156:温泉戦闘5

「飼い犬。……じゃああの赤いのを連れて行こう」

「大賛成だ」

ギルティアの決定にイヴァンが満足そうに頷き、従魔たちの殺気をもろに浴びる。
ギルティアも奥歯を震わせるほどの迫力。足を踏ん張って耐える。

『『レーナ。従魔たちが守ってあげるからねー?』』

「「あたぼうよー!」」

後から駆け付けた従魔たちが朱色の魔法陣の前に進んで、レナを背後にかばった。
後ろは任せて、というようにシュシュとリリーがレナに寄り添う。

「この場所では守りが固いな……どうするつもりだよ?」

ギルティアが意味深にイヴァンを見やる。
[シャドウ・ホール]に守られている二人は従魔の集中攻撃を受けていないが、それは自分たちが活発に動けないということでもある。
レナをさらおうと結界から飛び出た瞬間、木っ端微塵にされるだろう。

イヴァンがアンデッドを数体、新たに作ってみる。
ズサササーー! と滑り込んできた大きな紫色のスライムに[溶解]されてしまった。

ふむ、とイヴァンは策を練る。

「人質を作って、レナ様自らこちらに来るよう仕向ければ良い。彼女は大切なものが多いからな。
ーー[|悪夢の暴喰(ナイトメア)]」

▽イヴァンが 特別な魔法を 発動した。

片目が夜空を思わせる藍色に変化し、五芒星を現す。
異様な迫力に、レナたちが警戒する。

ーーこの瞬間、イヴァンは組織のリーダーの力の片鱗を手にしていた。
片耳がまるで魔人族のように尖る。

ぶわっ! と全員の心の内に藍色の靄(モヤ)が吹き抜けて、一瞬で消え去っていった……。

一体何をしたのか?
スキルの効果を目視したレナ、ルーカ、リーカが青ざめる。

『『なぁにー? とくになんの効果も弾かなかったけど……?』』

【全状態異常防御】ギフトを持つクーイズは防御の実感がなく、ぷにょっと首を傾げている。
ルーカに詳細を聞こうとした時、仲間の3名が倒れた。

「姫さん!?」

レーヴェが腕の中でぐったりしているキサに慌てて呼びかけて、

「ちょっ、オズワルドぉー……!」

ふらりと倒れてきたオズワルドを、押しつぶされかけながらもハマルがなんとか抱き支える。

「レグルスッ」

レグルスは片膝をついた姿勢から、地面に倒れ伏せてしまった。

(これまでに夢への介入を受けていた子たち……!
レグルスさんもそうだったの?
ど、どうしようどうしようっ!? まさか精神に介入してくるなんて)

(落ち着いて、レナ! 三人とも、夢に魅せられているだけだから……)

3名の焦点の合わない虚ろな目を見た内心のレナが動揺する。
表では凛々しい女王様として君臨し続けているが、瞳にじわっと涙の膜が現れた。

イヴァンがしたり顔で、杖をもう一振り。

「スキル[夢枷]」

3名は穏やかに瞼を下ろしてしまい……呼吸が、だんだんとか細くなっていく。

(……まずいな)

