139:獣化訓練

しばらく追いかけっこを続けて、それなりに走れるようになったルーカネコ、シュシュ、ハマル。
ルーカは獣らしい四足歩行をほぼマスターし、それどころか雷を纏って[瞬発][サンクチュアリ]を駆使し、障害物の小岩を粉砕するほどの成長をみせている。
シュシュとハマルは膝までが完全に獣型に変化し、快適そうに小走りしていた。

しかし、慣れない体型での運動は負担が大きく、オズワルドとロベルトの組手稽古が終わる頃には、3名ともへろへろになって脚をなんとか動かしている状態に。

「ロベルト教官ー。あのー、ウチの子たちの追いかけっこ、もうそろそろ終わりにしてもいいのではないでしょうか?」

「そうしよう。クタクタで運動を続けても効率が悪いから、休憩を挟むべきだ。時間的に今日はもう稽古終了だな。
レナ様の具合も悪そうだが、もしやルーカの不安が脳内でアラームになっているためか?」

教官モードのロベルトはうっかり敬語を忘れている。

「そうでーす、頭痛いでーす……」

「分かった。終わろう」

レナの言葉にロベルトが答えて、チャンスとばかりに蹴りを放ってきたオズワルドに対応する。
上手い具合に蹴りを受け止めて、横蹴りでオズワルドを吹っ飛ばした。
オズワルドはくるりと空中回転して着地すると、「チッ」と舌打ちする。負けず嫌いな口元は笑みを刻んでいて、犬歯がぎらりと覗いた。

「続きはまた次回だ。オズワルド、とてもいい動きだった。今後に期待している」

ロベルトは生徒の戦闘に満足そうな様子を見せる。
褒められたオズワルドはこそばゆそうに横を向く。

「よし、ラストスパートだ。主人の懐まで全力で駆けろ! ルーカ、シュシュ、ハマル!」

「みんなぁー、ご主人様のところまでおいで! スキル[鼓舞]」

レナがバッと腕を広げて、従魔たちに笑顔を見せる。
すると少しだけ、脳内のアラーム音が小さくなった。

「「わーい! ごっ主人さまぁーー!」」

ーーと思ったら、アラームがガンガンガンガン鳴り響く!

シュシュとハマルが急加速し、ルーカを追いまくり始めたのだ!
ルーカも必死で駆ける!
レナは広げた腕はそのままに、涙目で警報音に耐えている。
子ネコと半獣人では一歩の差が大きく、主人愛を爆発させている追手の動きはとても機敏で追いつかれてしまいそう。
ルーカも不安になるはずだ。

疲れが溜まっていたシュシュとハマルは獣化魔力制御をミスして、ポンっと魔物型に戻ってしまった。
つまり、本来の身体でより早く駆けることができる!

『にゃーーーっ!』

『『待て待てーー!』』

まず、子ネコがレナの懐に飛び込んできた!
続いてシュシュ、ハマルと柔らかい突撃が続く。
さすがにレナに抱きつく前に速度調整していて、レナへの衝撃は軽いものだった。

「み、みんなお疲れ様。短期間ですごく成長したよね。頑張ってるところをちゃーんと見てたから、ご褒美に今夜はご馳走を作っちゃうよ!」

『ほんと! シュシュ、たっぷり野菜を食べたいのっ』

『えっとねー、チーズ料理がいいなー』

「ルーカさんは卵がいい?」

ぐったりしているルーカがこくこく頷いたのを確認して、アラームが収まったレナもホッと一息つく。
子ネコの喉元を指で撫でてあげると、反射的に心地好さそうに喉を鳴らして、身体の力を抜ききった。元が人でも、ネコの本能には逆らえなかったようだ。
随分可愛らしくなっちゃってー、とニコニコしながら、レナは全員をたくさん褒めた。
腕の中はモフモフパラダイス!

