145:幸運フルパワー

淫魔ネレネのお宿♡に帰ったレナたちは、さっそくオズワルド進化の祝杯をあげて、みんながより仲良くなったことを喜び合った。

テーブルには豪華な食事が並んでいる。
とっておきの火トカゲ肉のステーキを、オズワルドの青白い炎で炙って食べる。
炎耐性を持つ火トカゲの肉にも難なく美味しそうな焦げ目がついた。まだ白炎の制御はできないものの、青い炎もより高温になっているらしい。

「成長したねぇ。オズくん。ご主人様は誇らしいよ」

「ありがと、主さん。
……これまでいっぱい迷惑かけたのに、俺が力を貸してほしいって言った時にすぐ頷いてくれて本当に嬉しかった。
これからは特訓を真面目にこなして、全員を余裕で守れるくらいに強くなってみせるから」

オズワルドの素直な言葉に、レナはニコニコと頷く。

ヒト型になってテーブルについている従魔仲間は「なんだと!?」とオズワルドにわいわい絡みに行った。

「「オズ、従魔たちの強さを知らないとは言わせないぜー?
ついさっきも倒れ込んだレナをハーくんが素早くキャッチしたし、子猫ルーカがついリンリンバチ追いかけてって蜂集団に襲われたのを鈴生りマッチョマンたちが助けたし、レナが地面を鞭で叩いたら未発見のラビリンスに落ちちゃったのもみんなでフォローしたし!
我らはそう易々とピンチに陥ったりしなくて凄いんだぞー?
なんたってレナの恩恵を受けたレア種族だからなー! ふははは!」」

「「うわぁ面目無い……」」

レナとルーカ、大人二人はどうにもトラブル体質なのである。気まずそうに頬をかく。

リンリンバチを撃退したというマッチョマンたちは、船上でパトリシアからレナに手渡された、極小のミニマッチョがたくさん実る優れものの種だ。
蜂を一匹ずつ拳で粉砕してくれたので、希少な蜂蜜とともに、無傷の蜂の巣を手に入れることができた。
冒険者ギルドでとても驚かれた。

「みんなで、強くなる、競争だね? 頑張ろうね。クスクスクスッ」

「一緒に切磋琢磨しようってことか。シュシュ、そういうの、やる気出るし好きだよ! よーし!」

「もし、また不審者が夢に干渉しようとしたらー……今度こそ、完膚なきまでにボクがやっつけるからねぇ……!」

ハマルがヤル気満々に目をぎらつかせる。
シュシュへの干渉を知って、夢の守り人としてのプライドを傷つけられたらしい。

「ーーこうして、努力した従魔たちは種族最強への道を駆け上がり、主人である赤の女王様の名声がラナシュ中に轟く……その時まで、あと少し。
なーんてね。ふふっ」

ルーカがしっかりと話題を締めた。

「ルカにゃん。私で遊んで気分転換しないの」

「その呼ばれ方も慣れてきたなぁ」

「えー。私だけダメージ大きいの理不尽じゃないですか?」

ここぞと本日のレナ様の覚醒シーン(動画編集済み)を披露しようとしていたキラは、さすがに主人を思いやって自重した。
鑑賞会はまた明日の朝にしよう。
従魔たちみんなのテンションを朝爆上げするのもよい。
レナがちょっぴり照れるかもしれないが、そこは従魔たちのラブアピールでなんとかしよう。

一度火を通した火トカゲ肉は冷めないので、みんなはのんびりと食事を楽しむ。
トカゲという名だが、上位種族のワイバーンに近いため贅沢品だ。

「オズのー、今後の目標はー、この国の魔王を超えることなんだよねー?」

「そうしようと思ってる」

「「その前に、和解かい?」」

「……うん」

仲間が遠慮なく聞くと、オズワルドが悩ましげな顔で俯いた。

「これまで、俺が一方的に拗ねて、あんまりにもそっけない態度をとってたから。
あの人に酷いことしてたと思うし、それを謝って、その、精神的な溝を埋めていきたいな……って思う」

