142:聖・ジャッジメント(シュシュの道)

シュシュの道は障害の多い、曲がりくねった愛の棘(イバラ)道。

白い小石がそこかしこに転がっているデコボコした道を、半獣人の足で歩いていく。道の両脇には棘の多い野薔薇が咲いていた。
野薔薇のツルが道に這っているという状況をただ荒れた道と表現するのはシュシュ的に悔しかったらしく、「赤薔薇は愛を表すって、ご主人様が言ってた」と小さな赤い花を愛でて心を奮い立たせながら歩く。
歩き辛そうにぴょんぴょんとステップを踏みながら、それでも前に進んでいる。

(だって……あの空間には戻れないもん。後ろから崩れてきてるんだよね)

シュシュが後ろを振り返ると、通ってきた道はもう半分ほどが消えている。
もしこの道の下に落ちちゃったらどうなるんだろう、と恐れて、追い立てられるように足を踏み出すと、小さなトゲがシュシュの足の裏に刺さった。

(痛っ! でも、これくらいの痛みなんてたくさん味わってきたから平気……痛みにも、虚しさにも、空腹にも、負けないんだから)

シュシュのお腹がきゅぅ〜と小さく鳴った。
随分と長い間、歩いていたのだ。

道は坂にはなっておらず平坦だが、あまりにも長い。オズワルドの道よりも。
辺りは薄暗く、一人きりで歩むシュシュの精神が次第に消耗してくる。

やがて黒い靄(モヤ)が濃い箇所にさしかかる。
すると、シュシュとそっくりの女の子が出現した。

ひゅっとシュシュが息を飲むと、目の前の女の子はわんわんと泣き出す。

『いやぁ〜! シュシュよりもよくできる子ばっかりで、怖い。愛しのご主人様の愛情を取られちゃう。やだ、やだ! みんな嫌い』

(違うっ! 仲魔はみんな大好き。シュシュに優しくしてくれる、大切な存在。そんな風に言わないで)

シュシュががるるっと噛み付こうとすると、隣にまた一人の女の子が現れた。
コレも、姿はシュシュを模(かたど)っている。

『大切な存在なんて言うのに喧嘩したんだ。ワガママを言って傷付けたよね』

(っ!)

『実力があるのに努力しようとしないのが不愉快だ、なんて。オズワルドが言うように、シュシュって本当に自分勝手。嫌な子。嫌♪ 嫌♪』

(やめてよ……!)

『そんな子はきっと、みんなに愛してもらえないんだ。だから、優しいレナ女王様に縋らなくちゃ。
寂しいのは嫌だよって泣いて、見た目を可愛く飾って、彼女に贈られた服を纏って、こんなにも好きなんだよって見せつけて……手を伸ばしてもらうの! そして繋がりを得たら、もう、絶対に離さない』

『『『ね? そうしようよ』』』

女の子たちかシュシュにささやく。
見せつけるように涙を溢れさせながら。

整った容姿の女の子たちがさめざめと泣く姿は、とても同情を誘う。
貴方だけが欲しいの、と大きな瞳で痛烈に訴えている。

(シュシュは……こんな顔で、ご主人様を見てたの?)

シュシュが自分の頬を手でぐにぐに触った。
辛辣な言葉を突きつけてくる彼女たちと、同じ表情になりたくないと思ったのだ。

『オズワルドはいいな、こんな風に縋らなくても全部持ってるんだもん、いいなぁ、父親の腕の中でもご主人様の膝の上でも、優しさに包まれてぬくぬく過ごしてればいいんだから。
成功を約束された甘えたがり屋ね』

そう言った女の子の顔は、激しい嫉妬を滲ませている。

(オズワルドのことは……こんな顔で見ていたの……? そんな表情で見られるのは嫌な気持ちになるよ……。
でも、シュシュ……オズワルドによく似たこと、言ってしまった。
とても辛そうな顔をさせた。
オズワルドは自分も努力してたんだって、言ってたよね。シュシュが知らないだけなんだって。
……オズワルド、とても戦闘慣れしてる。凄い実力者)

シュシュはオズワルドが鍛錬場で初めて見せた戦闘を思い出した。
多彩な技で危なげなく罠を突破する姿は、立派で輝いて見えた。

(でも、オズワルドだって生まれた時にはレベル1だったんだよね。……自分で戦ってレベルアップしたんだ。
誰かに代わってもらうことなんてできないんだから。
きっと、本人が言った通りすごく頑張ってた。
周りからの期待も背負いきって、あそこまでの存在になった)

『『『それなのに、シュシュは嫌な子だね! きっと、もうみんなに嫌われてるよ? ご主人様だけが頼りなの』』』

(う。耳が痛くて、壊れそうだよぉ……。こんな時、ご主人様はどうしたらいいって教えてくれたっけ……?)