「オズくんもお疲れ様、戦闘すごかったねぇ。頼もしいよ。
そうだなー……ベーコンが好みかな!?」

「うん。それがいいと思ってた」

「ふっふっふ。それも夕飯の食材に加えよう」

レナが得意顔で手招きしたが、ロベルトの前で撫でくりまわされるのは恥ずかしいらしく、オズワルドは近寄ってこない。
さりげなくクーイズとリリーの後ろに移動すると、三人の背中をトンと押した。
代わりにレナのところに行ってきてあげて、と言わんばかりに。

「「レーナ! オズのことも撫でたいんでしょ? 我らからのプレゼントよー!」」

「おい待てクレハイズミそういうつもりで行動したんじゃなっ、こら!」

「クスクスッ」

グルリと回転したクーイズがぐいっとオズワルドの両腕を掴んで、数歩勢いよく後ずさり、後ろに倒れこんだ。
二人は途中でスライム姿に戻って、レナの腕の中にポヨヨンと落ちる。

このまま倒れるとオズワルドはレナに思い切りぶつかってしまうので、仕方なくブラックドッグ姿に戻った。
さらに[|重力操作(グラヴィティ)]で自分の体重を軽くする。

レナの腕の中は従魔でいっぱい。
肩には翅(ハネ)のように軽いリリーが座った。
胸ポケットにはパンドラミミック本体が収まっている。

「わーい! 全員集合だ。これぞご主人様の醍醐味だよねぇ。みんなを従えてる贅沢ぅ……モフモフぅ。
さて、夕飯のメニューが決まったよ。
お野菜たっぷりのチーズ鍋、シメにはパスタとベーコンを入れて卵を絡めて、カルボナーラにしましょう!」

『『ひゃあ、おっいしそーー!』』

はしゃいだクーイズが変形して、みんなを下からすくい上げてバスケット型になる。
ハマルもネコサイズに小さくなって、みんながすっぽりバスケットの中に収まった。
取っ手が付いているので、レナでもバスケットを楽々持ち上げることができる。
便利!
このままお宿♡まで運んで行けそうだ。
疲れているみんなを休ませてあげよう、とレナがバスケットを持って立ち上がる。

「あ。ロベルト教官。
ネコのルーカさんが、意思に関係なく途中でうっかりヒト型に戻ったりはしませんか?」

レナが尋ねると、つい想像してしまったロベルトが笑いを堪えるように咳払いした。
レナパーティといると不意打ちが多く、つい表情が緩みがちである。
モフモフが集うスライムバスケットの中でヒトに戻ってしまうとは、どんな罰ゲームだ! と内心で突っ込んでおいた。

「大丈夫だと思いますよ。そのような前例はないので。そうでなければ、獣人の露出事案が頻繁に起きて大変なことになります」

「そういえばそうですねぇ。良かったねルカにゃん! 安心して運ばれて下さい」

『……ありがとう、レナ。帰宅したらすぐ元の姿に戻っていいのかな?』

「えっ。金色子ネコのブラッシング楽しみにしてたのに……」

『そんなに残念そうな顔しないで。うーん。まあ、いいよ、ご主人様の仰せのままに』

「ありがとうございます!」

レナが嬉しそうなのでまあいっか、と考えてしまうルーカは、すっかり従魔が板についてきていた。

よくできました、とシュシュとハマルが毛づくろいのつもりでルーカネコの毛皮をひと舐めすると、あまりにも慣れない感覚にゾワゾワと尻尾を逆立ててしまう。
根っからの獣にはなりきれないようだ。
レナがふふふっと笑う。

