137:新しい日々

フレーバードリンクでキラの従魔進化をささやかに祝ったレナたち。
キラは三分間の実体化を終えると、さすがに疲労したようで、しばらくスリープモードに入った。

これまで睡眠を一切必要としなかったキラは、初めて訪れた眠気に不安そうな様子を見せたが、レナが優しくパンドラミミックを手のひらで包んで、後輩から「おやすみ」と言葉をかけられると、くすぐったそうに<おやすみなさい!>と話して意識を遮断した。
その間に、レナたちが企み顔を突き合わせる。

「いきなり進化したから凝ったパーティは準備できなかったけど、キラへのちょっとしたプレゼントを作ろう。どうかな?」

「「わぁい! 賛成ー!」」

「決まりね! じゃあみんな、ハサミを持って」

レナが色紙(いろがみ)を配り始めた。
先日折り紙をした時の余りだが、手作りのプレゼントをあげよう! という気持ちが何よりも大切なのだ。
[夢吐き]産の色紙はラナシュ世界で最高品質の紙にも引けをとらない。
だが、容赦なく切る!

小さな手がハサミを使って折り紙を細長く切り、くるりと輪にして、ノリで接着した。
レナとルーカも大人用のハサミを使い、色紙の輪っかを作っていく。

ーー数時間後、キラが目を覚ました。
レナの膝に乗せられていたパンドラミミックのガラス面がキラリと光る。
ガラス面に映るパーティの表情があまりに楽しげなので、映像のハテナをホログラムで浮かび上がらせた。

<おはよう御座います、皆様! わっ>

「キラ先輩にこれ、あげるー!」

後輩従魔たちがいっせいに手を前に出して、折り紙の輪飾りをキラに差し出した。
感激したキラは……とりあえず、連続でシャッターを切った。
そして部屋中をくるくる飛び回ると、レナに一生懸命おねだりする。

<マスター・レナ。成長を急ぎたい気持ちはあるのですが、どうしてもこの輪飾りを実体で受け取りたくて……! 今一度、経験値を実体化に費やすことをお許し頂けないでしょうか!? お願い致します!>

「とっても喜んでもらえて私たちも嬉しいよ。もちろん、キラの実体化に協力させて」

<わぁい!>

……ただ、先ほどのゲームの経験値はもう全て費やされている。
それに今日はもう夜遅いので、新たな経験値取得は明日の朝に、ということになった。

従魔たちは「今からゲームしたぁい!」と主張したが、オカンレナに「今日はもう寝なきゃダメ!」とベッドに送り込まれた。
後輩に熱く望まれたキラは大変嬉しそうにしていて、実体化は翌日に持ち越されたものの、満たされた気持ちでみんなに寄り添い、そっと寝顔を撮影しまくった。

翌朝。早起きしたレナたちは、全力でゲームをプレイする!!
映像のダンスステージ上で全員バテるまで踊り狂った。

<測定中……おかげさまで実体化のための経験値が溜まりました! 感謝申し上げますぅ!>

「そうだね、実体化可能時間は1分くらいかな。昨日よりはゲームのプレイ時間が短かったから……はぁっ……! いい汗かいたー。
レナの故郷のアイドルダンスってかなり激しいんだね」

「ベリーベリーハードモードで、プレイっ、してたらぁ……ぜぇ、ぜぇ。そうなりますよぅ。ルーカさん。
……というかっ、ダンスについていけてる、みんなが……すごすぎっ! さすがっ……私の可愛い従魔たち…………ごふっ……」

▽レナが 崩れ落ちた!
ダンスの疲労のせいである。

「「レナ、死なないでーーー!?」」

「ハーくん、ゴーー!」

「はぁーいリリー先輩、ボクにお任せ下さいませーっ」

リズムから遅れようがマイペースに踊っていたハマルが驚きの速さでレナの懐に潜り込み、[快眠]をかけて気絶させ……いや寝かしつけた。
疲れていたレナはすんなり眠ってしまう。
シュシュもぎゅむっと懐に入り込んで、床の上で三人がウトウトし始めたので、呆れ顔のオズワルドが[|重力操作(グラヴィティ)]で布を敷いたベッドまで運んであげた。
十分後にはみんなスッキリ顔で起床したので、シャワーを浴びて身体を清める。

