ではあるが、戦闘力は確かなものだ。戦闘力こそ全て。俺は彼らを魔物として敬っている。

レナ様は「お宿♡の備品を壊さないように注意して遊ぶこと」と注意しながらも微笑んで見守っているので、レナパーティはこれでいいのだろう。ゆるい。

……小さくため息が出る。
当たり前だが、諜報部とはずいぶんと雰囲気が違うんだ。
はたして、俺は今後、この空間に馴染めるのだろうか?

「レグルスのスキル、すごかったねぇ。戦闘でも頼りにしてるよ」

「そのお言葉に必ずや応えてみせましょう」

跪(ひざま)いて真剣に言うと、主人が喜んだためか、従魔契約が刻まれた胸がふわっとあたたかくなった。

「レグルス。さっきは髪の毛が炎みたいだったけど、触ると熱いの? 火傷しちゃう?」

「いえ……触れても状態異常にはなりません。しかしどうかお戯れは……」

ほどほどに、と言いかけて、うっと口をつぐむ。
いかにも髪に触れたそうだったレナ様への対策で先に断りを入れたのだが、なんて寂しそうな顔をするんだろう。
ううっ……主人を悲しませるつもりは……ッ!
そのようなことは部下として許されない所業だ! だから! 仕方なく!

「イートミィ♡」

……再び髪を変化させる前に、ミディがレナ様に飛びついてきて、俺たちの話は中断されてしまった。
ミディに続いて、次々と従魔たちが押し寄せてくる。
レナ様は幼児たちに埋もれてしまった。

落ち込んでいた彼女が幸せそうな顔になったのを確認して、その場を離れた。

俺は、部下としてどのような対応をすべきだったのだろうか……。モヤモヤする。

部屋の隅で呆れたように光景を眺めていたオズワルドを捕まえて、別室に連れ込んだ。

***

「なに」

金眼が訝しげに見上げてくる。

「オズワルド。お前はどのようにレナパーティに馴染んだ?」

「……? 自然に」

「もっと具体的な方法を聞いている!」

声をひそめながら叫ぶように言うと、オズワルドが困ったような顔になった。
以前のオズワルドは俺と態度が似ていたので、参考にしようと思ったのだが。

「具体的にって、行動のことか?
肉体的には、従属魔物としてレナパーティに組み込まれているし、あと馴染むとなると精神的な変化だから…………ああ、レグルスはそこがまだ思い切れないのか。
はしゃぐことに抵抗がある?」

「……そのような、感じ、だろうか」

「先輩従魔とまるで同じにならなきゃ、って思っていないか?
無理して同じテンションになろうとはしなくていいよ。あれは無理だし。
違うことは個性だって、レナパーティは受け入れてくれるから。
いがみあおうとさえしなければ、いるだけでもいいんだ」

さすがに、もともと思考が似ていたオズワルドの言葉は俺にも分かりやすい。
しかし理解はできるが、どこか腑に落ちない。

「……それでは、このパーティに貢献できないではないか……。与えられるばかりの環境に甘えるのは、炎獅子の矜持(きょうじ)が許さない」

そう言うと、オズワルドが何かに耐えるような顔をして、がしがし頭をかく。
何やら悶えている?
そして、思い切ったように言う。

「………………つまり、パーティの中で一番に目立ちたいと?」

オズワルドは妙なうめき声を漏らして、塞ぎこんでしまった。
獣耳がへにょんと伏せる。

「…………先輩従魔の俺からのアドバイスだ。
やめとけ。
単騎で危なっかしく目立つことなんてみんな望んでないから」

「しかし」

オズワルドが手を伸ばしてきて、俺の口を塞いだ。
不服だが、いったん黙って話を聞く。

「最初の話に戻るぞ。
つまりさ。強くなりたいとか貢献したいとかは置いといて、馴染みたいんだろ?
そう真っ先に言ってたのがレグルスの本心なんだよ。
その動機はなに? どう考えてるか、自分の心と素直に向き合ってみたら。
ちなみにまだウダウダ愚痴るなら、本心丸ごとルーカに覗かせるぞ」

