168:レグルスの決断

「炎獅子レグルスの所属について、シヴァガン王国諜報部からの脱退措置が決まった。
これが懲罰となる。
上官である雪豹ロベルトも責任を問われ、諜報部を脱退し、新たな部署に配属変更となった。
悪魔(デーモン)文書を交わし、俺もこの決定に従うと魂の約束をした」

レグルスがぐっと唇を噛み締める。
そして、ロベルトの首元に目をやった。

どうせ隠しても聞かれるし、ルーカの魔眼で暴かれるので、ロベルトはタートルネックの襟をぐいっと下げて、悪魔契約の証を見せる。
赤い文様がぐるりと首を一周していた。

「……申し訳っ……! ……政府への報告とご対応、誠にありがとうございました。ロベルト隊長」

レグルスが立ち上がり、ロベルトに最敬礼をする。
自分のせいでこんなことに、と謝るのは、雪豹の矜持を奪うことだと気付いたのだ。
自分が炎獅子の誇りを主張しておいて、そのようなことは口にできない。

「ああ。続きを聞いてくれ」

ロベルトが満足そうに言って、レグルスに座るよう促す。
耳をへにょんと伏せたレグルスが、まっすぐに元(・)上司を見る。

「レグルスは強制脱退なので、今は完全にフリーな状態だ。ただのレナ様の仮従魔だな」

意地悪な言い方なので、レグルスがいっそう落ち込んでしまい、レナの頬がぷくっと膨らむ。
ロベルトが意味もない嫌味を言うことはないだろう、と信じて、ジト目で話を聞き続ける。

「フリーなお前に、シヴァガン王国政府からの再勧誘だ」

「!?」

レグルスが困惑したような表情になる。

「そのようなことがあり得るのですか?……ああ、下働きとしてなら再配属可能ということか?」

「話の途中で遮るのは良くない癖だぞ。レグルス。
お前に問おう。
俺が部署長を務める『聖霊対策本部』に所属する気はないか?
昨日、新たに発足した”すべての部署の最上位”だ。
政府の会議で、この新部署に関しては、レナパーティに限って従属が認められることになった」

「ライトフェアリーのマリアベル嬢が副部署長を務めるんだぜ。
賑やかになるだろうよ。
他のメンバーは、ゴーストローズの俺、魚護人(マーマン)ドリュー、メデュリ・アイのリーカ。まあ今の護衛部隊班だな」

「…………!?」

レグルスが唖然と硬直する。
また話を遮られないように、自分の口元に人差し指を当てて「静かに続きを聞け」とジェスチャーしたロベルトが、急いで活動内容を語っていく。

レナの背後に|煌々(こうこう)と現れた、聖霊カルメンを刺激しないように、細心の気を配って話す。

「職務内容は、白炎聖霊様の周辺環境や体調などのサポートをすること」

ロベルトがカルメンを見る。

「聖霊様は、再び現世に現れたばかりで、不安なこともあるでしょう。
せっかくお話しする機会に恵まれたので、我々が日常の手助けをさせて頂ければと思っています。
片割れの白炎聖霊杯(カンテラ)の調査も、シヴァガン王国政府もお手伝いいたしますので、情報があればすぐに聖霊様に届けましょう。
レナパーティと貴方様を、引き続き護衛させて下さい。
ーーこれが新部署の目的です」

ロベルトの真摯な主張に、カルメンはからかうように返す。

『我々聖霊が、守られるほど弱いと言っているのだろうか?』

「もー、カルメン。そんな話じゃなかったでしょ?
快適に現世で過ごせるようにしてくれるんだってば。
白炎聖霊杯(カンテラ)が悪者に狙われる可能性だってあるんだし、ロベルトさんたちは頼もしいし、受けておいていいと思うけどな」

