162:高級食材?それとも?

リトル・クラーケン・ネオを前にしたレナが、まず口にした言葉は。

「この子、美味しいですか? ルーカさん[鑑定]して下さい」

これ。
だってオズワルドの手作り料理のために、ラミアの里のトラブルをやっつけたのだから。
世界からの報酬は食材であるはずなのだ。

「最高級の激レア食材だよ。絶対美味しいはず。きっと前に食べたエンペラー・クラーケンよりもね。
ビタミンと旨み成分のバランスが完璧なんだ。
歯ごたえがありながら濃厚なめらかなイカボディは、この世に唯一無二の新種の珍味。
魔王様に味わってもらうには最適な食材なんじゃないかな。
ちなみに、何度でもボディが再生する[超再生]ギフトを持ってるよ。
体内に猛毒を持ってるからクレハとイズミに[溶解]してもらわなくちゃね。
赤魔法に適性があって[火耐性][うるうるボディ]スキル持ちだから、まさにオズワルドの白炎で焼くために生まれたような魔物だよねぇ」

『『おっしゃ! 久しぶりのイカ焼きだぁー♪』』

『おしょーゆが、合うんだよねっ? クスクス、じゅるり……』

『シュシュね、獲れたての海鮮って食べたことないの。どんな味?』

『これから食べてみたら分かるよー。
魔王様に提供する時にみんなで一緒に食事すると思うもんー。だって大勢で食べた方が美味しいですしー。
白炎の制御、頑張ってねーオズー』

『完璧な焼き加減にしてみせるさ』

先輩従魔たちはクラーケンを食べる気が満々である。

「キラ。イカ焼きに合うソースのレシピを検索しておいてくれる?」

<はーい♡ おっしごと♪ おっしごと♪>

レナもガッツリ食べる気満々だ。

そんな中、キサが慌てて抗議する。

「ま、待つのじゃ! このクラーケン、こんなに愛らしい見た目なのに、本当に食べてしまうのか……!?」

クラーケンのもっちり純白ボディをうっとり見つめて、手を振り合ってはしゃいでいたキサは、情が湧いてしまったらしい。

リトル・クラーケン・ネオは体長が1メートルほどとそれなりに小柄で、顔もどこかあどけない。
鳴き声もあいまって、まあ、可愛らしい。

「かわいそうじゃ……!」

クラーケンに駆け寄ろうとして膝を降りていったキサを、レナが後ろからあわてて抱きしめる。

「待って、キサ!
可愛いからって理由だけで、魔物を甘くみちゃダメだよ。
私も戦闘経験がなかった時には油断したんだけどね……可愛い見た目だけど実はえげつない能力を持った魔物もたくさんいるし、気をつけなくっちゃ。
出会ったばかりの魔物はすぐに信用しないで、まず警戒すること。
その認識を持ってほしい。
じゃないとこれから国外で戦闘をする時にすごく危険なんだよ」

まだまだ箱入り娘のキサの行動は危なっかしい。

(それに私の説明じゃ、完全には納得していないみたい。まあ経験がないと危険さは分からないよね。これまではお姉さんに守られていたんだから。
ルーカさぁん!)

(はーい)

頼られたルーカがにこやかにクラーケンの裏情報を告げる。

「うん。レナの判断が正解。
サンクチュアリがなければ、クラーケンに触れた瞬間にキサは毒に侵されてしまっていたよ」

「えっ!?」

キサがショックを受けた顔で固まる。

「このクラーケンはまだ生まれたてだから毒腺の制御がうまくできなくて、常に脚に毒が滲んでいる状態なんだ。
だから、悪意でキサを裏切ったわけじゃないけどね。
レナが言う通り、警戒心は持った方がいい」

キサがしょんぼりと眉尻を下げる。
それでも名残惜しそうにレナとクラーケンを交互に見ている。

先輩従魔たちがちょっとだけレナを小突いた。
はいはい、とレナが苦笑する。

「これから気をつけたらいいんだよ。キサはまだ、知らなかっただけ。
これからキサが危険なことをしようとしたら、レーヴェさんに代わって私たちが必ず助けて、対処法をきちんと教えるからね。
耳を傾けて受け入れてほしい。
キサを大切に思っているから、安全に生き延びてもらいたいんだよ」

「レナ様ぁ」

▽キサの中で レナの評価が ぐーーーん! と上がっている!

