171:ナイト・クラーケンパーティ!

▽ナイト・クラーケンパーティ、開幕!

「王国闘技大会会場か……久しぶりに訪れるな! 前回の戦いから、もう2年になるか?」

「ドグマ様の圧勝でしたよね。さすがでした。観覧しているこちらまで震えるほどの闘気、はっきりと心に焼き付いています」

「ふははははははは!」

「クドライヤは褒め言葉がすらすらと出てくるな。感心する」

「……影の者が思わずこぼした独り言のような言葉まで拾って下さるドグマ様が素晴らしいのですギルド長俺のことはどうか無視して下さいね! ほんとに。マリアベルも黙っていような」

「これから妖精女王様にお会いできるっていうのにぃー? 心のときめきを抑えてなんて言われてもーー! 無理! 無理無理無理ぃ! きゃあー楽しみです楽しみですー!」

「ほう。妖精女王は強いのか?」

……クドライヤが心労で倒れそうだ。
ドグマのお守り、ギルド長の悪ノリのスルー、マリアベルの制止、どれもSSランククエストのごとき難易度である。
ヒヤヒヤしながら、どう口出ししようか、クドライヤが考えていると……

「リリー様は麗しいの極みなのですよぉドグマ様ー! 語ります? 語ります?」

「……ああ、そういうタイプのレア従魔か。それならば関心はそうでもないな。別によい」

運良く危機を脱した。
ドグマがぷいっと顔を背ける。

(良かったけど、でも良くはない回答なんだよなぁ)

クドライヤが苦笑いして、また気を回す。

「ドグマ様! 従魔の皆さんと仲良くしておくと、オズワルド坊ちゃんすごく喜ぶんじゃないですかね!
戦闘特化の従魔に戦いを挑むことよりも、鍛錬の相手をしてあげるとさらに好感度が上がりますよ! 多分!
ドグマ様に現時点で単体で勝てる従魔はいないと思いますし。
ちびっこたちと安全に気をつけて遊んであげて下さい。いかがでしょう」

「そうか! そうだな! 憂鬱な書類仕事の気分転換になりそうだ。魔物使いのレナに打診してみよう。良いことを言うものだ」

「光栄でございます!!」

▽クドライヤは ビシッと敬礼した!
▽ピンチを 切り抜けた。
▽レナに フラグが立った。

吹き出しかけて肩を震わせているギルド長をじとりと横目で見てから、やっと一息ついたクドライヤは前を向く。

(早く会場に着きたいなー……みんな助けてー)

暗い森林地帯を進んでいく。
暗視能力を持った魔人族たちの目が、鋭く周りを観察して、森の先にある王国闘技大会会場を視つけた。
時刻は、6時40分。

ドグマがつい早足になると、丈の長い上着が大きく揺れる。
森を抜けて……

▽ケットシーが 現れた! ×2

「「にゃにゃーー!」」

「うむ。出迎え、ご苦労」

ドグマに対して、コミカルに最敬礼をしてみせるケットシーたち。
結界で閉ざしていた入り口を、開錠する。

「「にゃあ、にゃあ、にゃーーー!」」

ドーム型の結界に沿って、虹色の光が流れる。
4名が目を細めて眺めていると……

「今だよ、オズくん」

「ん。スキル[|重力操作(グラヴィティ)]、ルーカ!」

「スキル[雷剣]」

レナたちの小声を、ドグマの獣耳が聞き取る。

暗闇の中、何やら茶色い球体が空高く登っていって…………導線に、ささやかな雷が当たった。引火する。

鮮やかな花火が夜空を彩った!
二発、三発、次々に花火が打ち上がって、ドグマたちの目に極彩色の光を映した。

ッドーーーーーーン!!

少し遅れて轟音が響く。
ドグマはぶるりと毛を逆立たせて、なんとも楽しそうに目を輝かせた。

「愉快な催しだな! ふははははは!」

ハマルが[夢吐き]した火薬玉を使った花火のお迎えは、大好評!

会場内でキラのディスプレイを見て、ドグマの反応を知ったレナパーティは、嬉しそうにくすくす笑った。
その後ろで宰相たちが額を押さえているのだが、今日はパーティなのだ、ド派手にただ楽しもう!

