126:たまにはちょっぴり喧嘩する

「みんないい子にしてるかな? 基本的に全員一緒に行動するから、長く離れたのって初めてかも」

みんなで宝飾店メディチからお宿♡に帰る道中、レナがしんみりと呟く。

「そうだね。ここから[遠視]も出来なくはないけど」

「自重して下さいルーカさん」

<分身体を飛ばしましょうか! それともテレビ電話で話しますか?>

「スマホさんも自重しよう。覗かれてるってけしていい気はしないからね?
スマホさんの場合は監視カメラみたいなものなんだし」

「うわ傷ついた……自分が全否定されたように感じる……」

「話長くなるから落ち込んだフリやめて下さい、ルーカさん。
監視カメラなら、ってわざわざフォローしたのにそういう反応するんですから、もー。
ネコミミは落ち込んでいませんよ!
あのね、スマホさん、テレビ電話したいというよりね。離れていた分だけ、愛おしさが募るなぁって。
あの子たちの大切さがよく分かるから、早く会いたいなあって思ったんだよ」

レナの対応が忙しい。ご主人様は一人しかいないのだ。
従魔を想って丁寧に口にされた気持ちに、一緒にいる従魔まで嬉しくなる。
みんながぽわっと心を温めた。

「分かります」

モスラが力説している。
主従愛過激派にも納得されるほど、レナの愛情もたいがい深い。

「モスラは分かりすぎなんじゃないかな?」

アリスがおかしそうにお腹を押さえてクスクス笑った。
ルーカは言わずもがな、笑いをこらえて震えている。

***

▽淫魔ネレネのお宿♡に 辿り着いた!

「あ、皆さんおかえりなさーい! 今日の朝ごはんはどうなさいますか? まだこのお宿♡のメニューも注文してもらえますよ」

ララニーがフロントロビーを綿雲モップで清掃しながら、帰ってきたレナたちに声をかけた。

「ただいまです。外で朝食を買ってきたので、今日はそれを食べるつもりです」

「分かりました! ちなみに夜は珍種キノコ4種のピッツァですよ。街で評判のピッツァ・レストランから特別に配達してもらう予定ですが〜」

「あ、美味しそう……! 夜は注文しようかな? アリスちゃんとモスラもそれでいい……?」

レナが目をキラキラさせながら振り返ると、二人は思わず頷く。
顔に「お願い食べたい!」と書いてあるのだ。
この表情には弱い。
ささやかなお願いくらい叶えてあげよう。

「では、ピッツァ10枚で。よろしくお願いします!」

レナが元気に注文した!

「承りました〜♪ 相変わらずたくさん召し上がられますよねぇ。従魔ちゃんたち育ち盛りですもんね。
ではお部屋の清掃はまた後ほど行いますので、ベルで私を呼んで下さいませ。
ごゆっくりお過ごし下さぁい♡」

ララニーに見送られながら、レナたちは足取り軽く階段を登っていく。

ピッツァ! 従魔! ピッツァ! 従魔! 従魔! 従魔! 従魔従魔従魔!

「みんなお待たせ! 帰ってきたよーーっ!」

レナがばーーん! と扉を開けると……

▽シュシュと オズワルドが スライム触手に縛られている!
▽ハマルが ついでに 縛られている!

みんなでベッドの上でもみくちゃになっている。

「な、何事っ!?」

『あ、おかえりなさーいレナ様ー。あのねー、クーイズ先輩ってば縛るのお上手なんですー』

『『やーーん♡ それほどでもあるぅーー』』

聞いたのはそこじゃない。

「いやあのその、ハーくんが任意なのは分かった……けど、シュシュとオズくんが! 首キマってる!
白目剥いてるからそろそろやめてあげようね!?」

レナが慌ててベッドに駆け寄ると、クーイズは締め付けをやめて全員を解放した。
レナが来たらもう大丈夫、と思ったのだ。

ハマルは残念そうにしている。

『えーとねー、レナ様。別にボクが[快眠]で二人の意識を落としても良かったんだけど〜、仲良くしてられなかったから、罰として取り押さえてたのですー』

「ありがとう。説明を、もうちょっと詳しく……」

※マイペースなハマルの説明は分かりづらい。

レナはとりあえずベッドに腰掛けて、ぐったりしているシュシュとオズワルドを膝に乗せ、[従魔回復]スキルをかけてあげた。
緑の光がほわわんと二人を包むと、無理やり意識を飛ばされかけて顰め面になっていた顔が、やっと少し穏やかになる。
酸素不足で、まだ意識が朦朧(もうろう)としているようだが。