「「ぱふぱふーーっ」」

<戴・冠・式〜! きゃーー分身体で自撮りがはかどりますぅー!>

「スマホ先輩、改め、キラ先輩! これからも……よろしく、お願いしますっ! 一緒にたくさん、遊ぼうね♪」

実体化したキラの前にレナパーティが縦一列に並んで、順番に輪飾りを頭に通していった。
まずはリリーから。
輪飾りはするりと頭を通り過ぎて、キラの首元を彩る。
キラにとっては冠よりも価値がある特別な贈り物だ。
たくさんの輪飾りを贈られるキラ、プレゼントを渡す従魔たちを最後尾から見守るレナは号泣している。

「ほら、レナの番だよ。涙拭いて、笑顔でキラにプレゼント渡してあげよう」

「はいぃ……!」

ルーカが優しい声でレナを励ます。
涙目笑顔のレナからも輪飾りを受け取ったキラは幸せそうに一回転すると、ホログラム映像に戻った。
たくさんの輪飾りをつけたままの姿だ。
輪飾りは異空間に大切にしまわれているそう。

「えっ……マジックバッグに片付けたわけじゃないよね? キラ、ノーモーションで物を出し入れできる新しい異空間を創ったの?」

<さぁすがマスター・レナ! 私のことを何でも知ってる、きゃっ! 仰る通り、こっそりと異空間[キラー・ボックス]を創ってみたのです。これも経験値となりました>

「おおー。初空間創り成功おめでとう、キラ。あれ、”キラー”?」

<もし私の宝物に手を出そうとする不埒な輩がいた場合、|獄炎の壁(メギドフレイムウォール)が精神を焼き殺しますので>

「過激」

<だってマスターの従魔ですものー!>

やぶへびになりそうだったので、レナはもう深入りせずにキラを褒めて、出かける支度を始める。
他のみんなも同様。

おそらくいつも通り、レナパーティへの連絡係がそろそろ到着するはずである。

「おはようございます」

▽魔王国諜報部重役 雪豹ロベルトが 現れた!

「おはようございます、待ってました。今日は獣化訓練の打ち合わせですよね。うちの子たちのご指導、よろしくお願いします。
これから一緒にモーニングを食べに行きませんか? 話し合いはそこでしましょう」

「こちらこそよろしくお願いします。そうですね。今日はもう朝練はいいんですか?」

早めの時間に訪れた自覚があるロベルトが尋ねた。

「室内でそれなりに激しく運動したので……お腹が空きました」

なんとも素晴らしいタイミングで、レナのお腹がぐーー……と鳴る。
恥ずかしそうにごまかし笑いしている。

「分かりました。朝食をご一緒させて下さい。では、こちらを先に渡しておきますね」

「うわぁ朱蜘蛛紋章のお手紙!」

レナが恐る恐る手紙を開封して、中の文書に目を通す。
書かれていたのはもちろん、「レナパーティを護衛するために、ロベルトを隊長とする小部隊を結成致しました。シヴァガン王国内における常識的な範囲での安全を保証いたします」という約束。
モスラとキラが組んで仕組んだアレの影響である。

非常識なことをレナパーティがやらかした場合は責任がとれない、とさりげなくギリギリの安全を確保しようとしているが、まあそれくらいは容認するべきだろう。
<仕方ないですね〜、許しましょう>と何様キラ様がニヤッと笑って、レナパーティにだけ聞こえるように発言した。

「サディス宰相仕事はやっ! まさかの昨日の今日で……お疲れ様でした」

「そうでしょう」

「ロベルトさんもお疲れ様です。えーと、これからもお世話になります。じゃ、出かけましょう。
みんなぁー! 可愛い服に着替えるよー! 護衛してもらえるから安心だよー!」

『やったーーー!』

ロベルトが盛大に苦笑いする。

従魔たちの服飾保存ブレスレットが光ると、それぞれおめかし服を着たヒト型になった。
今日は魔物の姿ではなく、私服で街を練り歩くのだ!

「またキラのブレスレットも買いに行こうね」

<わぁい! 楽しみがいっぱい過ぎます、生きるのって超楽しいキャッホーー!>

▽レナたちが 街に出かけた。

***

従魔みんなが美幼児姿になっていると、レナパーティはまあ目立つことこの上ない。
街ゆく人々の視線をかっさらっている。
ほとんどの人は微笑ましげに表情を緩めて、従魔たちをそっと見守っていた。

引率の先生よろしくロベルトが先頭を歩いて、後ろを子どもたちがゾロゾロと付いていく。
一番危なっかしいレナは真ん中にいる。
最後尾はジミメンルーカ。
ロベルトの思考をちゃっかり読み取って(まあそんなことだと思った。でもしっかり護衛の仕事してくれるなら少しくらい利用しても良いよ)と上から目線で判定を下した。