赤いカーネーションがたくさん飾られた会場にドグマたちが入ってくる。
白いテーブルクロスと合わせると紅白となり、縁起がよいコーディネートだ。

ドグマはまっさきにオズワルドを見つけた。
[野生の本能]で、レア魔物”デス・ハウンド”の潜在能力を感じ取り、目をギラギラと光らせる。

「待たせたな! オズワルド」

「待ってないよ。ちゃんと7時に着いたじゃん。時間通りで、えらいと思う」

オズワルドの言葉にドグマは驚いて、それからご機嫌に尻尾を揺らした。

(……クドライヤ、努力したんだな)

(あたぼーよ、マジで褒めて良いぜこれ。このメンツをしっかり時間通りに送り届けた俺、すげぇわ。えらーい)

(うむ、えらい)

こっそりと視線を飛ばしあうロベルトとクドライヤは、そっと苦笑する。

「妖精じょおぉさっ、もがっ!」

「ゴーストローズ、開花」

クドライヤが、リリーに突進しかけたマリアベルを薔薇のツルで捕縛して、口をしっかり塞いでみせた。
会場の床に黒い影が現れて、そこから根を持たないゴーストローズが気配もなく伸びてきている。
ロベルトが深く頷く。

ギルド長はさらりとみんなに挨拶を終えた。

「ようこそ。……白炎のバーベキューパーティへ!」

オズワルドが代表できりりと告げて、

<ぱんぱかぱーーーん!>

「「ぱふぱふーー!」」

キラは、クラッカーが弾ける投影をプレゼント。
ノッてみたかったクレハとイズミがくるくる踊り、旗を振った。

旗には、デス・ハウンドとデス・ケルベロスが描かれている。
従魔たちから不器用な親子へのプレゼントなのだ。
オズワルドは照れながらお礼を言って、レナは従魔たちが愛おしくて号泣した。

ドグマは期待に満ちた顔をオズワルドに向けたが、「あとで魔物に変身してみせるから、ちょっと待って。先に調理する」と告げられる。

「そうか。これは手土産だ! 受け取るといい」

(…………!!)

ドグマが先にプレゼントを渡してしまったので、レナパーティが戦慄するが、すぐに重要な一言が添えられた。

「手土産の銀火竜。お前の炎で焼いてほしい」

「……! うんっ、いいよ。まかせといて」

オズワルドは頼もしく答えて、両手で抱えられるくらいの包みを受け取った。
レナたちがホッと胸をなでおろす。

(……やけに包みが小さいな……ドラゴンの希少部位だけを持ってきたのか? 珍しい。いつも丸ごと提供なのに?)

オズワルドがそおっと包みを開けてみると、魔道具の鳥籠の中に、小さくなった銀火竜が丸ごと入っている。

(……ああ、以前グルニカがここに入ってハロウィンパーティにやってきた時と同じ、縮小魔法籠なのか。やっぱり獲物は丸ごとだった)

父親らしい、とオズワルドが小さく笑う。

「ありがと。捌(さば)くのも、できるから。今日は俺たちにもてなされて」

「楽しみにしているぞ!!」

「ん。あっちで実演やるから、来て」

旗を持ったクレハとイズミを先頭にして、ドグマとオズワルドがそわそわと場所を移動する。

武闘大会会場のど真ん中に、キャンプファイヤーができそうな耐久丸太の枠組みがででーんと鎮座している。
派手な演出のために用意した丸太の表面は[サンクチュアリ]でうっすら覆ってある。

「ああ、そうだ」

ドグマは宰相の横をすり抜け際に、上着の内ポケットから体長20センチの影蜘蛛を取り出して、宰相にひょいと渡した。
ほんのり淡い朱色で、青い目。

「…………ノア!」

『お父様ぁ』

ひしっと宰相の上着にしがみつくノアは、少し震えている。
鋭い目で見てくる宰相に、ドグマはさらりと言ってのける。

「オズワルドの能力披露パーティには部外者を誘わないように、という言いつけは守っているぞ。
その者は身内であろう?
王宮の隅でもじもじしていたので、連れてきた。今日は父親と食事をできないと思って落ち込んでいたらしいが、別に我慢をさせておくことはあるまい」

