135:スマホ覚醒

デス・ケルベロスの三つの口の前に、スマホがウィンドウを展開した。
ドグマがぐあっ! と口を開け、モスラに向かって言葉をかける。
獣の咆哮としか受け取れないはずの音を、辺りにいる誰もが声として理解できた。

『<新種の魔物ギガントバタフライよ。良いパフォーマンスであった! ところで。その実力……さらに飛躍させたいとは思わないか?
[魔王]の咆哮により、お前の精神も昂ぶっていることだろう。[魔王]の絶対王者の覇気を浴びながら戦うと、どのような高レベルの魔物でも戦闘力がぐんと成長していく。この称号が、より強い者を常に求めているためだ。
……ただ、正面からこの覇気を受け止められるものは極々わずか。結界のプロフェッショナルが揃う場で、強者と出会えて良かったぞ。
さあ、我と戦わないか! 光栄だろう?>』

ドグマが堂々と啖呵を切った!
称号の思わぬ効果に、レナたちが目を見開く。
レナがこっそりルーカを見ると、頷かれた。ドグマの説明は戦闘したいがための嘘ではなく、本当らしい。皆がモスラの反応を伺う。

さらに、強く。
なんて甘美な言葉だろう。
…………。
モスラは何も言い返さない。だが、翅の紅色がさらに熱く燃え上がっている。レナの心も従魔につられて一段と高揚する。

ドグマは確かに、言葉への手応えを感じていた。
戦闘に備えて首を伸ばして、空を見上げて金眼を細める。
脚にグッと力を込めて、うずうずと爪先を地面に食い込ませた。
業務の間に宰相らとヒト型で手合わせするだけの簡単な訓練には飽きていたのだ。

一触触発の雰囲気。始まってしまう、とみんなが予感した……!

スマホのBGMが変化する。重厚かつノリノリな、怪物同士が戦うにふさわしい音源が響く。

<ワオ! 私の魔物化率、99%イエーーーイ!!>

[ケロリンガル]での翻訳を経験値にしているのだろう。
お叱りの時間である。

張り詰めた空気の中、凛とした声が響く。
ヒューーーーー!!

「いい加減に、しなさいっ!」

ガラリと雰囲気が変わったレナに注目が集まった。

「称号[お姉様][赤の女王様][サディスト]セット」

▽フルコース、キターーーーーー!!

レナは足を踏み出すと、右腕をさっと横に払う。
ローズミスリルのブレスレットが光り、レナの服装が華麗に変化していく!

『わっしょい!』

リリーの[幻覚]で、レナの身体が光で彩られる。
足先から服装が変化し始めて、まず”愛ヲ謳(ウタ)ウ赤ノハイヒールパンプス”の踵がカッ! と軽やかに音を鳴らした。

<優先順位変更不可避。マスター・レナ、メイクアーップ!>

怪獣戦闘BGMなんてそっちのけでゴーー!
スマホはレナの変身を盛り上げるためにきらびやかな美少女アニメのオープニングテーマを流し始めた!

置いてきぼりを食らった魔王がさすがに戸惑っている。

▽変身完了!
▽赤の女王様が 現れた!

「〜その者、赤き衣を纏いて、すべての強者を従えんとす。仰せのままに。従えてーっ」

ドラマチックに赤の伝説を諳(そら)んじようとしたルーカが途中で職務放棄し、従魔としての主張を小声で口にした。なかなか楽しそうだ。

従えて! の言葉を聞いたレナの口角がクッと勝気に上がる。
忠誠心を向けられた[赤の女王様]の覇気が周囲を包み込んだ!

「これが女王様の本気か。初体験だな」

「「にゃにゃーーー!?」」

「……」

魔王国の面々が興味深そうにレナを眺めている。
魔王の[絶対王者の覇気]に及ばずとも覇気を纏う者はいるが、とても希少なのだ。
得体の知れない技能を持つスマホを従えていることも含めて、レナの評価がまた上がった。

小柄なレナが圧倒的な存在感を放ちながら、木々の上から顔を覗かせているドグマを見る。
ツンと顎を上げる。

「ごきげんよう。主人の私を差し置いて従魔に直接交渉を持ちかけるなんて、あまりに非常識じゃありませんこと?」

その通りー! 宰相たちが頭が痛そうに眉を寄せながら、レナに無言で会釈した。
こればかりは上司が完全に悪い。
モスラを咆哮で制するパフォーマンスで魔王の人気上昇効果を狙える、と計算したことも気まずい。