クーイズがポヨンと跳ねて話し始めた。

『『ぱふぱふ〜〜!』』

『あのねー。クーたち、上手にお留守番できるよ! って言ってレナたちを見送ったでしょー?』

『その後しばらく、ベッドでうとうとのんびりしてたんだけど〜、シュシュは主人が恋しくなってきちゃったみたいで。
レナが昨日着てたバスローブを引っ張り出してきて、包まってたのー』

「ちょ、それまだ洗ってない奴だよね?
このお宿♡のアメニティで、今日ララニーさんが回収しに来てくれるやつ……」

『『だってレナの匂いが付いてなきゃ意味ないじゃなーい?』』

「う、うん。みんな同じスライムジェルシャンプー使ってて匂いも一緒なんだけど……続けて……」

『オズがね。”さすがにそれはない”って言って、シュシュの地雷踏んだの』

『シュシュがキックして、喧嘩勃発! って訳なのよー』

『『だいたいこ〜んな感じ! どや?』』

「「あーーーー」」

レナたち帰宅組が、揃って残念そうな声を漏らした。
想像が容易すぎる。

「……その喧嘩を止めるために、クレハとイズミが拘束してたんだね」

『『あと、後輩の教育!』

レナはとても迷ったが、誇らしげに胸を張っているクーイズを控えめに撫でてあげた。

「シュシュとオズくんを二人が止めてくれなかったら、怪我をしたり、このお部屋が大変なことになってたんだよね? その実力に助けられたよ。ありがとう。
……だけど、首締めは良くなかったかな。
私があとで話を聞いてきちんと叱るから、今度何かあったら、[快眠]で意識を断つ、穏便なやり方でお願いしたい」

『『『はぁーーい』』』

シュシュとオズワルドが意識を取り戻すまで、レナはもう少し状況を詳しく聞く事にした。

シュシュは本能的に、レナのキュロットスカートをウサギの手でもふっと掴み寄せている。
安心したように耳がくたっと垂れているのを見下ろして、レナはちょっぴり苦笑した。

***

レナたちが、宝飾店メディチに出かけてしばらくした頃。
ハマルの身体を枕にして、クーイズ、シュシュ、オズワルドはのんびりうたた寝していた。

シュシュは張り切ってレナたちを見送ったものの、時間が経つごとに落ち着かなさそうに寝返りし、ぺろぺろもふんっと毛づくろいをし始める。
腕、身体、顔。羽根耳は手で挟んで撫でるようにケアした。
今日も綺麗な白と桃色の毛並み。レナはきっと帰宅したら愛でてくれるだろう、と考えてドヤ顔する。
やる事がなくなり、また退屈そうにごろんっと寝転がった。

『……シュシュ、俺の尻尾踏んでるから。気をつけてくれる』

『あ。ごめんね』

『もう三度目なんだけど』

オズワルドはそう言うと、立ち上がってベッドから降り、一人掛けソファの上で丸くなってしまった。
シュシュが、ムッと口をへの字に曲げる。
そんなにあからさまに避けなくても良いじゃないか! と思ったのだ。

クーイズ、ハマルが『おやおや?』と顔を見合わせる。
先輩から見ると、この二人はまだまだ危うい。
引き続きのんびりしつつ、こっそり様子見する事にした。

シュシュはそれからもコロコロと動いていたが、やがて耐えきれなくなったのか、女の子用の脱衣籠を漁り始める。
お風呂上りに使ったバスタオルと、バスローブが入っている。
レナたちがルルゥのお宿♡で購入した物ではなく、毎日取り替えてくれるネレネのお宿♡のアメニティだ。

ヒト型でレナのバスローブをベッドに持ち込んでくると、包まってからウサギ姿に戻った。
すっぽりと、お花の香りのバスローブに埋まっている。
少しだけレナが近くにいるような気がして、抱き締められている妄想をして気を紛らわせた。

この行動はどの従魔もやらかした事がない、かなりヤバイやつである。
相当キてるな……と先輩が心配したところで、オズワルドが例の問題発言をしてしまった。

『……さすがにそれはないだろ……正直、引く……。
たった数時間の留守番だぞ。それくらいも待てないとなると、主さんが困るって。
もっと精神的に成長したら?』

呆れたような口調でぼそっと呟かれた言葉は、シュシュの耳にしっっっかりと届いた。
ピキン、とバスローブの中で青ざめて固まる。

『げっ』と、先輩たちが身体を緊張させた。
オズワルドは知らなかっただろうが、これはおそらく、シュシュのトラウマをがっつり抉(えぐ)っている!

