151:お呼びでない敵襲

イヴァンは己の実力をよく知っているゆえに、ゆったりした歩調を崩さない。
たとえ魔王国諜報部とレナの従魔たちの敵意を感じてもだ。

一歩ずつ、足元の白い岩場を踏みしめて近づいてくる。

「…………。…………? 美髪だのカールセットだのと毎日うるさいあのシェラトニカ様が、こんなにあっさり断髪するものだろうか。
それに屋外で化粧もしていない。あり得ない。いつも山のように化粧品を使い、早朝から一時間かけて顔を作っているというのに。
…………。……ああ、なんだ、お前は別人か。
そういえばアネース王国でこのような者に会ったのだった。
妙な獣耳は付いているが」

「そんなことよりまずは服を着ろっ!」

ルーカが投げた風呂桶が、スコーーン! とイヴァンの局部に当たる。
一瞬「ぐっ」とうめき声が漏れたものの、しっかりと仁王立ちしている様子は見事すぎて腹がたつ。
これまで湯気が彼をぼんやり隠していたものの、なんとイヴァンは全裸であった。

(僕が完全な裸体を目撃して、レナにそれが共有されてしまう事態は防げてよかった……)

はあ、とルーカがため息を吐き、頭が痛そうにこめかみに手を当てる。

「まったくだ。見苦しい姿を見せるんじゃない、不愉快極まりない」

レグルスの痛烈な批判に、腰布一枚で立ち上がってしまっている他のメンバーもなんだか気まずくなり、ブレスレットで制服に衣装チェンジする。

イヴァンも素直に服を着た。
彼もブレスレットを身につけていたらしく、一瞬で黒いローブを着た姿になる。
以前アネース王国ラチェリでレナたちと遭遇した時のラフな旅衣装とは違い、かっちりした質の良さそうな服だ。

ルーカが眉をひそめた。

(……胸に、ガララージュレ王国の紋章が入った黄金ボタン!?)

自分が逃走する際にはちぎり取ってきたボタンと同じものが、今、イヴァンの胸で光っている。
情報を視ようと目を凝らして、ルーカは驚愕した。

「先ほどまで待機の指令が出ていたため、温泉に浸かっていたのだ。そのため服を脱いでいた。いたって当たり前の状況だろう?」

「そんなことはいい。
お前は何者だ? 誰かの許可を得てこのラミアの里に立ち入ったのか?」

ロベルトが、マイペースなイヴァンの会話を遮って相手をする。
おそらく侵入者だ、とは確信しているが、イヴァンがすぐに攻撃してくるわけではなさそうなので時間を稼ぐつもりのようだ。

「ふむ。この場にいる詳細について、俺の口から話すことはできないな。
そのように制限されているのだ」

イヴァンが首元を指差した。
白い首輪が装着されている。

「……シェラトニカの魔法か……!
……いや、それにさらに従属魔法が上書きされている?
契約者は音の一族ベルフェアの出身者、スイ。
死者を蘇らせられるほど力ある者を望む、と彼女が魔法を発動させた結果……死霊術師(ネクロマンサー)のイヴァン・コルダニヤが喚び出された。
イヴァンは現在、彼女と仲間の指令に従って動いている」

「パーフェクト」

ルーカの考察に、イヴァンがぐっと親指を立てて賞賛をしてみせる。
本人は無自覚だが完全に煽っているので、ルーカはイラッとした。

「そこにいる”シェラトニカ様のオリジナル”が俺の状況について色々と説明するだろう。
それを聞いておけばいい。
先ほど言った通り俺の発言はある程度制限されているし、説明するのは面倒くさい」

イヴァンがロベルトたちに告げて、あくびをする。
情報を視られることは、イヴァンにとってたいした問題ではないようだ。

「んー? 死霊術師(ネクロマンサー)……? ねールーカ。あいつ、前にあった時には呪術師じゃなかったけー?」

「……転職したようだよ、ハマル。
そして現在、すでにレベル18まで成長している。
最悪なことに……彼はガララージュレ王国に付いたようだ。
そこで用意された魔物や同族を殺し、ぬくぬくとレベリングしたらしい。
他にも気になる状況は色々と視えたけど、後で話すよ」

