134:モスラとアリスの旅立ち2

森林地帯に強風が吹き荒れる! 暗雲が立ち込めて暗くなり、稲妻が空を割るように光ったかと思えば、雷の柱が乱立した。その柱を余裕で避けながら天高く飛んでいくモスラを、レナたちは顔を引きつらせて、ドグマはひどく愉快そうな顔で見上げている。

<<ギャオオオオオッ!!>>

スマホが怪獣の咆哮を響かせると、モスラの圧巻のパフォーマンスが始まった!

『スキル[風斬]!』

風の刃がぐるりと一回りして、雷の柱がスパッとまとめて切られた!
切断された雷はギラリと強く光り、消えていく。
眩しい光が地上で見る者の目を痛めつけて、轟音は耳をつんざく。

サンクチュアリの中にいなければ、モスラが敬愛するレナたちも大きなダメージを受けていただろう。
上空を飛んでいた魔物たちは気絶して落下を始めたが、[大空の愛子]の風のゆりかごに受け止められた。空中で魔物たちが停滞している光景は正直不気味である。
目覚めた魔物はモスラの大迫力の旋回を間近で鑑賞することになり、また悲鳴をあげて気絶してしまう。
いっそ落下させてあげた方が良かったのではないだろうか? しかしモスラは主人たちに魔物を降り注がせたりはしないのだ。

雷雲はいよいよドス黒くなり、大粒の雨を降らせ始めた。

『風魔法[サイクロン]』

モスラが雨の全てを極大魔法の風でからめ取り、回転する水柱を作り上げる。

「ほう! あのバタフライは青魔法の適性を持たないと視たが……天候で補ってみせたか! 多技能だな。それに大規模な魔法は我の好みだ! ふははははは!」

ドグマが心底楽しげに高笑いをして、宰相の蜘蛛糸で首を絞められた。ぐえっと潰れた声が漏れる。

ロベルトがケットシーたちに指示をして、魔法陣にいっそう魔力を込めさせている。万が一の時に備えているのだ。ここには御身を守らねばならない上司と、世界に愛されたレナパーティがいるのだから。
その上司が進んで災厄を呼び込むからいつだって大変なのだが。

まるで世紀末のように荒れた空を、みんなが緊張しながら見上げた。
モスラが調整しているため、少し離れたシヴァガン王国王都にはこの災害の影響はなさそうだが……十分やりすぎである。
高画質撮影を続けているスマホはBGMでモスラの戦闘をただ盛り上げている。よろしくない。
レナがぎゅっと鞭を強く握る。

『フィナーレです』

<よし、幻想的なクラシックいっきまーーす!>

『スキル[吹き飛ばし]!』

モスラが翅を身体に巻き付けるようにして鋭く回転すると、竜巻のような暴風が起こり、分厚い雲をみるみる拡散させていった。
太陽の光が線になり地上に降り注ぎ始める。
光の中心にいるモスラは、神々しくすら見えていた。

漆黒の翅がひらりと伸ばされると、水柱が空に登っていき、太陽のきらめきを拡散させて空一面がキラキラ光った。
やがて水分が蒸発して、柔らかな白い雲がうっすら広がる。
パフォーマンスの余韻が残るものの、いつもの空に戻った。

「圧巻の光景だったな……夢でも見ていたようだ」

「「にゃーーー!」」

ロベルトとケットシーが感想をポツリと呟いた。同じネコ科同士、会話が可能らしい。

宰相はモスラの戦力を測るように、厳しく眉を顰めている。
ドグマが満足げに鼻息を吐いた。

「良かった!!」

卵型魔道具から出て鑑賞していたアリス、レナパーティがひとまずホッと息を吐いている。

「ドグマ様。シヴァガン王国の国民に呼びかけを」

「分かっている」

宰相が嘆願すると、ドグマは結界に向かって歩きながらガブリと自分の指を齧った。
獣人は本来の姿に戻る時、素早く変身できるように身体を噛むクセを付けていることが多い。ドグマもそのパターンなのだろうか……。
レナたちが緊張する。
デス・ケルベロスをこの目で見ることになるのだろうか?

「よく見ておくといい、お前たち! このジーニアレス大陸で今、一番強い魔物の姿だ!」

案の定ーーー!
振り返ったドグマはニヤリと笑って声高に告げると、装飾保存ブレスレットで動きやすい服装に着替え、まず脚だけを獣のものに変えた。
勢いよく駆け出したので、ルーカが慌ててサンクチュアリに一人分の穴を開ける。

ケルベロスの豪脚が地面を抉って駆け抜けて、ドグマが立ち去った”跡”を見たレナたちはゴクリと喉を鳴らした。
シヴァガン王国の関係者たちとオズワルドは「肉球を生かして足跡を残さずに歩くのが獣人のやり方なのにこの有様、相当テンションが上がっているな」とため息を吐く。

”グオォォォォォン!!”

サンクチュアリの外に出た半獣人のドグマが、まず一度目の咆哮を上げた。
周辺にいる弱い魔物たちの意識を飛ばしたのだ。いきなりデス・ケルベロス本来の覇気を振りまくと大混乱を引き起こすため、あえて森を静めた。

そして魔王ドグマが、ついにデス・ケルベロスに変身する!

レナたちは視界が一瞬ぶれたように感じた。
サンクチュアリの中にいてもなお、デス・ケルベロスの覇気に無意識に足が震えてしまったのだ。
体が強張り、呼吸が浅くなる。

大木をさらに追い越すほど巨大な、三頭の頭を持つ黒紫色の獣が森林に現れた!