「皆さん、今日はもうお帰りですか。魔物詰めのバスケットを持った少女が一人で街を歩くのは危ないので、送りましょう」

「ありがとうございます」

「これも仕事のうちですから。ゆったりと過ごせる、まあ好きな仕事です」

ロベルトにとっては仕事といえど休息のような時間でもあり、部下にとっては、湧き出る変質者を何人も捕縛しなければならないハードな任務となっているのだった。

「休憩してからはどう過ごすんですか?」

「ダンスです。踊り狂います」

キラの経験値を稼ぐのだ!
レベルアップした直後には実体化するために経験値を消費する、とレナパーティは決めている。キラと祝杯をあげるのである。

その日の夕方、レナたちはまたダンスを踊り、キラとともにチーズ鍋を囲むことができた。
フタを開けると、たっぷりの野菜とウインナーがチーズスープに溺れている!
口から湯気を逃しながらアツアツを食べると、ほっぺまでとろーりととろけてしまいそう。クーイズは物理的に頬が溶ける演出をしてみせた。

<美味しい! 三億点!>

「キラの口にあって良かったよ。これからたくさん美味しいものを知っていこうね」

食べ物を口にする時だけ実体化し、キラは小刻みに食事を楽しむ。
仲間と味覚を共有できて嬉しそうだ。
わいわいと賑やかに、締めのカルボナーラもあっという間に食べきってしまった。
とても幸せな気持ちでみんなは寝床についた。

***

獣人たちの戦闘稽古、リリーのアクセサリーレッスンを週に一回ずつこなしながら、レナパーティは冒険者ギルドの低級依頼を細々とクリアしつつ、シヴァガン王国で日々を過ごす。
初入国時にレナたちの事情をそれなりに聞き出していた政府が、冒険者ギルドに口添えしてくれたおかげで、一見か弱そうなレナたちを心配したギルド嬢から質問を受けることもなかった。
実力があるらしいのに凄い狩りの成果を持ってくることもなく、残念そうではあったが。

実は、レナパーティが入手した「世に出してはまずいレア素材」はキラの異空間で眠っている。そのうちアリスに品流しされるだろう。多分。

初めての戦闘稽古から数日後、レナたちは護衛部隊の4名から自己紹介を受けた。
護衛業務をしっかりこなせているため紹介しても問題ないと、上司であるロベルトが彼らを認めたのだ。

お宿♡の室内に四人の諜報部員が並ぶ。
それぞれ、緑髪の背の高い男性、紫髪の小柄な女性、水色髪のにこやかな男性、燃えるような赤髪の青年。

「サブリーダーのクドライヤと申します。ゴーストローズの樹人族です」

「周辺探索担当のリーカ。瞳の一族出身、メドュリ・アイって種族なの。メドューサ様の下位魔物、って覚えておいてね」

「リュウグウノツカイの魚護人(マーマン)、ドリュー。まあオールマイティに色々こなせるよ。この護衛隊のムードメーカーのつもり! なんてね」

「炎獅子のレグルス。任務は確実にこなします」

全員が名乗り出て、「よろしくお願いします」と軽く頭を下げた。
レナたちも「護衛して下さってありがとうございます」とお辞儀を返す。

サブリーダーのクドライヤが一歩前に出る。

「数日間、皆さんの護衛をしてみて、私からの見解を申し上げます。
やはり、レナさんたちは変質者に目をつけられやすいようです。とても。
もちろん国内では我々護衛隊が気をつけて見守りますが、冒険者ギルドのクエストなどで国外に出かける時には、十分に注意して下さい。
もし何かあると心配ですので……」

「ご忠言ありがとうございます。強くなるために国内で戦闘訓練をして、外では無理せず実力の範囲内で行動しますね。危険に飛び込んでいくことはしません」

レナが素直に安全策を述べたので、クドライヤは柔らかい微笑みを浮かべた。
赤の女王様の噂話から自分たちで想像していたよりも、ずっとレナは堅実で丁寧で、好感を持てる普通の少女だった。
護衛するならこういう大人しい人物だと助かる。
これからの女王様らしさにも期待はしているが。

「赤の女王様のサイン下さい」など野次馬的なことを口走りそうだったが、現在は勤務中で真面目なロベルトとレグルスが目を光らせているため、軽率な発言は自重した。
一瞬、物珍しそうな好奇の視線でレナをこっそり眺めると、また会釈して後ろに下がる。