背筋がゾワッとした……あの紫眼に全て暴かれることを想像して、あわてて頭を振る。

「……従者として、レナ様に気に入られたい気持ちがある。しかし好意的に振る舞えない。
俺はどうしたらいいのだろう」

「そう、それ」

オズワルドが親指で、俺の鎖骨のあたりをぐいっと押す。
心臓の少し上辺り。

「その自覚が大事。
あと、まあ、落ち着け。とりあえずもうちょい離れて」

ん? いつの間にか、オズワルドの顔が間近にある。無意識に前のめりになり、迫っていたらしい。

「すまない」

離れようとしたのだが……金眼に赤い光がチラついたので、思わずガッと顎を掴んで上を向かせていた。

「金色の瞳。ドグマ様によく似ているが、赤みがかっている。これは白炎聖霊様の影響か!?」

「そんな風に変化してるか? 自分ではあんまり分からないな。
それより、顎が痛いんだけど! 首に爪が食い込んでるし! 離せってば」

「……ああ、つい」

「従魔仲間じゃなければ思い切り噛みついてるとこだからなっ」

手を離すと、オズワルドはジロリと睨んでくる。
この視線、懐かしい。
オズワルドがやさぐれていた時によくこんな顔をしていた。
でも今は睨みすらもどこか柔らかさを感じるので、レナパーティにいて良い方向に変わったのだろう。

「従魔仲間じゃなければ」という言葉についてふと考える。
喉元を狙われた獣人が反撃しなかったこと、俺が危機感なくオズワルドの急所を触ろうとしていたこと、それは異常だ。
従魔契約による仲間意識、信頼があったからこその行動と言える。

…………少し、ゾッとした。
獣の本能すらも和らげてしまう従魔契約、底知れないものを感じて身震いする。
……ラナシュ史上最も「魔物使い」職業を極めているであろう藤堂レナ様が善人でよかったと、心底ホッとした。

「あのさ、レグルス。主さんにそのまんま伝えるのが一番手っ取り早いよ」

胸を撫で下ろしていると、オズワルドからそんな言葉を受ける。

「もっと仲良くなりたいなら、直球に好意を伝えるのが一番良いはず。
主さんを見てて思ったんだ。
主さんは、他人とすぐに打ち解けるタイプだろ? それって、感謝とか相手への好意を、ちゃんと言葉や態度で伝えてるからだと思う」

なるほど。
これはすんなりと俺の中に入ってきた。
レナ様の微笑みを思い浮かべる。

「とくに、俺たち従魔はもともと主さんに好かれてるんだからさ。
拒絶を怖がる必要もないんだし。全部言っときなよ。
好きな相手から好きって言われたら、嬉しいもんだろ?」

「お前……羞恥心はどこへやった…………なんだその発言、本当にオズワルドか…………?」

「そんなもん捨てた。先輩からのアドバイスだ。捨てろ」

「〜〜〜〜ッッッ!」

俺が往生際悪く押し黙っていると、さらに追撃がくる。

「羞恥心に固執しなくなったから、俺は魔王ドグマのことをまた父様って呼べるようになったよ。
従魔戦力強化メニューの、ダンストレーニングなんかにも打ち込める。
仲間と触れ合う時間が増えて、たくさん話をして、距離が縮まった。戦闘時に連携が取りやすいだろう。
いいことしかないって思わないか?」

……そう言っているオズワルドの顔は真っ赤なのだが。

「照れないとは、言ってない」

俺の思考を察したらしく、ぷいっと横を向いてしまった。

主人に好意を伝えてみる……か…………どのような言葉を選べばいいのか。この複雑な感情を一言で伝えられる言葉を切望したい。

「ようこそ、こちら側へ」

くっ。いつの間にかこっちを向いていたオズワルドが、赤い顔のままニヤリと笑った。
俺は思考している間に、オズワルドと同じような表情になっていたのかもしれない……。
顔がすさまじく熱い。
なんだか、悔しい。

「炎獅子系統の忠誠心の方が強いんだからな!」

「はぁ!? 一緒にいた時間が長い俺の方が主さんに懐いてるから!」

ーーどうしようもない言い合いをしていると……

嫌な視線を感じる。
ぎぎぎぎ、とそちらを振り向くと……

扉の隙間から、映像のキラがにやーーっと顔を覗かせていた。芸が細かい。じゃなくて!