シュシュは思わずきつく耳を塞いで、崩れそうな心を守りながら、必死で考える。

脳内で、レナの桃色の唇が優しい弧を描いてシュシュを導く。

ーー”耳は塞がないで、全て聞くの。まず知らないと、正常に判断することもできないから。それから、しっかり聞きわける。嘘のイメージじゃなく、間違いなく共感できる部分ほど痛いんだよ。耳が痛いっていうのは、そういうこと。頑張って、シュシュ”

……シュシュはなんとか呼吸を整えて、そっと耳から手を離した。
力を入れすぎて白くなっていた手と、押さえつけられていた耳に、やっと血が巡る。

他の従魔たちが主人に向ける愛情に負けないくらい、シュシュだってレナをしっかりと見てきている。

次は、今のシュシュにどう言ってくれるだろう、とレナになったつもりで考えた。

(……きっと、こう諭してくれるはず。
”自分の嫌なところも受け入れてあげよう。そしてそんな自分に、教えてあげよう。素敵な現実を”)

素敵な現実。
嫌な部分があったって、今のご主人様は優しくシュシュを愛してくれているということ。仲魔に見捨てられないという安心感。その環境に応えようと励む自分。頑張っただけ強くなれる、魔物として高みを目指せるだけの力も与えられている。
とても恵まれている。

従魔同士の優劣なんて、穿った見方をしてしまったのはどうしてなの……? とあまりに不思議でシュシュは首を傾げた。
そんなの、今の幸せを運んできてくれた運命にあまりに失礼ではないか。

胸がズキズキしていて、シュシュは自分自身の暗い部分を知る。
でもこの痛みを乗り越えられないような弱いウサギではない。

うるんだ赤い瞳に、強い光が宿る。

(貴方たち)

『『『……何?』』』

目の前の女の子たちが、怪訝な顔でシュシュを見る。
頬は大粒の涙で濡れている。
シュシュはそれを柔らかい毛に覆われた手でぬぐってあげた。

(悲しい涙はもう流さないって、シュシュは今、決めたよ。だからそんなに情けない顔してないで。映し身なんでしょ? こうやって、笑うの!)

シュシュはにいっと思い切り笑ってみせた。
頬が持ち上がり、目にためていた涙がポロポロ溢れる。

『貴方も涙が流れてるじゃない』

(これは前向きな気持ちで流れた涙だからセーフ)

『屁理屈!』

女の子たちが唖然とした後、唇を尖らせる。

『……。シュシュたちのこと、今、映し身って言った?』

(うん。確かに、みんなはシュシュが口にしてしまった言葉そのものだから。心当たりがあるから……きちんと受け入れるよ。
貴方たちはシュシュの一部)

『…………』

(だから泣き止んだら、一緒に強くなるっきゃない。オズワルドにも謝ろう。ね!)

『『『ちょっと』』』

強引、とブーイングが起きた。

しかし持ち直したシュシュはめげない。
ぐっと拳を握って、天に向かって突き上げる。

(シュシュにはネガティブな部分も、ポジティブな部分もある。とっても面倒くさい子だと思う。
でも一生懸命トレーニングしたり、たくさんご飯を食べられたり、笑顔が可愛かったりって、良いところがあるって仲魔たちが言ってくれたのを覚えてる!
全部合わせてシュシュになるんだもん。
貴方たちも、シュシュの明るい面を知って。全部一緒に理解してほしい)

『自分で自分を可愛いって言った……』

(認めてくれる人がいるから、シュシュは自分を好きになれる!)

黒い靄の女の子たちは不愉快そうに顔を歪めている。
シュシュがあまりにも吹っ切れた顔をしているので、苛々しているようだ。

彼女たちの役目は、シュシュを不安にさせて悩ませることなのだから。
いじわるな表情でシュシュを見る。

『『『私たちはそんなシュシュなんて認めない、って言ったら?』』』

(攫(さら)って、一緒に明るい世界に連れて行くまで! だって、貴方たちとは一心同体なんだもん)

シュシュが目をギランと獰猛に光らせて、ぐぐっと脚に力を込めた!