空気が思った以上に重くなってしまい、ちょっと皮肉を言ったつもりだったオズワルドが首を傾げる中、シュシュがばさっ! とバスローブを退けて顔を覗かせた。

怒りと恐怖と……いろいろな感情がごちゃまぜになった複雑な表情をしている。

オズワルドが上体を起こして、怪訝な顔でシュシュを眺めると、シュシュは癇癪を起こしたように首を振って叫んだ。

『シュシュは! ……もうご主人様を困らせるようなダメな従魔じゃないんだから!
オズ、その言葉を訂正してよっ!』

▽シュシュの ジャンピングキック!

『!』

オズワルドがさっと一人掛けソファから降りると、シュシュはぽふっとソファの背を蹴る。
本気の蹴りでは無かったようだ。
先輩たちがホッと息を吐く。

シュシュがぷくーっと頬を膨らませてオズワルドを睨むと、いきなり攻撃されたオズワルドはイラッとしたように喧嘩腰で対応してしまった。

『その気の短さが、精神的に未熟だって言ってんの。
主さんの包容力が尋常じゃないだけで、シュシュの行動は一般的に手に余るやつだろ。
バスローブ被るのはさすがに異常だぞ! シュシュの愛は重い』

『……オズの方こそ、精神論語るにはまだまだまだまだ未熟じゃないっ!
自分の気持ちを表現することもできずに抱え込んで、どれだけの人に心配かけてるか、まるで分かってないくせに。
甘え下手のとっても困ったお子ちゃま!』

『『〜〜〜〜ッッ!』』

オズワルドとシュシュが『ぐるるっ!』と低く喉を鳴らして、相手を睨み、視線に火花を散らせる。

あちゃー、とクーイズがボティの表面をふるふる揺らした。
愛の形は色々だよー、と照れ笑いしているハマルを見習ってほしいものだ。

お互い、自分の現状について思う所があるからこそ、指摘に敏感に反応してしまったのだろう。
ここから、シュシュがさらに仕掛ける。

『スキル[ステップ]』

ターーン! と軽快にソファを蹴り、高く飛ぶと、オズワルドにキックを仕掛けようと身体をひねる!

『スキル[|重力操作(グラヴィティ)]』

オズワルドはシュシュの身体をふわっと軽くして、落下の勢いを落とした。

『うわっ!? うわ、うわわわっ……!』

シュシュが慣れない感覚にバランスを崩し、じたばたしながらゆるやかに落ちてくると、オズワルドが鼻で落下してきたシュシュをつついて、ポーンとベッドの上に飛ばす。
アシカのごとき芸である。

ベッドに落ちたところで[|重力操作(グラヴィティ)]を解除されたシュシュは、ものすごく不服そうにオズワルドを見下ろした。

『ちゃんと勝負を受けなさいよぉ!』

『単純攻撃だけが戦法じゃないだろ。シュシュは俺に良いようにやられたのが気にくわないだけだ。
こんな事で本気になるのは無駄に疲れるだけで何も得るものがないな』

オズワルドが鼻で笑う。
ぷいっと顔を逸らして、またソファで休もうと背中を向けた。

シュシュの額に怒りマークが浮かぶ。

『……スキル[暗躍]からの』

『っ! まだやるのか』

振り返ったオズワルドの視界にシュシュは映らない。
黄金の瞳を細めると……ーー目の前!

『頭突きっ!』

『うぐっ!?』

▽シュシュは オズワルドのお腹に モフンッッ!! と頭を突っ込んだ!

