136:▽キラが仲間になった!

モスラとアリスの見送りを終えて、二人が滞在していた日々を振り返りながら、レナたちとロベルトはちょっぴりしんみりした空気でお宿♡に帰ってきた。なーんちゃって。

「では、皆様の送迎も終わったので私はこれで失礼しますね」

「ご苦労様。いつも丁寧な対応をありがとう、ロベルトさん。褒めて差し上げてよ」

「「ふっ!」」

ロベルトとルーカが口元を押さえて顔を背けた。
広場から帰る時、ロベルトが面白がって「女王様らしい話し方、さすがに似合っていらっしゃいますね」と言った結果、ご褒美として女王様対応を継続してあげているのだ。
レナは広場でつい女王様お叱りモードを披露してしまい、なんだか素の自分に戻るのが気まずくて(魔王様もいることだし、この強気モードのままお宿♡まで帰ろうっと……)と判断してしまった。トラブルである。

<激写で御座います!>

キラがうきうきとレナの様子を分身体でフル撮影しているのもトラブルである。

道中はずっとこんな感じで、とても賑やかだった。
キラの<レナ女王様の覇道>データフォルダが潤っていく。

魔王と宰相は猛ダッシュで王宮に帰還した。
貴族服の男性二人が颯ッッッ爽と走り去る絵面はなんだかすごかった。そうそうあんな光景は見る機会はないだろう。オズワルドが申し訳なさそうにしていた。
脇に抱えられて連れ去られたケットシーたちは見事に巻き添えを食らった。

「シヴァガン王国の皆様がこれから私たちの護衛を強化して下さること、とても嬉しいわ。気兼ねなく私の従魔たちみんなが魔人族の姿で外出できるようになるわね」

「綺麗な子ども服、またたくさん買わなくちゃね」

『『わーーーい!』』

「……そういう会話は私がいない時にして頂きたかったのですが」

にこやかなレナパーティの会話を聞いてしまい、苦労人ロベルトが額を押さえている。

モスラが脅迫……いや交渉した結果、シヴァガン王国内において、レナたちはより完璧な警護を受けられるようになった。
もし万が一レナたちが傷つく事件があれば、モスラによって魔王の発言が悪意を持ってばら撒かれる。

これまではきらびやかな幼児たちをゾロゾロ連れて歩くと注目を浴びるため自重していたが、それぞれオシャレを満喫できそうだ。
注目を浴びても、役人により不審者から護ってもらえるなら問題ない! 存分に着飾ろう!

トイリアの淫魔ルルゥにオススメされた通り、シヴァガン王国には魔人族の子どもも多く暮らしていたため紛れられそうだったが、数人ならの話だ。
旅の途中でシュシュとオズワルドが仲間になったため、レナパーティは低年齢集団としてより注目を浴びやすくなっている。

「一言、注意を。さすがに今日の今日で護衛強化がされる訳ではないので、しばらくは今まで通り落ち着いて過ごして下さい。……今までのように……落ち着いて、いた試しがないような……?」

「ただトラブルに遭いやすいだけよ。私たちはいたって普通に過ごしているわ」

「はあ」

ロベルトは苦笑いすると、王宮に帰還した。
数日後からはまた勤務形態が変わるかもしれないな、と今後の予定を組みながら。

ーーまさか、仕事が早い宰相が速攻で会議を開き、レナたちの護衛強化が可決されて、ロベルトを部隊長とする諜報部の数名が影からレナパーティを見守ることになるなんて、この時の彼は知るよしもないのだった。

***

▽レナたちは 気分転換に 入浴した。
▽シャワー室に楽しげな声が響いている……
▽レナが 通常モードに 戻った。

「……いつまでも広場での出来事を振り返ってダメージを受けてても仕方ないよね。よし、キラ。貴方のステータスを確認しましょう」

<はぁい! マスター・レナが意識して振り返らずとも、ご勇姿は全て最高画質でこのパンドラミミックデータの中に>

「やめて!」

<ご無体なーー!>

ギョッとしたレナが思わず否定すると、ホログラム映像のキラが泣き真似をする。これはズルイ……なんてさめざめ泣くんだ……レナは従魔可愛さに「せめて発表はやめてね」と甘く許してしまった。
外部に発表こそされなかったものの、この旅立ちシーンは仲間内で定期的に鑑賞会が開かれるほどの人気作になった。
フォルダこそ「レナ女王様の覇道」に仕分けられているが、保存タイトルを「アリス&モスラの見送り」にしてレナが鑑賞を許さざるを得なくするなど、キラの小技が光っている。

キラは誰よりも長くレナの側にいたのだ。思考回路の把握も完璧である。
でも、ただ知っているだけだった。
これまで触れ合えなかった時間を埋めるかのように、キラなりのやり方で、レナとたくさんコミュニケーションを取ろうとしている。そしてまた、主従の絆が深まって強くなる。
以降、無限ループで最強に! ヒューー!