「クラーケンを保護したいって優しい意見があったことは、覚えておくから」

▽キサの中で レナの評価が ぐぐぐーーん! と上がっている!

「ううう。レナ様ぁー!
……毒の制御ができないのは分かったのじゃ。
でも再生能力を持っているクラーケンだったら、従魔にして常備食になってもらったら良いでのはないか?」

キサのこの一言には、レナがうっと動揺する。

「……あ、あのね。せっかく魔王様に振る舞う高級食材を見つけたのに、従魔にしちゃったら食べられないじゃない……?」

「ええーー!? どうしてなのじゃ? 再生するのに。問題ないではないか?」

「そうなんだけどぉ、そこじゃなくてぇ」

キサが目を丸くしてレナを質問攻めにする。
レグルスもレナを不思議そうな目で見た。

彼女たちにとっては、従魔の素材は食べられないレナの感覚が珍しいのだろう。
生粋のラナシュ魔人族とは価値観が違う部分がある……と、レナは久しぶりのカルチャーショックを味わった。

そんな中、ルーカが爆弾発言をかます。

「このクラーケン、食べられたがってるみたいだから。食材と捉(とら)えてあげた方がきっと喜ぶよ、レナ。それならどう?」

「「えっ!?」」

レナとキサが思わず聞き返す。
そういえば、ルーカは魔眼で、野生の魔物の思考を読み取ることができるのだ。

「ルーカさん、えっと、クラーケンが何か言ってるんですか……? 通訳して下さい」

「『イート ミィ♪ わたしを食べて!』だって」

「えーーーーっ!?」

レナが驚愕の目でクラーケンを見る。

「新たなるマゾヒストじゃないですか!」

『えへっ』

ハマルが照れる。今、それどころじゃない。

クラーケンはサンクチュアリ籠の中でくるりと一回転して、ひときわ長い触手二本で、お願い♡ のポーズをしてみせた。

「お願いポーズをした理由が『食べられたい』からってぇ……」

「レナとシュシュが『食材を』って望んだ通りに進化したのかもしれないよね」

「また私のせいにするぅぅぅ」

▽レナが シュシュに 突撃指示を出した!
▽ルーカは 八つ当たりキックをくらった! ぽすんっ

「いたっ。だいぶ力加減はされてるけど」

『そうだよっ。甘んじて受けたのを褒めてあげる、押忍!』

シュシュはひょいとルーカの肩に乗り、おかしそうに言う。

レナが先ほどとは違った意味でクラーケンを恐る恐る眺めると、ひたすらキラキラしたつぶらな目で見返される。

(私を食べて、か。どうしてこう、個性的な魔物ばかりに出会うのかなぁ……)

運命! 運命!

「……リトル・クラーケン・ネオ、すでに自我がとても成長していそう。
ネオ種でしょ?
モスラの場合は、二年生きた普通のアカスジアゲハをテイムして、魔物のジャイアントバタフライ・ネオに進化した。レベル10でさらに進化して、ギガントバタフライになったよね。
このリトルクラーケン・ネオは、クラーケンストーンの時に私たちに拾われて、そこからひと月くらい一緒に過ごして、聖霊とともに進化した。
……同じネオ種だけど全然比べられないなぁ」

『まるで育ち方が違いますもんねぇー』

悩むレナを視て、ルーカがこっそり笑いを噛み殺した。

(モスラと比べている時点で、レナが何を考えているのかは分かりやすいよね。
さっきの「従魔を食材にできないから」って問題も気になってるようだけど、それよりもレグルスの心情が気になるんだろう。
まだ仮契約にも複雑な感情を持っている彼女の前で、ほいほいと新たに魔物をテイムしちゃっていいのか……って)

おせっかいなことまで考えながら、ルーカがそっとレグルスに目を向ける。

(ん? ……ああ。大丈夫みたいだよ、レナ。貴方の従魔って、やっぱりみんな心が強い)

ルーカはクスリといたずらに笑い、クラーケンにそっと近づいて意思疎通を始めた。
みんなの注目を集めてから、発言する。

「ふむふむ。『生涯、最高級のクラーケンが食べ放題! 良い食材になるって貴方が言ってタネ! だから食べてイイノヨー! イート・ミィ!』……だって。
生涯、ね。
従属する気満々みたい。
クラーケンストーンの状態から自我が芽生え始めていて、最近ではレナパーティの様子をうかがってたから、レナへの従属に興味があるんだって」