レナは「なんだか見られてた?」とは感じたものの気にしない。
……それよりも、レグルスの睨むような目付きが気になった。

(この人だけなんだか雰囲気が違うんだよね。刺々しいというか。
どうしたんだろう、私たち特に嫌なことしてないはずだけどなぁ。……不審者引き寄せたことは除いて)

レグルスはレナの後方にいるオズワルドの方を見ている、と気付いたので、レナはさりげなく場所を移動して中間地点に入り、彼の視線を遮った。
すると顰められていた眉がぴくっと反応する。
レナがへらっとごまかすように愛想笑いした時、レグルスの背中がドスッと小突かれた。

「レグルス。見過ぎ。レナさん怖がってるじゃーん! ほら、謝る!
ごめんね、この子元々目付きが悪いんだ」

リーカが強烈な一撃を食らわせたようだ。
女性が注意した方がレナたちをビビらせないだろう、とクドライヤは彼女に対応を任せた。

「不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

「そ、そんな不快だなんて……」

レグルスが深く頭を下げて謝ったため、レナはあわてて否定したが、これはわざと過剰な表現を使って様子を見ていたようだ。
レナは睨んだことをあっさり許してしまったのである。
レグルスがさっと頭を上げたので、後になってそれに気付く。
ーーなんだか、また曲者の予感だ。

「レグルス。後で王宮の周りを5周してこい」

「喜んで」

ロベルトからの罰に速攻で快く反応しているレグルス。
訓練バカだからこれも喜ぶし困っちゃうよね、とリーカが呆れたように呟いて、他の二人がこっそり頷いた。

護衛部隊の四人とロベルトが退室する。
淫魔ネレネのお宿♡の一室(国からの要請で新しく創造した)を借りていて、四人はこれからここで寝泊まりするらしい。
本当につきっきりでレナたちを見守ってくれるようだ。
魔王の発言(人質)の効果は、大きい。

後で知ったのだが、リーダーのロベルトも含めた5名の交代制で護衛任務をこなして、それぞれ休日もきちんと確保していたのだとか。
勤務環境が劣悪だと優秀な者が寄り付かなくなるので、業務時間と給料はシヴァガン王国政府がそれなりにホワイトに調整していた。

立ち去り際、レグルスはまたオズワルドをメラメラ燃えるような目で振り返り見る。

扉が閉められると、オズワルドが「はぁー……」とため息を吐く。

「炎獅子のレグルス、さっきは静かにしてたけど、根は超上昇志向の熱血漢だから苦手なんだよ。
いっつも強い相手をああいう目で見てる。
到底牙が届かないような相手……例えば魔王ドグマのことも普通にライバル視して睨むんだ。ドグマは面白がってあいつにも構うし。
なんていうか、疲れる」

「ちょっと怖かったよねぇ。あのお兄さん、オズくんの知り合いだったんだ」

「うん。炎獅子系統は何人も王宮勤めしてる。中でもレグルスは有名だよ。
レグルスの父親はミレージュエ大陸で諜報部員をやってるくらいのエリートだし。あいつも若いのに諜報部に誘われたくらいだから優秀。
炎獅子はギリギリレア魔物のグループに入るな。昔は巨大な炎獅子が魔王だったこともあるんだ」

「へぇ!」

成り上がりを夢見ることも納得の血筋らしい。レグルス本人にとっては夢ではなく、努力によって魔王ドグマを倒すことも実現可能だと考えているのかもしれない。
ーー圧倒的な威圧感を放つデスケルベロスの姿を思い出して、レナはぶるっと身震いした。

