130:送別会(仮装パーティ)2

パーティが始まると、空中に鮮やかな紙吹雪の[幻覚]が現れた!
一定時間ごとに花びら、落葉、星など形を変えて参加者の目を楽しませる。

「魔道具でしょうか? このように不規則に舞う魔法設定は難しいはずですが……」

「私の、スキルなの! お話しながらでも、[幻覚]をコントロールすることが、可能なのだよ。サディスパパ」

「「きゃーーっ! リリー様ぁー!」」

宰相の疑問にリリーが誇らしげに答えて、妖精族が黄色い悲鳴をあげた。
ガルボがびくっと肩を跳ねさせて、ノアは目を丸くして父を見た。
宰相が思わず、手元のジンジャーエールを一気飲みする。

「おお! いい飲みっぷりじゃねーですか、宰しょ……サディス様! 子どもたちがいるから俺たちドワーフもキツイ酒は控えるつもりですが、景気良く飲んでこのパーティを楽しみましょうぜ!」

「そ う で す ね。……ノア、同じくらいの見た目の子たちと遊んでいらっしゃい。せっかくの機会ですから」

「は、はいっ」

久しぶりに遊ぶ許可が出されたノアは、今日は幸いなことにとても体調が良かった。
頬を高揚させてぺこりと父にお辞儀し、キョロキョロと周囲を見渡す。

「「こっちおいでよー!」」

リリーとシュシュに誘われると、ノアは嬉しそうに顔をほころばせて小走りにテーブルを移った。
宰相はほんっっの少しだけ表情を和らげてその後ろ姿を見送る。

「いいお父ちゃんじゃないですか、サディス様」

「貴方は……空便登録番号151番、ワイバーンの集落ギギリク出身のラギア・アールですね」

「は、はい。すげぇ、本当に頭の中に辞書が入ってるくらい知識が豊富なんすね……」

「いざという時、すぐに必要な情報が出てくると便利ですから。魔道具の『メモリーブック』も使用して知識を持ち歩いています。本に記載した記憶を、専用のキーで解放することができる。
今は空便関係者の項目を思考キーで開きました」

「「はあーー!」」

親方ドミニクとラギアがそろって感嘆の声をあげた。
それぞれがお互いのグラスに飲み物を注いで、改めて静かに乾杯する。
「こんなすげー人と話す機会なんてそうそうねぇや」「そうだなぁ!」なんて話しながら楽しげに会話を始めた。
ドミニクが持参したフルーツ酒の力を借りたのだ。度数が低いが、勇気は出る。

テーブルは五つ。隣同士の間隔が近いので、別のテーブルの人とも気軽に話せる。
それぞれのテーブルに乗っている料理が違うので、みんなは好きなように席を入れ替わったり、料理が乗った皿を別のテーブルに差し入れたりしていた。

どうしても落ち着いた男性組、華やかな女性組で分かれやすいが、従魔たちがあちこちに絡みにいくので、程よく男女の会話も弾む。

主賓のアリスとモスラが座るテーブルの真ん前に大きな鉄板台があり、レナがさっそうとエプロンを身につけてフライ返しとさい箸を構える!

「焼きたての鉄板料理もどうぞ召し上がれー! これだけ大きいとスペースを分けて色々焼けるよね。
厚切り肉もベーコンもウインナーも、気象野菜も、海鮮もありますよ!
今回のメインはこちら……エンペラー・クラーケンの切り身のバター焼き! この場の分でもう食べ納めだから、どうぞ召し上がれー」

「「待ってました!」」

アリスとモスラが拍手した。
アリスにだけ、あとで醤油マヨのイカ焼きをこっそり差し入れようとレナは予定している。
みんなにはバター焼きの角切りクラーケンを楽しんでもらおう!