「ええええ」

「ネオ種だからね。イレギュラーな状況も不思議じゃない。
海で遭遇したリトル・クラーケンは体長が3メートルで凶暴、青模様のイカだったけど、リトル・クラーケン・ネオはもっと小柄で赤の模様。さらに知恵もある。
赤の女王様の配下として、ちょうどいいんじゃないかな?
クラーケン、自分の能力アピールは良かったけど、そういう時はね、こう言うんだよ。
従えてーー!」

『ミィーー! ミィーー♪』

ルーカが余計なことまで吹き込んでいる。

▽レナは 混乱している!
▽レナは リリーを ルーカに けしかけた!
▽暴走しすぎだぞキック!

「いてっ」

『クスクスッ。久しぶりの、感覚! 手加減は、しておいたよっ』

「そうだね」

ルーカの肩にシュシュとリリーがそれぞれ座って、にんまりとレナを見ている。
デコうちわの準備は万端だ。

空気を読んだキサがたいそう可愛らしくおねだりポーズをして、レナを見上げた。

「お願い、ご主人様♡ 妾はこのクラーケンと友だちになりたいのじゃ」

『『ご主人様のー! かっこいいとこ見てみたいー! ひゅー!』』

……レナがレグルスをちらりと見る。
なぜこちらを見る? と言うように、ただ不思議そうな顔をしている。
この空気を不愉快に感じているようではない。

レナの回答は?

「……覚悟完了」

『『わーーい!』』

リリーとシュシュがデコうちわをぶんぶん振って声援を送る。
キラがディスコのような七色の照明を光らせた。
ジュエルスライムのボディに反射していて部屋中が眩しい。

新たな苦労をさっそく背負い込んだレナを、オズワルドとレグルスが生暖かい目で見ている。
レナがクラーケンに語りかけた。

「私の従魔になりたいの?」

『ミィ!』

「たくさん可愛がってあげましょう」

『……ミィーー』

「……食材としての活躍も期待しています」

『ミーー!』

「全くもーー! 鳴き声がいちいち可愛らしいね!」

(((デレが早い)))

先輩従魔のにやにやが深まる。

「スキル[従魔契約]!」

▽クラーケンとレナの間に 魔法陣が現れた!

レナが、キサとレグルスに声をかける。

「二人とも。これが正規の魔物使いの従魔契約魔法だよ。よく見ておいてね。
この魔法陣を魔物がくぐった瞬間に、私と魔物の戦闘が始まる。
魔物使いの実力を認めさせられたら、テイムできるんだよ」

キサとレグルスが真剣に、青白い魔法陣を眺めた。

レナの説明以上に、魔物としての本能が、従魔契約魔法陣を正しく理解している。
もし仮従属していなければ、あの魔法陣をくぐって力比べをしたい……と考えていただろう。

「レナ。ここでサンクチュアリを解くと床を傷めてしまいそうだから、結界入りのままクラーケンを通らせよう。オズワルド、お願い」

「ルーカの提案、雑だな。まあいいけど。スキル[|重力操作(グラヴィティ)]」

頼もしい大ざっぱな発案で、サンクチュアリがふよふよと浮かび、クラーケンが魔法陣を通る。
レナは「予想外の方法だけどまあいいや」とマイペースにルーカとオズワルドを褒めた。

(それでいいのかッ!?)