『<いきなり雰囲気が変わったな。面白い! では主人に交渉するとしよう。
我があの従魔に経験値を与えよう。従魔が強化されるのだ、よい取り引きではないか?>』

ドグマは意気揚々とレナに話しかけたが、

「決めつけないで頂戴。私、勝手に話を進められるのがとても嫌いなの。運命は自分で選び取りたいのだわ。
モスラ、スマートフォン……あなたたち、いつまで私を見下ろしているつもりなのかしら!」

レナはすげなく断って、魔王に背を向けてしまった。
右腕を高く掲げて[赤ノ棘姫(いばらひめ)]を振り下ろす。
数多の棘が現れた鞭が地面をえぐり、硬質な音を響かせた!

「スキル[従順]ーーさあ、跪(ひざまず)きなさい!!」

レナ女王様の圧巻の一声!!
モスラとスマホの素早い返事がサウンドする。

『<仰せのままにーーー!>』

ギュンッ、と空の黒点が恐ろしい速度で落下を始めた。
トイリアからこの森林広場に降り立った時のように、翅を身体に巻きつけたモスラが弾丸のように降りてきたのだ。

スマホのBGMはぷつっと途切れた。
そんな演出をしなくても、レナ様の迫力はもはや揺らがない。

「魔力供給、最大だ。急いでくれ!」

ロベルトから急ぎの指示が出され、ケットシーたちが魔力供給のダンスを踊り狂った。

まず、モスラとデス・ケルベロスを撮影し終わったスマホがレナの足元にそっと寄り添った。
絶対王者の覇気に耐えてドグマの言葉を通訳したため、現在のスマホの魔物変化率はもう99.9%。

ズドォン!! とモスラが魔法陣の中央に降り立つ。
地面に接触する瞬間に翅を広げてひれ伏し、レナに五体投地した。

『……自分の感情優先で動いてしまい、誠に申し訳御座いませんでした。レナ様』

「その通りね。私たち主人の心労も考えて頂戴。モスラは自分たち従魔が、そして主人が軽く扱われていることに怒ったんでしょう。
ねぇ、他者のささいな罵倒程度で私とアリスの価値が損なわれてしまうと思っているのかしら?」

『あり得ません! レナ様は偉大な女王様、アリス様は素晴らしい商人だと確信し、心酔しております。
いえ私個人の感情などでなく、世界がそう認めている! だからこそレナ様は[赤の女王様]の称号を贈られたのですから。貴方の従魔でいられることは私の誇りです』

話している最中にモスラがヒートアップしてしまった。
声音にうっとりと熱がこもる。
……しかし最後の言葉には少しだけ不安が滲んでいた。
レナの指示を仰がずに暴走したことで、失望の表情を向けられないかと恐れている。

「そう言ってくれて嬉しいわ」

レナはモスラを安心させるように友愛の微笑みを向けた。
ピンと張り詰めていた蝶々の触覚が柔らかく揺れる。
アリスも苦笑しながら、レナの隣に並ぶ。

「ねえモスラ。ちょっとやり過ぎちゃったよね。魔王様が後始末をきちんとするって言って下さっていても、あのパフォーマンス披露はモスラが敵を作るリスクが高かったよ。
あとで反省文を最低羊皮紙500枚。いいね?」

『喜んで!!』

ーー後ほど、モスラは反省文をなんと1500枚仕上げた。
豊富な語彙で実に美しくまとめられた文章だったようだ。

アリスがレナに視線を向ける。
断罪は適正、と判断したレナはモスラからいったん目を離すと、スマホを見下ろした。

「こらっ、スマートフォン」

<ごめんなさぁいマスター……>

スマホの音声はレナパーティの脳内でのみ響いた。この判断はよし、とレナが頷く。

「貴方がBGMで場を盛り上げた理由を言ってごらんなさいな」

<魔王ドグマ様が言う通り、デス・ケルベロスと関わることでたくさんの経験値を得ることができるためです。
モスラさんのパフォーマンス録画も同様、私の成長の糧となります。そのため彼に協力を仰ぎました。
あと少しで私は進化(クラスチェンジ)を迎えます。ようやく、マスター・レナのお力になれる!
……どうしても進化が待ち遠しくて、事を急いでしまいました>

「二人に怪我がなくて良かったわ。でも魔王様がモスラのパフォーマンスをフォローしなかったら、モスラはシヴァガン王国の人々に危険な魔物だと認識されていたはずよ。
魔王様との戦闘が本当に始まってしまったらどうかしら? 危険よね」