レナの素早いフォローに、ロベルトとクドライヤが心から感謝する。
聖霊の戯れは、外野である二人にとっては、とても心臓に悪いのだ。

「つまり、聖霊カルメンの発言を重視しつつ、今まで通りにレナパーティを守ってくださる専用部署ってことでいいんですよね?」

レナが要約して確認する。

「「その通りです」」

<やったね!! 計算通り!!>

キラが空気を読まずにバンザイして高笑い、部屋に映像の紙吹雪を舞わせた。
みんながビックリして、まあ、緊張はほぐれた。

トリックルームで宰相と話をつけていたため、キラは全部思い通りにいって大満足。
派手なはしゃぎ方について、レナからちょこっとお叱りを受ける。
カルメンが羨ましそうに見ていたのはスルーした。

『それはそれで! 珍しい対応が楽しいぞ、レナよ』

「カルメン。あのね?
貴方のお返事をみんなが待ってるから、早く安心させて欲しいなぁ」

レナが冷静に伝えると、カルメンはにいっと笑った。

『我々の手助けをすることを許可しよう! シヴァガン王国の者たちよ』

「「ありがたき幸せ。感謝申し上げます」」

ロベルトとクドライヤが胸を撫でおろしながら、定型句を返す。

「さあ。この部署への勧誘だ。レグルス」

「|煌々(こうこう)と燃える未来がお前を待ってるぜ!」

ここで再勧誘してみせる元上司たち。
若干ヤケクソである。

(めちゃくちゃ濃い……!
メンバーから業務内容からノリから、濃厚もいいところだぞ!?)

レグルスが冷や汗をかいて、さっきまでとは別の意味で、返事を躊躇する。
そっと手を上げて発言した。

「炎獅子レグルスの所属に対するご配慮、とてもありがたく感じております。
しかし……二箇所をまたいで従属することは、不義理なのではないかと、思い悩んでおります。
仮従魔となった俺は、一週間のうちに、レナパーティの秘められた情報を知ることもあるでしょう。
再び職員となった場合、それらをシヴァガン政府に報告しなければならないのでは?
ーー従魔寄りの意見を言うことをお許し下さい。
俺は、従魔でいる間は、主人のレナ様をお守りすると約束したのです」

レグルスのまっすぐな本心を聞いて、ロベルトたちが感心する。

((たった一晩でここまで懐かせるとは、さすがだなレナ女王様))

椅子の端から雪豹の尻尾が覗いて、ちらちらと揺れる。

「腹を割って話そうか、レグルス。
ひとつ、職員には、聖霊様をとりまく環境の報告義務が発生する。
どれほどの戦力に守られているか、警備体制は十分なのか、万が一の時の対応のために政府も把握しておかなくてはならないからだ。
つまりレナパーティについて知った情報は報告すべきと考えられる」

ロベルトがそう言うと、レグルスは表情を歪めて、カルメンが面倒くさそうに足をプラプラさせる。
このままだったら不評は必須。
しかし、ロベルトたちは、宰相から教えられたとっておきの抜け道を用意している。
なおキラも把握している。

「ふたつ。部署の命令優先順位について告げておく。
まず第一に聖霊様のご意思をうかがうこと、それからシヴァガン王国魔王の方針に従うこと、部署長ロベルトの指示を聞くこと、同僚の判断をあおぐこと。
この順列を覚えておいてくれ」

レグルスが目を見開いた。

「ほほう?」

レナがにやりと笑う。
言葉の裏を察したようだ。

「つまり……カルメンが『レナパーティの情報を内緒にね』ってレグルスに言ったら、それが最優先なんですね?」

「我々からは明瞭に申し上げられませんが」

ロベルトは言葉を濁しながらも、頷いてみせる。
レナが聡明で助かった、と目で語った。

「うん。レグルスに不利な点は無いみたいだね。
ーーねぇレグルス。
私は、とてもいい申し出だと思ったけれど、どうしたいかは貴方が決めていいよ。
このままレナパーティで力を蓄えることに集中してもいいし、お仕事と両立してもいいし……従属は、もし解除されちゃうととってもとってもとっても寂しいけど……。
あのね。
私は従魔を大切に可愛がるけれど、所有しているつもりはないから、みんながやりたいことを応援してあげたいんだ。
ギガントバタフライのモスラも、執事としてトイリアで暮らしているでしょ?
レグルスも、やりたいことを主張していいの」