レグルスが新たな非常識との対面に頭を抱えている。

キサは(スキルのいろんな活用方法があるんじゃな。先輩たちはすごい!)と素直に感心した。
このくらい気楽に考えたほうが苦労がないぞ、と言ってやりたい。

レグルスはいったん動揺を飲み込んで、なぜかレナの前に立つと、クラーケンを睨みつける。

「レグルス?」

「……レナ様個人はこのクラーケンを従えられるだけの戦闘能力があるのか?
今回はクラーケンが望んでいるから問題ないのかもしれないが。
俺は貴方を守ると約束した」

背中越しにかけられたぶっきらぼうな言葉に、彼女なりの思いやりを感じ取ったレナは、柔らかい声で答えた。

「あのね。私個人は弱いよ、レグルス。
でも魔物使いの従魔は主人の力のうちと認められているから。
いざ戦闘となったら従魔が戦えばOKなんだー」

レナが鞭を軽くふりふりする。
戦慄したレグルスがぶわっと獣の毛を逆立てた。

先輩従魔からの殺気を浴びて、もともと従属希望だったクラーケンはあっけなく頭を下げる。

<従魔:リトル・クラーケン・ネオが仲間になりました!>
<ステータスの閲覧が可能になりました>
<ギルドカードを確認してください>

「ーーレナ様、あらゆる魔物を従属させ放題じゃないか!?
従魔たち全員を倒せるものなど、一体どれだけいるんだ……ッ!」

<精霊と聖霊の友達、サディスティック仮面さんもマスター・レナの味方で御座いますし。あーら頼もしいー!>

『聖霊を呼んだようだな!』

キラとカルメンが怒涛のコントを繰り広げて、レグルスの精神(メンタル)にさらに追い打ちをかける。

真面目な新人がかわいそうになったレナは、[従順]スキルを使ってキラを鎮め、カルメンをちょっぴり叱って白炎聖霊杯(カンテラ)に戻した。
レグルスが明らかにホッとしているのを確認してから、苦笑しつつクラーケンに向き直る。

「よろしくね。えーと、仮でネオちゃんって呼ぼうか」

『ミィーー!』

「あれっ。まだ話せないのかな?」

こんな時にはルーカにおまかせ。

「僕はクラーケンの内心を魔眼で読み取っていたけど、まだ話せないみたい。
ナイトバタフライだった時のリリーも、テイムされたばかりの頃は話すのが苦手だったよね。
ネオ種だから成長は早いし、少しレベリングしたら会話が可能になるはずだよ」

リリーは恥ずかしがることもなく『あれから一杯成長した!』と胸を張っているので、みんなでえらいねと言っておく。

「いつも考察ありがとうございます、ルーカさん。
ネオちゃん、いつかお話できるのが楽しみだね」

レナがにこやかに声をかけると、クラーケンも嬉しそうに鳴いて、同じ気持ちだと訴えてくる。
魂のつながりを感じて、レナはさっそくクラーケンを身内だと認識した。
こうなったらあとは可愛がるまで!

「私は魔物使いの藤堂レナ。
毒腺の制御ができるようになったら、また貴方と握手させて欲しいな。
従魔になってくれたから、主人として生涯大切にするって約束します」

『ミィ!』

「ちょっと食べるけど」

『ミーーー!』

クラーケンが長い触手二本を上げて、バンザイするような仕草を見せた。
こんなに喜んでいるのだから、レナもなんとか気持ちを切り替えて、極上のイカの切り身を食べることができるだろう。

クラーケンとのやりとりを見ていたキサとレグルスは、ラミアの里でレナが宣言した「従魔契約をする覚悟」とはこういうことか、とすんなり理解した。
従魔契約印が刻まれた自分の心が、レナの愛情は信頼できると訴えてきている。

「従魔として大切にする」という約束は必ず守られるだろう。

どちらともなく、レグルスとキサは顔を見合わせた。
二人とも安心した表情をしていて、なんだかこそばゆい気持ちになる。

キラが電子ウィンドウでクラーケンのステータスを表示した。

「名前:リトル・クラーケン・ネオ
種族:リトル・クラーケン・ネオ♀、LV.1
適性:赤魔法、青魔法、黄魔法

体力:17
知力:10
素早さ:20
魔力:13
運:10

スキル:[毒手]、[イカスミバブル]、[火耐性]、[うるうるボディ]
ギフト:[超再生]☆4、[シー・フィールド]☆4」

[毒手]……腕の先端から強力な麻痺毒を分泌する。

[イカスミバブル]……ねっとりした漆黒のイカスミ泡を吐く。汚れはなかなかとれない。泡の大きさ、量は込めた魔力による。

[火耐性]……炎に強くなる。

[うるうるボディ]……常に潤った身体をキープする。炎に強くなる。

【☆4】[超再生]……ボディの欠損がすぐに修復される。心臓が壊されない限り、順次再生を続ける。

【☆4】[シー・フィールド]……大地を海のように泳ぐことができる。大地が濡れていれば、泳ぐスピードが上がる。ヒレを持つ陸生の魔物限定。

クラーケンはこれから主に陸地で過ごすことになるが、問題なく活躍してくれそうだ。
スキルの活用法について話してみんなで盛り上がる。
話題になっていることが分かるのだろう、クラーケンはきょろきょろと先輩従魔を見渡して、嬉しそうにしていた。