たどたどしいが前向きな言葉を口にしているオズワルドを、レナは微笑ましそうに見る。

(んー。オズくんが思春期拗らせてたのもあるけど……魔王様の、我が道を行きすきる性格が誤解を招いてたところも大きいと思うよ?
心配してる溝は、ほぼないんじゃないかな。
きっとオズくんが歩み寄りさえすれば、親子関係はすぐに円満になるはず)

オズワルドがうんうん唸って真剣に考えを整理しているため、仲間たちは余計な口を挟まなかったが、こっそりと苦笑した。

少しだけ、部屋に沈黙が訪れる。

ーーオズワルドの思考が煮詰まってきたらしい。
ふるふると頭を振ってため息をつき、縋るようにレナを見た。

「……どうしたらいいだろう? 助言、くれる? 主さん」

「オズくんよくできました! 従魔のみんなに頼られるの、私大好きなの」

レナがにこっと笑い、一口サイズにカットした火トカゲの肉をフォークで刺して、オズワルドの口元に持っていく。

大人びた赤葡萄ソースと肉の脂がいい香りを醸し出していて、オズワルドは思わず口を開いた。
肉を噛み締めると、豊かな味が舌を喜ばせる。

「このステーキ、本当に美味しいよねぇ。
提案なんだけど……オズくんお手製の料理をお父さんに振る舞って、気持ちを伝えるのはどうかな?
私たちみんなが考えて捻出した言葉よりも、ストレートに伝わると思うんだ」

オズワルドは面食らったように目を丸くすると、肉をごくっと飲み込んで、納得したらしく首を縦にふる。

「なるほど。魔王ドグマは話を独自解釈しすぎる悪癖があるし、まずは本能に訴えかけるのが正解か。
主さん、さすが魔物使いだけあって獣の扱い方をよく分かってるな。
俺もそうするのがいいって思ったよ」

「んっ!? そ、そんな風に表現されるとちょっと気まずいなぁ。
獣……うん、まぁそうだよね……おっきい3頭わんわんだよね。
まあそれはともかく、手作り料理と、あとオズくんが考えた仲直りの一言があれば完璧だよ。
大丈夫、きっと上手くいくから」

上手くいくよう政府関係者に相談して(圧力かけて)おくから!!
レナの内心はヤル気で満ちている。

「…………一言か。考えとく」

オズワルドは眉根を寄せると、照れくさいのを誤魔化すようにふいっと横を向いてしまった。
しかし尻尾がご機嫌に揺れているので、感情が丸わかりである。

クーイズが尻尾にじゃれて遊び始めてしまったので、慌てて手で掴んで静止させようとしている。
ルーカが「感情ダダ漏れになる気苦労、分かるよ」と生暖かくオズワルドを見た。

「父親のこと、魔王ドグマって呼ぶのは改めないの?」

シュシュがオズワルドに尋ねる。

「ええ……もう俺も子犬じゃないし、今更、父様なんて呼ぶのは気恥ずかしいって」

(オズワルドは父様って呼んでたんだ。やっぱりお坊ちゃんなんだなぁ)

全員がどことなくにんまり顔になる。
ゆるいレナパーティにいると、うっかりが多くなるのだ。

発言を振り返ったオズワルドはうっかりを自覚して、恥ずかしさのあまり机に突っ伏して撃沈した。

「じゃ、ここらでご主人様の幸運の出番かな!」

<いよーーおっ! 待ってました!>

レナがパン! と軽快に手を叩く。

「普段は極端な運に悩まされることも多いから……必要な時には、役立ってもらわなくちゃね?
シュシュも一緒にやってみる?」

レナがシュシュにこしょこしょと耳打ちする。
主人を至近距離に感じたシュシュの表情がとろけている……のは蛇足か。

二人で「せーの!」とタイミングを合わせて願う。

「「オズワルドが魔王ドグマさんにプレゼントするための、とっておきの美味しい食材に出会いたいですー!
私たちが狩れるくらいの強さのレア魔物との出会い、よろしくお願いします!」」

▽よろしい、受け賜(たまわ)った!