レナたちはいつも通りベッドに集った。
みんなの中心にいるレナが、パンドラミミックとギルドカードを手に持つ。

<マスター。ギルドカードを私の本体のガラス部分に乗せてみて下さい>

「こう?」

<”スキャンが完了しました”>

「嘘でしょ!?」

「ギルドカードって、大昔の人々がラナシュ世界に向かって決死の覚悟で祈りを捧げて、自分たちの能力を目視できるようにした世界の調整が起源のとんでもない魔法なんだけど!?」

<調整中…… 調整中…… ”パンドラウィンドウでギルドカードの確認が可能になりました” やったねマスター☆>

「「うわぁ……」」

レナとルーカが疲れている。

『『レナ、すっごぉーーい!』』

『『『さすがご主人様ぁーー♪』』』

「うん、無邪気な持ち上げに癒されたよ……ありがとう」

レナは深呼吸すると、従魔たちをひしっと抱きしめた。
この小さくても強い後輩従魔たちよりも、パンドラミミックはさらにすごいのだ。
クラスチェンジして即、この多技能さである。この先本当にどんな超変化をしても不思議じゃない。

レナはそっと従魔たちを離すと、パンドラミミックをしっかりと両手で持った。
ガラス部分に映るレナ自身の瞳は、力強い光を宿している。

「キラ。貴方はきっと成長するほどに、すごい存在になるんだろうね。もしかしたら、この世界の誰よりも強く……神様みたいになっちゃうのかも。
ずっと貴方の主人で居られるように、私、たくさん努力するからね。
キラはすぐ私よりも強くなるだろうけど、主人として貴方をずっと大切にするから、私の従魔でいてくれるかな?」

レナはとっくに覚悟していた。従魔が望む限り、ずっと愛してあげることを。
恐ろしいほどの力を持つ存在に育っても、従魔から逃げ出して孤独に突き落としたりしない。
主人として、一緒に従魔たちと生きていくのだ。このラナシュ世界で。

<マスター・レナ……! ううう。お言葉、ハートにズギュンと刺さりましたよぉ。
これからも何卒、末長くお仕えさせて下さいませぇ! あっしまった、いいともーー!>

若干ノイズ混じりの音声でキラが返答した。
感情が昂ぶったため、電子伝達にエラーを起こしてしまったようだ。

現在のキラは「泣く」「笑う」という表情や声を電子情報としてレナたちに発信している。
まだ進化したばかりで魔物として不安定な状況だ。
いずれ魔人族の称号を得て生身の肉体を手に入れる時には、もっと自然に自分らしく感情表現できるようになるだろう。

ノイズが走るキラの心には今、電子データではない本物の嬉し涙が流れているのかもしれない。

レナはキラの返答にくすっと笑った。

「荒ぶってるね。どうやってキラを慰めたらいいかな?」

<何でもお願い事を聞いて下さるのですか!? きゃっマスターったら大胆!>

「拡大解釈がすぎる!」

<では……たくさん約束をして欲しいです。魔人族になったら、まず手を繋いで下さい。一緒に食事しましょう。外でお花を摘んで……花職人ばりのフラワーブーケを作るので、皆さんに受け取って欲しいです。毎日記念撮影したいですし、たくさんお話しましょう!>

レナたちみんなが天を仰いだ。
キラが期待に満ちた眼差しで、小首を傾げて仲間の反応を待つ。

「……いい子すぎるよ、キラ。そんなにささやかなお願い事でいいの?」

<はい! ずっとこれを待ち望んでおりましたから!>

『『キラ先輩ー、喜んでーー!』』

<キャーーー! 後輩たちよー! これこれこれこれがしたかったのですー! おいでー!>

バッ!! と手を広げるキラのホログラム映像に、後輩たちが飛び込んでいく。
当然、すり抜ける。
後ろにいたオズワルドとルーカが埋もれた。

<……ふぅ。私を慕う皆様の表情、本当に可愛かったです。是非私が受け止めたかったのですが……まあホログラム映像ですし。
幸せのおすそ分けで御座います。ね!オズワルドさん、ルーカティアスさん。二人は不器用だから気にかけてあげてほしいと、モスラさんからお願いされていたのです>