「ネオちゃん。
ずっとサンクチュアリの中にいなくちゃいけないのも不便だろうから、早くレベルアップして、毒腺の制御をできるようになろうね」

『なんなら、イズの体内に場所を移してもいいのよっ?』

イズミがスライムボディを輝かせながら、ぷるるんぷるんと近付く。
猛毒を味見したい! と舌なめずりしていそうな気もする。

「そうさせてもらう……? 移動が簡単になるはずだよ」

『ミィ!』

レナが聞くと、クラーケンは元気に返事をして、イズミに向かって脚を伸ばす。
賛成のようだ。

イズミのスライムボディの空洞に、すっぽりとリトル・クラーケン・ネオが収まった。
レベリングが始まるまでの間は、この状況が主流になるかもしれない。

また魔力を使ったレナが、疲労感を自覚する。

「今日は本当にいっぱい働いたし、とっても疲れたよね……。なんて濃い1日だったんだろう……!
反省会はまた明日にして、早めに休もうか。
きっとしばらく後始末でバタバタするから、回復しておかないとね」

『賛成〜〜!』

レナがベッドに座りなおすと、従魔たちが嬉しそうにすり寄ってくる。
みんな軽くシャワーを浴びていたようで、スライムジェル石鹸のお花の香りがした。
おそろいのいい匂い。
リラックスしたレナがあくびする。

巨大なベッドの上でハマルが枕になっていて、それぞれが思い思いの場所でくつろぎ始めた。

クラーケンを内包したイズミも、ベッドの片隅によっこらせと乗る。

「レグルスも一緒に寝てくれるよね?」

『『炎獅子姿が見てみたいなー!』』

今まさにソファに向かおうとしていたレグルスに、レナが声をかける。逃がさない。
先輩従魔が可愛い声で援護する。

振り返ったレグルスは顔を引きつらせていた。

「……それは……上官命令か?」

「あっ。うん。じゃあそういうことにさせてもらおうかな。
レグルスの今後の進化を見据えて、魔物型を確認しておきたい気持ちもあるんだ。
お願い。おいで」

「……………………承知いたしました」

レグルスが深く深呼吸してから、身体を変化させ始める。
命令された時につい敬語になるのは、彼女のクセなのだろう。

(……魔物型になるのはいつぶりだろうか)