ルーカも眉間に皺を寄せた。

「おや? 夢に魅せられた者は4名と視えているのだが?」

イヴァンはシュシュに視線をやる。
シュシュはめらめらと怒りに燃える目をして、光の翼を輝かせていた。

「影響を受けない理由が気になるな。強い光属性が原因か?」

「よくもオズをっ! [衝撃覇]ぁッ!」

シュシュの攻撃は結界に弾かれてしまう。

貪欲な探究心を持つイヴァンが、楽しい思考の沼に沈みそうになったので、ギルティアが引き戻す。

「そんなことはもーどうでもいいぞ、飼い犬。
それより、お手柄だ! それぞれの組織にとっての人質がバッチリできたな」

イヴァンを褒めてやったギルティアは、倒れた三人を指差しながら、

「ラミアの里の姫、魔王国の隊員のネコ、従魔のイヌ。どれも大切にされているみたいじゃないか」

適当に呼んでレナを見る。

「こいつら。このまま放置してたら死ぬぜ?」

「ッ!」

「特別強烈に夢の世界へ誘(いざな)って、そこに心を閉じ込めてるからな。これが長引くと、心と身体が分離しちまって廃人になるんだよ。
どうすれば救えると思う……?
答えを教えてやる。あたしたちの組織のリーダーなら治してやれる。
お前一人だけで、あたしたちの拠点に来な。
もしぞろぞろと護衛たちを連れてきたら、治してやんないから!」

ギルティアが頭に咲いた小さな魂喰い花の花弁を開かせる。
身体の9割以上がサディスティック仮面により千切られているため、これだけしか余力がない。
苦しさを耐えるような息を吐く。

「……ま、あんまり使いたくなかった手段だけどしょうがない……。スキル[|魂移し(ソウルリリース)]」

「!」

レナの胸に向かって、みずみずしい緑の閃光が飛んできた。
これは攻撃ではないため、朱色の魔法陣も通り抜ける。

「「ご主人様!?」」

「……っ大丈夫よ。リリーとシュシュ。
……!
あの敵は自分の記憶を切り取って、犯罪組織のアジトの場所を私に知らせただけだから」

レナの脳内に鮮やかにギルティアの記憶が根付いている。
組織のアジトへの経路、それから中の様子が少しだけ。
ギルティアは自分の能力と付き合って生きるために、似た境遇の仲間と過ごしていたようだ。

(ダメージを受けるどころか、私は回復している。
自分の記憶を生命力としてそのまま分け与えるスキルなのか。でも……コスパはとても悪いみたいだね)

レナがギルティアを見ると、頭の花はしおしおと枯れてしまっている。
髪の先も脱色していて、砂漠の砂のような煤けたカラーになった。
さすがにそのうち回復するだろうが、一時的にダメージを負ってでも、精霊関係の事情とやらを解決したいのだろう。

「記憶を”切り取った”ってことまで理解されるとはな……。ちっ。
飼い犬。ちゃんとあたしのこと、アジトまで連れて行けよ? お前の意見に乗ったんだから」

「いいだろう」

イヴァンの杖がまた輝く。あの魔法は、

(ーー逃げるつもりだ!)

「また会いに来る、とラチェリで宣言した約束は果たしたな。
今度はレナ女王様が俺に会いに来るとは、実に気分が良い。それでは……楽しみにしていよう」

イヴァンの頭上に、転移魔法陣がゆっくりと描かれていく……

「そうはさせるものですか! ここで捕らえてみせる」

「ほう? レナ様らしくないな。仲間の命を捨てても良いと?」

レナが怒りの一喝(いっかつ)!

「ありえなくてよ。私は赤の女王様だもの。
従魔の安全も、自分が快く過ごす場所も、全て手に入れてみせるのだわ!」

カッコ良いーーーー!!
従魔たちが主人の勇姿に打ち震える。
レナが全くの無策でこのようなでっち上げをするわけがないと確信しているため、みんなが静かに耳を澄まして、指示を待つ。

「ハマル。貴方を信じていいわね? 夢の世界からみんなを解放してみせて頂戴。
女王様の命令よ!」

「! おおせのままにー!」

頼られたハマルが力強く敬礼した。

「ふふーん。夢属性の魔物としてー、悪い夢魔なんかに負けていられないからねぇ。
レナ様に応援のお言葉まで頂けてー、ありがたき幸せー!
忠実なる下僕ヒツジハマル、夢の世界へ行ってまいりまーすっ」

レナの無茶苦茶なお願いを快諾したハマル。

レナの声にわずかに滲んだ縋(すが)るような響きに気付いて、安心させるようににこっと微笑んだ。
ご主人様が望んで信じてくれるなら、レア従魔はきっと何だって成し遂げられるのだ。