現在、ロベルトがオススメしたカフェに向かっている。
デモンズパラダイスのモーニングにレナが誘ったのだが、「たまには新規開拓してみませんか。開店したばかりのカフェのモーニングが美味しいと同僚に聞いたんです。立地が大通りに面していないので、そんなに混みません。人気になって行列ができる前に訪れましょう」とロベルトにプレゼンされてあっさり誘いに乗った。
付き合いが長くなってきたロベルトはどう誘えばレナの興味を引けるのか、よく理解している。

(隠密行動中だから、護衛部隊の部下の紹介はまた今度……ね。キラ)

<はいはーーい☆ 護衛任務についているロベルトさんの部下は4名。我々を狙っているチンピラが2名、闇職1名、変態1名。装備から判断致しました>

キラが分身体でロベルトの部下を探し、動きをチェックし始めた。
本体はレナの懐にしまわれている。
ルーカの脳内でのみ実況を始めた。

<おおっと! 部下Aが武器を取り出したチンピラどもの首を締め上げている〜! 植物のツルを使っています。
部下Bは特別な目を持っているのでしょうか? 闇職を視分けて部下Cに連絡。
部下Cは問答無用で戦闘中……勝った! 強い! 獣人らしく体術が得意そうです。
部下Dは薄着すぎる変態にコートを渡し……アーーッと破られたー! 優しさが踏みにじられたー! そしてさらに変態、脱ぐ! モザイクかけたい! 戦い始めましたが変態妙に強いっ、ブチ切れた部下Dが変態に何かを浴びせかけ……眠った! あれは眠りの毒液だったようです>

「ふっ……!(お願いだから実況のテンション落として)」

「「まーたジミーが思い出し笑いしてるぅー。やらしぃー」」

クーイズにルーカがからかわれてしまった。
さすがにあちこちを眺め回してロベルトの部下を観察し続けるのもあからさまなので、ルーカはキラ先輩の<お任せあれ☆>に甘えることにしたのだ。
あんまりなアナウンスの餌食になったが。

<ん、新しい不審者が現れました。またも変態タイプ。こちらに対して魅惑系の魔道具を使おうとして、速攻捕縛されました!>

護衛されているレナたちは、とても快適に王都を散策するのだった。

***

レナパーティ護衛隊の手帳に、また一人の捕縛者の名前が書き加えられる。
イヤリング型の長距離通信魔道具で捕縛状況を報告しあい、隊員はため息をついた。

「いくらなんでも狙われすぎだろう、どんだけ不審者ホイホイだよレナ女王様たち! 本当に、護衛部隊がついて良かったな。俺たちの仕事は大変になったけど。ちくしょーめぇい」

「こんなに過密に捕縛業務するの久しぶりだぜー。
ヒラ役員の制服を着て身元誤魔化してるとはいえ体格のいいロベルト隊長が同行してるんだから、接触を諦めた不審者もいるはず。つまりそれ以外だけでこの人数、ってことか。同じシヴァガン王国民として情けないねェ。
他の国と比べても治安がいいはずなんだけど……ふぅ。まあ人数が多いしなー。
おっとまた一人、不審な動きをする奴がいた。対応する」

「了解。……潜在的に危ない思考を持ってたやつが初めて犯罪に及んだって線もありそうだ。あのパーティはかなり容姿が整ってるうえ、華奢な子どもの魔人族ばかりだから」

「まーね。レア魔物なんだろうって目星を付けた上で、弱いうちに誘拐を企んだりする奴が出てきてるんでしょう。
最近、若くて優秀な魔物がふっと姿を消す事案が報告されているから……子どもを狙う不審者を捕まえることで、新しい事件を未然に防ぐことができそうだよね。
さりげなく裏通りを通ってるあたり、ロベルト隊長ってば誘導上手ぅ〜。
しっかり守るから許してね、レナパーティの可愛こちゃんたち。
あ、魂が黒い奴がいたよ! 捕縛に向かってレグルス」

「承知した」

特別な目を持つ女性隊員が合図をして、屋根の上でレナパーティを眺めていた闇職の前に圧縮光球を作り出し、目を眩ませた。
視界を奪われた闇職が魔道具の力で無理やり目を回復させると、視界に赤色が映り、一瞬で地面に引き倒されていた。音すらしなかったのに全身が落下の衝撃を受けてズキズキ痛みを訴えていて、脳が混乱している隙に、手枷が嵌められる。
燃えるような赤髪の獣人に上体を引き起こされた闇職は、首後ろに手刀をくらって気絶した。

