166:後始末(夢事件の組織)

ジーニアレス大陸中で夢事件を引き起こしている犯罪組織のアジトは、大騒ぎになっていた。

音の一族ベルフェア出身のスイが、「うっ」とうめき声をあげて胸を押さえると、みんなが集まる大広間に大きな魔法陣が現れたのだ。
何事かと臨戦態勢をとると、なんと瀕死のイヴァンとギルティアが現れる。

「ただ疲労で気絶しているわけではないな。ひどい怪我だ……緊急回復を!」

この中で一番年長者の男性が声を上げた。
組織のトップ、”夢の支配者(ナイトメア)バク”の魔人族だ。

ギルティアに覆いかぶさるように上体を倒しているイヴァンは喉から大量出血していて、床に血だまりができ始めている。
幼い子どもたち数人が悲鳴を上げた。

(喉笛を切り裂かれた姿はさすがに刺激が強いか……。
子どもたちの古傷が抉られてしまうか、新たなトラウマになりかねない)

ナイトメアが判断する。

「[夢枷]」

軽度にスキルをかけて、子どもの精神を夢世界に隔離した。
穏やかに眠り始める様子を見て、ふうっと息を吐く。

「この死霊術師(ネクロマンサー)はかなりの実力者だったはずだが……それでも対応できなかったというのか? いったい、ラミアの里で何があったのだ。
ラズトルファ! イヴァンを頼む」

ナイトメアに指名された、桃色髪に角が生えた青年が不機嫌そうに、イヴァンを引きずっていく。

「生き延びさせるのか?」

「ああ」

「……仕方ないな。
まあ、ボスと魂を半分共有してるしね。
用途として必要だから、仕方なく! 助けてやろう」

ずりずりずりずり、とイヴァンの血の筋が床に伸びる。

ナイトメアが額に手のひらをあてた。

(他の子どもたち数人がさらに怖がっている……)

「[夢枷]。ラズトルファ……もう少しは丁寧に扱ってやれ」

ナイトメアの苦言を、ラズトルファはツンと返す。

「やだよ、服に血が付くし。
それにこいつ、死霊術師の能力で小細工してて、半分以上血液がなくなっても死なないらしいしさぁ。
引きずられるくらいならむしろ普段通りに喜ぶんじゃないの。
うわ、ゾッとした。手ェ離していい?」

「治療してくれと言ったはずだ」

「はいはい。冗談さ」

イヴァンは部屋の隅に運ばれて、そのまま硬い床に寝かせられる。

「光魔法[発光結界]」

イヴァンだけを包んだ。

「……スキル[エンジェル・ヒーリング]」

ラズトルファが唱えると、イヴァンの身体に、天使族の祈りの文字がくるくると巻きついていく。
[発光結界]は、光属性由来の回復スキルの効果を高める。

ラズトルファはイヴァンをぼうっと眺めて……喉の傷が塞がってきてもう治りそうだ、と判断したら、さっさと目線をギルティアに向けた。

花の鉢を手に持った子どもたちが、ギルティアを囲んでいる。
スイがギルティアに語りかけ始めていた。
荒ぶった心が少しだけ落ち着いた。

「ラズ兄。なんだか機嫌が悪そうだったね」

一人の少年が近寄ってきて、ラズトルファに声をかける。

「……別に。ホラ、[エンジェル・ヒーリング]って魂が黒くなってる奴には激痛だから、お前はあんまり近寄らないほうがいいよ。
あっち行ってな。
一応結界で包んで、隔離はしてるけどさ」

そう言って、ラズトルファは少年に手を振り、遠ざけようとする。
少年がちょっと悲しそうな顔をしたのを見て、「あっ」と自分の口元を押さえた。

「わ、悪い。他意はなかった」

ーー少年の魂が黒くなったのは、本人がそう望んだからではない。
この場にはギルティアと似たような事情の子どもが多く集まっている。

ラズトルファの口の悪さに慣れているこの少年は、落ち着いて答えた。

「大丈夫。分かってるよ。ラズ兄はおれが痛くないように注意してくれたんだよね」

「そ、そう」

「終わるまで、床の掃除してるから。えっと。どんまい」

ほんのり微笑むと、少年は床の血を緑魔法[クリーン]で綺麗にしていく。

ラズトルファは罪悪感で頭を抱えると、八つ当たりするように、回復スキルに魔力を追加し始めた。

(ええい、激痛でもがき苦しめ、イヴァン!
ギルティアを守りきれず、あんなにボロボロにしやがって。……もしもわざと窮地に陥らせてたらほんとぶちのめすからな)