「お肉はもちもち丸ウサギ、サディスさんの差し入れのユートピアビーフ〜♪ ベーコンはトイリアの肉屋ゴメス製、ウインナーはラギアさんの差し入れ♪
快晴ハッピーニンジンに綿雲カリフラワー、瑞々(ミズミズ)シイタケ、夕焼けカボチャと宵紫キャベツ! 気象野菜も召し上がれ〜♪ エビ、イカ、うまうま♪」

レナがご機嫌で鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで食材を焼いていく。
ユートピアビーフは超高級品だったので、万が一にも失敗しないようにモスラが手助けしてくれた。

「ご覧下さいこの見事な|炎の柱(フランベ)!」

レナがアナウンスして、

「いつか御主人様たちに披露しようと技を磨いておりましたので」

モスラは余裕たっぷりにウインクした。
招待客が「すごい!」と声を上げ、「きゃー目の保養っ」とララニーがネレネの膝の上に倒れる。これまた幸せそうな着地点だ。
ネレネが「あらあら」と艶っぽい笑みを浮かべた。

淫魔二人はのんびりと一口タルトを摘んで会場を見渡す。給仕が忙しそうだから手伝うことにして、腰を上げた。
ルーカを怖がらせないようにさりげなく目を逸らしながら接する。面倒をかけて申し訳ない。

サキュバスたちの気遣いのおかげで、ルーカはマイペースに給仕している。
まずはどの料理も、主賓のアリスとモスラのテーブルから。

「お待たせ致しました、なんてね。どう? 様になってる?
各種鉄板焼きの盛り合わせです。熱々をどうぞ。調味料は多様な塩、トマトソース(という名のケチャップ)、チーズソース(という体(てい)のマヨネーズ)、などを揃えました」

「〜〜! ジミーお兄ちゃんの心遣い、素敵……!」

「ありがとうございます(レナとモスラには内緒にね?)」

ジャンキーな調味料にすっかりハマってしまったアリスにルーカからの特別な送別サービス。テレパシーで内密に伝えた。
他のみんなには普通の濃厚なトマトソースとチーズソースが配られている。
モスラが席を立つまでアリスはこのソースに手をつけず、牛肉ステーキ調理に彼が参戦したタイミングでルーカに視線を送り、結界(サランラップ)を解除してもらってから、こっそりと魅惑の味を楽しんだ。
レナのサプライズ差し入れと合わせてかなりのカロリーを摂取し、後になって体重増加に気付き、涙目になるまでがお約束である。
後日、ルーカにはモスラからOTEGAMIが届く。

「先に頂いちゃってごめんね、モスラ。美味しいねぇ」

席に戻ったモスラにアリスが話しかけた。

「温かいうちに召し上がらないともったいないですから。どうかお気になさらないで下さい。ビーフステーキはいかがでしょうか? アリス様」

アリスが上品に、一口サイズにナイフで切ったビーフステーキを最初はそのまま、それから塩を付けて、最後にほんの少し残っていたチーズソースで食べる。

「うん、素晴らしいよ。素材とモスラの焼き方 (とマヨネーズ)が良いよね」

「光栄です! アリス様……それと、こちらを見て頂けますか?」

モスラがレナから直接渡された盛り合わせプレートには、蝶々の翅の形にカットされた夕焼けカボチャが中央に飾られていた。小さな器(ココット)に入れられた黄金のソースは、赤色スライムゼリー(商人ギルドの物品売買コーナーで購入)とロイヤルハニー、乾燥黄金イチゴの粉末と少しの香辛料を混ぜたモスラのためだけに作られたもの。
とても嬉しそうなモスラを見て、アリスが吹き出す。

「レナお姉ちゃん、かなり力を入れて作ってくれたね。こないだ食材を採取しに外出してたのはこの食材を手に入れるためだったのかぁ。
モスラは大切にされているね」

「日々実感しています。食べてしまうのがもったいないくらいですね……。でもせっかく今日のために作って下さったのですから。有難く頂きます」

モスラはスマホが撮影したことを確認してから、蝶々型カボチャを黄金ソースにつけて口にする。
うっとりと顔をほころばせた。
レナとアリスが微笑ましげに眺める。

アリスには早々にオシャレなケーキの盛り合わせも運ばれてきて、とても喜ばれた。
いつもはマナーを気にして食事のあとに少しだけデザートを食べるのだが、今夜は無礼講スタイルである。