シュシュの額のカーバンクルがきらりと光る。

ーーそれにしても、ただ成果を望むだけではなく危険回避のための一節を加えるなんて、レナパーティもずいぶんと幸運の使い方が上手くなったものだ。
ほどよい食材採取イベントが起こるのではないだろうか。
なおラナシュ基準でほどいいのだ、と言っておく。

<マスター♡ 今から実体化するので、私にもあーんして下さいませ♡>

数分しか実体化できないためタイミングを計っていたキラがここぞと主張すると、

「「いいなーいいなー!」」

幼児たちが自分のお皿を持って、レナの元に集い始める。
レナが忙しそうにみんなの世話を焼く。

一足早く食事を終えたオズワルドはメモ用紙を取り出して、赤の祝福筆記用具[無限芯・|如意棒(シャープペンシル)]で相談したことを忘れないように書いておいた。

・高級食材を狩る。
・手料理を作る。
・魔王ドグマに謝る(一言の内容……)

一言の内容、の横は空白になっていて、まだ言葉が決まっていない。
簡単に「ごめん」ではしっくりこないのだろう。

<ただ自分で食べるだけよりも、マスターに食べさせて貰えると数億倍美味しいですぅ♡♡>

目の中にハートマークを投影しているキラの言葉を聞いて、オズワルドが「あーんして食べさせる……かも」とメモ用紙に追記したため、ルーカが必死で笑いをこらえることになった。

デザートのミニアイスクリームパフェを食べて、お風呂に入る。
魔物姿がかなり大きくなったオズワルドは、今日はヒト型のまま、川の字の仲間入りをして眠った。
ずいぶん横幅がある川だなぁ、とシュシュに腕枕をしたレナがくすくす笑った。

***

翌日。
朝から騒いで目がぱっちり覚めたレナパーティは、冒険者ギルド・シヴァガン王国本部に向かう。
ここは初めて訪れる。

「なんだか……悪の総本山みたいだなー」

建物を見上げたレナが小声で言った。

どっしりそびえる黒壁の建物には、巨大な白骨が巻きついている。個性的すぎる外観だ。
歴戦の魔人族冒険者が騒々しく玄関を出入りする様はド迫力である。

シヴァガン王都にはいくつかの冒険者ギルド支部が存在するため、目立ちたくない(半分諦めている)レナたちはこれまで街の隅の小さめの施設を訪れていた。
しかし今回は、高級食材採取クエストに出会うために、王都中央区間まで足を伸ばしたのだ。

ルーカがちらりとキラを見る。

<〜ルーカティアス先生の白骨解説〜
“この冒険者ギルドには、白骨による強力な結界が施されています。
荒っぽい冒険者が暴れても建物が傷まないように、そしていざという時に安全な避難施設としての利用を想定しているためです。
この白骨は古代白竜エンシェントドラゴンのもの。
竜人一族の家宝なのですが、シヴァガン王国建国の際に、竜人族の内政参入権を得るため、この白骨を代々竜人族が管理するという約束のもとに、竜の里からこの場に移しました。
所有権は竜人族の族長です。
シヴァガン王国冒険者ギルド本部のトップは、竜人族の副族長のようです”>

キラのナレーションが終わると、レナたちは解説者二人にささやかな拍手を送った。
白骨はただの独創的な飾りではなかったのだ。

シヴァガン王国内政に携わり、強い発言権を持つ魔物一族は、このように特別な宝物やサービスの提供をしている。

竜人族であれば古代白竜の骨の加護、ケットシー族は王国を覆う結界の管理、淫魔族によるお宿♡での情報収集サービス♡、樹人族による豊かな緑の生育、影蜘蛛一族による一歩引いた情報整理(魔物のほとんどは細やかな情報整理が苦手なためまとめ役が必須。そして影蜘蛛が権力を握りすぎないよう、魔王になることは禁止されている)……など。