キラがイタズラっ子な表情で、後輩たちを覗き込んだ。
さっそく先輩として頑張るつもりのようだ。
私情に巻き込まれたオズワルドがジト目で、ルーカが苦笑してキラを見た。

「……そう。ありがと。でも、もうちょっと他にやり方なかったのか……俺、シュシュの頭突きがかなり痛かったんだけど」

「僕みたいにハマルの角が目に刺さりそうになったよりは、頭突きの方がマシでしょう? 今、自分の反射神経に心底感謝してるとこだよ……。
それにしてもモスラは、器用裕福に対して不器用だなんて、言ってくれるよね。自分こそ、自分を甘やかすのが下手なくせにね」

戯れている従魔たちを微笑ましそうに眺めたレナが、キラの本体を手に持つ。

「ねぇキラ。パンドラミミックではどうやって撮影すればいいの?」

<マスター直々に使って頂けて光栄ですぅ! 蓋の部分を自分に向けて……そう。青い宝石を撫でれば撮影モードに切り替わります。赤い宝石で記録です!>

レナが指で操作すると、ガラス面に従魔たちの姿が映る。

「はい、みんな笑って!」

ーーパシャリ!

キラのアルバムにまた一枚写真が増えて、心と身体がわずかに成長した。
仲間たちの笑顔のように、優しくまぁるく育っていく。

その後、もちろんレナとキラも含めた全員の記念撮影を分身体で行って、キラのステータスを確認することにした。

「”ステータスオープン”」

レナがワクワクしながら唱えると、大きなステータスウィンドウが目の前に現れた!

「名前:キラ
種族:パンドラミミック LV.1
適性:白魔法[光]、黒魔法[空間]、緑魔法[風]、青魔法[水]

体力:9
知力:16
素早さ:10
魔力:35
運:10

スキル:[空間創造][スペースカット][スペースペースト][テレフォン][投影][音響]
ギフト:[アース・データベース]☆7、[創造者]☆7」

「ステータス合計数値が、既にレベル1の時のモスラよりも多いねぇ。ひゃー」

頼もしいよ、とホログラム映像のキラの頬をつついてから、レナはウィンドウに指を走らせていく。

「性別はない……? クレハやイズミと同じ?」

<無機物系モンスターですからね! 男女どちらにも変化が可能で御座います>

レナはスキルなどの説明を表示した。
いちいち一つ前に戻って何度もスキルをタップし直さなくても、複数ウィンドウ展開で全て一度に見れて便利だ。
それに文字が大きくて見やすい。

ーーーー
[空間創造]……魔力を捧げて、新たな異空間を創る。どれだけの魔力を込めるかで空間の大きさが決まる。一度完成した自作空間に後で魔力を注いで、拡張することも可能。創った空間は魔力なしで維持される。

[スペースカット]……現実世界を範囲選択し、空間を切り取り保存できる。保存先はアルバムフォルダ。

[スペースペースト]……アルバムフォルダに保存した空間を、現実世界に具現化させられる。範囲選択して拡大縮小すると、空間内の物質も同じように質量が変化する。

[テレフォン]……ラナシュ内の意思ある者とテレビ通話が可能。フレンドリストにはマスター・レナの友人が自動登録されている。

[投影]……データベース内のデータをスーパーリアルに投影する。投影範囲や解像度は込める魔力量による。

[音響]……音声を出力する。分身体を扱い、広範囲に音を拡散させることも可能。

【☆7】[アース・データベース]……異世界アースのあらゆる情報を取得している。情報は随時更新される。[ウィンドウ][アプリダウンロード]が使用可能。

【☆7】[創造者]……己が始祖となり何かを創り出す時、クオリティが一定以上に保障される。集中力向上、維持負担軽減、魔力消費軽減の効果がある。
ーーーー

「補助系の特殊技能が多い印象かな……? スマートフォンとしての名残がかなりあるね。規格外は今更」

「ふむ。僕が視た”磁気渡り”の力はまだ覚醒していないみたいだ。今は下位互換の”テレフォン”通信のみが使用できるのか。
フレンドコールでたくさん通話したら熟練度が上がって、後に上位技能を取得するはずだよ。いずれかは、キラ本体が磁気渡りでラナシュ中を移動できるようになるだろう」