ヒト型の時には子羊のままだったハマルの尻尾が、進化後の夢喰いヒツジ特有の綿雲状になり、ゆらゆらと身体を包む。
たくさんのキラキラの星の輝きを内包している。
全てが仲間たちの夢。夢喰いヒツジのハマルの力となる。

ハマルはぺたんと座り込むと、膝に乗せたオズワルドに重なるようにして、すやすやと眠ってしまった……。

「お願いね」

レナが柔らかくハマルに告げて、前を向いた。

敵二人は驚いた顔をしている。
勝ちを確信してアジトの場所を教えたギルティアが焦る。

「おい飼い犬! あの獣人の能力はなんなんだ!?
夢属性とか言ってたぞ。
ないと思うけど……万が一あいつらが意識を持ち直したら、あたしたちアジトを教えただけ損じゃないのか?」

「あの獣人についての能力は知らん」

「てめぇゴラァーーーっ!」

結界の中でガンガンイヴァンを蹴るギルティア。
いいぞ、もっとやるといい。
しかしそう考えているのはイヴァンも一緒なので、どう転んでも奴に関わると損である。

「しかも、なかなか転移しないし!?」

「魔法陣の展開が遅いとは俺も感じているな」

ギルティアとイヴァンが違和感を持つ。
これまでは[トライ・ワープ]の魔法は迅速に発動していたのだ。

「……[シャドウ・ホール]に、ほんの点ほどの穴が空いている! 驚くべき光景だ」

イヴァンがそう言う。
先ほどギルティアが緑の光を飛ばした時に一瞬だけ結界が変質した場所だ。

目ざとくそのチャンスを活かしたのは、

「……あいつの仕業かッ。地味な、灰色髪の魔王国のやつ!」

ド派手なインパクトを放つ雪豹とマーマンの影に隠れて[暗躍]していたクドライヤが、
やっべ見つかった、と舌を出した。

「まぁ、ね。俺みたいに長く生きてると、技も器用に使えるようになっていくもんさ。
見つかったし、堂々とやらせてもらう!
スキル[|魂喰い(ソウルイーター)]、結界と魔法陣の魔力を喰らっちまえ!」

クドライヤが全力でスキルを使用した!

「〜〜〜〜ッ!」

ギルティアが怒りのあまり、顔を真っ赤にする。

「灰色の髪に黒い薔薇の樹人族。……ゴーストローズ……そうか、お前が!」

「知っているわけ?」

クドライヤが怪訝そうにギルティアを睨む。
憎しみの視線が返ってくる。

「……お前っていう前例がいたからだ。
樹人たちは油断して、私の誕生を甘く見積もった。
お前なんかが生きることを許されたからーーッ! 樹人族の集落が枯れきって壊滅したのは……お前のせいだァァッ!!」

「!?」

クドライヤが動揺するが、スキルの制御は手放さない。ギルティアの出生はある程度予測していたため(やはり)と思考する。
結界の穴が少しだけ拡張した。

ここで、レナたちも動く!

(さっき、緑の光で私が回復した分、余力がなんとか確保できてる。召喚従者サディス宰相に、魔力をずっと吸い取られ続けてるんだよねぇ……これが、召喚の対価なんだ。
……魔力が空っぽになったら、絶対に危険。
でも、やらなきゃ……!
ハーくんが頑張ってるのに、ご主人様がへこたれててどうするのッ!)

冷や汗をかきながらも、レナ女王様は凛と立つ。

「サディスティック仮面。私の魔力を|限界まで(・・・・)使うことを許すわ。貴方の真の力を解放なさいな!」

「ーーかしこまりました。レナ女王様」

レナの指示により、サディスティック仮面がまた動く。
仮面の奥の青い目が、怪しい輝きを放つ。

(どっひゃーーーー!?)