「「グルニカお姉ちゃんも食べるー? はい!」」

クーイズが自分たちの皿を持って移動して、テーブルの端に置かれたグルニカの籠に食料を差し入れする。

「ピリリと辛いマスタードタルト!」

「お口が真っ黒になっちゃうイカスミ入りのシュークリーム」

「「今夜のご注文は、どっち?」」

これはレナが後のロシアンスイーツ用に作っていたものだが、一部メンバーが不機嫌そうだったのでやめておこうと判断され、悪喰のクーイズに渡されていた。
二人は同じく悪喰のグルニカと分け合うことにしたらしい。

「わお。お嬢ちゃん、いやお坊ちゃん? たちは本当に優しいんだね! どっちも美味しそうで悩んじゃうナァー……。じゃあマスタードタルトをもらえる?」

「「おおせのままにー♪ どうぞ」」

籠の隙間からタルトが差し入れされる。
グルニカは現在、20センチほどに小さくなっているので、小さなタルトが何倍にも巨大に感じられる。目を輝かせてかぶりつく。マスタードの奥の辛子ジャムに到達して、目を白黒させた。

「こんなに刺激的なスイーツ初めてぇ……! ヒッ喉が痛いよ。イヒヒ☆ やみつきになっちゃう」

「レナってば容赦ないの!」
「そこに痺れる憧れるぅ!」
「「きゃーー従えてぇーーー!」」

従魔からレナに熱い視線が注がれる!

「ご主人様カッコよく決めて!」

「……やりませんよ!? あ、危なかった……ついポーズを取りかけた。ジミにゃん、こらっ!」

「残念」

からかうように声援を送ったルーカがクスクス笑いながら、逃げるように給仕を再開した。
レナがポージングをごまかして、顔を赤くしながら料理を再開する。

「レナ様の変身が見られると思ったのだが。衣装を新調したそうだし」

ロベルトがちゃかす。

「安売りはしませんよ」

ルーカが熱々のスープをロベルトに運んで、ニコッと微笑んだ。本当は熱々が好きなガルボに運ぶつもりだったものである。

「あまのじゃくだな、君は。東方にそういう妖怪がいるらしい。なんでもわざと正反対の事を為すそうだ」

「面倒くさい性格とはよく言われますね。そうでもないと個性豊かなレナパーティで埋もれますから丁度いいかもしれません。
もしレナがたまたま変身していたらそれは運命ですが……なんて。宣教師ジョークです」

「どこまでがジョークなのか分からなくて肝が冷えるぞ」

ロベルトが苦笑しながらルーカを見る。
ルーカは涼しい顔で踵を返すと新しいスープを女性陣に給仕して、絡まれる前に早々に立ち去り、自分とレナ、ハマルのスープを持って同じテーブルについた。
宰相たちは料理を摘みながら何杯も杯を空にしている。
一通り鉄板焼きを作り終えたレナがハマルに急かされながら席に着いた。

「ロベルトさん、パーティを満喫してくれているみたいで何よりです! たくさんお料理召し上がってくれたんですねー」

「どの料理も珍しくて、とても味が良い。もともと食べる方ですが、ついフォークに手が伸びてしまいますね。ごちそうさまです。
レナ様も相変わらず……その、愉しそうで」

「ふふふっ!」

ルーカが堪えられずに笑い声を漏らした。
レナときたら、魔物型に戻ったハマルの上に腰掛けたのである!

「ふははは……笑うがいいわ!」

許可が出たぞーーー! レナのヤケクソは承知だが、ルーカが机に突っ伏した。
この隙にロベルトがルーカのスープと自分のスープを入れ替え、ルーカは後で舌を軽く火傷する事になる。
これでも諜報部の凄い人なのだ。

後の師弟はこのような感じでたまに話しをして、獣化訓練の前に、親睦を深めていった。

レナはみんなに盛大な笑いを提供すると、アリスとモスラのテーブルにつく。
途中、オズワルドとルイスが座る一番端のテーブルにお肉の特大盛り合わせを差し入れ、親指グッ! してエールを送っていった!