(大丈夫、一緒に行こう)

ただならぬ気配に、女の子たちが顔を引きつらせる。
彼女たちにとって嫌な予感がしたので、離れていこうとした。

(んー、後ろから道がなくなって行くから丁度良いかも。ラナシュ世界よ、この判定はセーフでよろしく! スキル[逃げ足]っ)

シュシュの額のカーバンクルが光った!
とっておきの幸運の証だ。

シュシュは迫り来る落下地点から|逃げる(・・・)ため、駆け出す!

強烈なスタートダッシュを決め際に、腕を大きく広げて、女の子たち全員をまとめて掻っ攫った!
さいわいなことに彼女たちの創りは靄らしく、重さを感じない。
シュシュの拘束から逃れようと女の子たちがもがき、喚(わめ)く。
さらに駆ける速度を上げることで、シュシュは暗い自分たちを黙らせた。

(シュシュはもう何もできないウサギじゃないよ。ご主人様たちが変えてくれたんだ。だからこんなに早く走れるでしょ? 思い知ってーーシュシュたち!)

野薔薇を器用に避けて走り抜ける、その動きはどんどんと洗練されていく。
背中に翼でも生えているように軽やかだ。

異常なまでの成長率。
シュシュの鼓動が早くなり、ドキドキが頬をふんわりした赤に色付かせる。

(ーーオズワルド。たくさん酷いことを言ったから、許してもらえるかは分からないけど、きちんと頭を下げてごめんって言うね。
仲直り、できたらいいなぁ。
もっとあの子のことも知りたい。知らなくちゃ。
シュシュたちと出会う前に、たくさん努力してたんだよね?)

ああ本当に知るって大切なんだ、とシュシュは走りながら思った。
独りよがりな自分は変えたいな、と。

(喧嘩してこの空間に迷い込む前にオズワルドが言いかけてたこと、どうか全部聞かせて欲しい。
仲魔に本心を語ってもらえるような素敵な人物に成長していきたいなぁ。
ご主人様みたいな、愛に溢れた女性に憧れる)

自分の将来の理想像を胸に抱く。

薄暗い思い出が巡っていた道は、進んでいくほどに明るく光が差し込んでくる。
光を浴びた女の子たちは、シュシュの腕に大人しく身を委ねるようになっていた。

シュシュが背後を振り返るとやはり道が崩れてきているので、速度を緩めずに走り続ける。

(!?)

前方の道が二手に分かれている。
片方は白く清らかで光が差し込む道。
もう片方は、深紅色に染まった道だ。

シュシュの心に迷いが生じた。
腕の中の女の子たちがピクリと反応し、薄っぺらい笑みを浮かべる。

白い道の先はまだ見えていないが、深紅色の道には赤いドレスを着た女王様が立っている。
シュシュの鼓動が一瞬止まる。

『シュシュ。こっちへいらっしゃいな』

(ーーーー!)

甘い声。シュシュは分岐点に向かって駆ける速度を緩めながら、必死で彼女の言葉を拾う。
口を挟まず、まず”知ろう”としている。

『よく頑張ったわね! 貴方の女王様が抱きしめて癒してあげるわ。
もう、ここでずっと休んでいいのよ。そうしたら辛いことなんて何もないわ。私が一緒に過ごして、シュシュを誰よりも可愛がってあげるからね』

大好きよ、と深紅色の唇が告げた。
シュシュの目が釘付けになる。

深紅色の道に立つ、レナ女王様がシュシュを抱き留めようと、腕を広げて美しい笑顔を浮かべた。

『『『愛して!!』』』

シュシュの腕の中の女の子たちが一斉に叫ぶ。

シュシュはーー 深紅色の道に駆け込んだ。

その判断には一切の迷いがない。
そして……

(スキル[衝撃覇]、[衝撃覇]、[衝撃覇]、覇(は)あああぁッ! [スピン・キック]ぅ!!)

ありったけの攻撃を靄(モヤ)でできたレナ女王様にぶち込む!