……悪気がない一応善意の言葉なので、宰相は対応に悩む。

ノアに目で尋ねると、こくこく頷いて『ご好意で連れてきてもらったのです。ドグマ様は歩くのが速くて、上着が揺れたから、掴まっているのは怖かったですけれど……』と説明した。

「ドグマ様。……ご配慮、感謝申し上げます。お手数をおかけ致しました」

「子との時間を作るくらい、何てことない手間だな。今日は日頃の感謝を伝える日なのだろう?」

自分に向けられた思わぬ言葉に、宰相は少し目を見開いて(……オズワルドのみならずドグマ様も成長しているようで喜ばしいですが……親のような気持ちで彼を見守るのは、精神的に厳しいものがありますね……)と考える。
ごもっとも。
息子と並んで歩くドグマの後ろ姿を、ため息まじりに見守った。
気遣われて悪い気はしないので、鋭くなっていた宰相の目元は自然に元に戻った。

「「さあ、本日のメニューは!?」」

クーイズが高らかに話をふり、覚悟をキメたオズワルドが告げる。

「デリシャスクラーケンのミディアム・レア焼き。白炎の演出を添えて」

▽キターーーーーー!

『イートミィ♪』

ぬらりと現れた魔物姿のミディを見たドグマたちが、明らかに動揺した。

「…………美食のもてなしと聞いていたが?」

サプライズとして詳細は告げていなかったのである!!

「ミディは食べられたがりなんだよな。レア魔物のデリシャスクラーケンだからさ。味は保証する。
俺の手料理、食べてってくれるだろ?
それとも……逃げるのか?」

▽オズワルドの 不敵な笑み!
▽ドグマの 闘争心を煽る!

「我の心に逃げの本能はない!! 迎え討つまでよ!! ふはははははは!」

▽レナパーティの 作戦成功! 言質を取った。

(((マジで)))

ついでに付き合うことになったクドライヤ、マリアベル、ギルド長の間に衝撃が走る。
それぞれ、冷や汗を流して珍味ミディに向き合った。

『アーーン、ドキドキしちゃうネ……♡』

ミディはくねくねしていてとても嬉しそう。

(((マジで!)))

従魔をビックリ進化させてしまったレナに、疑惑の目が向けられた……。
とうに吹っ切れていたレナは視線を鼻で笑い飛ばした。

(((レ、レナ女王様!)))

<あ>

キラがピカッと光って、

<[|祝福の鐘(ベネディクション・ベル)]……対象は藤堂レナ様>
<称号:[赤の女王様(覇道)]を取得しました!>

……レナパーティと宰相の脳内にアナウンスが流れて、全員がゲホゴホ咳をして、なんとか平常心を取り戻した。

気分転換も兼ねてもう料理を始めよう。

「称号[赤の女王様(覇道)]セット」

そうだ、もう使っちゃえばいいんだ!
そうしたらそのうち慣れる。
この会場においてはレナの存在感が増すくらいで大した影響はないが、魂が黒いものが近寄れなくなるので良いかもしれない。

オズワルドがミディに向き直る。

「ミディ。じゃあ、頼む。全員に満足してもらえるくらいの大きい食料になってくれる?」

『オッケー♪ オズ先輩』

「ドリュー。手伝って」

「……承知いたしましたぁっ」

協力を求められて、なぜか諦めきった目になったドリューを見たクドライヤたちは怪訝な顔になるが、まあ、実技で説明すればいいや。

ミディが会場の端に移動して、イカ触手を高くあげた。
ドリューが応える。

「はーいっと! 青魔法[アクア]、スキル[アクアウェーブ]」

魚護人(マーマン)の特技を生かして、ドリューは大量の水を作り出し、ミディを渦潮(うずしお)状に包んだ。

<水魔法[|命水創造(エリクサー・メイキング)]>

キラがちょっぴり細工する。
ドリューの水に、大精霊由来のエネルギーが満ちていく……。

ミディは気持ちよさそうに、ぷくぷくっと泡を吐き出した。

『水魔法[アクアフュージョン]〜!』

特別な水を目いっぱい吸い込んで、クラーケンボディを変化させる!
もっちり白いクラーケンボディが、ポンポンポーーン! と瞬く間に膨れあがった。

▽ミディは 15メートル級デリシャスクラーケンになった!