えげつない能力である。
知られたら、やばい。レナたちは神妙に頷いた。

「いつの間にか、WEBデータが更新されるようになってたんだ」

レナがポツリと呟くと、キラがWEBアプリを新ウィンドウで立ち上げる。

<アースニュースなど、最新の情報が揃っております。今、ご覧になりますか?>

「……うーん…………また後で見せてもらおうかな。いきなりすぎて、何だか心の整理が追いつかなくて」

<かしこまりました。それでは先に、私に授(さず)けられた極大魔法をご確認下さいませ>

「そ、そうだったー! 白、青、緑魔法に適性がある子にはネッシーからの贈り物があるんだった!」

物憂げな表情から一転、レナが目を剥く。
進化時にシルフィネシアのエネルギーリーフを吸収したキラの魔法適性は、白、青、緑とフルコンプだったはずだ。
レナが緊張からゴクリと喉を鳴らし、ウィンドウの項目に触れる。

ーーー
風魔法[|大精霊召喚(シルフィネシア・コール)]……魔力を代償に、創造樹シルフィネシアを召喚できる。魔力供給が切れると、シルフィネシアは元の場所に還る。

光魔法[|祝福の鐘(ベネディクション・ベル)]……ラナシュ世界が保留にしているまだ未実装の称号を授与する。デタラメな称号を与えようとした場合はペナルティがある。

水魔法[|命水創造(エリクサー・メイキング)]……生命力を向上させる特別な水を創り出す。エリクサーを摂取して傷を治した場合、一切痛みを与えない。
ーーー

アース・データベースの驚きも思わず吹っ飛ぶ超絶技能!

「うわーー!? ルーカさんこれどれくらいヤバイんですか!?」

「……アネース王国とラナシュ世界と医療ギルドに全力で喧嘩売ってるくらいヤバイ」

「キラの魔法、ぜ、絶対隠さなきゃ!?」

「いやこれ多分、シルフィネシアは既に気付いてるはずだよ。勝手に召喚魔法が組まれて、本人に知らされないなんてあり得ないから。ラビリンスの中で福音(ベル)がアナウンスしてるんじゃないかな。
あの子、この通知をすごく喜びそうだし、誰にも喋らずにいられるかなぁ……」

「不安しかない……。どうしよう。私、どうすべきなんだろう。みんなを危険に晒さない最善の選択肢を探さなきゃ」

レナが肩をガックリ落として、それから涙目でもキリリとキラを見つめた。
キラからはなんと余裕のピースサインが帰ってくる。

<アネース王国の問題なら、影響力の強いスチュアート家のお二人に相談すればいいのでは? 何とかなるなる!>

どうやら広場での阿吽の呼吸により、キラとモスラの間には絶対的な信頼が築かれたらしい。

「採用。そうしようっと。アリスちゃんから『協力できそうなことは絶対に相談してね! 無理と遠慮はしないで』って注意されてるしね……指切りで約束しちゃったから、今度こそ独断でアリスちゃんたちを無視したらヤバイ。本当にヤバイ。
ネッシーが私たちの友達でいてくれる限り、アネース王国は私たちに敵対しようとしないよね」

<そもそもマスター・レナがシルフィネシア様の母のようなものですからね。ホホホホホ!>

「不穏ーー!」

さあ! 不安は丸投げしてしまおう。
ようやく、軽口を言い合えるくらい場の空気が明るくなった。

レナたちはテーブルに移動して間食の惣菜パンを摘みながら、キラの育成方法について話し合う。
まだ食事できないキラに悪いなと思いながらも、バタバタしていてお昼を食べずにいたせいで、お腹がきゅーーと切ない音を鳴らしていたのだ。