レナたちはギルド内に足を踏み入れた。

一見か弱そうな駆け出しパーティは少し注目されたが、先輩らに絡まれないか……という心配はこの場では無用だと言っておこう。
気配を消した護衛部隊がレナたちの周囲に目を光らせている。
好奇の目でレナパーティを眺めて近付こうとした者はピンポイントで殺気を向けられて、ゾクリと背中に冷や汗をかいて離れていった。

レナたちは快適にクエストボードを眺める。
初級クエストから上級クエストまで、それぞれランク別に掲載されている。
依頼数は膨大だ。

「難易度別に掲載分類してくれてるけど……この中からピッタリ望みの依頼を探すのって大変そうだなぁ」

レナが言うと、オズワルドが返事をする。

「魔人族はヒト族よりも目がいい奴が多いから。
例えば200リルの依頼でGランク、とか望んだ単語を探しやすいんだよ。
だからこの掲載方法で問題ないってこと」

「なるほど。じゃあ、よいこの従魔のみんなー、良い食材に出会えそうなクエストを探してくれるかなっ?」

『『『おまかせあれー!』』』

「了解。任せて」

冒険者ギルドに入る前に、従魔たちは魔物姿に戻っている。
レナの腕の中や、肩の上から目をこらしてクエストボードを眺め始めた。

ルーカとオズワルドはヒト型で主人の隣に立ち、同じように依頼を探す。

○キノコ採取 (カフェ・ヤミマニア)
……準レア種・ブラックバニラ茸の納品を求ム。
基準値の大きさに達したものを、一つ100リルで買い取り。採取したキノコが上質なら、金額の上乗せアリ。
<特徴:大木の根元に群生している、ハートの傘を持つ小さなキノコ。甘い香りが目印>

○|陸箱亀(リクハコガメ)の討伐(冒険者ギルド)
……Fランク魔物、陸箱亀の甲羅の納品を求ム。
基準値の大きさに達したものを、一つ250リルで買い取り。甲羅の大きさによって金額の上乗せアリ。
<特徴:真四角の甲羅を持つ陸亀。岩場を好み、赤土を食べて甲羅を増強する。噛む力が強いため注意>
<※甲羅が真っ白で模様がない、子亀の討伐は禁止>

目に留まったクエスト用紙を眺めて、レナが眉をハの字にする。

(うーん……低級クエストの食材採取、魔物狩猟だとレア食材ゲットは難しそう。
たまたま散策中にレア魔物に遭遇するパターンもあるけど、王都周辺の草原や森林に出現するレア魔物にはだいたい遭遇済みなんだよねー。
あ。
いっそ珍しい場所へ行けるクエストとかの方がいいのかな?
シヴァガン王国周辺の土地って、冒険者の立ち入り制限がある場所がそれなりに多いけど、クエストによっては特別滞在許可が出るみたい。
そういう所には、私たちがまだ出会ってないレア魔物がいそう)

レナがクエストボードに沿って視線を動かす。

○特別水域A区の清掃(シヴァガン政府・環境部)
……苔のついた玉石の洗浄作業員を求ム。
緑魔法[クリーン]を覚えている者、もしくは水中で行動できる魔物が望ましい。
勤務時間は昼間4時間、間に休憩1時間。
1日の賃金は500リル。
<魔物と敵対した場合、討伐可能。故意の乱獲はペナルティ>

○特別森林域H区の有害植物駆除(シヴァガン政府・環境部)
……外来種・ドクダミマダムの討伐を求ム。
ただし森林火災を防ぐため、赤魔法の使用禁止。
ドクダミマダム討伐後、周辺のドクダミを除去するための専用薬剤の提供アリ。
マダムの核一つにつき400リル。