気になる情報が山盛りなのだが、みんなはルーカの判断を信じて、イヴァンの動向に集中した。

「ちなみに俺の年齢も18だから同じ数字だな。奇遇だ」

「イヴァン、心底どうでもいい!」

ルーカが荒ぶっている。
イヴァンの記憶にある自国の様子を視たせいで、胸がズキズキ痛んでいる。
気持ちを落ち着かせるように、頭を振った。

「皆さん。リーカさんがいない代わりに僕が目の役割を務めます。
このイヴァン・コルダニヤは魂が真っ黒な重罪人。同族や魔物をたくさん殺害している。
ミレージュエ大陸でも指名手配されているので、すみやかに捕縛して下さい!
例の夢事件にも関わっているので逃すと大変なことになるでしょう」

大人たちの目の色が変わる。

「生体捕獲に限るか?」

「いいえ。生死は問いません」

「分かった。君に引き続きサポートを頼もう」

「承知しました」

魔眼について隠していられる状況ではない。
魔王国の戦闘プロフェッショナルも揃っているとはいえ、イヴァンの能力に底知れなさを感じたルーカは、実力を出し惜しみしない覚悟をしたようだ。

イヴァンがすっと目を弓なりにした。

「ふむ。追いかけっこというわけか。
仲間から合流の知らせも入ったことだし、赤の女王様を探しながらこのラミアの里を散策するとしよう。
俺と一緒だとトラブルに巻き込まれるからと、仲間には里に入ることを禁じられていて、しばらく外で待機していたのだ。
先ほどの連絡でやっと近付く許可が出た。
ラミア族しか立ち入ることのない秘境のような場所か。楽しみだ」

「イヴァンは転移魔法[トライ・ワープ]と晶文(しょうぶん)付与の結界を多用します!
気配を逃さないように追いかけて……!」

ルーカが言い終わらないうちに、イヴァンは杖を一振りし、魔法陣とともにサッと消えてしまった!
話しながら魔力を練り、口の中で一瞬で呪文を唱える、驚愕の早業。

「ちっ、さっそく……!
イヴァンが転移したのは鍾乳洞の入り口付近です」

ルーカが正確に一点を指差す。

「マジかよ、早えぇっ!
時空魔法ってめちゃくちゃ難易度高いだろ、なのにあんなにあっさり使えるのかよ!?」

「それだけの実力があるということだ……俺たちの方がレベルは高いが、油断してはならない、ということだな?」

ロベルトが指揮をとりながら鋭く走り出した。部下がさっと後に続く。

イヴァンの足元を氷で固定しようとするが、結界で防がれてさらに奥に逃げられてしまった。
判断が抜け目ない。かなり逃亡慣れしている。

「イヴァンは周囲を破壊することに抵抗がありません。自分が傷付くことも悦びます。
仲間やラミア、鍾乳洞を守りながら戦う僕たちよりも圧倒的に自由度が高い。
おっしゃるとおり厄介ですよ」

「鍾乳洞の中で戦闘目的で動くとなると、難しいな」

みんなが気を引き締め直した。

ハマルとオズワルドは最後尾で走る。
怒っているのか、いつものんびり速度のハマルがみんなと同じくらい速く走っている。

「なあハマル、あいつとは因縁があるのか?
主さんにやたらと執着してるみたいだけど……ほんっとうに、主さんは誰彼構わず引き寄せるな。しかも変人の比率がすごく多い。気の毒に……」