▽デス・ケルベロスが 現れた!×1

艶やかな体毛が太陽の光も全て吸収して、ドグマの存在感をいっそう際立たせる。

三頭が全てがそろって空を仰ぐ。
ガバッ! と大顎が開き、本気の大咆哮がジーニアレス大陸の半分にまで轟いた!!

『称号[魔王]セット、スキル[咆哮]』

”グオォォォォォンッッ!!”

称号[魔王]をセットしたことにより”絶対王者の覇気”が爆発的に溢れて、全員の心を激しく揺らした。

この称号の解放には、弱者を地にひれ伏させて、強者の闘争心を引き出す効果がある。
そして配下の者たちの心には安心感を与えるのだ。
シヴァガン王国に籍を持つ魔物たちは「あの謎の怪物には魔王様が対応してくれている」と理解して、恐れを振り払うことができた。

仕事を終えたデス・ケルベロスは、レナパーティを高圧的に見下ろして口元を笑みの形にする。
ズラリと鋭い牙が覗いていた。

『……うむ! 結界の中にいるとはいえ、よくこの咆哮に耐えたものだな! 希少種の魔物なだけある。まあ数名はまだ未熟なようだが。ふははは!』

ドグマの言葉通り、純粋な戦闘力を持たないアリス、そしてシュシュはへたっと座り込んでしまっていた。

レナがアリスに手を貸して、リリーがシュシュを引っ張って立たせてあげる。シュシュは悔しそうに顔を歪めていた。まだパーティ内で一番レベルが低く、心も不安定なのだ。

オズワルドがシュシュの様子を横目で見て、気まずそうに視線を逸らした。
ドグマの声は同じ犬種のオズワルドと魔眼チートのルーカにしか理解できていないので、通訳せずにだんまりを決め込んだ。

ルーカとレナの心がゾクゾクと奮い立つ。
ルーカは特にステータスが高い新種族だし、レナは実力ある魔物たちを多数従えているご主人様なのだ。

(なるほど。この感覚に、ロベルトさんやケットシー、サディス宰相も魅せられているのか……彼らの主従関係について、少し理解できたかも)

ルーカが魔王国の面々をこっそり伺うと、全員がデス・ケルベロスを見上げて跪き、目をギラギラと光らせていた。
敬愛と獰猛な魔物の本能が燃え上がり、魂を強く輝かせている。

スッと立ち上がった宰相がドグマに最敬礼した。

「立派にお勤めをこなして頂き、誠にありがとう御座います。国民の不安も取り除かれたでしょう」

ドグマは3対の金眼を細めて王都を眺め、おもむろに頷く。

そしてまた空を仰ぎ、翅の紅模様をいっそう濃く点滅させているモスラを観察する。
漆黒の翅は闘争心の高まりを表すように、ほとんど真紅に染まっていた。

『やはり、咆哮を直接向けられても怖気付かなかったか。大した実力だ。それに戦闘能力だけでなく、精神も強靭なのだろう。まるで射殺さんばかりに魔物の王を高みから見下ろしているな。良い! 引きずり下ろしたくなる! ……が、勝負を挑もうにもこの姿では声が届かないが』

デス・ケルベロスはガルルッと重く喉を鳴らすと、拗ねたように軽く頭を振った。
また獣人の姿に戻れば声は届けられるが、おそらく速攻で宰相に捕縛される。
ふっと鼻から息を吐くと、熱風が木々を数本枯らしてしまった。

しかしモスラをただ逃すのは惜しい、何か対決する策はないだろうか……とドグマが思考し始める。
ドグマが大人しく動きを止めたので、誰もがもうトラブルを回避できたのだと思いこんだ。

そんな時に予測を裏切るのが、このラナシュという世界である。というかレナパーティの一員だ。

<アタックチャーーンス!>

『何だ?』

<初めてお目にかかります。僭越ながら自己紹介を……マスター・レナの所有物、魔道具のようなものスマートフォンと申します魔王様! ハイハイ!>

思いがけないスマホのアプローチに驚いたレナパーティの目が飛び出さんばかりだ。
一体何が始まってしまうのだろう!?
不安しかない!

<どうやらお困りのようですね。そこでこの私! あらゆる悩みをズバッと解決、アースアドバイザーに相談してみませんか!?>

さすがの胡散臭さに、ドグマも眉を顰めている。

『……なぜ、我の言葉を理解できている? お前は犬種ではないだろう。それにその小さな四角の……鏡のような姿は? 一体どのような魔物なのだ』

<ヤダァただのウルトラハイスペックな魔道具だって言いましたのにーッ☆ 今はまだ、ね。ふふふ!
ドグマ様の言葉を理解できるのは、こちらのアプリをダウンロードしたからで御座います。ジャジャーーン! [ケロリンガル]ー!>

スマホとドグマの間に大きなディスプレイが現れる。
そこには犬イラストのアイコンと[ケロリンガル]の文字が映っていた。ケルリンガル、でないのは語感を優先したらしい。
レナパーティが頭を抱えている。

『理解が追いつかない部分もあるが……その[ケロリンガル]とやらで我の言葉を判別できる。そして我の悩みをお前が解決する……つまりあのギガントバタフライに言葉を届けられるということか?』

<さようで御座いますぅ!!>

『ふむ、頼もう!』

よし、スマホ、叱ろう。レナが鞭を構えた。

スマホは貪欲に経験値を欲して、あれこれと策を練っている。

 

 

 

 

 

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