ドリューが天を仰いだのはスルーしてくれ。

サディスティック仮面が詠唱する。

「”朱の線が走る時、全ては我の手中に手繰り寄せられる。
例えば生きとし生けるもの、あるいは光差す空間。
例えば地中で蠢(うごめ)く亡者、あるいは闇深き心”」

口から零れる言葉は流麗で、輝いているようだ。

((晶文か!))

敵二人が注目する。

魔王国の宰相……は全然関係ないけど、レナの奥の手であるサディスティック仮面が、晶文を使えてもなんら不思議ではない。
先ほどは晶文を使わずともギルティアを切断できそうだと見積もったことと、イヴァンの結界が現れた時にはレナの魔力が足りなかったため、晶文を使用しなかったのだ。

「”嘆(なげ)き、踠(もが)き、暴れようとも、朱の線に運命は有り。
糸の外に伸ばそうとした白魚の手は、蜘蛛の毒牙によって項垂れる。
我に捕らえられぬものは無し。
捕 ら わ れ よ”」

朱色の蜘蛛糸が闇色の結界をぐるぐると縛る。

「[束縛糸]」

糸のあまりの剛力により、結界がきしむ。
仮面の[闇焼き]効果も相乗し、ビキビキとヒビが入り……!

バキンッ!!

▽晶文付与された[シャドウ・ホール]が 壊れた!

ここですかさず全員が一斉攻撃!

イヴァンは瞬時に思考を切り替えて、長距離移動するための魔法陣を書き換え、空間内での安全地帯に逃げ込んだ。
イヴァンたちがいた場所には大きなクレーターができる。

出口近くに退避したが、こちらにもすぐ攻撃が飛んでくる。

「いい、飼い犬、あたしがやる……! もっかい転移の準備してろ」

ボロボロのギルティアが前に出た。
イヴァンはちらりとギルティアを見て、簡易結界を構築、サディスティック仮面の晶文はおそらくあれきりだと小声でギルティアに告げた。
瞳の奥の殺意の量を、闇職の経験から計っている。

ギルティアはまっすぐにクドライヤを睨んでいる。

「この能力と一緒に今までずっと生きてきたんだ。どれだけ、あたしが生気を吸い取ったと思っている?
そんじょそこらの樹人族なんかとは、格が違うんだよ!!
お前が得意げにそのスキルを使ってんじゃねーーッ!
[|魂喰い(ソウルイーター)]!!」

腹の底から声を絞り出す。魔力を全力で込めた。

床にちらばっていた微塵切りのツルがそれぞれ新たな株として成長し、恐るべき数の|砂漠の魂喰い花(デザートギルティア)が咲く。
がむしゃらに生気を吸収し始めて……!
全員の意識が霞む。
鍾乳洞内にラミアの悲鳴がこだまし、レナたちの心をすくませる。

ーーそんな中、レナはぼんやりと、サディスティック仮面の言葉を聞いた。

「あの者は自分の意思で他者を殺せません。ご安心を、レナ女王様」

はたして言葉通り、フッ、と限界ギリギリのところで身体が軽くなる。

なんとか膝をつく失態はおかさず、レナが敵の様子を眺めると、ギルティアは瞳を閉じてふらりと後ろ向きに倒れていった。
華奢な身体を、魔法陣を完成させたイヴァンが片手で受け止める。

「ギルティアが万が一暴走したら、こうして静止する魔法が組織のリーダーによりかけられているのだ。
これは本人が望んだ生き方らしい」

イヴァンが語った。
しかし余裕の表情も、今度こそ崩れることになる。

<ここーーーー!>

「!?」

▽パンドラミミックが 死角から すっ飛んできた!

▽魔法杖の宝石に ダイレクトアタック! ガツンッッ!!