「うぅ、過去の戦闘を思い出しちゃったぁ。もーー! ムカつくぅー!
あの悪党はねー、前は呪術師で、アネース王国っていうところの森で呪いを振りまきまくってたんだぁ。
それを解決したのがー、我らがレナ様と従魔たちー!
その時のレナ様の勇姿といったらねー、えへへー最高にサディスティックでー、その者赤き衣を纏いて……」

「オーケー分かった。主さんが目をつけられるのも仕方がない。なんか、分かった。
とりあえずあいつを捕まえたらいいんだな」

「そうー! ガブガブ噛んで焼いちゃっていいよー!」

「腹壊しそうで気持ち悪いな」

赤の伝説を語りかけてさらにテンションが上がったハマルと走りながら、オズワルドも主人を守るべく、金眼を獰猛に細めたのだった。

「まーね? いざとなればドロドロ」

「ドクドク」

「「溶かしちゃうぞ〜」」

クーイズがペロリと覗かせた舌先は紫色に染まっている。

▽イヴァンを捕縛せよ!

***

女湯の様子を語ろう。
少し時間はさかのぼる。

女性だけの温泉で、レナたちはのほほんと過ごしていた。

キサを囲んで、リリーとシュシュも恋愛観について話している。
運命の相手って信じる? というもの。
キサはレーヴェにたしなめられたものの、まだオズワルドが気になる様子。

「「運命。それは赤キ糸ヲ探リ寄セル、まさに赤の女王さまのためのもの……」」

「二人とも、何を言っているんじゃ?」

「「赤の伝説! 教えてあげる」」

キサにはリリシュシュ式の赤の伝説が布教された。
実は以前、レーヴェがキサに語っていた赤の航海女王の話と混ざって認識されてしまい、のちほどレナがのたうちまわることになる。
先ほどの冒頭の話題に正しく戻ろう。

「運命の、番(つがい)かぁ。……まあ、その時がもし来たなら、きっと分かるだろうから。今は、考えるのやーめたっ。それっ」

リリーは関心が薄いらしく、楽しげにお湯をシュシュにかけて遊ぶ。

「わっ! もー。それ、仕返し!
リリーってば楽観的だよね。
シュシュは、子どもをたくさん産みたいと思ってるよ。そのために運命の番(つがい)を早く捕まえてみせる。それが子孫をたくさん残そうとするウサギの本能だから。押忍!
相手は、努力家で優しい魔物がいいなぁ。
……もしかしたらシュシュの子どもだと、弱い個体も誕生してしまうかもしれない。
でもシュシュは、そういう子の愛し方もきちんと知ってるから。ご主人様に教えてもらったもん。
いろんな愛情を、今度は自分から返していきたいんだ」

シュシュがニカッと勝気に笑う。

「わ! シュシュは、現実的だねー。
ご主人さま、シュシュの子どもたちを見たら……きっと喜んでくれるはずなの」

「そうだよね。ご主人様はシュシュたちを、私の可愛い子って言ってくれてるから。
つまりシュシュの子どもはご主人様の孫ということ。孫の顔をみせる、親孝行でもある」

「クスクスッ。シュシュ、とってもいい表情してる!
幸せな家庭、築けるはずって、私が保証してアゲヨウ」

「応援ありがとうリリー」

漢女(オトメ)たちが、ガシッ! と力強く握手した。
キサがぱちくり瞬きしている。
求めていた乙女チックな話題とはなんだか違うようだった。

「えーと。二人は恋をしたことはないのか? 妾はそういうのが聞きたいのじゃ」

「んー……? 恋って、どんなものか、よく……分からないなぁ。私は、恋、まだだと思う。
ドキドキ、するってことだよね?
それは……ご主人様との、旅路かもしれない。きゃっ♡」

「あ、リリーずるい。シュシュもそういう感じだよ!」

ガッ! と腕を交差させて絆を確認し笑いあう二人。
キサは「こりゃだめだ」と思ったらしく、乙女トークは諦めて、また三人できゃあきゃあとお湯遊びを再開した。
キラの<甘酸っぱい幼少期メモリー>に記録された。