一番やばい存在に知られてしまった!!!!

<やぁーーん私たち主従ってほんとラブラブーー♡>

「「待て!」」

<ホホホホホホ! バッチリ最初から最後まで撮影しておりましたー☆ これはプレミアムなお宝映像ですねっ。
あれを流されたくなかったらぁ、先ほどの愛情溢れる言葉をレナ様に直接伝えてあげて下さいませ♪>

「「本当に待てぇーー!」」

獣の瞬発力をフル活用してダッシュしたが、パンドラミミックの浮遊移動の方が早く……するりとレナ様の懐に潜り込んだ。

バンッと勢いよく扉を開けて登場した俺たち二人に、注目が集まる。
顔が引きつる。

こちらの室内ではレナ女王様が鞭を片手に聖霊様を叱り飛ばしていた。
なんだこの状況は?
こちらはこちらでカオスで、理解が追いつかない。

硬直しているうちに、聖霊様が爆笑して、目が眩むほどの火花がパチパチ辺りに飛び散る。

「あ〜〜っもう、カルメン!
レグルスとオズくんも驚いてるじゃない。こらっ!
二人とも、目は大丈夫? ルーカさんは目がしみるって言って、エリクサー目薬で治療中だよ。
カルメン、さっきから急に爆笑し始めちゃったの……もう、何事なのっ!」

目に涙を浮かべて腹を抱えた聖霊様が、にまーーっとしながら俺たち二人を眺める。
また爆笑した。

…………。
ピンときた。
つまり、オズワルドの瞳が赤みがかっていたのは彼女の気まぐれなイタズラだったのだろう。
俺たちはまんまと愉快に反応してしまって、主従愛を主張し合う証拠動画までキラに撮られてしまった、ということだ。
聖霊様とキラは協力していたのだろう。

死にたい。
いやそんなことは言ってはいけない。
生き抜くと決めたのだ。
でも羞恥の炎で心が焼失しそうである。つらい。

オズワルドも壁に頭を打ち付けている。

”あれを、流されたくなかったら”

………………俺は、覚悟を決めてレナ様の前に跪いた。
レナ様が目を丸くして見下ろしてくる。

「日々、上手く態度に表せられずにいることをどうかお許しください……。
魔物使いの主人、藤堂レナ様。
俺は、貴方をお慕いしております」

真剣に告げた。

「主さん。いつも、ありがとう」

(オズワルド、お前っ! そんなささやかな言葉で場を濁すつもりかっ!?)

(俺は普段から好意をいっぱい伝えてるからいいんだよ!)

ギラギラの視線で会話していたら、

「うちの子たちが尊いぃ……!」

レナ様が号泣して崩れ落ちた。
この人は涙腺がぶっ壊れているに違いない。
そっと生あたたかい目で、感激中の彼女を見てしまう。

好意が伝わって感動してもらえたので、キラは俺たちにグッジョブサインを出した。
心底ホッとしたのだが……後日、こっそりとあの動画をキラがレナ様に提供したことを知り、喧嘩になるのはまだ先の話だ。
あいつめ、主人を喜ばせるためなら手段を選ばないにもほどがある!
<これがレナパーティです♪>は間違いなくキラの独断と偏見だと思っている。

わいわいと賑やかな空気にいつの間にか巻き込まれていて、俺はすでにレナパーティの従魔であることを再認識した。
自然に、馴染む。
こういうことなのだろうか。

身体の力を抜けば、ふっと口元が緩んで、笑顔が美しいとレナ様に褒められた。
……ありがたくお言葉を頂戴すると、先輩従魔たちにも褒められた。

 

 

 

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