152:温泉戦闘

デザートギルティアと対峙するレナたち。

「ぐあああああ」

「「ご主人様っ!?」」

唐突にレナがうめき声をあげたことにシュシュとリリーが心配の声を上げるが、これは脳内でルーカの不安のアラーム音がけたたましく鳴り響いたためである。

「だ、大丈夫」

涙目で告げて、首元をツンツンと指差してみせると、二人は納得した。

デザートギルティアが眼を細める。

「なんだ? お前……。
さてはさっきの[魂喰い]の影響を受けたのか。
妙なエネルギーをわずかに摂取してたんだ。結界が守りきれなかった空気中からだけどな。そのせいで体調がすこぶるいいぞ? あはは!
……もしかして他人の力を増強する能力を持ってるだけの、かわいそうな捕食対象者だったりしてなぁ?
やたら弱そうだし」

ギルティアの口角が、くっと上がった。

「そういう奴らをあたしは知ってるぜ。組織にいる。
この世界には見放された能力だと言えるが、あの場所では、そういう奴らこそが生きることを認められているんだよ。
あたしたちの楽園だ」

「…………」

「いっそ連れて行こうか……? と思ったが、お前は悪夢の影響を受けていないんだな……。ちっ。
今の環境が満足ってことか。そりゃおめでたい」

考察中のところ悪いが、あれはレナの生気ではなくて水蒸気エリクサーだ。
キラがムスッとして、今漂っている空気中のエリクサーを全て吸収する。

ギルティアは「エネルギーを隠す、そんな芸当もできるのか。だから生き延びられたのかもな」と考察を口にした。
彼女がレナを見る目には、同情と、激しい嫉妬がこもっている。

うごめく魔物花の威圧を感じ取り、じり、とレナが一歩下がった。

(どうしよう……この樹人族は相当マズい。って、共有した魔眼が視てる。
そのうえ、男湯ではあのイヴァン・コルダニヤが出現してるなんて!
樹人族が呼んだ飼い犬って、あの人のことだったみたいだね……。
犯罪組織とミレー大陸の悪者が一緒に襲撃してくるなんて、もーーどうなってるのー!?
夢魔の事件、思っていたよりも最悪の事態みたいだ)

全員にイヴァンの襲来を伝えたい、とレナが考える。

「キラ」

<はぁい♡ マスター!>

「テレフォンの念話モードで私とお話ししよう」

<!? マスター・レナと個人的なお話ですと……! はぅん喜んでーー!>

レナの目前に電子ウィンドウが現れて、<キ(*>∀<*)ラ>と顔文字が現れる。
パトリシアたちと通話する時にはここに名前がフルネームで現れるので、キラと通話中の表示はこう、なのだろう。

デザートギルティアは「それは自前の結界か?」と[|棘棘(トゲトゲ)]を数本飛ばしてくるものの、キラが<しゃらくせぇ!>と[スペースカット]してしまう。
ギルティアの顎がかくんと落ちた。
そして少し警戒している顔になる。

<物理的なものでしたらこうしてカットできますので>

「「キラ先輩凄いよー!」」

<あっはっはっはっは可愛い後輩たちよもっと言ってぇ!>

ピカピカ光るパンドラミミックの表面を指で撫でて褒めて、レナが語りかける。

「(ルーカさんから男湯の状況が伝わってきたんだ。
イヴァン・コルダニヤが現れたの。
前にアネース王国ラチェリで遭遇した危ない呪術師、キラも記憶してるよね?
あの樹人族の女の子が言ってる飼い犬って、おそらくその人のこと。
ーー転職していて、今は死霊術師(ネクロマンサー)。
護衛部隊の人たちの攻撃をかいくぐりながら、この女湯の方に向かってきてる!)」

<なんと!>

「(みんなにアナウンスしてほしい)」

<承知いたしました>

ルーカが視たイヴァンのステータスを、レナがキラに伝言した。
レナとルーカの距離が離れているため、ぼんやりとしか思考が共有できない部分もあるが、現在の敵の手の内もある程度把握している。