▽イヴァンの杖が 壊れてしまった。

すなわち、杖の魔力を媒体にしていた転移魔法陣も崩壊する。
イヴァン本人の魔力は残りわずか、回復薬を飲む暇もないだろう。
敵の希望は、魔法陣の光とともにはかなく闇に溶けて消えた。

「……そうきたか。驚愕だな……!
ギルティアにあそこまでさせてこの結末とは。さすがに不甲斐ない」

もはやこれまで、と判断したイヴァンは、最終手段をキメる。

「ーーフッ!」

▽イヴァンは 自らの喉笛を ナイフで切り裂いた。

どばっ! と大量の血が噴出する。

予想外の行動に、必殺攻撃の準備をしていたレナたちがぎょっとする。

血で染まったイヴァンの首輪が光り、複雑な青白い魔法陣を作り出した。
イヴァンとギルティアを包んで、眩しく光る。

ーー一瞬にして、イヴァンたちは姿を消してしまった。

『…………。……逃げたのか。一体何が起こった?』

ロベルトが、枯れてしまった花を一応警戒しながら疲れた声で、リーカとルーカに尋ねる。

まずリーカが見識を述べた。
獣のロベルトの思考を目視し、言葉を理解した。

「……召喚獣であるイヴァン・コルダニヤが致命傷を負ったことにより、首輪の主従魔法が発動して、強制帰還となったようです」

ルーカがより詳しく語る。

「イヴァンとギルティアはおそらく敵のアジトに還りました。音の一族ベルフェア出身者、スイの強力な喚(よ)び戻しによって。
あちらで回復するのか、死んだのかは、正直分かりません」

ルーカが索敵しながらそう言ったことにより、全員がひとまず安心し、ドッと疲労を自覚する。

『つまり、このラミアの里近郊には奴らはいないということだな?』

「はい」

ルーカが雪豹ロベルトの言葉を通訳する。
無駄手間になってしまっている、と気付いたロベルトがヒト型に戻った。

「一度の転移でそこまでの距離を移動してみせたのか。
たまったものじゃないな。
そのスイという人物の実力は驚くべきものだ」

「一族の中でも特別優秀な能力を持って生まれたのでしょうね。
それゆえに、窮屈な生活を強いられていたのでしょう。
簡単な推測ではありますが」

ルーカの受け答えには、辛い過去からくる暗さが若干滲んでいる。
周りからの返答を待たずに、

「鍾乳洞内のラミアの皆さんは全員が体力ギリギリで生存しています」

と告げる。

「ね?」

サディスティック仮面を振り返りながらルーカが言ったので、ゴウッ!! とまたもや空気が凍えた。
魔王国の役員たちがガクガクしている。

周りの者の心臓に悪いので、やつあたりでサディスティック仮面に軽率に絡むのはやめてやってほしい。
リリーが久しぶりにポジティブキックしたそうに、うずうずと足踏みした。

「あの少女は殺害を恐れる目をしておりましたので」

律儀にサディスティック仮面が返す。
ドリューがレグルスを抱き起こしながらも、白目を剥く。

レナがハマルとオズワルドに近付き、眠るハマルを慈しむように見た。
そして振り返り、ピチュン! と手を叩く(赤の祝福装備・|桃糸雀(ピチュリア)の手袋の効果音)。

「サディスティック仮面。では帰還なさい」

(うわぁ用済みだって言ったァーー!? やることやったら即帰還か。レナ様が誰よりもサディスティックーー! こええぇぇぇ!)

「ご苦労様」

(上から目線ーーッ! じょ、女王様ー!)

レナがにこっと笑って、目上の人が部下にかける挨拶を口にした。
サディスティック仮面周辺の空気が氷点下を下回った気がしたが、レナは召喚契約を強制終了した。
ーー魔力供給を切ったのだ。

サディスティック仮面は朱色の魔法糸に絡めとられるようにして、魔法陣の中央に消える。

(ぎゃーーーーー!!)