オズワルドは衝撃と、他人にお腹を触られたゾワゾワ感に耐えて、尻尾の毛を逆立たせる。

<従魔:シュシュのレベルが上がりました! +1>
<スキル[石頭]を取得しました>
<ギルドカードを確認して下さい>

ハマルとクーイズが驚きの声を上げた。

『ここでまさかのレベルアップぅ!?』

『しかも新しいスキルまで取得してるしぃ!』

『なーんか、リリー先輩とキック喧嘩してた時に状況が似てるー……シュシュ、窮地に新しい技を取得しやすいとかー、あるのかなー? ギフト、[カーバンクル]だしねぇ』

シュシュはオズワルドの腹に頭を埋めたまま、ぐいっと顔を上向かせて、覗いた目だけでニヤッと笑った。

『シュシュは、凄いもん』

ふがふがとお腹に口を埋もれさせながら喋る。
オズワルドの身体がゾワワッ! と震えた。めちゃくちゃくすぐったい!

言いがかりで攻撃され続けて、ここで寛大に褒めてあげる余裕なんてオズワルドにはない。
義理もない、と仏頂面で考える。

『ふーん。あっ、そう!』

オズワルドは小柄なシュシュの身体を甘噛みして持ち上げると、今度は勢いをつけてベッドにぶん投げた!
ベッドの真上で『[|重力操作(グラヴィティ)]』今度はシュシュの身体を重くして、ベッドにボスン! と強く落とし込んだ。

『へぶうっ!? ……この、やったなーー!』

『仕掛けて来たのは全部そっちからだろ! 突っかかってくるなよ、面倒なんだから』

『め・ん・ど・う……? ……もー怒ったぁ! もっと一生懸命生きなさいよ! [覇]ぁっ!』

『俺の自由だろ! スキル[シャドウ・ナイフ]』

[衝撃覇]の発光キックエネルギーと、闇のナイフが、お宿♡の一室に乱れ飛ぶ。
今のところ、お互いの攻撃を迎撃しあっているため部屋へのダメージは無いが、そのうち備品を壊してしまうのが目に見えている。

『『もー。シュシュもオズも、やめなよー!』』

クーイズ先輩の声も、頭が熱くなった二人には聞こえないようだ……。
なんでこうなるかなぁ、とスライムボディをムニョムニョ変形させる。

レナが帰って来るまでは自分たちが後輩をまとめなきゃ、と決意した。
ロープ状になったクーイズを見て、ハマルがわくわくと目を輝かせる。

『良い子にしてられない後輩にはー、お仕置きですかー?』

『『そして、良い子にしてられた後輩にはご褒美なのよっ』』

『ワァーーイ! レナ様が思わず縛りたくなるようなー、魅せる束縛でお願いしますー!』

『『お、おう、超難関……』』

こうして、仲良くお留守番出来なかったシュシュとオズワルドは、罰として捕らえられる事になったのだ。

『仲良くできない困った子たちはーー!』

『レナ様に代わってお仕置きよっ!』

▽クレハと イズミの スライム束縛(ボンデージ)!

<従魔:クレハのレベルが上がりました! +1>
<従魔:イズミのレベルが上がりました! +1>
<<スキル[束縛技術]を取得しました>>
<<ギルドカードを確認して下さい>>

***

『『と、ゆー訳なのよね? ぱふぱふおーーわり!』』

「お、お疲れ様。そしてレベルアップおめでとう。
なんだか凄かったんだね……この子たちの精神状態を把握しきれなかった私も、反省しなくちゃいけないなぁ」

レナが苦笑いする。
薄桃色の短毛と、青みがかった漆黒の長毛を撫でると、繊細な細い毛質だと気付く。
大人の獣に成長したらもう少し、毛質も太くなるだろう。
(まだシュシュもオズくんも子どもなんだよね)と、改めて思った。

『全員の心の中までぜーんぶ把握するのって、さすがに無理だと思うのですー。ルーカじゃあるまいしー』

「今日はやたらと責められるなぁ」

「構ってもらって嬉しそうですね、便利なネコミミですこと。
ハーくん、確かに完全に知ることは無理だろうけど、思いやることはできるから、主人として私も成長したいんだ」