レナが穏やかな声で伝えると、レグルスは言葉を詰まらせた。
とっておきすぎる打診だ。
レナからも、元上司からも、莫大な愛情をもらっていると自覚する。

「……これほどの幸運を賜(たまわ)っても良いのだろうか」

レグルスの目頭が熱くなる。
鮮やかな緑の目を、うっすらと涙の膜がおおって、きらりと光った。

一呼吸おく。
主人と上司たちの思いやりをしっかりと受け止めて、レグルスは迷いのない返事をする。

「炎獅子レグルス・カーネリアンは、聖霊対策本部への所属を望みます。
……レナパーティと契約したまま、重複所属となりますが、どちらもの利益になるように誠心誠意努めます。
鍛錬を重ね、以前よりも強くなってみせると約束いたします。
炎獅子の誇りにかけて」

「ああ。これからもよろしく頼む。お前の働きを頼りにしているぞ」

ロベルトは明るい声で歓迎した。
クドライヤがウインクする。

「やったぁ、重複所属! レナパーティでも一緒に頑張ろうね、レグルス。
協力は惜しまないから!
これからどんどん強くなれるはずだよ」

「「「「みんなで鍛錬しよーね!」」」」

レナが花咲く笑顔で祝福して、先輩従魔から声をかけられると、レグルスは初めて、ほころぶような柔らかい微笑みを見せた。

「わあ。すごーく綺麗」

「からかわないで下さい、レナ様」

レナがまた褒めると、レグルスは顔を赤くして、耳をひくひく揺らした。

「一番いい形で話がまとまったと思います。
ロベルトさん、クドライヤさん、政府との交渉ありがとうございました」

レナがニコニコと言って、二人のティーカップに紅茶のおかわりを注ぐ。
今回の紅茶は、表面が上品に輝いている最高級品だ。

「我々は連絡に来ただけですよ。
仕事として状況報告はしてきましたが、昨夜王宮に帰ったら、もう何もかもが決まっていましたので」

「そうなんです。サディス宰相がラミアの里と魔道具で交信していたみたいで?
魔王国会議も終わり、新部署が設立していたんですよねー。
俺たちは主に、魔王様がドラゴンを狩った武勇伝を聞いて、ラッピングの手伝いをして、残業していたくらいかな?」

「クドライヤ」

「いっけね。なんでもないです」

ロベルトとクドライヤが誤魔化すように紅茶を口にして、

▽体力が全快した!

「「げほっごほっ」」

驚いてむせた。
仕方あるまい。

「これは……もしかして、ラミアの里でルーカが傷を癒してくれた紅茶と同じものか?」

「詳しくは聞いちゃダメですよ。レナの好意ですからね? 体調がいいでしょう」

「……承知した。大変美味だと伝えたかっただけだ」

思わずルーカに聞いたが、説明する気がなさそうなので、ロベルトは口元をハンカチで押さえて口についた紅茶を吸わせる。
疲労回復したのに新たな悩みの種を作ってしまった……。
宰相と全く同じ流れを経験している。

(狩ったドラゴン、ラッピング、魔王様……?
あの人がプレゼントを贈りそうな大切な対象って………………あああっ!?)

レナが鋭く勘づく。
早くネオを進化させなくては、と気合いを新たにした。

(せ、せめて、山の幸と海の幸で、素材の違いがあってよかったよねぇ。
あとはどっちが先にアクションを起こせるかの速度勝負!
オズくんの晴れ舞台を台無しにしてなるものですかっ)