燃えるような赤い毛皮が現れる。美しい艶。
なめらかな体躯はとても見事だ。

体長1.5メートルもありそうな巨大な炎獅子が現れた。
しかし雌(メス)であるゆえ、一族の象徴である炎のたてがみは……ない。

レグルスはそのことを恥じるように、少しうつむいている。

「すっごく綺麗だねぇ、レグルス!」

『!』

レナの歓声に思わず顔を上げると、レナパーティの全員がキラキラした目でレグルスを見ていた。

レグルスが照れ隠しに眉間にしわを寄せる。
が、尻尾が穏やかに揺れた。

「本当にすごい。大きくて強そうだし。
ねぇ、また毛皮をブラッシングさせてくれる? 私、上手なんだよー!」

『……それは上官命令か、レナ様』

「あっ、うん。じゃあそれで」

レグルスはゆっくり頷いた。

レナはとびきり嬉しそうに笑って、自分の横のスペースをぽんぽんと叩いてみせる。
先輩たちは気を遣ってここを空けておいてくれたのだ。

「主人の近くにいるほど、従魔の成長が早いの。
それも[レア・クラスチェンジ体質]の効果だから。
早く強くなれるように、ここにいらっしゃいな」

そう言われると行かざるをえない……。
レグルスはのっそりとベッドに上がり、レナの横に座る。

キサは反対側に寝転んだ。
レベルが低い二人はしばらく、レナに一番近い場所で眠るのだろう。

『ミィーー』

「ちゃんと考えてるよ。ネオちゃんも毒腺を調整できるようになったら…………って。もう、寝てる? えっ、今のは寝言?」

『そうみたいだよん。まだ生まれたての赤ちゃんですからなっ』

「確かに。イズの言う通り」

すぴすぴ眠るクラーケンに、レナは優しく「おやすみ」と声をかける。

従魔が増えたので、先輩たちは『誰がどこで寝る?』と話し合いを始めた。
レナが鶴の一声。

「みんなー。そこの端っこにいるルーカさんに、とっつげきー!」

『『『『おりゃーー!』』』』

「えっ。ちょ、うわ、んぐっ」

▽レナは 総突撃指示を出した!
▽ルーカは 魔物たちに埋もれている!

「もう……何するの。レナ」

「だってルーカさん、ものすごく疲れてるでしょ? 主に精神的に。辛いことが多かったですよね」

レナの悲しげな声に、ルーカがぱちくりと瞬きする。

「……あー。そういえば、感覚共有してたもんね。
不安な気持ちも、全部レナに伝わってたのか」

「はい。脳内アラームがガンガンガンガン鳴ってて、それはもう頭痛がひどかったですよ!」

「ごめん」

「それくらい心を痛めてたんですよね」

「……そうだね。
死霊術師(ネクロマンサー)イヴァンが現れたのも不安の種だけど、とくにきつかったのは、彼の情報を得るために記憶を覗いて……ガララージュレ王国の現状を知った時だった。
祖国からはもう遠く離れているのに、こんなに身体が震えるのかって思うくらい、動揺して……僕の、トラウマになっているんだろうな。
情けないなって思う」

ルーカのため息が久しぶりにネガティブだ。

「癒されましょう。ルーカさん。怖いことにも、みんなで対処したらいいんです」

レナがそう言って、さらに突撃指示を出す。
従魔たちがぎゅぎゅっとルーカの元に集った。

『『先輩たちが守ってやんよ! ルカにゃん』』

『そうだよー。貴方は、可愛い後輩、なんだからねっ。それそれ』

『うりうり』

『リリーとシュシュ、頭擦り付けるのもうちょっと力加減してやらないと。くすぐったがりで笑い上戸のルーカが震えてるぞ』

<記念撮影は! バッチリ! お任せ! 下さいませ! イエーーーーイ!!>

……ルーカは仲間たちのあたたかさを心でも身体でもじんわり感じながら、ほうっと息を吐いて、肩の力を抜いた。

「……ありがとう。すっごく癒されてる。幸せな気持ち」

ぽすんとルーカが後ろに倒れこむと、金色ベッドがこれまたあたたかいし、主人からは慈しみの微笑みが向けられる。
やんわりと目を細めて[心眼]を発動すると、清らかな魂の光がとても心地いい。
この空間を心底愛おしく思った。

「また明日、それぞれが頑張ったところをいっぱい褒めましょうね!」

レナの腕が伸びてきて、ルーカに届かなかったので、こいこいと手招きする。
疲れている従魔のケアをしてあげたいのだろう。

ルーカは魔物たちを抱えたまま横に移動して、レナの手のひらの下に頭を傾けると、金髪がゆっくり撫でられた。
撫でられる感覚を楽しむ。

「……んー、ネコ型だったら喉鳴らしてそう。心地いいし、幸せ。
ありがと、レナ。
明日からもどうかよろしくね」

「ええ、もちろん。ずっと可愛がってあげますとも!」

レナたちはおかしそうに笑い合った。
先輩従魔もくすくす笑い声を漏らし、新人二人はまだこの空気に馴染めなくてむずむずと身じろぎする。
しかしそのうち馴染むだろう。
一週間後あたりの二人の様子が楽しみだ。

『おやすみなさーい。スキル[快眠][周辺効果]〜』

ハマルがスキルを唱えると、みんなの瞼がとろんと落ちて、穏やかな寝息を立て始める。

ーーその日、キサとレグルスはとても久しぶりに夢を見ない夜を過ごした。
今や彼女たちの現実は、レナパーティが与えた希望に満ちていて、偽りの夢なんかよりももっと素晴らしい。
新しい環境で切磋琢磨して、栄光の赤い道をにぎやかに進んでいくのだろう。

▽Next! あの魔人族たちは、今……

 

 

 

 

 

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