大人たち三人は温泉のすみで夜空のような天井をうっとり見上げながら、身体を潤していく。
レーヴェがレナの艶やかな黒髪を一房手にとって、惚れ惚れと呟いた。

「それにしても綺麗な黒髪やこと。一体どないしてお手入れしてるん?
客船でお嬢ちゃんたちを見かけた時から、ずーーっとこの髪のツヤが気になっとったんよ。
羨ましいなぁ、思うてねぇ」

レーヴェのような美しい魔人族にそう言われると、にぶちんなレナも照れてしまう。
つい口が軽くなって、少しだけ事実を話してしまった。

「スライムの体液を使ってるんですよ。ほら、スライムゼリーが分泌されるじゃないですか。あれを精製して、お花のオイルと合わせてトリートメントに使っています」

スライムジェルは希少品なので、スライムゼリーと偽っておく。

「なるほど。そんな使い道があったやなんて……! 驚いたわぁ。
お嬢ちゃんの従魔のスライムたち、キラキラボディやったもんねぇ」

「お、恐れ入ります」

レーヴェの目がギラリと光った気がして、レナが少し怖気付く。
彼女は船上での戦いで活躍していたキラキラスライムを目にしていたのだ。

(よくスライムの身体の特徴まで覚えてたなぁ。
そ、それにしても迫力が……ラミア一族は美容にすごく執着する、って本当なんだね)

レーヴェはレナの髪を眺めながら、ぽつりと呟く。

「ーーねぇ。ジーニアレス大陸にいるスライムを捕まえてきたら、お嬢ちゃんがテイムしてキラキラスライムに成長させてくれるやろか?」

「…………え?」

驚いたレナは、口をポカンと開けて固まってしまった。

「ね、お願い。
精製の方法はたぶん秘密にしとるんやろ?
せやったらラミア族で工夫して、一族の中だけでそのスライムゼリー美容液を使うから。
スライムの養殖、してくれへん?」

レーヴェはとても自然に微笑んでいる。

リーカが苦笑しながら、そっと助け舟を出した。

「レーヴェ様。レナさんは魔物使いとして、従魔たちを家族みたいに大切にしているんです。
だから、何か対価を得る商売として魔物をテイムする、ということには抵抗があるそうですよ」

今度はレーヴェが驚いて目を丸くする。

その反応を見てレナは(そういえば、スライム養殖家なんて人もいるんだっけ。養殖産業に魔物が含まれるのは一般的なんだよね……)とラナシュならではの事情を思い出した。
きちんと意見を言わなきゃ、と口を開く。

「レーヴェ様。リーカさんが言ってくれた通りで、私は魔物使いという職業を商業利用するつもりはないんです。
私と一緒にいてくれる従魔たちに日々助けてもらう代わり、ひとりひとりを心から可愛がって、主人として将来を見守ろうって決めているので。
申し訳ありませんが、ご相談は断らせて下さい」

明確に意思を伝えて、レナはまっすぐレーヴェを見る。
頭を下げる場面ではない。
対等な立場で取引を断っている、譲歩するつもりはない、とアピールするためにも、弱気な表情を見せてはいけないのだ。

レーヴェはとても残念そうな様子を見せた。
が、レナがどうにも譲らなかったのでスライム養殖はあきらめたようだ。

「はあ。そう言われてしまうと、仕方あらへんねぇ……。
魔物のことをこんなに想ってくれているやなんて、同じ魔人族として嬉しく思うてるよ」

「! ありがとうございます」

レナがにこっと幸せそうに笑うと、苦笑いしていたレーヴェの表情も柔らかくなった。

「この温泉が効能を取り戻したみたいでよかったわぁ。
これから毎日入浴して、肌荒れを直していかへんとね」

まとめていた己の黒髪を温泉水に浸すレーヴェ。
鼻歌を歌いながら、気合いを入れて手入れしていく。

ラミアたちがみんなで入浴している時には長い髪が絡まりやすいので結い上げるが、人が少ない場合は美髪効果もある温泉水に浸すらしい。
それを聞いたレナたちも真似をしてみる。