…………。
オズワルドとルイスはすでに身体に見合わないほどたくさんの料理をお腹に詰め込んでいる。
いや、正しくはルイスが話し始めた瞬間にまたオズワルドが料理を詰め込んでいた。
他の招待客はこの二人に絡みづらく、そっと見守られている。
従魔たちとレナも様子見中。

「主さんは料理上手だからルイスもきっと気にいるよ……どんどんどんどんどんどん食べてって。はいこれも」

「むぐっ……こらオズワルド! さすがにそんなに腹に入らん。そろそろ食休みをする」

「そう言わずに。これまだ食べてないよね?
エンペラー・クラーケンの切り身。強い魔物の食材を食べると自分の力になるんでしょ?」

「ふむ……じゃあそれだけ食べておくか」

ちょろい。オズワルドが冷や汗をかきながらも「作戦通り」と笑う。
ルイスにイカ焼きを渡すと、自分はベーコンに齧り付いた。
ヤケ食いである。

「……そういえばオズワルド! 白炎がお前にだけ現れたそうじゃないか!
理由が分からないと言われていたが、本来の素質と、我がお前に幼少期から火山地帯のマグマリザードを食べさせていた影響もあるかもしれんな」

「ぐっ!?」

オズワルドはむせて、喉をドンドンと拳で叩いた。
今は両手の着ぐるみは脱いでいる。
なんとか詰まっていた肉片を飲み下した。

「……気をつけるがいい。なんとも間抜けだぞ。治療魔法[グレートヒール]」

ルイスが呆れた表情でオズワルドの口内を過剰治療し、ぐいっと水を飲ませる。
オズワルドは目を白黒させながらも、なんとか水を飲み下した。

「ごほっ!……あのさ! この場でその話題はタブーなんじゃないの……!?」

涙目で不満げにドグ……ルイスを睨む。

「ではいつその件を話し合うというのだ? やっと会えたのだぞ。普段は宰相に邪魔されてばかりだからな。あやつめ、最近妙に捕縛の腕をあげよって」

ルイスがうんざりと言い、レナたちが気まずそうにあさっての方を見た。

「……そのうち王宮で説明があるだろ。魔王に実情が隠されるなんて事はない。全て話してもらえるさ」

宰相がカフェロールを品よく一気食いした。

「我は! 実物が! 今すぐに! 見たいのだッ!」

ドグマァァァァ!

「子どもかよ!」

「いかにも」

ルイスが胸を張り、オズワルドが遠い目で父親を上から下まで眺めた。
小さくて華奢。いかにも、子どもである。そんな回答を求めていたわけではないのに!

「白炎で肉をフランベして見せてみよ。それならば良いだろう!?」

「消し炭になるから! そんな食への冒涜をしたら、あの従魔贔屓の主さんでもすごく怒るから」

オズワルドが速攻でバッサリ切り捨てる。怒ったレナは……正直怖い。
レナが耳を傾けて、オズワルドの判断に静かにグッジョブした。食材を美味しく食べることについて、しっかり教育した甲斐があったというものだ。

口元を押さえられたルイスはオズワルドの拘束からスルリと難なく抜け出す。
伊達に[縄抜け]スキルを取得したのではない。

「ルイスさん。お腹いっぱいになったならあそこで遊んでみますか? パンチングバルーンとか好きかな」

レナがテントの中のおもちゃコーナーを指差す。
夢産ミニジャングルジムなど、幼児たちが室内遊具で遊べるスペースが作られていた。
ルイスの参入は想定外だったが、小さくなっている今なら彼にも楽しんでもらえるかもしれない。

「ほう。よい提案をしたな、魔物使いレナ!
そのような敬語は今宵ばかりは必要ない。存分に我を子どもとして扱うことを許可しよう。
では、軽く身体を動かそうじゃないかオズワルド。闘争本能がうずくな」