『『『『<ああーーん! 従えてぇーー!>』』』』

レナに従魔が群がった。

リリーが大切そうに持っていたペンダントトップを見て、ハマルが『それなぁに?』と聞いて、楽しそうにこしょこしょと小声でお話が始まる。

シュシュとオズワルドの回復が意外と遅かったので、ハマルが数分だけ[快眠]スキルを使った。

やがて、シュシュがぱっちりと目を覚ます。

『〜〜ッ! ご主人様!』

目の前にレナがいると気付いて、ぱあっと表情が明るくなる。
慌ててくるりと身体をよじって後ろ足で立ち上がると、レナのお腹にぽふっと抱きついた。

『お帰りなさい!』

「ただいま、シュシュ。良い子で待っていられたかな?」

『………………う!?』

レナが聞いてみると、シュシュは抱きついた姿勢のまま、ピキッと固まる。
どう答えようか迷っているのだろう。

コミカルな動きに思わず笑ってしまいそうになるが、ここで軽く許してしまうのはよくない。
レナたちは穏やかな表情を保ち、笑いを飲み下した。

『…………んん……』

オズワルドも目を開ける。
レナのキュロットスカートの茶色がまず見えて、ああ帰ってきたんだ、とぼんやり考えた。

「ただいまオズくん。良い子で待っていてくれた?」

『……お帰り、主さんたち。
……いや、シュシュと若干暴れたから、主さんがイメージするような理想の留守番はできなかったな』

『なんでそういう言い方するのー!? 暴れた、なんて言ったら、シュシュが乱暴みたいじゃないっ』

『その通りだろ』

シュシュとオズワルドがまた睨み合う。
レナは二人の目を、手のひらでさっと覆った。

「二人とも静粛にー。喧嘩腰は良くないね?
私、さっきクレハとイズミとハーくんから、お留守番の様子を聞いたから全部ちゃんと知ってるよ」

『『!』』

お互いにレナに訴えたい言い分はあったものの、ひとまずぐっとおし黙る。
レナはシュシュとオズワルドが落ち着いたと判断して、目から手のひらを離すと、顎に指を添えて、くいっと自分の方を向かせた。
ルーカが震えながら退室していった。

「こんなに長く離れるのはまだ寂しかったよね。……私、待たせすぎちゃった。
判断を間違えちゃったから二人に謝らなくちゃ。ごめんなさい」

レナがシュシュとオズワルドに頭を下げると、赤と黄金の瞳がまん丸くなる。

『えっ!? ち、違うよ。ご主人様が謝るところじゃない……シュシュが、ちゃんと待ってられなかっただけなの……! だ、だから……頭を上げてっ』

『主さんは、俺たちがちゃんと留守番できるって期待して任せたんだろ。
でも静かに過ごせなかった……応えられなかった俺たちに、非があると思う。
穏やかな気持ちでいるって、難しいことじゃなかったはずなんだ』

シュシュとオズワルドは、お互いの言葉を聞いて、そろりと顔を見合わせた。

バツが悪そうに目を逸らして、でもまだレナが頭を上げないことに途方に暮れて、しょんぼり耳を垂れさせてアイコンタクトを取る。

今は、他の従魔たちも自分たちに助け舟を出してくれないらしい、と雰囲気で察した。
意を決して、謝る。

『寂しがりすぎて、オズに八つ当たりして、ごめんなさい』

『……荒っぽい言葉ぶつけて、喧嘩にのっかってごめん』

レナに言う体裁(ていさい)で、お互いにも向けられた言葉だった。
やっとレナが頭を上げて、いつものように優しく微笑んでくれたので、二人はホッと安心した。

「みんな、ごめんなさいだったね。
お互いの悪かったところを自覚できたから、これでおあいこにしようか。それでもいい?」

『……んっ! それがいい』

『分かった。もう引きずらない』

レナがにっこりと笑う。

「良かった! じゃあ、二人は他のみんなにも言うことあるよね?
あと、ベッドシーツや散らかったクッションのお片づけもしようか」

『『は、はい』』

レナの瞳には有無を言わさない力強さがあった。
言葉では緩やかに解決に導いてみせたが、きちんと後始末はさせるつもりらしい。
メリハリはきっちりと!

「私はね…………んむっ!?」

『『いっやぁーーーん♡ レナぁ、久しぶりうりうりうりーーっ』』

『レナ様ぁー! 今すぐ両腕で締め上げ……抱きしめて下さいませー』

「あの、寂しがらせちゃった子たちの心のケアと、朝食の準備をするからね。クレハとイズミ、こ、呼吸が苦しいから顔はやめて。
リリーちゃんの習い事の送迎については、また後で話し合おう。
じゃあ反省会、これまでっ!」