そこなのか。そこなのだ。
紅茶を注ぎ終わって席に着こうとしていたレナは、通り過ぎざまにオズワルドの頭をわしゃわしゃと撫でていって困惑させた。

「他に質問はありますか?」

ロベルトが確認する。レナが手を挙げる。

「聖霊が魔王様よりも上位の部署……って、いいんですか?」

もっともな疑問だ。

「『聖霊対策本部』内ではそれで問題ありません。
国家の運営においての発言権は、もちろん魔王様が最上位ですが。
聖霊様の意思は、この世界において絶大な影響力を持ちます。
ラミアの里で、超速マシュマロボディマッチョマンを|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)に変えてみせた時のように。
もしも聖霊様の負の感情が大きくなったら、世界の常識がひっくり返りかねませんので、心穏やかに過ごしていただけるように配慮するのは、ラナシュに生きる物として当然です」

レナがドキドキしながら回答を聞く。

(ほんっとうに心臓に悪いなぁ……)

今更ながら、首元にまとわりついて懐いているカルメンの凄さを思い知り、胃をキリキリ痛める。

(カルメンは気楽な対応こそを気に入っている感じだし……私がゴマをする真似をしても嫌がられるだけだよね。現状維持で、い、いいのかな?)

レナはため息をついて「まあなんとかなるでしょ」と平常心を取り戻した。強い。

ロベルトが一層真剣に発言する。

「聖霊様が目覚めたことで、すでに世界的に変化があるようです。
ジーニアレス大陸中の精霊の動きが活性化している、と昨日の会議で話し合われていました。
ちょうど、聖霊様が目覚めた午後の時間帯から報告が相次いだそうです。
魔王国周辺の小国家から、声渡しの笛で連絡があり、王宮勤務の音の一族ベルフェアの者が聞き取りました。
ミレージュエ大陸も同じ状態かもしれませんね」

レナが絶句しながら、思い出す。

(そういえば、ラチェリの迷宮に住む精霊シルフィーネが大精霊になった時にも、周辺に小さなラビリンスが増えた、ってルーカさんが視ていた。
この世の生物と神の中間に位置する存在が、精霊・聖霊……そういうこと……。
軽率に友達になっちゃったけど、もー、なんて運命なの!)

「……一大事ですねぇ」

レナも粗茶をごきゅんと飲み込む。むせる。

「報告例としては、ラビリンスやダンジョンが拡大したり、これまで悪霊の仕業とされていたゴーストスポットが光り輝き始めたり、行方知れずとなっていた廃墟の屋敷が半透明で浮かび上がったり……といった現象が起こっています。
精霊の声を聞き分けられるマリアベルが、鷹の鳥人とともに各地を飛び回って、精霊の意思を確認しています」

「! 廃墟のお屋敷……?
それって、森の中にある朽ちかけた大きな赤屋根の施設だったりしますか……?」

「半透明ですが、外観はまさにそのものだと思います。
何かご存知なのですか?」

ロベルトの問いに答えず、レナが瞳を閉じて沈黙する。
自分の……いや、ギルティアの記憶と情報を擦り合わせているのだ。

意を決して発言する。

「ーーそこが、おそらく夢の犯罪組織のアジトです。
|砂漠の魂喰い花(デザートギルティア)が私に見せた記憶の断片によれば」

「……! すぐにマリアベルに調査に向かわせます。最優先で。
組織のアジトについては、あとでご意見を伺おうと思っていました。
情報提供、ありがとうございます」

「あ、いえ……よろしくお願いします」

ひとまず、調査を終えるまでは、レナパーティが何か働きを要求されることはないらしい、と知ったレナは、余計なことを言わずにここで黙った。

(今は休憩したいんだよね!)

さりげなく話題をそらす。

「というか、マリアベルさん、精霊の友達なんですか……!」

「ええ。過去に諸事情あり、彼女は精霊に好かれています。
そしてとても幸運なので、レナ様と少し似ているのかもしれませんね。
失礼、似ていません。全く別物です」

レナ女王様はもっとすごいってば!! と言いたげに、従魔たちが眼力を強めたので、ロベルトは急きょ発言を撤回した。
マリアベルに合掌しよう。

『レナは我々聖霊の友達にして、白炎聖霊杯(カンテラ)の司祭だからな。同列に並ぶものはこの世にいないだろう?』

「おっしゃる通りです」

「それに、レナってば大精霊とも友達なんだからねー!? すっごいんだからー!」

「おっしゃる通りです。っ……!?」

あっ、従魔たちが思い切って言ってしまった。
ロベルトたちが刮目(かつもく)してレナを見る。
あちゃー。

「……………………えーと。ミレージュエ大陸のことも知っておきたいですよね。
キラ、ネッシーをフレンドコールして。
あ。ロベルトさん、今からアネース王国の大精霊と話しますね。
あちらで異常が起こっていないか、直接聞いてみましょう」