「終わった。次、また言ってくれ」

捕縛された闇職はいったん黒い袋に入れられる。
部下C……レグルスが袋の魔法陣に魔力を流すと、地中に沈み込んでしまった!
シヴァガン王国政府の小さな紋章が地面に浮かび上がる。

この紋章を目印にすぐ回収部隊がやってきて、埋めた闇職を持ち帰るはずだ。
もし魂が黒く染まった仲間が来てこの黒い袋に触れようとした場合は、袋の中が業火で焼かれて闇職が死ぬことになる。

闇職と表現されているが、実際は魂を真っ黒に染めた犯罪者のことを指している。
魔人族たちは、ヒト族のようにラナシュ世界が認める職業に就くことができないため、魂の濁り具合で悪党の危険度を計る。
闇職、と表現するのは分かりやすくミレー大陸の基準に合わせているためだ。

「相変わらず手際がいいわね〜。闇職って魔法効果無効のアクセサリーをたくさん身につけていることが多いから、案外物理攻撃のほうが有効だったりするし。
レグルスは隠密行動が得意だからつい任せちゃう」

「構わない。これが俺の業務で訓練だから気にせず使ってほしい。リップサービスは必要ない」

「はいはい。向上心の塊だねぇ。オズワルド坊ちゃんの白炎の話を聞いてからまた勤勉に拍車がかかっちゃってさ。
あっ次そこの角に隠れてるプラントモンスター、魂がグレーだから動向に気をつけて」

「無駄な話だけをし続けるなら上司に報告しようかと思った」

「ちょっ、やめてよ部隊長怒ると怖いんだからさ……!」

レナパーティ護衛部隊はたまに軽口を叩きながらも、見事な手際で不審者を捕縛し続けた。
後ほどやってきた回収部隊が、あまりの紋章の数に顔を引きつらせるほどに。

「あっちの変態はドリューに任せた」

「またかよ! なんでこんなに変態がいるんだよ!」

「レナ女王様に惹かれて出現しているんじゃない? だってーサディスティック女王様らしいし……」

「あーー。実際に見てみると普通の女の子としか感じられないんだけど、アネース王国の商人を見送る時の女王様っぷりたるや、すごかったらしいな。ここだけの話、ノア様も憧れてるらしいし」

「ふぁっ!?」

ーー赤の伝説はこうして順調に広がっていく。なお伝説の内容は人それぞれである。

***

カフェで美味しいパンケーキを食べたレナたちはご機嫌だ。
獣化訓練の日程についても、予定が順調にまとまった。
週に二回、ルーカ・ハマル・シュシュがロベルト指導のもと訓練に励むことになる。

「アリスちゃんたちがいる間はかなりのんびりしてたから、そろそろ本格的に戦闘訓練を再開しなきゃね。何かが起こった時に対応できるように。私も鞭の練習、頑張るよ!」

「皆さんの戦力を把握はしていませんが、自分の身を守るために強くなるのは良いことです。応援しますよ。
オズワルドもドグマ様を目指して訓練に参加するか?」

ロベルトが発破をかけて様子見すると、オズワルドは反発せずに一言「……やる」とだけ答えた。
驚きながらも、ロベルトはちゃかさずにそれを聞き届けた。
(良い意味で変わったな)と思いながら。

「最近、若い魔物がフラリと姿を消す事案が何件か報告されています。気を付けて下さいね。これから我々が護衛しますが、注意だけさせて下さい」

「怖いですね」

その日はロベルトと早々に別れる。
エルフのお婆さんが店主を務める服屋に寄り、新作の獣人服をいくつか購入した。
残念ながら今回も、お婆さんの孫は外出していてレナたちに会えなかった。
徳を取り戻すため、後でルネリアナ・ロマンス社を訪れることにしたらしい。

***

数日後。
一部貸し切りにした森林訓練所で、真新しい獣人服に身を包んだレナの従魔たちが、ロベルト教官に礼をした。

「「「ご指導、よろしくお願いします」」」

「押忍!」

ロベルトが頷いて、半獣人の姿になる。

「よし。訓練を開始しよう」

後方からレナの声援を受けながら、従魔たちはまた強くなる。

▽Next! 獣化訓練

 

 

 

 

 

 

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