絶え間ないスキル攻撃を受けて、シュシュが胸を強く蹴った瞬間に、靄(モヤ)が拡散してレナ女王様は消えてしまった……。
シュシュの腕の中にいる女の子たちが愕然と顎を落としている。

シュシュが、ガッガッ、と足の爪で地面を強く引っ掻く。
わなわなと肩を震わせている。

(なんッて……生ぬるい変化をしているのッ……!? 許せない。
ご主人様が笑う時の、目の弧の描き方が全然違う。もっとゆっくり優雅に。
従魔に笑いかける時には、口角はもう2ミリ上がる。より慈しみが溢れるように。
頬と唇は淡い桃色、くすんだ深紅色で表現するのやめて!
つまり……偽物のその姿は、万死に値する)

シュシュは恐るべき般若を背負いながら、ドスの利いた声で告げて、ビッと親指を下に向けた。
(通話中にやらかしていたパトリシアが後で怒られる)

女の子たちは、レナ女王様ガチ勢のシュシュにドン引きしている。

シュシュは言葉を続ける。しだいに、声に愛が溢れていく。

(……それに、ご主人様は、強くなりたいっていうシュシュの志(こころざし)を応援してくれているから。
疲れていたら、癒して立ち上がるまで待ってくれるけど、途中で停滞しなさいなんて言わないの。
挫けそうなら寄り添って、シュシュたちの話をじっくり聞いて、また本来の道に導いてくれるような人なんだ。
だから従魔たちは、レナ女王様を慕ってついていくの!)

『……』

(さあ行くよ。シュシュたち。ここに留まっているわけにはいかないから。後ろが崩れてきてるもん)

シュシュは迷いなく、深紅色の道に背を向ける。[ステップ]で羽根耳をそよがせてジャンプし、元の道に戻る。

女の子たちはもう抵抗をしなかった。
黙って、シュシュに抱かれている。

シュシュの周囲に光の羽根が舞う。
その羽根が身体に触れるたびに、心の闇が払われ、清められていく。

シュシュが純白の扉をくぐり、受け皿の空間に舞いおりるように辿り着いた。
ここには優しい思い出たちが巡っている。

『『『ありがとう……連れてきてくれて』』』

(うん)

女の子たちはシュシュをふんわりと抱きしめた。
スッと、シュシュの胸の中に吸い込まれるように消えていった。

(次に貴方たちを抱きしめてくれるのは、本物の愛しいご主人様だよ。楽しみだね)

シュシュは改めて、自分を受け入れて愛すること、仲魔たちを信じて仲良くすることを誓う。

もう、闇に取り入られることはないだろう。
額のカーバンクルがキラキラと輝いていて、シュシュを祝福している。

(ご主人様!)

シュシュが愛らしい声で呼ぶと、応えるように意識が浮上した。

***

レナ女王様の腕の中で、気絶していたシュシュとオズワルドが目覚める。
パーティの仲魔と護衛部隊が、ハッと注目した。

「おはよう。二人とも、可愛い寝顔だったわ。気持ちはリフレッシュできた?」

レナの声はどこまでも優しい。
ああ日常だ、とシュシュとオズワルドは感じた。

目に映る赤色に癒されて、ほうっと安心したように吐息を漏らす。

まだ夢の中にいるようにとろんとした半眼で、レナに頬をすり寄せた。
あらあら、とレナが微笑む。

しばらく三人は[サンクチュアリ]の中で穏やかに寄り添い続けた。

「いいなぁ」と幼い従魔たちが羨ましそうに呟いたが、「今だけは我慢しなきゃいけないね」とルーカにもっともな表現で諭されたので、みんなで手を繋いで物足りなさをごまかしながら、状況が動くのを待った。
今だけ我慢、あとでいっぱい甘えよう、と企みながら。

まずオズワルドが、しゃがんだレナの肩に預けていた頭を起こした。

「……主さんごめん、頭重かっただろ。もう、俺は大丈夫。ありがと」

オズワルドの犬耳はピンと立っていて、顔色も良く、元気を取り戻しているように見える。
レナを映す金眼は澄んでいて、赤色が混ざり、今までで一番美しい。

オズワルドの「もう大丈夫」の言葉を信じたレナは、無理に拘束せず、まだすぐ近くにいるオズワルドの頭を撫でてあげた。
愛情は抵抗なく受け入れられる。

うっとりレナの匂いを嗅いでいたシュシュが、慌てて飛び起きた。

「あっ! あのね、シュシュも大丈夫。ご主人様に心も身体も癒してもらったから……吹っ切れたよ。
いつも、いっぱい抱きしめてくれてありがとう。
シュシュね、こうやって愛してもらうの大好き。
従魔仲魔とも一緒に、こうしていられるのがいいんだ……」