「〜〜〜〜っ!?」

さくっと諦めたレナが、ネッシーとの絆を暴露する。
ミレージュエ大陸で暮らす友達たちが心配で、早く連絡を取りたい気持ちもある。
ロベルトたちの驚きにいちいち緊張していられない。

<呼び出し中……呼び出し中……>

空間に大きな電子ウィンドウが現れて<|迷宮(ラビリンス):青の秘洞>を映し出す。
爽やかな青の空間、群れになって泳ぐシャボンフィッシュたち、シャボンドラゴン。
夢のように美しい景色に、ロベルトたちが息を呑んだ。

そしてレナが頭を抱える。
宝石のようなきらめく葉をもつ創造樹が、途方もなく巨大に成長しているのだ。
空間だって、以前はこんなに広くなかったはず。
明らかな影響が見られる。

『あっ! レーナ♪』

神々しいオーラをまとう美少女、ネッシーが画面一面に映り、ぱあっと満面の笑顔を見せた。

画面に表示された<大精霊・創造樹シルフィネシア>の文字に、ロベルトとクドライヤが衝撃を受ける。

((赤の運命がやばすぎる))

ようこそこちら側へ!
末永いレナパーティの護衛、どうか頑張ってくれ。

「ひ、久しぶり、ネッシー。うわぁ。なんていうか……色々と成長著しいね?」

『あらあらー♡ よりかわいくなっただなんて 照れちゃうー。うふふー。
とっても久しぶりだね、レーナ!
きょうは どんなご用なのかしらー?
レナの声、たーくさん聞かせてほしいなー。わたしの エネルギーになるんだもーん』

「ちょっと待ってちょっと待って、待って!!
……ついに、私の声まで、成長促進効能を持っちゃったの!?」

『血液だけじゃないわー♪ レナはぜんしんが 魅力的なのよー♪ ラララ〜』

「う、歌はあとで聞かせてね。それよりも詳細を」

贅沢な大精霊の歌をシャットダウン。レナ、強い!

[恵みの歌]を聞いたので、レナたちの髪が少しだけ伸びた。
これも、以前は見られなかった変化だ。

「うわ……フレンドコール越しでも歌にこんなに癒される。ネッシーの方がすごくすごいよぉ」

「大精霊と比べても違和感のない一個人レナのとんでもなさに、改めて気付かされるよね」

「うっっっ。ルーカさぁん!」

ルーカの呟きが耳に痛すぎるレナであった。

『きのうのお昼くらいから いつもより歌のちょうしがいいのよー♪ ララララ〜』

「ネッシー、今重要なことを言ったね。
……大精霊としての癒しの力が増したんだね?」

『そうねー。創造樹はせいちょうするし シャボン生物はきらめくし ラビリンスの空間はひろがるし。
周囲の未熟なラビリンスまで わたしがかんしょうできるようになったわー♪』

「ごっふ」

予想以上の変化があったので、レナが思わず変な吹き出し方をしてしまった。

相手が大精霊なので、ロベルトたちは口を挟むわけにもいかず、ただ脳内で情報を記録するだけとなっている。
非常識がすぎる。

頭がオーバーヒートしたレナが話を中断したので、ネッシーは自由に空間内で宙返り、くるり!
若葉色の髪をあざやかに舞わせた。
そして、ぐいっと電子ウィンドウに顔を寄せて、ぱちぱち瞬き。