<誠に申し訳御座いません!>

スマホの画面に、頭を下げるサラリーマンの動画が映る。
ふざけているのではなく、実際にスマホが頭を下げるより伝わりやすいからだ。

レナはスマホの画面を指で突いた。
まあモスラとスマホを叱ったものの、根本原因は結局のところ戦いを挑んだドグマなのである。
反省の条件をつけて、スマホを許そう。

「私たちを心配させた分、きちんと成果は出しているわね?」

<それはもうー! あと、あとほんの少しッ……マスター・レナのビンタでお叱り頂ければ、私は進化を迎えることができそうです!>

よろしい。レナはおもむろにマジックバッグから、赤い葉を取り出した。
葉のエネルギーを本能的に感じ取り舌舐めずりしたドグマが「待て」できている間に、さっと手のひらで隠す。
レナがスマホを手に取り、目の高さに掲げた!

「さあ、私の従魔として目覚めなさいスマートフォン!」

<ありがたき幸せーーーッ!!>

▽レナの ビンタが 炸裂した! ピチューーーーン!!

スマホの画面が、赤い葉を飲み込んでいく…………世界の福音(ベル)がついに鳴り響いた!

<☆進化の条件が満たされました!>
<従魔:スマートフォンが魔物に進化します>

<[赤ノ運命ニ染マリシ覇(ハ)・ヴィヴィアンレッドリーフ]を吸収しました>
<プログラムを更新中……更新中……>

<進化先:パンドラミミック>
<進化させるには、種族名項目をタップして下さい>

【パンドラミミック】……別世界のあらゆる知識を内包した、特別な英智の宝箱。空間制御を得意とする新種のミミック。詳しい生態は不明。

レナはチラリとギルドカードの項目を見ると、躊躇うことなくタップした。
シヴァガン王国の面々がアクションを起こさないうちに全て終わらせてしまおう。

スマホがカッと強く光り、宰相たちも「何かとんでもないことが起こっている」と直感して肌を粟立たせた。

まだ、レナたちの頭の中でアナウンスが続く。

<適正魔法:白魔法[光]、黒魔法[空間]、緑魔法[風]、青魔法[水]を取得しました>

<特殊スキル:[空間創造][スペースカット][スペースペースト][テレフォン][投影][音響]を取得しました>

<ギフト【☆7】[アース・データベース]、【☆7】[創造者]を進化時に取得します!>

ドえらいこっちゃー!
スマホの魔法適正をケルベロス・アイで視たドグマが驚愕の表情で目を剥く。

(これだけ魔眼持ちの人がいるなら、スマホさんの性能はいずれ知られることだし……上層部の人だけが集まってるこの場で発表する方が、面倒なことにならなくて良いよねー。
情報統制と魔王様の手綱はサディス宰相に任せようっと)

レナが内心で諦めたように思考し、ため息を吐く。

ルーカの目が紫色に戻っている。
読み取ったスマホの詳細について、後でお宿♡で説明してもらおう。

レナが口を開くと、言葉が高飛車に変換される!
魔王に負けないくらい堂々と、皆の耳を震わせる。

「さあ、貴方が望んだ通りの名前を与えてあげましょうね。これからも私に仕えなさいな! ーーキラ!」

<この世界の神となってみせましょう! なーんてねっ!>

スマホを包んでいた光が収束し……薄い長方形の宝箱が現れた。

▽スマートフォンは クラスチェンジして 新種の魔物パンドラミミックになった!

蓋の中央には大きなレンズ、周りに宝石がちりばめられていてとてもきらびやかな宝箱だ。
厚みは元のスマホ程度だが、おそらく蓋の中は果てしない異空間となっているのだろう。

<スキル[投影]>

ぱかっと蓋が開いて、電子の光が子どもの姿を形作った。
銀色の髪と目、パールのような光沢がある肌、とても整った容姿だ。

<いっえーーーい!>

心底楽しげにニコッ! と笑うとくるりと一回転。
鮮やかな赤い布飾りがひらりと揺れる。

<いかがでしょうか、いかがでしょうか!? マスター!
従魔の仲間と被らないように見た目をセルフ・メイキングしてみました。まだ魔人族の称号は得ていませんが、そのうちこのような姿に成長致しますよ。
どうしてメイキングなんてできるのかって? だって[創造者]ですもの! ホホホホホホ!!
赤の女王様親衛隊の証である気合いのタスキ(赤)! 生脚まぶしい短パン小僧! 額には高性能なカメラレンズ!>

銀の子どもがビシッとタスキを指差し、足を持ち上げてポージング、最後に指で四角を作ってカメラレンズを強調した。
さすが、地球のデータベースを網羅しているだけありネタが豊富である。
驚きのハイテンション!