魔王国の役人たちがそろって百面相している。
ピシャアアアン! と背後に雷の衝撃を背負っているような漫画的な驚き顏まで披露してしまっている。
レナパーティはこれが通常運転だ。

ふっと息を吐くレナ女王様。表情には出さないが、ひどく疲労していた。

(……この”朱蜘蛛の喚び笛”、使いどころに気をつけなくちゃ……もう頭も身体もフラフラ……う。魔力なさすぎてき”も”ち”わ”る”い”)

(本当、心配したよ。もう少しでレナまで昏睡状態に陥るところだったから……気が気じゃなかった)

(すみませぇん……。ルーカさんがタイミングを指示してくれたから、なんとか体力を保てました。ありがとうございます)

(周囲の目を気にしなくていいから、早くエリクサーを飲んで。いや、それよりも全身の毛穴から摂取させた方が回復が早いか。キラ!)

<はぁぁい♪>

キラがシャンパンゴールドの水蒸気でレナを包んだ。
赤の後光と合わさり、大変きらびやかだ。

蒼白だったレナの顔が、やっと赤みを取り戻す。
せっかく注目を浴びているので、みんなを落ち着かせるために、このタイミングで声明を出した。

「皆さん。
今、私の従魔の夢喰いヒツジが、眠った三人の意識を取り返そうと頑張っているわ。
私は、最良の選択をしたつもり。
不安もあるでしょう。
でもハマルが再び目覚めるまで……信じて、待って下さらないかしら?」

レナはドレスの裾を持ち上げて、みんなに丁寧に礼をした。

レーヴェが涙目で微笑む。

「……お嬢ちゃんは、色々と背負いすぎやね。
あの敵二人に従ってお嬢ちゃんが一人でアジトに行ったとして、姫さんたちがきちんと治療される保証なんてどこにもない。
どちらを信じるかって、もちろん、貴方たちを信じるわ……。
ちゃんと分かってるからね」

ロベルトが同意の意味を込めて頷く。

「レグルスのことも、どうかよろしく頼む。
部下が助かる可能性があるというのは、心底ありがたい。
夢に囚われたという状況は特殊で、我々が手出しできないのが心苦しいが……。
君たちに頼ってしまうかわりに、できることはなんでも言ってくれ」

レナの心への負荷が、わずかに軽くなった。
関わった人たちが彼らでよかった、と肩の力を抜く……。
独断を責められるかも、という恐怖はあったのだ。

「(サディス宰相さんにも、あとでお詫びとお礼しなくちゃなぁ……何か……お、美味しいものとか?)」

「(活躍したのはサディスティック仮面だから、何も受け取ってもらえないと思うよ……?)」

「(ああああああ!)」

レナの心には別の問題も浮上した。

ハマルの目覚めを待つ間、レナたちはみんなで空間の隅に集まり、回復薬や回復魔法を使用して、仲間をいたわった。

ラミアの里の上位のラミアたちがこの空間を訪れて、鍾乳洞のラミアはみんなで助け合ってなんとか体力を取り戻しているところ、と状況を説明する。
キサ姫の側にいてあげて下さい、とレーヴェとレナに頭を下げて、立ち去った。
キラがさりげなく、鍾乳洞をながれる温泉水にエリクサーを混ぜて、全員の回復を早めたのだ。

「……。大切な鍾乳洞、もうボロボロやね……どないしよう……はぁ、もうー! あンの侵入者たちめぇ!」

キサが心配なあまり情緒不安定なレーヴェが額に青筋を立てて、瞳孔をこれでもかと細くして怒りを吐き出す。
分かります分かります、とリーカがなだめるために会話に乗っかった。
すっかり仲良しだ。

お姉様たちの会話、トゲトゲしくてマジ怖ぇ……ッ! とドリューが震えている。

『『およ?』』

そんなことをしていると……紫スライムのボディが光を放った!
クレハとイズミはぷよんっと分離して、赤と青の二体のスライムになる。

光っているのは、クレハの方のようだ。

『やーーんっ! お腹が熱いわぁ。アッチッチ! これは、覚醒の気配〜?』

▽聖霊の金属球が 情熱的に赤く光る。

▽Next! ラミアの里の事件解決へ

 

 

 

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