『あらあらあらー? レナのあたらしい従魔たち? 初めましてー♪
そこのウサギの子は おねえちゃんのエネルギーリーフの影響をうけたんだねー。
そして電子ウィンドウで呼び出してくれた子が、えっとー』

<キラと申します!>

『はぁーい♪ キラ。あなたが 大精霊のエネルギーリーフをきゅうしゅうしたんだねー。
ちょうしはいかが?』

<おかげさまで、大変快適に過ごさせて頂いています>

名前を呼ばれたことで、大精霊の言霊エネルギーを吸収して、キラは経験値を得た。
映像と音声をはるか遠くから繋げているのはキラなのだ。

<仲良くなりたいです♡>とさらにぐいぐい発言して、何度か<ネッシー様>『キラ』と呼びあった。
▽キラの経験値が あがっていく!

『あとの新しい子たちは、青・白・緑魔法のてきせいがなかったのかしらー?
力をあたえていないものー』

ネッシーが首をかしげて、キサ、レグルス、ネオを見る。
極大魔法のことを言っているのだろう、とレナが察する。

「あ。えっとね……キサとレグルスはまだ仮従魔なの。
リトルクラーケン・ネオのネオちゃんは、従魔だし青魔法適正があるんだけど、昨日生まれたばかりだから幼すぎて……だから……かな?」

極大魔法の出どころについて、明確にさせるべきか迷い、レナが言葉を濁す。

『あら、そういうことー。
レナたちと距離もとおいし、きっと恩恵がおそくなっちゃったんだねー。
はいっ、プレゼントよ♪』

ネッシーが手の中に特別なシャボンフィッシュを創り出して、それを画面に向かって放つ。
シャボンフィッシュは泳ぎながら、”画面を飛び出してきて”、ネオを内包しているイズミに向かっていく!

『ひゃっ!?』

イズミがスライムボディをうごめかせて通り抜け用の穴を開けると、シャボンフィッシュがネオにぶつかって弾けた。

レナパーティの脳内に福音(ベル)が鳴り響く。

<従魔:リトルクラーケン・ネオが 水魔法[アクアフュージョン]を取得しました>
<ギルドカードを確認してください>

「あっ。ネオ、今なら毒腺(どくせん)の制御ができそうだよ。それに成長期待値も跳ね上がってる。
(あと[アクアフュージョン]の効果は、触れた水を吸収してそのぶんだけ肥大すること。食べる面積が増えるよ。水を吸収するからプルプル瑞々しい食感みたいだし。やったねレナ)」

世界のアナウンスとルーカの言葉に、レナが机に突っ伏した。

『やってみたらできたよー うわーい♪
仮従魔の子は また従魔になってから あいさつするわねー。
わたしのエネルギーリーフをとりこんだ キラの電子ウィンドウとは あいしょうがいいみたいー』

<ああんネッシー様、光栄ですぅ! もっと呼んで!>

『キーラ♪』

また、このやりとりでキラが経験値を取得する。

場がこんがらがるので、レナが気力を振り絞ってネッシーに「精霊の力が増す」現象の説明をして、聖霊カルメン、ロベルトとクドライヤを紹介した。

『今度一緒に踊るとしよう。古代の情熱的な舞を披露しようではないか』

『すてきねー♪ 大精霊の風のちからで 白炎はもーっともえあがるかもしれないわー』

『『約束!』』

大精霊シルフィネシアと、聖霊カルメンの間で、とんでもない約束が締結されてしまった……。
自由に発言する者同士、なんと息が合ったらしい。

大陸をまたぐ事態の報告について考えたロベルトたちが、頭痛を覚える。

「「レナパーティを護衛いたします。今後、よろしくお願いいたします、大精霊シルフィネシア様」」

『ちゃーんとレナたちを守ってくれなきゃ、だーめだめよ?
えっとねー 雪豹ちゃんに 黒薔薇ちゃん!
あと、わたしのことは親しみをこめて ネッシーって呼んでちょうだいなー♪』

真名を読んではいけない古代聖霊カルメンに、ニックネームで気軽に呼ばれたい現代っ子の大精霊ネッシー。
使い分けにとても気を使いそうだ。
ロベルトたちはなんとか頼み込んで「ネッシー様」で妥協してもらった。