(……レーヴェ様がこれからに期待しているところ申し訳ないんだけど、これほどの美容効果があるのってキラがエリクサーを混ぜちゃった今だけなんだよねぇ。
うう、すみません)

レナはせめてもの心遣いとして、キラに(もう少しだけエリクサーを追加できる?)とお願いした。
魔力には余裕があるらしく、キラは了承する。
キラはパッシブスキル[魔力回復]を取得しており、消費した魔力を通常よりも早く回復できる。

温泉はとろみを増し、心地よさにレナは肩の力を抜いて、天井を見上げた。

ーー天井に這うツタがぞろりと動く。花がいっそう大きく開花している。

ーー胸騒ぎを感じたレナは、紫みを帯びた黒目で、パチリと瞬きした。

「ーーーーッ!? ま、魔物花!」

「えっ? あれは温泉植物や、お嬢ちゃ……」

レーヴェがそう返答しかけた声を遮って、低い、地鳴りのような音が鍾乳洞に響き渡る。
メキメキ、と壁が嫌な音を鳴らす。
その原因は……蒸気エリクサーを浴びた、例の植物だ。

ぎょっと天井をみんなが見上げる中、リーカが湯しぶきを上げながら立ち上がり、ブレスレットで魔王国の制服に着替える。
服の裾が濡れることを気にしている余裕もない。
カッ! と額の第三の目を開いた。

「! みんな、急いで戦闘体勢をとって!
この植物のツル、レナさんが言う通り魔物のものよ。魂が真っ黒な、樹人族……!」

「なんやて!?」

「”|砂漠の魂喰い罪花(デザートギルティア)”。S級認定危険植物。
うそ……その特徴を発芽させた樹人族がいるなんて、前代未聞よ……!?」

リーカが青ざめている。相当ヤバイ植物らしい。
冷静に続きの種族説明をしようとしたが、それよりも植物の核が魔人族の形をとる方が早かった。

バリバリ、と頑丈なはずの天井が軋みをあげて、光源のホタルたちがぱっと飛び散ってしまう。
暗くなった中で全員が目を凝らし、見知らぬ痩せた少女を発見する。

「…………。……ふあぁ。ん?
もう生気をたっぷり吸い込んだから、ラミアたちの征服が終わったもんだとばかり思ったんだけど?
あんたら、一体、なんでそんなに元気そうなんだよ……?
昏睡してたはずのラミア姫と、疲れ切ってた族長がピンピンしてる?
……ふざけた格好の部外者もいるし、あたしが寝てる間に何が起こったってんだ。征服の途中経過は順調だったのにさ。チッ」

少女は吐き捨てるように言って、舌打ちし、レナたちを睨みつけた。

レナは魔眼の恩恵をフル活用してこの樹人族の情報に注目しつつ、言葉を聞き、必死で状況を理解しようとした。

ふざけた格好、は間違いなく、うっかりコスプレ衣装に早着替えしてしまったリリー、シュシュ、レナを指しているものと思われる。

レナたちの考察を敵がのんびり待ってくれるわけはなく、少女は植物のツルを操ると、禍々しい漆黒の花をレナたちの方に向けた。
ーー敵であることは明確だ。

「まず、邪魔な部外者は干からびろ。[|魂喰い(ソウル・イーター)]!」

「させません!」

リーカが腰のマジックバッグから簡易上級結界装置を取り出し、いそいで展開した。
放り投げられた水晶を中心に、ケットシーが魔力をこめた特製の結界ができあがる。

花の中心へとレナたちの生気が吸われてしまうのを防いだ!