「分かった、付き合うから……発言には気を付けてくれ……。モスラの舌打ちが聞こえたから」

モスラが閉じた口の中でほんの僅かに発した音をオズワルドは聞き分けていた。ヒヤヒヤと小声で注意する。
自由きままなルイスがオズワルドの服の裾を掴む。

「そう言えば、オズワルドのこの服は裾がほつれているではないか。みっともないぞ。
主人はきちんとお前の世話をしているのだろうな? 他の者は仕立ての良い服を着ているではないか……。まさか贔屓……」

「やめろ本当にやめてくれ! 冗談が通じない過激派信者がいるんだぞ!?
……これは俺が望んで選んだ服だよ、アンデッドウルフの仮装なんだからこれでいいんだ。ほつれもわざと!」

焦ったオズワルドの尻尾の毛が逆立っている。

モスラが立ち上がりかけてアリスに呼び止められ、同じく立ち上がりかけたルーカが淫魔に巧みに捕まり、宰相のグラスに大急ぎでフルーツ酒が注がれた。

オズワルドの心労が酷そうなので、レナがフォローに入る。

「もちろんオズくんも可愛がってるに決まってますって。あのねルイスくん。
毎日お父さんに預かったブラシでオズくんをブラッシングしてるし、彼の食べ物の好みも完全に把握してるし、みんなで仲良く過ごしてるよ。
オズくんの潜在能力を引き出す訓練もちゃんとしているからね。
私は主人として、この子を任せて下さい、って自信を持って言えます!」

レナがオズワルドに寄り添い、いつものように優しく頭を撫でる。
オズワルドはおとなしく受け入れていた。
ルイスがじろじろと二人を眺めて、漆黒の尻尾の先がゆらゆら揺れていることに気付き、満足そうに頷いた。

「「従魔同士も仲がいいし、な!」」

そろーりと近付いてきていたクーイズが、オズワルドの両側からガッ! と肩を組む。
「な!」の言葉に迫力を感じたので、コクコクと頷いた。
ルイスが愉快そうに犬歯を覗かせて笑う。

「うむ、気分がいい! 我と共に戯れるか、従魔たちよ」

「クレハだよー」
「イズミだよー」
「「な!」」

「我に名前を覚えろというのか。見上げた度胸よ! クレハにイズミ……覚えたぞ。光栄だろう?」

「まーね!」
「あっそぼうぜールイス。おいでよ」

「ふははは! いいだろうっ」

クーイズがルイスの手を取り、一緒にキッズスペースに導く。
腰を少し浮かしていたモスラがやっときちんと着席した。

オズワルドははあーーっと深いため息を吐いて、小さな父の背中を、なんとも言い難い微妙な顔で見送った。

「お父さん、オズくんのこと心配してたんだね」

「……主さん。そうかも、あんな高度な治療魔法使われたのは初めてだから、離れているうちに加減を見失ったのかな。
主さんも俺のこと心配してたみたいけど。……でも魔王ドグマに招待状送っただろ。俺に話してくれずにさ」

「う。ごめんなさい。どう伝えようか迷ってついに当日に……」

レナが小さくなる。

「いいけど。俺に言い辛い話なのも、魔王ドグマを形だけでも誘わないと気まずいのも分かるから。
……でも、今後は言ってほしい。会う覚悟ができるし、その、ずっと避けていられるわけじゃないって分かってるから……別にそこまで、あの人を毛嫌いは……してたけど」

「うん。今回は伝えずに驚かせちゃって本当にごめんね。これからは必ず、相談するから」

「……うん」

レナは(随分と父親に対する態度が柔らかくなったね)と考えながら、落ち着かなさそうに服の裾をいじって、下を向いているオズワルドをじっと見つめる。

(オズくんの変化の理由はなんだろう。しばらく離れてみて、世界が広がって、お父さんへの感じ方が変わったのかな……。
それとも白炎が発動して、自分が成長していける実感があるから自信がついた?
私たちと過ごしてこの子がリラックスできたから、とかならすごく嬉しいんだけど)