殺害などを娯楽として楽しむ性質のイヴァンは、この組織のほとんどの者に好意的に思われていない。
そのため、ラズトルファは「イヴァンが遊び始めたせいでギルティアが余計に傷付いたのでは」と疑っていた。

スイの暴走により召喚・強制従属することになった経緯に同情したほんの数名の子どもだけが、イヴァンをたまに気にかけてあげている。

急激回復と激痛の生理現象で、イヴァンの身体がビクビクと痙攣する。
[エンジェル・ヒーリング]は、ざっくり斬られていた喉元の皮膚を完全再生させてみせた。

他の細かな傷も回復したため、ラズトルファはさっさと魔力供給を切る。
この魔法を使っている最中に響く、美しい天使の旋律が、彼はとても嫌いだった。

先ほどの少年がまた近寄ってくる。

「……お疲れさま。ラズ兄。イヴァン、治ったみたいだね」

「ああ」

「おれが[乱反射]スキルで補助をしても良かったんだけど」

「やめとけってば。魂…………は関係ないけど、俺のスキルだけでも治せたんだから気にすんな。体力温存しておけばいいさ」

「うん。分かった。イヴァン、早く意識を取り戻してくれるといいね」

「…………はあ。お前は本当に優しいやつだな」

ラズトルファが少年の頭をワシャワシャ撫でると、嬉しそうにほんのり表情を柔らかくするので、心が和んでいく。

少年は鏡のように光るサラサラの銀髪に、真っ白な肌。華奢で小柄な身体。

「鏡蜘蛛(ミラースパイダー)が倒れたんじゃ、この場所がすぐに外から見破られちまう」

「気をつけるね」

「頼むぞ。イラの代わりはいないんだから」

鏡蜘蛛(ミラースパイダー)のイラは、自分が必要とされている言葉が嬉しくて、こくこくと頷いた。

ミラーによる隠蔽能力を『卑怯者、臆病者』とバカにして、ひどくいじめた鬼蜘蛛のコミュニティとは違い、この組織の者たちは言葉が荒っぽくても優しく接してくれる。
イラにとって、光り輝くような場所だ。

それは、白い翼と飛膜(ひまく)を併せ持つ白淫魔のラズトルファも同じ。
天使と淫魔の血統両方の特徴が現れてしまい、なんとも中途半端な希少種種族となった彼は、どちらの組織にも馴染めなかった。

はぐれ者が集っていて居心地がいいこの場所を、やっと見つけたのだ。
【☆6】[大天使ラファエルの祈り]ギフトをフル活用して、組織のリーダーであるナイトメアを救ったこともある。
彼なりに仲間を大切にしている。

二人は祈るような気持ちで、ギルティアたちを眺めた。

音の一族ベルフェア出身のスイが、子どもたちを安心させるように優しい声を出す。

「みんな。エナジーフラワーを持ってきてくれてありがとう」

水色の髪の、うっとりするような美少女スイ。
ベルフェアの巫女として、かつては一切の発声を管理されていたスイは、この場所でなら自由に自分の言葉を紡ぐことができた。
一言発するごとに、組織への敬愛が高まっていく。

子どもたちは彼女の指示で、花の鉢植えをギルティアの周りに配置していった。

「……ねぇスイ様。ギルティア、また目を覚ますよね?」

「植物は生命力が強いから、すぐに再生するって言ってたもん」

「ええ、もちろんよ。きっと治るわ。みんなが育ててくれたお花の生気を吸ったら、元気になるはず」

スイの声が子どもたちの心にすっと浸透する。

「やったぁ!」

「早く、早く。またギルティアと遊びたいよ」

子どもたちに急かされたスイは、自分の体内魔力に集中した。

(……う。イヴァンの強制帰還魔法で、ごっそり魔力を持っていかれちゃったけど……まだ、大丈夫。頑張ったらなんとかなるわ)