「キラには戦闘に向いた技能がまだないよね。手っ取り早くモンスターを倒して経験値を得るのは難しいかな」

ルーカが顎に指を当てて、んー、と軽く唸る。
指に付いたジャムをぺろりと猫のように舐めた。

「空間魔法があるからなんとかなりますよ」

「レナ、どうやってそれで戦うの? 貴方の斬新な作戦を教えて」

「ズバリ。岩石などを[スペースカット]して保存、空中に[スペースペースト]して重力落下させたら! グシャッ! です」

「「ヒューー! ハンバーガーを押しつぶして状況を再現、ドヤ顔するレナ、カッコいいぜー!」」

ドヤ顔とまで言われると……とレナが恥じらっている。ちょっぴり目つきを鋭く怖そうにしてみただけだ。

「迫力を出すならー、ただ称号をセットしたらいいのですー」

ハマルがミルクパンを齧りながらうっとりと呟く。
話が脱線したので、元に戻ろう。

「落下物での戦闘を、また私たちがフォローしながら試してみようか。
普段は映画鑑賞なんかでちまちま経験値を取得しよう。そんな感じでどうかな?」

<承知致しました! ところでマスター・レナ。喉が渇いていませんか? 粗茶ですが……>

「あ。ありがとう」

レナは、キラから薄緑色の液体が入ったグラスを受け取った。
どうやらルーカがパンドラミミックの上にグラスを置いてあげたらしい。
お盆よろしくグラスを運んでいる。
微笑ましいな、と考えながらレナがお茶を口にすると、なぜか……力がみなぎってくるぅーー!

<粗茶=エリクサーで御座います。えへっ。お味はいかがですか!?>

「ごっふっ」

レナが口から液体を吐き出すまいと耐えて、むせた。
しかし驚くなかれ、鼻に液体が入っても痛くない! むしろ鼻粘膜が強化されたため、パンのいい香りをより楽しめる。森林まで歩いた足の疲れも癒されて、気持ちまで明るくなった。
しかしキラとルーカを怒らないとは言ってないーー!

「こらー! ルーカさんもおそらく[サンクチュアリ]で協力しましたね!? キラの詠唱が聞こえないように。私、すごく驚いたんですからね!」

「全部バレてた。さすが僕らのご主人様。ごめんね」

<従魔のことをよく分かって下さってる! 嬉しい! そしてごめんなさぁい。マスター・レナに一番に楽しんでもらおうと思って……驚きとともに>

「う。……エリクサーごちそうさま。美味しいマスカットティーだったよ。エリクサーってこんな味なんだね……?
貴重な経験を軽ーく流しちゃっていいのかなぁ。いつも以上にはしゃいでるね、キラ……魔物になれて嬉しいの?」

<イエーース! 心がピョンピョンしてますぅ!
エリクサーはマスターに影響を及ぼしすぎないように、魔力1で、[創造者]ギフトのクオリティを保証する能力で創り上げました。まさに粗茶>

「粗茶だった……!?」

<ほんの一滴をマスカットティーに混ぜたのですよ>

レナの側に長くいただけあって、キラも能力のイレギュラーな使い方は上手そうだ。
他の仲間も初エリクサーを味わって、肌ツヤがいっそう良くなった。

<水の極大魔法を使用したため、多めの経験値を取得しました。マスター・レナ、私、もっと成長したいのですが協力して頂けませんか?
経験値を一定数値取得すると、一時的に実体化することができるようなのです。[創造者]ゆえにセルフメイキング!>

「本当? 一緒に祝杯を挙げられるかもしれないんだね! どうしたらいい?」

<アプリの最新ミニゲームで遊んで下さいませ! 構って!>

▽キラは アプリ[ミュージックリズム]を取得した!
▽キラは アプリ[ダンスバトル]を取得した!

<ウィンドウ大展開!>

ルーカとオズワルドが机を移動させてくれて、ちょっとしたスペースを作ると、空中と床に巨大なウィンドウが現れる。
それぞれのアプリが起動すると、空中のウィンドウは音楽に合わせてアイコンが落ちてくるゲーム画面に、床はカラフルなダンスの譜面に変化した。
幼いヒト型従魔たちが大はしゃぎで遊び方を聞く。

「「わあーい! リズムに合わせてこのアイコンを押すんだね? こういうの大好き! スペシャルハードモードでいっちゃうぜ!」」

「シュシュ、ダンスバトルしてみたいな!」

「やろうよー♪ 私と……対決だよっ。えーと、選曲は……アイドルステップにしよう」

さっそく軽快な音楽に合わせて遊び始めた。
夢中になっているため、隣同士の音楽の違いは気にならないらしい。
子どもたちがステップを踏んだくらいでは、淫魔のお宿♡の床はびくともしない。防音性は言わずもがな完璧だ。

「わあ。今のゲームってこんななんだ……私が子どもの頃とは世代の差を感じるなぁ」

レナが「すごーいグラフィック綺麗ー」と感嘆のため息を吐いた。

<マスター懐かしの据え置きゲームも御座います! ささ、コントローラーをどうぞ。ハマルさんの[夢吐き]とのコラボレーションです!>

「えっ!? ありがとう。うわ本当に懐かしいや……よく家族と遊んだの」

<プレイヤーネームはマスター・レナのSNSマイページのニックネームを登録しておきました>

「お願い、修正させてー!」

厨二病ネームから改名したプレイヤー・レナが、コントローラーを握ってのんびりと初級カートレーシングゲームをプレイする。
最新アプリのゲームと比較するとグラフィックは雲泥の差で、数年間でのゲーム業界の進歩をしみじみと実感した。
こちらのゲームにも誘ってみたが、クーイズ・シュシュとリリーはレナを気遣うそぶりを見せながらも、明らかにリズムゲームをしていたそうだ。