「主さん。こっち見すぎ」

「あ、ごめんごめん。オズくんは優しい子だなぁと思って。
今日はけっこう大変な思いさせちゃったのに、謝ったら許してくれたから。ありがとう」

オズワルドが目を細めてレナを見た。

「お互い様だろ。むしろ、いつも主さんが俺のワガママも何もかも受け止めて許してる分、大変な思いしてるじゃないか……」

「え? それはね、ご主人様の幸せのうちなんだよ」

「呆れるほど善人だな」

「うーん。善人というか……まあ、従魔や友達を大切にしたら、好意的な反応を返してくれるからね。それが嬉しいから、欲しいから、っていうのが理由かもしれない。下心があるとも言えるね。
私は好きな人には同じように好意を返して欲しいと思ってしまうし、見返りを求めない博愛主義になれる人格者じゃない。
日々、好きな人たちとの幸せを守るだけで精一杯なんだよ」

意外な答えに、オズワルドが目を見開く。
レナは穏やかな声で語りかける。

「……だからこそ、まだ言葉や行動で明確に好意を返せない赤ちゃんを、こんなに立派になるまで育てた魔王様はすごいなーって思った。私にはまだ未知の領域だな」

「…………」

オズワルドは言葉が出てこずに、沈黙してしまう。
また、そわそわと服の裾をいじる。

「魔王様は周りの人の手を借りながら、自分が主になってつきっきりで生まれたばかりの貴方のお世話をしてたんだって。宰相に聞いたの。愛されてるねー、オズくん。魔王様にも、私たちにも!」

レナは友愛の笑みをオズワルドに向けた。
オズワルドの耳がピクピク反応していて、クスッと笑う。

「オズくんも一緒に遊ぼうよ」

レナが手を引くと、オズワルドは素直に前に歩き出した。

息子のためにと若い魔王ドグマが奔走していた事を、オズワルド王宮の使用人から何度も聞かされていたはずだった。
独特すぎる子育てだったとはいえ、オズワルドが今になって考えてみれば、あんなに嫌悪感を抱くほどではなかったはずなのだ。
たとえ魔王ドグマのあまりの強さに嫉妬し、拗ねていたとしても。

(俺は、どうして……?)

困惑したオズワルドの手に、レナの手の温度が伝わってくる。
周りの人々から向けられている視線の温かさを、今ならこんなにしっかりと感じ取ることができるのに。
……成長したのだろうか?
……それとも、手を伸ばしてただ父親に寄り添っていた昔に、心が戻ったのだろうか?

ニッと笑ってオズワルドを振り返り見たルイスを瞳に捉えると、カッと心に聖なる火が灯る感じがした。

「うおおおおーーーッ!!」

▽ルイスが大きく振りかぶって……
▽全力パーーーーーンチ!
▽パンチングバルーンが爆音を立てて破裂した!

バルーンには強度増しの魔法がかけられていたのだが、ルイスが身につけていた魔法破りブローチの影響で無効化されたのだ。
瀕死のルーカが一瞬で[サンクチュアリ]を展開して、なんとか料理や設備に影響は及ばなかった。
それにしてもとんでもない爆音だった……耳の奥の脳みそまでジンジンと痺れているほどだ。

ドグマがおもむろに腕組みして「そういえば」と呟く。

「身体は幼児になっていてもステータスは変わらないのだったな。失念してつい、全力で遊んでしまった。
この子どもの身体で遊具を前にすると、やる気がみなぎってくる!
この感覚は、初めてツェルガガに出会った時と似ている! 実に楽しい! ふはははは!」

ーーこの直後、ルイスは床に正座させられて、レナから短時間のお説教を受けた。
子どもを正しく教育する真剣オカンレナは、それはそれは恐ろしかったと言っておく。
オズワルドは生暖かい目で叱られる父の小さな背中を眺めて、ため息をついた。

 

 

 

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