魔力枯渇寸前で青白くなった唇を、気丈に笑みの形にする。

すうっと息を吸い込んだ。
スイはギルティアの手を取ると、顔をぐいっと近づける。
吐息がお互いの唇にかかりそうな距離。

「スキル[同調][七色の声]……」

スイの口から、ギルティアそのものの声が紡がれる。

「”スキル[|魂喰い(ソウルイーター)]。エナジーフラワーから生気を吸収します”」

ギルティアの心臓がドクンと大きく動き、同調したスイの指示で、魂喰い花がうごめき出した。
ギルティア本人の意思としてスキルが発動したのだ。

茶色く枯れたツタが、もがくように鉢植えを絡め取り、エナジーフラワーの生気を根こそぎ吸収する。
|砂漠の魂喰い花(デザートギルティア)のツタは瞬く間にみずみずしさを取り戻した。

「回復魔法が使える者は、回復の補助をしてやってくれ」

「「「はい、マルク様。緑魔法[グレートヒール]」」」

ナイトメアの男性”マルク”の指示で、子どもたちがスイを手助けする。

ーーギルティアの怪我が治っていく。
肌も服も砂埃で汚れてはいるものの、身体は元どおり綺麗になった。

子どもたちがわあっと歓声を上げた。

スイが[同調]を切る。
フラついた彼女の身体を、マルクが支えた。

「マルク様! し、失礼いたしました。ありがとうございます。ギルティアが治りましたわ」

「ああ。良くやってくれた。この治療方法はスイでなければできない」

「はいっ」

スイがほわわんと頬を染める。

負傷者の治療中、ナイトメアが何をしていたのかというと、眠らせた子どもたちと、強制睡眠状態のギルティアの夢に干渉していた。

ナイトメア・バクは夢世界ではほぼ無敵の強さを誇るものの、現実で使える能力をほとんど持たないのだ。
現実の身体の回復を見守るしかできなかった。

野生界でナイトメア・バクにクラスチェンジした彼は、この希少能力の特殊さゆえに、何度も死にかけている。
魔人族の称号を得てからも、明確に目に見えない夢への干渉能力が誰にも認められなくて、孤独で困難な道を生きてきた。

自分と同じように、貴重な能力を持っているのに不遇だったものを救うために組織を立ち上げて、今、自分たちに不利なラナシュ世界の常識に立ち向かおうとしている。

「ギルティアの精神状態だが……」

「はい」

スイが祈るように手を組んで、最愛のナイトメアを見上げた。

「ラミアの里で激しい戦闘をしたのだろう。
ギルティアは全力の[|魂喰い(ソウルイーター)]を使い、以前施した[制御昏睡]で意識を失ったらしい」

空気がざわめいた。

「ギルティア……! そんなことをしたら、すぐに何十人も死なせてしまうのに」

組織の皆は、ギルティアが生物殺しを嫌っていると知っている。
すぐに虫などを解体しようとするイヴァンをよくどついていた。

「……そんなにも危機的な状況に陥ったというの?」

スイの言葉に、ナイトメアが返答しようと口を開いた。

しかしここで、

「いや、誰一人死なせていなかったぞ」

イヴァンがスパッと目覚めて、さっそく口を出してくる。

「説明しよう」

目覚めからフルスロットルで元気!!
激痛をものともせずに、発光結界を闇結界で上書きしてぶち破り、さっそうと立ち上がって注目を集める。

展開中の結界を無理やり壊されてダメージを負ったラズトルファが、イヴァンを蹴飛ばそうとしたが、イラが「どうどう。ラズ兄、それご褒美になるだけだから耐えて。ギルティアについての大事な話を聞こう」といさめる。

わなわなと肩を震わせながらラズトルファは乱暴に椅子に座った。
この組織においても、イヴァンは圧倒的に厄介者である。

「目覚めたか、イヴァン。
ナイトメアスキルを使うほどに、大変な事態が起こったらしいな」

「ああ。静かに聞くといい」

つまり黙れ、と言われたナイトメアが重いため息をつく。こんなに自己中なやつはイヴァン以外に知らない。
スイが額に青筋を浮かべた。

「ラミアの姫君の夢侵食は順調だった。里のラミアたち全員が、ギルティアによるゆるやかな生気吸収で弱っていたと思う。
しかしラミア側に応援部隊が駆けつけたのだ。
そのせいで姫君は気力を持ち直して夢から目覚め、ラミアたちも回復してしまった。
激怒したギルティアが攻撃を始めて、激闘の末に、こちらが退散せざるを得なくなった……というわけだ。
なにせあちらは実力者が大人数で押しかけてきたのだからな。
俺のマジックロッドも壊れてしまったので、やむなく首を切ってスイの帰還魔法を利用した」