<特徴:高さ1メートルほどのドクダミの魔物植物。歩いた後にドクダミの種をまいていく。花を全て切り取ると核を残して死亡。核が地面に埋まるとまた根をはるので、素早く回収すること>
<他の魔物と敵対した場合、討伐可能。故意の乱獲はペナルティ>

(うう、こういうのが気になるけど、受託するには私たちの冒険者ランクが足りないな。
王国内の訓練場でばっかりお稽古してて、冒険者ギルドはあんまり利用してなかったからね……。
外に狩りに行った時に、常時採取クエスト対象の薬草やキノコをついでに採っていって、大量納品してたくらいだったっけ。
もっと狩猟クエストをこなして、ランクアップしておけばよかった!
私が今、Fランクだけど、従魔たちはそれ以上の実力があると思うし)

レナは自分のギルドカードの情報を思い出す。

そして、まだ幼いが随分強くなった従魔たちを、誇らしげに見下ろした。

溶解力が上がったスライム、宝飾技術も取得し始めたフェアリー、夢吐きでたくさんのものを具現化してくれるモフモフヒツジ、情報収集スペシャリストの金色猫、愛らしさを増したウサギ、白炎を扱うオオカミ、無限容量のミミック。
遠方を活動拠点としているモスラも<ラビリンス:青の秘洞>でシャボンドラゴンと戦闘訓練し、レベルアップを果たしている。

主人からの熱い視線を感じた従魔は、なんとなく察して得意げな表情になった。
いっそう真剣に依頼を選別し始める。

シュシュの額のカーバンクルも嬉しそうに光る。

(いやー、レナパーティの皆さん見てると癒されるなー。みんな本当に仲良しだよね)

(平和だなぁ)

護衛部隊のリーカとドリュー、クドライヤがのほほんと視線を交わした。
和みながらレナパーティを眺めているが……幸運フルブーストがかかっているレナたちが平穏に1日を過ごすはずがない。
魔物使い一同の見守りはハードな任務なのである。

(ん?)

レナパーティの背後に近寄る男性を見て、護衛部隊が目を丸くした。
今回ばかりは威嚇をせず、慎重に展開を見守る。

<マスター・レナ。振り返って下さいませ>

「?」

キラの唐突な言葉にレナが振り返ると、背の高い男性が立っている。
距離は少し離れているが、あからさまにレナを眺めていた。
なぜか向こうも驚いた顔をしている。

「……こんにちは」

レナがとりあえず会釈すると、向こうは苦笑した。

「まいったな。完全に気配を消してたのに、まさか振り向かれるとは思わなかった」

「そうだったんですか……? えっと、私たち今日は予定があるので。失礼します」

レナは本日のクエスト探しをあっさり諦めて、早々と踵を返す。
嫌な予感しかしない。

正面に男性が素早く回り込んだ。

(……用件があるんだろうなぁ。やだー。
だって美形の魔人族ってことはレア種族でしょ。立派な角、おでこに少し鱗があるのはワイバーンのラギアさんに似てる……けど多分上位種族かな。仕立てのいい民族衣装に、ギルド所属の証のバッヂ。
ーー冒険者ギルド本部での遭遇。
だいたいの予想はつくけど。
私のトラブル体質、仕事しすぎじゃないかな?)