<分身体をあちらにも置いておくべきでしたね>

キラがそっと反省した。
スキル[音響]を使う。

<ピンポンパンポーーン!>

「「「「!!」」」」

鍾乳洞中に音が響いて、レナパーティ以外の全員がきょろきょろと周囲を見渡す。

<えー。男湯の様子についてアナウンスいたします。
只今、ラミアの里に侵入した死霊術師(ネクロマンサー)イヴァン・コルダニヤ青年が確認されました!
魔王国の使徒の男性全員で、対象を追いかけています。鍾乳洞の中を疾走中。
イヴァンは鍾乳洞内の美容温泉に向かっていますね。
“敵”でございます。
実力を持つ犯罪者なので警戒を
ステータスはレベル18。
ギフト【☆7】[神童]により基礎ステータスが恐ろしく高い、そして【☆4】[並列思考]により隙のない戦闘を可能にしている。
適正魔法は黒、緑、黄。
晶文(しょうぶん)付きの闇魔法[シャドウ・ホール]、黒魔法[トライ・ワープ]を得意としています。
マジックロッドに自分の属性外の魔法もたくさん仕込んでいる。
スキルは[嗅覚向上][鑑定眼][観察眼][魂戻し][|死体復活(リビングデッド)]、その他諸々>

敵も仲間もアナウンスを聞いて目を見開いて驚いた。

「なんやて……」

青ざめたレーヴェが呟く。
カタカタ震えるキサに、リリーがマジックポシェットからバスローブを取り出して着させてあげた。

「おい。なんっで、そんなこと知ってんだよ!?
くそ、お前たち意外といろんな技能持ってるんだな……!」

顔にも言葉にも正直に気持ちが出てしまうギルティアによって、情報が正しいものだと、リーカたちが確信する。

キラのアナウンスは、別の場所にいるラミアたちにも警戒を呼びかけていた。

あちらこちらで混乱がおこっている。
族長としてみんなに対応できないことを歯がゆく思ったレーヴェが、唇を噛み締めた。

「……まあ、あいつの情報が知られたってどーってことないさ。
飼い犬は戦闘力はとにかく優秀だから、警戒されたところで攻撃を防げっこないからな」

んべっと舌を出して、ギルティアが威嚇する。

「お前たちが対応するべきはあたしだ、って忘れんなよ!?」

ギルティアが片脚でダンッと床を踏みならすと、植物のツルがざわざわとうごめき、レナたちを物理的に打とうとする!
怒涛の連続投打を受けて、またひとつ、リーカが展開した結界水晶が壊れてしまった……。

太いツルの一本がしなって、まず無防備になったリーカを叩こうとする。

「させへんよ。スキル[水鏡]」

「ふんっ。ラミアの里にどうしてあたしが送られてきたか、よく考えろ!」

リーカの前に6枚展開された[水鏡]は、ツルの投打こそ一度防いだものの、水分を吸収されて、早くも消滅してしまう。
勝った気で笑っているギルティアを、レーヴェは静かな目で眺めている。

「……確かに、水魔法が得意なラミアは、戦闘において樹人族とは相性が悪いわぁ。
せやけど、ウチは族長として一族を守る立場や。ただ美しいだけやないのよ。
簡単に倒せるなんて、まぁ見通しが甘いこと!」

レーヴェの瞳の瞳孔がいっそう細くなり、[蛇睨み]でギルティアを射抜く!
気が強いギルティアでさえ、びくっと震えるほど迫力があった。
そしてギルティアは自分の失態に悔しがる。

「ウチはねぇ、青・黄・黒魔法を扱えるトリプルなんよ」

うっとりするほど優雅に手をしならせたレーヴェ。

「スキル[蛇の影縫い]」

黒魔法由来のスキルを発動。
ロープ状の影がうねりながら敵の身体の表面を這って、魔物花の動きを縛った。

「ぐッ!?……んでも、それじゃあたしの|魂喰い花(ギルティア)の能力までは抑えられないぜ」

魔物花がぐあっと花弁を開いて、また生気を吸収しようとし始めた。

「ふぅ、せっかちやこと。まだまだこれからや。
黒魔法[影制御]」

レーヴェが唱えると、波型のうねった影が、空気中にいくつも作り上げられる。

「付与魔法[質量変化]」

黄魔法の上位能力。
影がズシッと重くなる。

「スキル[アクア・トルネード]!」

レーヴェが出現させた水が、重い影を巻き込んで激しく回転する!