イヴァンが、親指をくいっと立てて、横一文字に首に走らせる。

ざっくりと事情を理解したナイトメアたちは、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「ラミアの姫君はあと少しでこちら側に引き込めそうだったのだが。なんてタイミングの悪さだ。
魔王の息子に引き続き、またも強者を取り込めなかったか……。
……内容は分かった。では詳細を」

言いかけた時、組織の内部が大きく揺れる。

「! また、精霊のしわざか……くっ。ここ最近不安定だったが、今日は異常だな。
早く不調がおさまるといいのだが」

ナイトメアが険しい顔で言うと、イヴァンがにいっと口の端を吊り上げる。

「その件だが。
精霊にとても好かれるヒト族の少女を、近場で発見した……と発表しよう。
気になるだろう?」

「なんだと? 近場とは、ラミアの里か?」

ナイトメアが関心を示す。
この拠点にはとても力が弱い精霊がいるらしい、空間を揺らしているのは精霊の仕業、と子どもの一人が視抜いていた。
居心地のいい巨大なお屋敷を手放したくはないので、ナイトメアたちはなんとかして精霊を鎮めたいと考えている。

イヴァンはご機嫌に話す。

「ああ、ラミアの里にいた人物のことだ。
しかし魔王国の護衛部隊とともにいたため、今は王都にいるのかもしれないな」

「なんだと……!?
いったい、どのような人物なのだ。分かることを話してくれ。
精霊とコンタクトが取れる能力は、正直、喉から手が出るほど欲しい」

イヴァンの笑みが深まる。

「以前言ったことがあるな? 魔物使いの女王様について」

イヴァンはエナジーフラワーの残骸を風魔法でひとまとめにすると、土を混ぜて、粘土をこねるように人型を作っていく。

できあがった花びらと土の人形は、長い三つ編みの女の子。
日本のフィギュア並みの完成度を誇っている。
スカートのヒダまで再現した抜け目ない製作と、鞭を手に高笑いするポージングに、子どもたちは感心して、スイがドン引きした。

レナ女王様を泥で作ろうという罰当たりな所業によってか、イヴァンの手の火傷跡がチリチリ痛んだが、彼にとっては心地よくて目を細めた。
この火傷跡までラズトルファに治療されなくてよかった、とよそ事を考える始末。マゾヒストって本当にどうしようもない。

「この人物は……」

ナイトメアが目元を引きつらせる。

「……魔王の息子を手懐けた、特別な魔物使いではないか……!
従魔たちの能力を夢の世界で確認したことがある。誰もが恐るべき力を秘めているようだった。……心の弱さを夢で補完しようとした従魔もいたのだが、主人の手助けにより、持ち直してしまったな……。
それに、この魔物使いは人脈も油断ならない。
共にいた、友人であろう獣人の少年が、先日私の魂を焼き殺しかけたのだから」

当時のことを思い出して、ナイトメアが眉間にしわを寄せる。
アリス見送りのコスプレパーティに遊びに来ていた幼いドグマにうっかり干渉してしまい、精神が消滅しかけたのである。

当時、ナイトメアが死ぬかもしれないと思って大騒ぎして嘆いたスイが、自分の魔力を根こそぎ使って”現状打破できる特殊能力者”=イヴァンを喚(よ)びだした。

あの時を思い出したスイが真顔で静かに殺気を放ち始めた。
気付いたナイトメアがポンと肩に手を置いて、なんとか激情を鎮める。

「……精霊への干渉力は欲しいのだが……。……くっ、この拠点を維持するために、魔物使いを引き込む作戦を練るか?」

「マルク様……どうか慎重に行動いたしましょう。私たちには、貴方が必要なのです。
また以前のようなことになったら……私はこの声を枯らしてでも、運命に抗います」

スイが目を潤ませて訴えた。
子どもたちも口々に「怖いのはもう嫌」「マルク様が大切」と訴える。

ナイトメアは胸がジンと熱くなるのを感じながらも、(この子どもたちが安全に穏やかに生きていくためには、やはりこの拠点が必要だ。世界の常識が変わるまでは)と気持ちを新たにした。
慎重に今後の話をしよう、とひとまずの意見がまとまりかける。