招待客たちが唖然と見上げる中、ミディは嬉しそうに言ってのける。
キラの<イカリンガル>を通して、全員にアピール。

『<イーートミィーー♡>』

招待された4人に改めて衝撃が走った。

「「いやっほーぅ! イカ祭りじゃあーー!」」

大食らいのクーイズが手を取り合って喜んでいて、少しだけ空気がなごむ。レナたちは。
ドグマたちの空気はいっそう複雑になった。

スパァンスパァン! とミディがイカゲソの先端と、希少部位のエンペラを少し切り落とした。
オズワルドが[|重力操作(グラヴィティ)]を使い、見事に全てキャッチしてみせる。

丸太組みの枠に、クラーケンの切り身が置かれる。

「まずは、イカの切り身を用意します…………」

オズワルドが据わった目で告げた。
ドグマたちがゴクリと喉を鳴らす。

▽レッツ・クラーケンクッキング!

「この大きさを焼くとなると、こっちの方がいいんだ。より派手だし。見てて。炎魔法[オーバーフレイム]!」

ドグマを見ながら、オズワルドは赤魔法[フレイム]の上位魔法を発動させた。
すぐに切り身に視線を移して、調理に集中する。

昼間に白炎焼きを試していたので、応用の炎魔法でも白炎を扱えるようになっていた。

(フレイムを扱うときよりも、込める魔力量は少なく調整……っ)

火加減を頑張るオズワルドを眺めつつ、ルーカが慎重に食材の状態を視極める。

青色の炎が、純白に染まっていく……!

神々しく燃える白炎に、ドグマはしばし息をするのも忘れるほど魅入っていた。
強大な力を本能で感じ取り、尻尾の毛がぶわっと逆立つ。

レナの背後に現れた聖霊を振り返ることもなく、真剣に息子の調理を見守る。

マリアベルとギルド長、クドライヤは冷や汗を浮かべながら、カルメンにそおっと会釈をした。

カルメンは視線だけよこして、ニヤニヤ笑っている。

▽香ばしい匂いが、辺りに漂う。

「そこまで!」

ルーカが告げると、オズワルドは魔力供給を切って炎を消した。
白炎制御の負荷により荒く息を吐いていたが、なんとか呼吸を整えて、額の汗をぐいっとぬぐう。
ちらりと父親の様子を伺う。

「素晴らしかったぞおおお!!」

「……ん!」

ドグマが大声で称賛すると、オズワルドはビシッと親指を上に立ててみせた。
レナパーティは拍手喝采で喜んで、一気に空気が賑やかになる。

マリアベルが長ぁーーく息を吐いて、ぼやく。

「…………っはーー、やばやば。何あれぇ?」

「今のレナパーティの日常」

「マジなの?」

「激マジ」

クドライヤが小声で相槌を打ってやる。さすがに拘束は解いた。
白炎を初見だったマリアベルは愕然としていて、多少認識していたクドライヤも、あまりの迫力に感嘆の息を吐く。

「聖霊様に挨拶をしても?」

ギルド長が宰相に打診するが、

『後にせよ。調理はまだ終わっていないのだろう?』

「……だそうです。もう少々お待ち頂きたく。ドグマ様の手土産の銀火竜の調理も控えておりますので」

「分かりました」

まさかの聖霊本人から回答が返ってきてしまったため、ギルド長は苦笑しながら引き下がり、カルメンに優雅な礼をしてみせる。
カルメンは適当に『うむ』と言って、またレナに絡みついた。

(……聖霊をここまで手懐けているとは。レナパーティが冒険者ギルドに所属していてよかった。
保留になっている難関クエストを上手くこなしてもらえないだろうか?)