自分たちのニックネームについては、もうその程度どうとでもしてくれという心境だ。

『精霊の力はふえたけどー、わるい影響はないよっ』

とネッシーから聞いて、レナたちはひとまずホッと通話を終える。

「……貴方たちの、保有レア技能の底がしれません……」

「どんどん溜まっていく一方なので、全部知ることはきっと不可能ですよ。適当に付き合ってくださいな」

レナとロベルトが苦笑を交わした。

<疲れた時には甘いものなんていかがでしょうか? デザートにしましょう>

「ああ、いいね。ロベルトさんは甘さ控えめの冷たいゼリー、クドライヤさんは温かいジャムが添えられたスコーンが好物みたいだよ」

キラの提案にルーカが乗っかり、魔眼で嗜好を確認する。

「では、気分転換にみんなで食べましょう」

レナがキラに指示して、異空間から、湯気が立つできたてのスコーン、ひんやり冷えたゼリーなどを取り出し始める。
どれもモスラお手製のとっておきデザートで、昨日の大健闘の打ち上げのようなものだ。

他には、チェリータルト、チーズケーキ、アップルパイ、プリンアラモードなど。
レストラン仕様に美しく盛りつけられている。

「時間経過がストップした異空間なんて、どこの大魔法使いだよぉ」

「頂きます」

「ロベルト順応早すぎるぞ! もうちょっと俺と一緒に驚愕してくんない!? 一人でこの感情に向き合うのしんどいから…………あ。美味しいですね」

「いい味でしょう。トイリアの従魔モスラのお手製ですもん」

従魔の料理の腕を褒められたレナの顔がほころぶ。

「味覚に意識を集中させたほうが精神が健全に保たれるぞ、クドライヤ。
ここでまた驚いて疲労するのではなく、今日一日の体力を温存しておけ」

「ロベルトさん妙なフラグ立てるのやめてもらっていいですか? 今日は穏やかに過ごすんですよっ」

「失礼いたしましたレナ様」

「……そうだな……今日はまだ始まったばっかだったわ……まじで……?
朝からテンションぶっ飛ばしすぎじゃない?」

クドライヤはぼやくのをやめて、もくもくとフォークを動かし始めた。
美味しいのでどんどんと食がすすむ。

レナパーティは、大人たちが幼児にあーんしつつ、仲良くデザートを完食する。
この場ではキラも一緒に食べることができた。
キラの好物は、パステルカラーのマカロンだ。

目の下のクマがひどいので体力を心配されたロベルトとクドライヤは、強制的に10分間の[快眠]の餌食になり、回復させられた。
どっちが管理・サポートされているのか分からなくなりそうだ。
レナパーティの自己回復力がすごすぎて。

「クドライヤ。レグルスの判断と夢組織の情報を、政府に報告してきてくれるか。
それはお前に任せる」

「はい、ロベルト隊長。行ってまいります。
レナパーティの皆様、お気をつけて行ってらっしゃいませ。
食事ごちそうさまでした」

クドライヤが流れるように挨拶して、無音の早足で王宮に向かう。
いざという時にはきちんと丁寧に対応できるんだが、リラックスしていると生来の性格で軽口を話してしまうんだ、とロベルトが苦笑した。

「途中、ドリューとリーカとも合流していきます」

「ロベルトさんはずっと付き添いをしてくれるんですね?」

「ええ。末永くよろしくお願いいたします」

ロベルトは首筋に片手を当てて、ふっと少し笑いながら返した。
血反吐を吐いてでも、レナパーティと部下を守らなくてはならないので、そうそう側を離れられない。

彼にとっては心地いい運命に囚われている。
首の文様は、雪豹の矜持を生涯守り続けてくれるだろう。

「では。訓練場に案内してくださいな」

「お付き合いいたします」

▽Next! 訓練場でレベリング、ネオのクラスチェンジを目指そう!

 

 

 

 

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