レナは観念して、困った顔で男性を見上げた。
オズワルドがレナの半歩前に進み、男性と対峙する。

「そんなにあからさまに顔を顰めないでくれよ、オズワルド……傷つくぞ?
主人のお嬢ちゃんの必死の笑顔も台無しになるじゃないか?
今のお前は従魔なんだろう。主人の頑張りをフォローしてあげるといい」

どうやらオズワルドは彼と知り合いらしい。

レナに抱えられている従魔たちももちろん警戒中だ。
ルーカが目を細めて男性を視て、キラの分身体にそっと視線を送り(厄介なことになったね。でもレナに先手を取らせたのは正解。どちらにせよ捕まっていただろうから、それならパーティの評価を上げておいた方がいい)との言葉を送った。

「こんにちは。で、さよならでいいか?」

オズワルドが聞くと、

「良くないんだな、それがさ。
ここに今日君らが来るとは予想外だったが、どちらにせよ後で訪問をするつもりだったから諦めてくれ」

男性が「応接間に行こう」と提案する。

レナパーティの動向に周囲からの注目が集まる。

「君たちは、リンリンバチの巣を綺麗な状態で納品したんだろう?
その方法について聞かせてほしいと思って、冒険者ギルドは交渉を企んでいるのさ。
あれは貴重な薬の材料になるからな」

男性が片目をつむってみせた。
それが本題ではないだろうが……冒険者たちの目くらましにはなるのかもしれない。

レナたちは緊張しながら、この場で目立ち続けるよりはマシだからと、カウンターの奥の部屋に移動する。

有名人の男性が一組の冒険者パーティに声をかけたことで、ギルド内は一時ざわついたが、壊れやすく燃えやすいリンリンバチの巣を綺麗に回収できる方法は重要だろう、と素材の希少性をよく知る上位冒険者が発言したので、レナパーティについての雑談はしばらくしたらおさまった。
クマの獣人が羨ましそうに喉を鳴らした。

***

冒険者ギルドの最上位応接室に入ると、実に見覚えのある人々が顔を揃えている。
レナが遠い目になる。

「わあ……お久しぶりです、サディス宰相……ロベルトさんとレグルスさんは今朝ぶりですねぇ……」

乾いた声の挨拶に、王国の要人たちは少し居心地が悪そうな顔になる。
ええい、それくらい我慢してもらおう。

一体、どのような会合に招かれたというのだろうか?
レナを励ますように、従魔たちが身体をすり寄せた。

宰相は堅苦しく、ロベルトは苦笑いしながら、レグルスは緊張した様子で挨拶を返す。

席に着くよう促されて、レナはドギマギしながら高級ソファにもふっと座る。
まずレナが腰を下ろし、それから従魔たちがちょこんと着席した。

(わあ、さすが国家の要人が座るような格式の高い応接間のソファ! でもハーくんの方がもーーっと座り心地いいんだからね!)

愛しの従魔を脳内でベタ褒めしたレナは、ある程度心を鎮めることに成功した。
それによりルーカの心が大荒れである。

レナたちを半ば強制的にここに案内した男性が居住まいを正して、まっすぐに全員を見る。

「唐突に呼び止めてしまってすまなかったな。自己紹介をしよう。
俺はグレイツ・ハーヴァという。
この冒険者ギルドのギルド長を務めている、竜人族の副族長だ。竜種はエメラルドドラゴン。
……っと、その反応を見るともう予想済みだったか?
察しがいいね、魔物たちのご主人様」

ギルド長がちゃかして言うが、

「ズバリ主題を聞きたいです」

レナがざくっと切り込む。
長々前置きされるほど、胃が痛くなってなにも良いことはないのだ。

宰相がピクリと眉を動かすと、書面を取り出してレナに見える位置に起き、静かな声で話した。

「藤堂レナ様ならびに従魔の皆様。
貴方がたに、シヴァガン王国政府直々の指名依頼を打診申し上げます。
ラミアの里の姫君が、例の眠りの状態異常事件により衰弱していて、大変危険な状況ということです。
今朝、シヴァガン王国に救援要請が届きました。
派遣人員の選別をした結果……皆様の協力が最適であると判断致しました」

気絶しなかった自分を褒めてやりたい、とレナは後に愚痴った。

「……私たちに求められている仕事内容の具体的な提示と、対価について、教えて頂けますか……」

頑張ったご主人様は、後でたくさん従魔たちに褒められて甘々に癒されるのだと言っておこう。

 

 

 

 

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