ギルド長がポーカーフェイスの内側で、こっそりと打算的なことを思考する。
上位クエストを色々と思い浮かべた。

(まあ、無茶をさせようとしたらシヴァガン王国政府役員がすっ飛んでくるんだろうけどな……)

顎を撫でて、ふうっとため息。
冒険者として扱いやすいように、ラミアの里のギルドランクアップ報酬を「D」としたのに、まさか聖霊が完全な味方になってしまうとは。
彼も予想外であった。
魔王は息子に甘いし、聖霊対策本部はできるし、さらには宰相まで召喚できる……なんて最後の事情はそのうち知って、さらに驚愕するのだろう。

『オズワルドはまだ継続して動けるだろう……さっそく次の調理に移ろうか!』

「こらカルメン。それ私が言うのっ」

レナが聖霊の頬をつねる。
マリアベルとギルド長がぎょっと恐れおののいて、クドライヤが顔を覆った……。
カルメンはニンマリしていて、仲睦まじいように見えるのがまた恐ろしい。

「……オズくんはヤル気みたいだね。ルーカさん、体調を視てあげてくれますか?」

レナが話を振ると、ルーカが猫耳を揺らして答える。

「ドグマ様が狩った銀火竜は高レベル個体だけど、火耐性の鱗をスライムボディで溶かしたら、ミディよりは肉に火が通りやすい。
オズワルドの致命的な負担にはならないと思うから、白炎で焼いてもらおう。
銀火竜を丸焼きにするか、希少部位だけ食べるかによって、オズワルドの消耗度が変わってくるんだけど……どのようにしましょうか?
ドグマ様」

息子と肩を組んでいたドグマが振り返る。

「……ん? これは手土産だからな。
希少部位だけこの場で食べて、残りはレナパーティの食料として持っておけばよい。
大容量のマジックバッグがあるのだろう?
今回のメインはオズワルドの白炎クラーケン料理だと認識している!!」

(えらいっ!)

思わず、レナが褒めてしまいそうになり、慌てて口を塞いだ。

ドグマの言葉は、父親の愛情に満ちている。とても不器用ではあるが、オズワルドにもきちんと伝わった。

「えいえいおー!」

レナパーティが気合いを入れる!

▽銀火竜が 縮小魔法籠から 出された。

「でかっ!」

オズワルドが思わず零したように、銀火竜はなんと20メートルはある。
ドグマが噛んだ首筋の致命傷は、業火で焼かれて血止めされていた。レア魔物の血は栄養満点なので、それも提供したかった……らしい。野生的である。

「クレハ、イズミ。ごにょごにょ」

『『まかせて〜、レーナ♪』』

レナと打ち合わせしたクーイズが、ぷよぷよと銀火竜に向かっていく。
レナはオズワルドに[従魔回復]を、クーイズに[鼓舞]スキルをかけた。

「まずは下ごしらえ」

『『スキル[溶解]〜〜いつもよりしっかりと溶かしていまーす!』』

クーイズが銀色の鱗を溶かして、美味しく喰べていく。
スライムボディを薄く大きく拡げて、あっというまに、肌色ドラゴンに仕上げてみせた。
ギルド長が顔を引きつらせている。

「クレハとイズミ、上手にできたね! じゃあ次はキサとオズくんだよ」

「やるのじゃー!」

「うん」

二人が頷きあって、コンビネーションを披露。

「スキル[|氷の槍(アイスジャベリン)]」

「スキル[|重力操作(グラヴィティ)]」

空中に太く|重い(・・)[|氷の槍(アイスジャベリン)]が生まれて、垂直に落下していく。

「レーヴェの技を真似してみたのじゃ」

得意げにキサが言う。
銀火竜の首元に、[|氷の槍(アイスジャベリン)]が刺さった!

すかさずクレハが覆いかぶさる。

『スキル[火達磨]〜』

メラメラスライムになって、氷を溶かしながら、ドラゴンの内部に侵入していった。
大きな血脈から噴き出そうとした血液を、ぷくーーっと膨れ上がりながらボディに収める。
途中で、イズミも混ざって紫スライムになり、今度はひんやりと血液を冷やしながら保存する。

ギルド長が鳥肌を立てながら腕をさすっている……。
野生のドラゴンや魂が黒い竜人族を狩るのはまったく問題ないのだが、あんまりな光景にドラゴンの本能が反応してしまった。