クーイズが『『ぱふぱふー!』』と告げて、キラが<へぇ>カウンターをミニウィンドウに表示する。

小さなブラシでレナに毛づくろいされている金色子ネコが、護衛部隊員の解説を始めた。

『ゴーストローズについて。獲物それぞれが好む香りを発して誘い込み、頑丈な植物のツルで拘束して、生気を吸うアンデッド植物。
クドライヤさんは茶業で有名な樹人族として生まれたけど、枯葉に黒薔薇を咲かせるゴーストローズでは家業向きじゃなかったから、王宮に就職したんだろうね。
諜報部員としてはピッタリの能力だと思う。
樹人族は様々な植物の花粉を吸収して生きているから、両親とは異なる特徴が現れるのも珍しくないんだ。

瞳の一族。メドューサを女王として、下位魔物のメドュリ・アイ、メードュが集って旅をしている一団のことだよ。
世界の様々なものを視て回り、いつかメドューサに進化する個体となる経験を積んでいる。女王が二人以上いた時もある。
どこかの国に留まるメドュリ・アイやメードュもいるけど、リーカさんのように生涯政府所属が義務付けられている諜報部員になる例は珍しい。
瞳の家系には女性しか生まれないから常に男性伴侶を探しているけど、瞳の一族と恋仲になると一年後くらいには五割の確率で心臓が石化して死んでしまうから、なかなか相手が見つけられない。
メドューサになると特殊な魔眼ギフト【☆7】[メドューサアイ]を贈られる。[絶対石化]と、対象者の才能を視抜いて開花させる[開放眼]の力があるんだ。その力を求める者からのお布施が旅費になっている。

魚護人(マーマン)は海の生態系を護る、調整のガードマンだね。黒い魂を持つシー・モンスターの駆除を行っている。
リュウグウノツカイの姿になれる希少個体は、マーメイドたちの竜宮城を護衛しているエリート中のエリートなはずだよ。
ただ……ドリューさんは家系の者たちと大喧嘩して、海の中から抜け出してきたみたいだ。
彼をさりげなく保護してほしいと、竜宮城からお願いされた政府が諜報部員として彼を雇用した。
ドリューさんはそんなに危険な任務を与えられていないものの、まあシヴァガン政府としては「能力があるなら使え、食い扶持は自分で稼げ」って方針だから、働くよう誘導した感じ。
ドリューさんが底抜けに明るいのは、まだ危険な目にあった経験が無いからかもね……。

炎獅子はバツグンの赤魔法適性を持つライオンの魔物。
過去に番いの”火炎”獅子が存在したため、その血統が長く受け継がれて、今では獣人家系として種族確立している。ただ、血が薄れてきてて”火炎”の名称を持つ者は現在存在しない。
あとはオズワルドが説明した通り。
火山地帯に生息していた魔物が元になっているから、よく晴れた日には日光浴して太陽の光を吸収して、毛皮を高温に保つ習性がある。寒いところは苦手で能力が低下してしまうようだ。
ロベルトさんと苦手なところをカバーし合えるので、任務で一緒に組むことが多い。
……ざっとこんなところかな』

『『ぱふぱふ終了なりー! やっばい魔物が揃い踏みだねー。へぇへぇへぇへぇへぇへぇ!』』

ざっと、でここまでプライベートを解析される諜報部員はいっそかわいそうである。
ルカニャン・アイが全てお視通しなのだ。
久しぶりにオズワルドが引いている。

ちなみに、淫魔のお宿♡内からレナたちのステータスを覗こうとしてみたリーカは、まずお宿♡のセキュリティに阻まれてしまい、なんとかぼんやりレナたちの情報が視えてくると首を傾げた。

なんと、ステータス情報がバグっている!
レナの名前は「偉大ナル赤ノ女王様レナ・トウドウ」となっているし、ステータス値は全てEXと視えている。
魔眼透視ガードの魔道具でも使っているのだろうか? そんなもの、聞いたこともないけど、と悩んだ。
目がチカチカしてきたのでリーカは透視をやめて、怖ろしげに頭を振る。
仲間たちに事情を話すと、全員が驚愕の表情になった。

「うー。あの子たち、やっぱり特異だわ……こんなに近くから集中して覗いたのに、正確な情報を読み取れないなんてぇ。
私、メドゥリ・アイだよ? これまで磨いてきた技術が全否定された気がしてショック……」