レナはシュシュとオズワルドの頭をわしゃわしゃっと撫でると、そっとベッドに降ろし、立ち上がって、従魔を構いながらテーブルを拭いたりと準備を始めた。

レナは自分のやるべき事をやっている。
シュシュとオズワルドも、少しぎこちないながらかなり和らいだ雰囲気で、協力して部屋を清掃した。

『……さっき。カリカリしててごめんなさい』

ぽつりとシュシュが謝る。

『! うん……俺も、悪かった。
……きっと従魔契約の影響で、余計に寂しく感じてたんじゃないか。離れてると敬愛が積まれるくらいだし』

『そうかも。でも従魔になるって、いい事の方がずっと多いから幸せだよ』

シュシュがレナを熱く見つめながらうっとり呟くと、気付いたレナが手を振ったので、ぶんぶんふり返す。
短い尻尾までピコピコしている。
オズワルドは呆れた表情だが、今回は何も言わずに唇を引き結ぶと、こっそりと先ほどのシュシュの言葉に軽く頷いた。

レナに構われて、満足げにスライムボディをツヤツヤさせているクーイズと、同じくご機嫌なハマルにも二人は謝る。
『今度からは気をつけてねー? 喧嘩はやだよっ!』と許してもらえた。
そして、首締めのことは謝られた。
ごめんなさい、や心配してくれてありがとう、はとても大切な言葉なのだ。

みんなでテーブルについて、お待ちかねの朝食を食べる。
それぞれのグループで、カットフルーツなどの間食はしていたが、きちんと食べていなかったのでお腹はぺこぺこだ。

「いただきます!」

各個人好みの美味しそうなパンに、冷製スープ、野菜サラダとヨーグルトがズラリと並んでいる。
お行儀を気にせず大きな口でパンに齧り付くのが、最高に美味しい!
オズワルドが大きなデニッシュパンを3口で頬張り、シュシュがサラダをがっつき、みんな夢中で食事した。

そしてお腹いっぱいになると、リリーの宝飾工房レッスンの話になる。

「リリーにはすごい才能があるよね。有名な職人に、アクセサリー作りのセンスを絶賛されるなんて!」

「えへん!」

シュシュが褒めると、リリーが胸を張ってみせて、スマホが紙吹雪を投影した。
綺麗なアクセサリーを眺めるシュシュの羨ましそうな視線に気づいて、リリーがにやっとしながら口を開いた。

「シュシュ、これ、貴方にあげる。私が初めて作った、アクセサリー」

「……え!? いいの? こんな素敵の、もらっちゃって……」

「この白い柔金属は、私の、髪色のイメージ。中のストロベリー水晶は、シュシュの……桃色の髪!
二人の、友情の証なんだよっ」

「友情の……! うううっ、リリィー!」

▽シュシュと リリーは 力強く 拳をぶつけ合った!

なんだかそうじゃない、と言いたい気もするが、野暮なので盛り上げておこう。
ひゅーーーーッ! イイヨーーー!

シュシュはリボンチョーカーに付けられたペンダントトップを、嬉しそうに何度も見つめている。

「あのね。シュシュ、リリーの宝飾職人レッスンを応援したいよ……だってこんなに素敵なアクセサリーを作れるんだもん。感動したの!
だからご主人様たちが帰ってくるのも、き、きちんと待てるよ」

シュシュがさっそく成長している!

羽根耳はふるふる震えているが、決意した表情でキッパリ「待てる」と宣言した。

「わあ、ありがとう、シュシュ! 私、頑張るね……!
いつかクーの、赤色スライムジュエルと、|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)で、とっておきの赤ノ祝福魔道具を……作るんだぁ」

どえらい宣言がキターーー!
レナの幸運が張り切っている!
世界を震撼させようぜ!

レナがシュシュに優しく声をかけてフォローする。

「シュシュ、えらいね。
今日は朝ごはんを買ったり、クリエさんと挨拶したり、色々こなしてたから余計に待たせちゃったけど、次からはもう少し早く帰ってくるから。
その時、みんなが笑顔で出迎えてくれたらとっても嬉しいな」

「ま、まかせて!」

次は早く会えるんだ! と考えたシュシュは明らかに喜んでいる。

教育って難しいなぁ、と思いながらも、可愛い笑顔を眺めたレナは、成長を見守る喜びをしみじみ嚙みしめるのだった。

オズワルドをチラリと見やると、こちらからもしっかりした頷きが帰ってきて、クスッと笑った。

▽従魔の絆が 深まった!

 

 

 

 

 

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