「手を止めさせちゃってごめんねー」と遠慮したレナは、のんびり屋のハマルを膝に乗せつつ、オズワルドと競いながらファーストステージを突破した。
レナから歓喜の声が上がる。
自分のデータベースに連動してゲームを起動しているキラも嬉しそうだ。

「オズくんはあっちのゲーム代わってもらわなくていいの? 楽しそうだよ。もっと多人数でも同時プレイできるし」

「このカートのが気に入ったから」

そう言いつつも、尻尾はリズムゲームに合わせて軽快に揺れていた。
オズくんも優しいんだよね、と考えながら、レナはしばらく少年のツンデレに甘えることにした。

二面を越した時、後輩たちにお願いされたキラが新たなゲームを起動する。
またハマルの[夢吐き]と協力して……操縦席つき、スーパーリアルなカートレーシングゲームが実装された!
さすがに、オズワルドもうずうずとそちらを見ている。

「行っておいでよ。カートレーシング、好きでしょ?」

「……ごめん主さん! ちょっと試してくる、だけだから」

好奇心に負けたオズワルドがすっ飛んでいった。
シュシュと対決して、犬歯を覗かせて闘争心をあらわにするその横顔は父親にとてもよく似ている。嫌がられそうなので本人には言えないが。

ハマルはリリーと一緒にフラダンスを踊り始めた。
クーイズは情熱的なフラメンコを披露している。

じいっとパンドラミミックを視つめていたルーカが、ようやく口を開いた。

「このミニゲームの経験値を全て燃焼させて、約3分間くらい実体化できそうだね。祝杯を挙げられるだろう」

「<本当ですか!>」

レナとキラの嬉しそうな声が重なった。

「うん。消費した経験値はなくなってしまうからレベルアップは遅くなるけど、上がったレベルは影響を受けないから、キラがレベルアップした直後に経験値を消費して実体化をお試ししてあげるのもいいんじゃないかな。食事すること、ずっと楽しみにしていたでしょう」

ルーカがにこっと笑いかけると、キラはその笑顔を真似て綺麗に笑ってみせる。
キラは自分らしさを模索して、様々な経験を積もうとしているのだ。

鏡合わせになったような笑顔がとても幸せそうだったので、ルーカは「自分はこんな風に笑えるようになったんだなぁ」となんだか感動した。

従魔たちが大満足でゲームを終えて、夕飯の席に着く。
室内にいたけどしっかり運動したので、もうお腹はぺこぺこだ。

「それでは、代表として私、レナが音頭をとりまーす!」

「「いえーい! ぱふぱふー!」」

「キラ。魔物へのクラスチェンジ、おめでとう。いつも私たちを楽しませてくれてありがとうね! これからもよろしく!」

レナがキラに手を差し出す。

キラは応えるように、手を伸ばして……あたたかい指先が触れ合った。
ぱあっとキラの口元がほころぶと、真っ白だった頬が桃色に染まる。
これまでガラスレンズに映してきた光景と変わらないはずなのに、レナの微笑みがより綺麗になったように感じて、世界が輝いて見えた。

「さあ。みんなドリンクボトルを持って」

キラが恐る恐る、そうっとボトルを持ち上げる。
これは樹人族のドリンクスタンドで買ったこぼれない容器だから大丈夫だよ、と声をかけられて、照れくさそうに「うっかり」と口にした。
初めての魔物化で、キラもかなり緊張しているようだ。

「乾杯!」

「「<かんぱーーい!>」」

全員が復唱して、それぞれのフレーバードリンクを飲み干した。
キラの喉を甘い液体が下り、鼻にバニラハイビスカスの香りが吹き抜ける。
素晴らしい経験だ、と感じた。
数値化されたデータではとうてい敵わないほどの圧倒的な感覚に、クラクラするくらい。

<マスター・レナの従魔って最高です……!>

ふわふわ上気した顔で呟くと、

「そうでしょ!」

あちこちから同意の言葉と、笑い声が届く。
手のひらで両頬をむにっと抑えたキラは、従魔の誰とも違う、自分らしい微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

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