リーカが落ち込んでいるが、チート技術の宝庫であるパンドラミミックの情報防御に敵うわけがなかったのだ。
今や、覗こうとしたステータスの前にでたらめウィンドウが相手の目に映るように設定されている。

「ラナシュ世界のバグじゃなくて?」

「こんなにピンポイントなバグってあるのかな?」

「従魔たちはレア魔物と新種ばっかりだろー? それなら、全員を束ねてるレナさんのステータス表示がおかしくなることもあるんじゃないかなーってね!」

ドリューが明るく慰めたので、納得しきれないながらも、やっとリーカも少し笑った。

「このチーム、何気に上手くやっていけそうで安心してるよ。俺はサブリーダーやるの初めてだし、特にクセが強いのが収集されたから心配してたんだけどさ」

「クセが強いって、それ自分も含めてだからなー!? クドライヤ。
それにしても、いつも何かしら任務が入ってるオレたちがちょうどヒマしてたなんて、珍しい巡り合わせもあるもんだよな。
あれじゃない? レナ女王様の赤の運命ってヤツー!」

「やっぱサイン貰っとけばよかったかな?」

「あははは!」

クドライヤ、ドリュー、リーカが楽しげに話していると、レグルスが席を立った。窓を開ける。

「走り込みしに王宮に行ってくる。早めに戻る」

ドグマのように窓のサッシを踏むことはなかったが、レグルスは半獣人の姿になると颯爽と飛び出して行ってしまった。
屋根の上を駆けていく。
後ろ姿を、先輩たちが苦笑しながら見送った。

「若いと血気盛んでいいよなーっと。チクショー、仲間の行儀が悪いとネレネ様にロベルト隊長と俺が怒られるんだからな。気をつけてくれよ。
じゃ、外の見張りをしに行ってくる」

「「クドライヤ、お疲れさまー」」

この縁はどのような未来に繋がるんだろうね? とちゃかして話しながら、リーカとドリューは本日の捕縛人数と特徴をまとめ上げる。なんと13人分。

「レグルスの参加を推したのはグルニカ様で、宰相様からも直々に激励のお言葉があったんだっけ。
そりゃーあの子が張り切るはずだよねぇ。
白炎の力がレナパーティ以外の魔物にも反映され始めるとしたら、きっと将来有望な若い赤魔法使いが影響を受けるだろうって、レグルスの変化で計るつもりなのよ。
まあ、効率のいいやり方だと思うわ」

「もし白炎が使えるようになったらレグルス大喜びだろーし、いいんじゃない?
レグルスはこれからも進化が見込めるし、万が一炎獅子以上のレア魔物に進化したら儲けものだよなー。
炎獅子家系は国への忠誠心が強いから、裏切ることもないだろう。
レナ様の魔物を成長させる能力、宰相様たちも把握してないみたいだけど、すっごく気になるー!
……ただ、もしレグルスが暴走したら俺が水魔法で対応しなくちゃいけないってかなり大変じゃない? 嫌だなー」

「なーに言ってんの! 貴方たち二人にはまだまだまだまだ苦労の経験が足りないのよ。私とクドライヤくらい場数を積まないとねっ」

「それ何十年かかるんですかぁーお姉様? あいだっ!」

チョップをくらったドリューが頭を押さえて、笑い、二人はさっと仮眠を取り始めた。

再びレナたちの部屋を中継しよう。
今日も今日とて踊り狂っている。

「オズ、尻尾がシュシュに当たりすぎ! こそばゆいから丸めておいてっ」

「それ言ったら、シュシュも飛び跳ねすぎでさっき俺の足を踏んだだろ!」

どうにもオズワルドとシュシュはケンカしがちになっていて、レナは二人ともをぎゅっと抱きしめてあげるのだった。
けして、踊り疲れて膝がガクガクなのを誤魔化しているわけではないのだ。

 

 

 

 

 

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