『『できたよー、レーナ♪ この保有量でもう限界かな〜。まだ血が湧き出してくるけど、多すぎる分は[溶解]してもいーい?』』

「この後のお料理を美味しく食べるために、血は前菜程度の摂取にしておこうね。それならいいよ」

『『わぁい♪』』

もはや誰もつっこまない……。

「ロベルトさん、血液を凍らせてもらえますか?」

使えるものは護衛部隊でも容赦なく使うレナ、逞しくなった。

「…………中だけ凍らせるのですね。問題ありません。スキル[氷点下]」

どんどんと血液の温度を下げていくと、やがて凍った。

▽レナは ドラゴンの血塊(凍り状態)を 手に入れた!

キラが異空間にポーーイッと血塊を放り込む。
利用方法は後で考えよう……。

魔物姿で血をすすればいいか! などと考えていたドグマは、ぽかんとレナパーティの下ごしらえを見ていた。ある意味カルチャーショックである。

「肉の調理を始めるよ。
スキル[シャドウ・ナイフ]、炎魔法[オーバーフレイム]!」

オズワルドが銀火竜をスパンスパンッと部位分けして、尻尾部分のみを白炎で包んでみせる。

「こっちは中を半生にするわけにはいかないから。焼きながら一口大に切り分けてく。スキル[シャドウ・ナイフ]」

スパスパ切り刻まれるドラゴンテールを、ルーカが[サンクチュアリ]を皿のようにして見事に受け止めていく。

「生ではダメなのか……?」

「主さんがお腹壊すかもしれないから、生肉はダメ。ヒト族は魔人族よりも繊細なんだよ」

ドグマの拗ねたような質問に、当たり前のようにオズワルドは答えた。
ドグマはレナを眺めてみたが、聖霊と鞭で戯れていてまるで繊細には見えない……。

(まあ、精神はともかく、あの細っこい身体は繊細ということか。それに、オズワルドが優しく育っているということだな!)と納得する。
本来なら生っぽい食材が好きな自分自身の嗜好は言わずにガマンした。ドグマ、えらい!

仕上げに、白炎をぶわっと天高くのぼらせて肉を炙り、オズワルドは満足そうに告げた。

「銀火竜の希少部位、ドラゴンテールのステーキ。できあがり!」

「『ブラボ〜!』」

仲間たちがオズワルドをたたえて、デリシャスクラーケンと銀火竜をテーブルに運んでいく。
大皿にきれいに盛り付けられた。
その他、キラの異空間に保存しておいたコーンスープや、白炎の熱が残った丸太で焼いた野菜などが並ぶ。

とても豪華な食卓になった!

ドグマの隣にオズワルドが座る。
こほんと咳払いしたオズワルドが、食べ始めの挨拶をする。

「えーっと……みんなが俺の成長を気にかけてくれてて、嬉しかったから。
そのお礼に、今夜はバーベキューパーティに招待しました。…………え、えっと」

オズワルドはドグマを見上げて、言葉を詰まらせる。
ここで仲間から「オズくん頑張れー!」と小声のエールが贈られた。

「…………父様! 来てくれて、ありがと。
レナパーティのみんなと作った料理は、今の俺の環境とか成長とかが詰まってるから……あと、感謝の気持ちも込めてるし。
……いっぱい食べてって。はい、終わり。じゃあ、頂きますっ!!」

「『いただきまーーす!』」

照れまくっているオズワルドを優しく包み込むように、従魔たちが声を張り上げて、ぱんっと手を合わせた。
レナは無音で泣き崩れていて、宰相がそっとメガネの位置を修正した。

ドグマは一瞬固まっていたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべる。

「我が息子の初めての手料理か。いざ!」

まるで強敵を相手にする時のような言葉を聞いて、悶えていたオズワルドも、思わず笑ってしまった。

ドグマがフォークを持ち、こんがり焼けたクラーケンの切り身をぶっ刺す。

▽ドグマは ミディアム・レアの クラーケンを食べた!

みんなが注目する中、頬を膨らませながら、がぶがぶと咀嚼して飲み込む。
デリシャスクラーケンは素晴らしい口溶けと適度な弾力、芳醇な味、白炎炙りの香ばしさ、それに身体の底からエネルギーが漲(みなぎ)ってくる!!