「いや、策を練らなくてもあちらからアクションがあるだろう。
なぜならレナ様に拠点の場所を教えておいたからな。
女王様の方から会いに来るのか……興奮する」

「「事情を話せ!!」」

イヴァンが意気揚々と告げて、ブチ切れたナイトメアとスイが叫ぶはめになった。

事情を話したイヴァンは、希少種魔物の子どもたちから死なない程度の猛攻撃をくらい、とても愉(たの)しいひと時を過ごした。

傷ついたギルティアの心は甘い夢の中でだけ癒されていて、目覚めた現実では、また苦しい呼吸が始まる。
それでも、目覚めを喜んでくれた仲間たちには、ほんのりと照れた顔をみせた。

ナイトメアが厳しい声で、今後の方針を発表する。

「魔物使いの藤堂レナを介して、シヴァガン政府軍の奇襲が考えられる。
その場合、全力で迎え撃つぞ。防衛戦となる。戦闘方法を考えておこう……。
どの道、現在は精霊により、この拠点と周囲一帯が迷宮(ラビリンス)のようになっていて、我々が移動することはできないのだから」

「初耳だぞ……!?」

ギルティアが不安そうに顔を歪める。
ナイトメアが説明していく。

「異常を確認したのはつい先ほどだ。
ギルティアたちが帰還して回復を待っている間に、空間がおかしくなった。
子どもたちがエナジーフラワーの追加を持ちに行った時に、帰ってくるのが妙に遅かったのだ。いつもと”屋敷内の道が違っていた”らしい」

子どもが数人頷く。

「あのね。廊下がとっても長かったり、道が六つに分かれていたり」

「飾りの甲冑が追いかけてきたりしたの……! それはぶっ壊したけど」

戦闘力が高い子どもたちは、無事に窮地を切り抜けたらしい。
しかしおそろしい状況であることには変わりない。

「周辺のドリームワールドを確認した結果……いつもはうっすらとしか現れていなかった精霊の残留思念が、明瞭になっていた。
初めてのことだ。
怒っているような雰囲気だと感じた」

ナイトメアの言葉に、ギルティアが目を濁らせる。

「フーン……。……一大事じゃん。なんだよそれ。
……精霊って、清らかな光を好むんだっけ。もしも、黒い魂のあたしとイヴァンが助かったことに怒ったなら、本当に、世界の常識なんて大嫌いだ。
あたしたちをどこまでも全否定しやがって。
じゃあ、なんでこんな種族を誕生させたんだよッ」

ギルティアの絞り出した声に、組織の全員が唇を噛み締める。
ふつふつと、暗い気持ちが身体の底から湧き上がってくる。

「その気持ちを持ち続けろ、ギルティア。
怒りも憤りも悔しさも、生き続けるための原動力となる。
世界の固定概念により、私たちは理不尽に生きにくくなっている。……正反対に変えてしまおう。
いつかきっと、我々のような存在が、ゆったりと当たり前に生きられるように。
世界の常識に全員で挑むのだ。数は確かな力になる」

心に傷を負った、希少種の魔人族たちが、ギラリと目を光らせた。
彼らには彼らの道がある。
ナイトメアが、夢のように甘い道を作り上げた。

「我々の存在は日々、ジーニアレス大陸に浸透している。
シヴァガン王国の者たちも警戒していることだろう。
条件反射のようにすぐ襲ってくることはないと考える。
イラの[|鏡隠蔽(ミラージュ)]で屋敷の存在は隠されているし、外部の生き物が屋敷に入らないよう精霊が先ほど工作したらしい。ドリームワールドの虫の生命力が弾かれる動きで確認した。
外部から侵入できる者はいないかもしれない。
……精霊に干渉できる能力がある藤堂レナは、どうなのか分からないが」

「迎え撃てばいいのです」

スイがはっきり発言した。
彼女の特別な声は[|鼓舞(こぶ)]となり、全員を奮い立たせる。

自分たちが幸せになるために、夢事件の犯罪組織は行動している。

 

 

 

 

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