シュシュは少し緊張した声で最後の言葉を言って、オズワルドの服の裾をそっと摘んだ。
オズワルドは驚いた顔で、シュシュを見る。

「う。オズワルド、たくさん、ごめ……」

シュシュがまず、謝ろうとする。
オズワルドは落ち着いた様子で、その言葉を聞こうとしている。

仲直りできそうだな、とみんなが思った。

しかしシュシュがきちんと謝る前に、二人は苦悶の表情で頭を抱えてしまう。

「「う、うわあああああッ!?」」

従魔たちがルーカの尻尾を強く引っ張った。

「ねぇー! なにー、シュシュとオズワルド、どうしちゃったのー!? 苦しそうだよー」

「大丈夫、だよねっ……!?」

「「ルーカ、早くぱふぱふしてーーっ!」」

とばっちりを受けて悶絶しながら、ルーカが解説する。

「え、ええとね。光魔法[|聖(ホーリー)・ジャッジメント]の効果は覚えているかな?
”対象の魂を善悪の秤(はかり)で見定め、悪人寄りであれば裁くことができる。魂の秤を一時的に[善]に転じさせ、その状態で強制的にこれまでの自分の行いを振り返らせることにより、精神的な反省を促す”
……気絶している間に、シュシュとオズワルドは魂を完全に清められたんだよ。
きっと今はこれまでの自分自身の行動を振り返って、それぞれの『黒歴史』に苦しんでいるんじゃないかな?
もちろん二人は魂が黒い悪人ではないから、世界に裁かれたりはしないだろうけど」

<へぇへぇへぇへぇ!>

ここぞとばかりにキラが反応する。
常時レナパーティの動画撮影に余念がないキラも、この状況を記録するかは悩んでいるようだ。シュシュとオズワルドがあまりにかわいそうで。

黒歴史と直面している二人はガクガクと震えながら呟きを漏らす。

「俺はなんであんなに得意げに白々しい態度を取ってたんだ……!
ドグマは感情表現がド下手だけど息子想いなことも、俺がコンプレックスを持ってて拗ねてたことも、王宮のみんなは絶対に気付いてた。
今になって思えば、王宮を出る直前、俺を見る役員たちの視線は生温かかった。
……ただの反抗期の子ども扱いじゃないか。
”ドグマに人生をくれてやるつもりはない”? ……うわあああッ主さんたちの前で妙にカッコ付けてて、最悪……むしろドグマは俺を甘やかしまくってて魔物使いの選別までしてたのに……あの時の自分の口を塞いでやりたい」

<(その瞬間は記録しております)>

子犬ごときがマスター・レナに逆契約を仕掛けた瞬間がキラに激写されていないはずがなかった。
あの時は仲間ではなかったので、不敬な態度に怒っていたのだ。

「うううごめんなさいごめんなさい……ご主人様の洗濯前のバスローブにくるまって癒されたり、勝手に服を借りて着てみてレナ女王様ごっこしたり、こっそりローズミスリルのブレスレットにキスしたり、寝てるときにスリスリしたり、毎日の行動をノートにメモしてご主人様日誌書いてたのはシュシュです……楽しかった……でも一人でやりすぎた……反省してます。
今度からは従魔のみんなとちょっとずつ分け合うよ。
そうしたら異常感は薄れるし、楽しい気持ちは人数分の倍になってハッピーだもん」

シュシュの自白が相当ヤバイ。

<何も解決していませんね>

「「あのノート、シュシュのだったんだねぇ。従魔の誰のなんだろーって思ってたよ。レナのまつ毛の本数まで書いてあって、やっべーと思ったから著者探ししなかったけど」」

「みんなが著者である可能性はあったよねー。ボクも誰のだろーって思いながら読んでましたー。字が子どもっぽかったからー、ルーカかモスラは違うと思ってたけどー」

「隠し場所が……引き出しの、中だったから。甘かったね? シュシュ。実は、みんな見つけてたみたい」

「気付いてなかったのはレナだけだったよね。この場合は幸運値がシュシュのカーバンクルの方が優勢だったのか、ノートを見つけたレナが精神疲労しないように超幸運が気を利かせたのか。ちょっと興味深いから後で視てみよう」