「おおおおおお……!! これは、この味と感覚は……! 一体、なんと表現したらよいのか!?」

「こう言ったら?」

オズワルドがこしょこしょと耳打ちする。

「デリシャスッ!!」

ドグマが顔を輝かせて大声で叫び、みんなが真似して「デリシャスー!」と口々に言った。
そのうちシヴァガン王国中で流行りそうである。

「イートミィー♡」

ミディが幸せそうに頬を染めて、くねくねする。
この場にいる誰もが、愉快な空気と美味しい料理で、幸せ気分になっていた。
ドラゴンテールステーキは肉の味が濃くて歯ごたえがあり、とても美味しかった。

わいわい騒がしいどんちゃん騒ぎを見ていて、たまらなくなったカルメンが夜空に舞い上がる。

『ん? そう驚いた顔をするでない、レナよ。これから本当の驚きを提供しよう!
今夜は白炎を使った祭りであろう?
我々からの贈り物を受け取るがよい』

カルメンは古代の歌を口ずさみながら、夜空のステージでド派手に踊る。
赤い髪が鮮やかに広がり、スカートの裾はほんのりと純白に染まった。

超大輪の白炎の花火が現れる!

百花繚乱という言葉がふさわしい連続花火は、夜空の一帯を白く輝かせて、大地を揺らすほどの爆音を響かせた。
カルメンの高笑いも響き渡る。

花火に見惚れていたレナたちは、耳を塞いで衝撃に耐えることになった。

ーー花火が終わると、会場外の空気がざわめいている気配を魔人族たちが察知する。
周辺の野生生物が大慌てしているのだろう。

「…………この光景と音は王国まで届いているはずですので、国民も驚いているでしょう。
精神的な不安を取り除くために、ドグマ様に咆哮をお願い申し上げます」

抱きついているノアの頭を撫でながら、宰相がドグマを見やる。

「ああ、よいぞ。魔王としての我の仕事だからな!
オズワルド、お前も一緒に吠えてみるといい」

「…………えっ!?」

ドグマの突然の誘いに、オズワルドは唖然と固まった。

「レアクラスチェンジして、[デス]の名称を贈られたのだろう?
だったら、我と共鳴できるはずだ。
声の轟かせ方を実戦で学ぶといい! 獣の親として、お前におしえよう」

「…………! ……うん、やる」

「ふはははははは!」

テーブルから離れて、広々とした会場の一角に、親子が移動する。

ーーチャンスを逃さなかったオズワルドの様子を、レグルスは真剣な目で眺めていた。
嫉妬心はなく、従魔の先輩としてオズワルドを見て、精神的な”なにか”を学ぼうとしている。

レナは何も言わず、穏やかに従魔たちを見守った。

オズワルドがデス・ハウンドに変身して、大きくなった体躯と、見事な青みがかった漆黒の毛皮を披露する。

「おお!! 脚が太く頑丈になっているな。爪も鋭く、歯も健康。目に力がある。それに毛艶が良いではないか、きちんと魔物使いレナにブラッシングされているようだな。うむ!」

『…………褒めてくれてありがと。でもさ、そろそろ脚を離してくれるか!?』

息子が立派になったことに興奮したドグマはあちこち触って観察して、今はオズワルドの脚を持ち上げて「お手」をさせている状態なのだ。
心底恥ずかしがっているオズワルドに悪いので、みんなが必死で笑いをこらえている。

ドグマがデス・ケルベロスの姿になると、[絶対王者の風格]が溢れ出した。
闘技会場でのドグマの猛々しい戦闘を鮮明に思い出して、素晴らしい魔王に仕えていることを自覚し、魔人族たちは誇らしく頭を下げる。