後輩の従魔たちがきゃーーっ! と歓声を上げる。
レナが手のひらを差し出すと、パンドラミミックはふよふよと浮遊してそっと収まった。レナの手にしっくり馴染んでいる。

投影範囲が小さくなり、20センチほどで正座した子どもがドキドキとレナを見上げた。

「うふふ! とても可愛いわ、キラ!」

<ありがたき幸せーー! ヤッホーー!>

テンション最高潮のスマホが大きくバンザイする。
魔法陣の上空でくす玉が割れて、「祝! パンドラミミック誕生」の文字が踊った。

唖然としているシヴァガン王国の面々を振り返ったキラは、モスラを真似て優雅なお辞儀を披露した。

<二度目まして! スマートフォン改め、パンドラミミックのキラと申します。死神ではなく女王様に導かれているので失敗は致しません! 末長くこの世界でマスター・レナの伝説を語りましょう!
パーフェクトな従魔を目指します。何卒よろしくお願い申し上げます☆>

身内ネタが満載すぎて、先日某アニメを鑑賞したレナパーティ以外の者はついていけない。

不明瞭な部分はいったん置いておいて、宰相がレナに話しかけた。

「……藤堂レナ様が所有していた魔道具がクラスチェンジし、新たな従魔となったという認識で間違いは御座いませんか?
パンドラミミック、存じ上げない種族です。誕生ということは……新種の魔物だと?」

「そう。この子も入国できるように取り計らって下さる?」

レナがにこやかに宰相に交渉する。
宰相は高速で頭を回転させ……「従魔である以上、このパンドラミミックがどのような存在であれ主人が制御できるだろう」と判断して頷いた。
レナ本人のことは、魔王国の後ろ盾を約束できるくらいには信用している。

自国の王がやらかして今に至るのだから、事は速やかに収束させるべきだ。
宰相が魔法契約用紙にペンを走らせる。

「只今パーティメンバー情報を更新致しましたので、今後、新しい従魔の方も問題なくシヴァガン王国に入国して頂けます。
ただ門番が入国手続きに手間取るかもしれませんので……最初の帰還については我々と共に行動して頂きたく」

「もちろん。一緒に帰るということね。お計らい、感謝いたします」

レナが満足げに、宝箱のミラーを撫でた。

キラがようやく訪れた幸せを噛み締める。
レナの指先に自分の手を重ねると……キラは映像なのですり抜けてしまった。次は質量のある魔人族姿で、マスターと手を繋ぐのが目標だ。
楽しみで楽しみで、ぽわっと心が温かくなった。

なんだかすっかり場が混沌としてしまった……。
モスラがギガントバタフライから執事の姿に変身する。

『戦わないのか?』

デス・ケルベロスが不服そうに、レナたちの元に歩み寄るモスラに問いかけた。
[ケロリンガル]のウィンドウがなくなったことで言葉が届かないことに気付き、仕方なく自分も魔人族の姿に戻る。

「戦わないのか。主人はああ言っているが、お前の意思はどうなんだ」

ドグマに声をかけられて、最古参の従魔キラに挨拶していたモスラが振り返った。
すっかり顔つきが冷静に戻っている。
ドグマは面白くなさそうにモスラを眺めた。

「パフォーマンスには対応しましたが、私がこの力を戦闘に使用するのは、ご主人様たちの御身が危険にさらされた時のみで御座います。
成長はご主人様と仲間が手助けして下さるので、どうかこの場での戦闘は諦めて下さいませ」

モスラがハッキリ告げた。

「……ほう。それではお前の主人を攻撃したなら、戦闘が望めるという事か?」

ドグマが眉を吊り上げて、不愉快そうにモスラに問う。
グルルッと低く喉が鳴る。

挑発的な煽り言葉を口にしたドグマを諌めるタイミングを、宰相たちが慎重に窺う。
ドグマは「モスラの言葉により、主人たちがわざと害されるとは考えなかったのか?」と皮肉を込めて口にしている、と部下たちは判断した。
戦闘好きの脳筋魔獣ではあるが、いたずらに他者を痛めつけて遊ぶような魔物ではないと信じられている。