もちろんオズワルドも引き出しをそっ閉じしていたと言っておく。

半獣人の姿でシュシュが語ってしまったので、護衛部隊の面々にも問題行動がバレてドン引きされてしまっている。

レナは嘆く二人を抱き寄せて、ひとまず[従魔回復]を施してあげた。

「顔色が悪いわ。二人とも、よく聞いて。
自分の過去と向き合うと、誰だって震えるものよ。そんな時には、貴方たちを愛する者を頼っていいの。
今の自分を支えてくれるのが誰か、分かっているでしょう?」

レナが腕の輪を狭めたので、シュシュとオズワルドの頭がこつんと当たる。

「あのっ。オズワルド……あのね……! 許してもらえるか、分からないけど、シュシュに謝らせてくれる?」

シュシュが早口で言った。
オズワルドはぐっと眉根を寄せる。

シュシュは「あの空間にいたシュシュのように縋るような顔になっていないか?」と心配になったが、ひたすら真剣にオズワルドを見つめる。

オズワルドはゆっくりと口を開いた。

「シュシュ。稽古の続きをしないか? ……魔物の姿で、全力(・・)で」

「!」

思わぬ申し出に、シュシュが固まる。

「もしも危ない状況になったら、ルーカに[サンクチュアリ]で止めてもらおう。主さんの[従順]でもいいし。
きっと、それが一番喧嘩のわだかまりが残らなくて、気持ちも晴れる方法だと思う。
……俺たちは、戦うことが好きだろ?」

オズワルドは自分自身をしっかりと受け入れている。
変わったのだ。
シュシュの気持ちがつられて昂ぶる。

「……うん……! シュシュ、戦闘して強くなることが好き。選択肢が増えるから。大切な人が困っている時にたくさん役立てるし、守れるもん!」

「シュシュのそういう考え方、いいと思う。
今の自分を磨こうと努力してるから、怠慢(たいまん)してた俺に思い切り怒ったのかもしれないな」

「……あれはシュシュが悪かった。あんな傷付けるための言葉を口にしちゃいけなかったのに。ごめんなさい。
この全力の戦闘で、オズワルドのことをもっと知れたらいいなと思う。
拳で語ろう。
貴方は大切な仲魔だから、分かりあいたいの」

「うん。……俺にとっても、その認識は同じなんだと思う。
本音……初めて、言えたから。
あのさ。本気でぶつかれば本能的に魂が通じあうもんらしいぞ。俺の父親の口癖だ」

「押忍っ!」

シュシュとオズワルドがニッと笑って、魔物型になった。
どちらの目も煌々と輝いている。

ロベルトが「仕方ないな」と頷いて、護衛部隊にアイコンタクトを取った。
リーカが第三の目を開眼させ、クドライヤは他の生物の乱入などがないように木の根を張り巡らせ警備を始める。

レナ女王様は、二人が腕の中から出る時に頭をそれぞれ擦り付けていった手のひらを見つめた。

そっと手を合わせてから、パンッと軽く鳴らす。
手袋が『ピチューーン!』と甲高い桃糸雀(ピチュリア)の声を響かせる。

「その方法、気分転換にとってもいいわね! 私の気分も良くしてくれるかしら? 可愛い子たち。とっておきの成長、期待してる」

レナが赤い鞭を地面に打ち付けた。

「スキル[鼓舞]!」

ありったけの魔力で支援されたシュシュとオズワルドは、ざわざわと毛を逆立たせる。

ハイヒールで立ち上がっていたレナがフワッと後ろに倒れこむと、凄まじい勢いでヒツジのハマルが滑り込んできてソファになる。
華やかに広がった赤いドレスのスカートが、薔薇の花のようだ。
「よくできました」と主人に撫でられると、ハマルの表情がふにゃーんととろけた。

「あー! いいなー」

仲魔たちも駆け寄ってきて、みんなでレナにくっ付きながら、ヒツジソファで観戦体勢になる。
レナはギルドカードを取り出し、シュシュとオズワルドにニッコリと笑いかけた。

((期待してる、か。応えてみせる!))

キラが<ダダダダダダダッ>と戦闘用ハイテンションBGMを響かせ始める。

<レディー……ファイッ!!>

羽根飛ビウサギとブラックドッグが地を蹴る!

▽Next! 超成長と仲直り

 

 

 

 

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