『さあ、遠吠えするぞ。腹の底から音を響かせろ』

『やってみる……!』

グオオオオーーーン!!
ガオーーン!…………

魔王の堂々とした咆哮を聞いて、国民の不安が和らいでいった。
非常事態が起こっていても、魔王が対応してくれている、という安心感を与えたのだ。

親子の共鳴は何度も繰り返された。
…………何度も。……終わらない。

「えーっと、サディス宰相。いつもより多く吼えていまーす、みたいになっていますけど。オズくんは疲れているはずなので、そろそろ切り上げてもらえたらなー、なんて……」

「つい嬉しくて張り切ってしまったのでしょうね。承知致しました。このままでは逆に国民に不安を与えかねないので、対処致します」

レナと宰相が相談して、立ち上がる。

「スキル[従順]オズくーん、やめ!」

「朱の線が走る時、全ては我の手中に手繰り寄せられる。
例えば生きとし生けるもの、あるいは光差す空間。
例えば地中で蠢(うごめ)く亡者、あるいは闇深き心。
嘆(なげ)き、踠(もが)き、暴れようとも、朱の線に運命は有り。
糸の外に伸ばそうとした白魚の手は、蜘蛛の毒牙によって項垂れる。
我に捕らえられぬものは無し。
捕 ら わ れ よ。[束縛糸]
ーードグマ様、終了です」

興奮状態で吼えていたオズワルドはハッと気を持ち直して、限界を超えた疲労を自覚して、くてんと身体を沈めた。
レナが近くに行って[従魔回復]をかけた後、たくさん撫でて褒めてあげる。

ドグマは口の端から業火を漏らして、ほどほど魔力の晶文(しょうぶん)で作られた蜘蛛糸を焼却し、ぐるるっと不満そうに喉を鳴らした。

「お勤めご立派でした。国民の不安は取り除かれたことでしょう。政府を代表して、お礼申し上げます。
パーティの続きを致しませんか?」

ドグマはオズワルドの様子を見て、仕方なく魔人族の姿に戻った。

「久しぶりにデス・ケルベロスの姿になったからもう少し楽しむつもりだったのだが。まあ、今夜は我慢するか……。
ところで魔物使いレナ、今度、デス・ケルベロス姿で従魔たちと稽古をしてやってもいいぞ!
戦力強化をして、武闘大会に出るのもよいのではないか? 我は強い者と戦いたい。従魔は強くなりたい。どちらにも得だろう!
どうだ?」

ゴフッとレナが噎(む)せて、宰相が極寒の空気をまとった。

((本当に、厄介ごとに事欠かない!))

従魔の数名が目をキラキラさせている…………レナは……。

「……うちの子と優しく遊んでくれるなら、業務のご負担にならない範囲で、またいずれいつか前向きにご検討をお願いしたいかなぁなーんて」

「そうかそうか、光栄に思うか!!」

レナの言葉の裏を大変満足げにスルーしたドグマは、ドドンと胸を張った。
ちょっぴり助言したクドライヤが冷や汗をかいている。

レナに涙目のアイコンタクトを送られた宰相は、この決定が、業務範囲をしっかり守らせる首輪になるのかドグマの脱走の手助けになってしまうのか……と、頭を抱えたくなった。

「聖霊対策本部を見張りにつけますので」

ロベルトたちが巻き込まれた。

「……あのねー。ボクはギルド長とも訓練したいなー。相性が良さそうだからー。ねぇ、いーい?」

ハマルがギルド長にすり寄り、可愛らしくおねだりしているが、内容は「[ドラゴンキラー]称号を生かして効率よく貴方で経験値を稼ぎたい」なので、とてもすごいことを言っている。
うっかり軽い気持ちで承諾したギルド長には、合掌しておこう。

ナイト・クラーケンパーティは賑やかに続く。

オズワルドおすすめの醤油マヨクラーケンを食べてドグマが感動したり、食後のデザートを楽しんだり、カルメンがやりすぎを窘められたり、マリアベルがリリーにべったり絡んだり、ノアがレナを「ハーレムクイーン♡」とはっきり呼んだり、子どもたちが仲良く追いかけっこをしたりしながら。
オズワルドは、武闘大会会場に君臨する父親と先ほどの言葉を思い出し、心臓をドクンと高鳴らせていた。

ーー騒ぎ疲れた子どもたち全員を、宰相が持ってきていた魔道具馬車に運び込み、大人たちは苦笑しながらも晴れやかな気持ちで、シヴァガン王国に帰って行った。
とても楽しい夜だった。

 

 

 

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