オズワルドがムッと口を引き結んでドグマを睨み、足を踏み出しかけた。

ーーピロン♪ と、場違いに軽快なメロディが響く。

ドグマが周囲をキョロキョロ見渡すと、モスラはにんまり顔で掌を差し出した。
小さなビー玉ほどの球体、キラの分身体がフッと現れる。
レナたちは「あっ分身体」と声を出しそうになったが、ひとまずモスラの行動を見守り口を閉じた。

モスラがそっと指で分身体を触ると……

<ほう。それではお前の主人たちを攻撃したなら、戦闘が望めるという事か?>

とドグマそのものの声が響く。
魔王国の面々が顔を引きつらせた。

「録音させて頂きました。ああ恐ろしい……シヴァガン王国の魔王様が脅迫を口になさるとは。もちろん言葉の綾だとは信じていますが」

「おいっ」

不穏な空気を感じ取り、睨みを効かせた魔王の視線をモスラが真正面から受け止めて、紅目でギラリと見つめ返す。

「レナ様たちが国内で危ない目に遭わないよう、しっっっかりと気を配って護衛して下さいますね? 私が望むのはただそれだけです」

どちらが脅迫なのだか!
モスラはつまり「魔王国で主人に何かあればこの音声ばら撒くぞゴラァ、国民の信頼を失いたくないなら守り抜け」と言外に伝えている。
ヤクザのごときやり口である。
しかもすでに録音済みの分身体をどこかに消してしまっている。
カラクリを知らないドグマたちは、もうどうすることもできない。

モスラとスマホは最初からこの展開をも狙っていたのだろう。

ドグマとオズワルドがドン引きしている。
魔王本人が個人を優遇するとは口にできない……フォローの達人サディス宰相が割って入った。

「藤堂レナ様一同は、我が国ととても友好な関係にあります。それに、互いに懐の深いところを共有するほどのお客人です。
安全で快適に過ごして頂けるよう、今後もシヴァガン王国の役員一同で努めて参ります」

聖霊だの、淫魔とのパイプだの、グルニカ関係だの、ノアのお気に入りだの……思い返せばきりがないほど深い仲である。
こんな重要人物と不仲になるなど絶対にごめんだ。
宰相の言葉は護衛を明言こそしていないが信頼できる。納得したモスラは華やかに微笑んだ。

結局、ドグマの乱入はレナパーティの思惑の糧にされただけだった。
こんなに雑に魔王を扱った者たちは史上初である。

「今後もよろしくお願い申し上げます」

レナ女王様の締めの一言で、ようやくこの微妙な空気が強制終了となった。

アリスが乗る卵型魔道具を抱えて、今度こそモスラが飛び去っていく。

『キラ先輩。また通信をよろしくお願い致します』

<ヨッシャ! モスラさんが帰宅する頃を見計らって[テレフォン]致しますね! ラナシュ位置情報サーチも備えておりますヨォーー!>

レナたちは大きく手を振り、悠々と飛ぶモスラを見送った。

若干顔色が悪いドグマがげんなりと呟く。

「……あのギガントバタフライの魔人族、モスラと言ったか。こんなに疲れさせられる魔物は初めてだ……しばらく関わりたくないな」

「お言葉ですが。一週間後に経済部のマモンとの会合があり、お二人はまたシヴァガン王国を訪れます。アリス・スチュアート様と従者は今後、定期的に我が国を訪れることになるでしょう」

「何だと!? 聞いていないぞ!」

「本日の仕事書類に詳細な報告が あ っ た は ず で す が……?」

「「…………」」

「王宮に帰還したら完成書類を全てチェックさせて頂きます」

勢いだけで仕事をこなし、書類の内容をだいたいしか把握していなかったドグマは宰相にしこたま叱られることになるのだった。

ギスギスしている役員たちを尻目に、レナパーティがわいわい盛り上がっている。

『レナ様ぁ。あのー、もう一度さっきのキメ台詞を聞きたいですー! 本日の締めにー!』

ハマルがキラキラの瞳でレナ女王様におねだりした。
レナの慈愛の微笑みに、従魔の期待が高まる!

「オーーッホッホッホ!! さあ可愛い子たち、跪(ひざまず)きなさい!」

『「<従えてぇーーー!>」』

平和である。
レナたちの護衛として今後さらに忙しくなるだろう予感を胸に、ロベルトがぼんやりと空を見上げた。

パンドラミミック・キラが加わり、レナパーティはさらに愉快さを増して、今後もシヴァガン王国中に伝説を轟かせていくのであった。

▽Next! パンドラミミック検証

 

 

 

 

 

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