<アッパレ!>

キラが鍾乳洞の中に、どどーん! とミニ花火の幻覚を打ち上げる。
動揺した表情の少女を明るく照らし出した。
その後は小さな光球を天井に待機させ、視界を確保してみせる。
暗視の魔眼を持つわけではないラミアとシュシュをフォローしたのだ。

「っなんだよ! うっとおしいな、次から次へと!
……でもその結界、一度きりでもう使えないんだろう? あたしの[魂喰い]のスキルは超強力だからな。
使い捨ての結界じゃ、すぐに限界がくるぜ!
あっははは。悪人に敵わない気分はどうだよ、世界に認められてる正義者のくせにさぁ!」

レナたちを一度守った水晶は、パリンと割れてしまっていた。

少女が親指をビッ! と下に向けると、ずぞぞぞっと床が不気味に揺れ、地中に隠れていた長いツルまでが現れる。
干からびたようなツルはみるみる潤い、漆黒の蕾をつけた。

「ああ! 温泉が……!」

レーヴェとキサが悲鳴をあげる。
植物のツルに温泉水がみるみる給水されていったのだ。
水位が下がり、温泉の一部ではもう底が覗いている。

ラミア一族が大切に守ってきた美容の温泉が、一瞬で破壊されてしまった。
二人が牙を剥いてうなる。

少女はラミアたちの怒りを鼻で笑い飛ばした。
新しい蕾が花開き、ベルベットのような質感の艶のない漆黒の花びらが、光球の光をも吸い込んでしまう。

「フン。何もかも全部、あたしの糧になるんだよ。
……それにしても、妙に栄養分が豊富だよな、この温泉は。
そのせいで生気を吸い込む目標量が早くに達して、寝てたあたしが目覚めちまったのか。
とんだ誤算だ」

「……貴方は、近頃頻発している、子どもたちを悪夢に落とし込む事件の犯人、ですね?」

冷や汗をかきながら、リーカが少女の正体をさらに暴き出す。
さらに記憶も覗いた。

「! まさか、こんなに規模の大きい犯罪組織ができあがっていたなんて!
貴方は組織の主要メンバーの一人。
役割は、悪夢に魅入られた将来有望な子どもたちを『魂喰い』で弱らせて絶望を増幅すること。自分への劣等感を抱かせてしまうのね。
子どもたちは、夢の世界で唯一甘い言葉を囁く犯罪組織に助けを求めて、姿を消してしまう……そういうカラクリだったの……。
それから子どもを守る者たちの生気を吸い取って、逃亡を妨げないようにする工作まで。
嫌になるほど計画的だわ」

目尻を吊り上げるリーカ。

「攻撃手段は植物のツルでの物理攻撃、[魂喰い]、黒魔法と黄魔法……」

レナたちも反撃がしやすいように、情報を声に出して伝える。

「てめー、視てんじゃねぇぞ!」

があっ! と少女が八重歯をむき出しにして叫び、今度は植物のツルで攻撃してくる。

「[|棘棘(トゲトゲ)]!」

ツルの表面にまるで矛(ほこ)先のような頑丈な棘がいくつも現れた!
リーカが水晶結界でなんとかしのぐ。
また、バリンと水晶が割れた。

ぴゅいっ、と少女は口笛を吹く。

「フン。飼い犬が来るまでの肩慣らしだ。そこのキサ姫の勧誘には失敗しちまったが……情報だけ渡しちまったなんて組織の奴らに言えないから、お前たちを始末する!
犯罪犯罪って、アーーーッうるせぇんだよ! ばーか!
全員、あたしの糧にやりやがれッ!」

どこか自嘲気味に笑った少女から、ブワッとドス黒い殺気が溢れた。

レナたちは温泉であたたまった身体が急激に冷えるのを感じながら、纏わり付いた魂喰いの花により何倍にも大きく見えるちっぽけな少女に対峙する。

そしてこのタイミングで男湯にはイヴァンが現れて、ルーカの首輪アラームによりレナが苦悶の悲鳴を上げたのだった。

▽男湯、女湯、戦闘開始!

 

 

 

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