「ラミア族が長年大切に守ってきた温泉を台無しにしたことへの制裁、受けてもらうわぁ!」

キシャー! と牙をむいて叫ぶようにレーヴェが告げた瞬間、全ての影が重く鋭くデザートギルティアに襲いかかった!

ドドドドドッ!! と破壊音が響く。
鍾乳洞の壁は傷付いただろうが、確実にギルティアを捉えたと、誰もが思った。
塵と湯けむりが晴れてーー

「!?」

レナたちが驚愕する。
ギルティアは守られていた。
己の一部であるツルをぎゅっと収束させて、殻にこもった状態になっている。

「……さすがはS級有害植物、ってことね……。
でも半分以上のツルは千切られているし、ダメージは確実に入ってる!」

リーカが第三の目で確認する。

「スキル[鼓舞]……シュシュ!」

「うん。スキル[衝撃覇]ぁ! [覇]ッ、[覇]ぁ!」

レナとの阿吽の呼吸で、蹴りの威力が遠方からギルティアに轟(とどろ)く!
シュシュの[衝撃覇]はヒト型の時の方が威力が増すのだ。最良は半獣人姿だか、つるりとした鍾乳洞の床では、肉球のないシュシュは動きにくいためこの姿でいる。

「もう一度いくよ。[アクア・トルネード]!」

「わ、妾も助力するのじゃ。スキル[|氷の槍(アイスジャベリン)]!」

再びけむりがギルティアを包む。

しかし核であるギルティア自身に近い場所のツルはひときわ頑丈らしく、もう千切れることはない。
あえて水分を発散させてツルを元の乾いた状態に戻し、強度を上げる細工をしていた。

ギルティアを守るツルがうごめいて、隙間からギラリと目が覗く。

「……うっぜーなぁ。もー、本気で怒ったッ!」

ギルティアがツルから半身を出し、大きく手を広げた。

レナたちが警戒して一歩後ずさる。

ニタァ、と少女が浮かべるにはふさわしくない凄絶(せいぜつ)な笑みをギルティアは浮かべた。

「スキル……」

リーカがまた結界を張る。

「[ヤドリギ]!」

ギルティアを中心にして、四方八方にまきびしのような棘々(トゲトゲ)の植物の種が放たれた。
鍾乳洞の壁に根を張る。

発芽した下位互換の|砂漠の花(デザートフラワー)には、魂喰いの力はない。
しかし芽生える力がおそろしく強く、ギルティア本体の指令を聞く。

ビキビキ、と力強く芽を出して、たくましく壁にツタを伸ばし始めた。

ひくっ、とレーヴェの口元が引きつる。

「くくくくっ。あははははは! いーい顔じゃん!?」

頑丈な壁にはいくつもの穴が空いてしまった……!

レナたちにはダメージがなかったものの、これでは今後、鍾乳洞で生活ができないかもしれない。
大切な美容温泉も破壊されてしまった。

ラミア一族がずっと守ってきた誇りが、自分の代で失われたショックで、レーヴェががくっと膝をついてしまう。

「おっと? まだ戦いはこれからだぜ。そうなんだろ? あはははッ!」

高笑いしてツルを操るギルティア。

それぞれ、リーカが様々な魔道具を駆使して、シュシュが[衝撃覇]で、リリーは[魔吸結界]で、レーヴェが[水鏡]、キサは[|氷の槍(アイスジャベリン)]でツルの攻撃を相殺する。
しかしツルは多彩に動いていて攻撃が叶わず、防戦一方となっている。

レナがごくりと生唾を飲み、花の種を握りしめた。

うっかり着替えてしまったコスプレ衣装は、赤のドレスフルセット。
ラチェリでの戦いを思い出すなぁ、と思いながら、スッと目を細める。

「キラ」

<もちろん分かっておりますとも。マスター・レナ! 貴方の輝かしい赤の歴史をまた記録できるのですね。あぁんゾクゾクします♡>

▽キターーーーー!

 

 

 

 

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