124:宝飾店メディチ

本日の訪問先は、フェアリー宝飾店メディチ。

レナ、リリー、ルーカ、スマホ、アリス、モスラは早朝にお出かけ準備を終えて、お宿♡のエントランスでマリアベルを待っている。
他のみんなは、まだ部屋でのんびりと眠っている。レナたちが帰ってくるまで、お留守番だ。

リリーが宝飾技術に興味を示しているので「宝飾店メディチに行くんですよね! こちらの店舗併設工房で体験レッスンを受けることができますよぉー、ハイハイ!」とマリアベルが気を利かせてアポイントを取ってくれたのだが、工房は広くないのでできるだけ少人数で、とお願いされたのである。
商業取引を打診したいアリスたちと、主人と離れた時の悪運暴走が心配なルーカが同行することになった。

「おっはようございまーす!」

わくわく! わくわく! と、久しぶりのリリーとの再会を想い胸を躍らせながら、マリアベルがお宿♡にやってきた。今日はヒト型で案内してくれるらしい。

挨拶したレナの背中からひょっこり顔を覗かせたリリーを見て、頬をぽっと赤らめて照れながら会釈する。
リリーがにっこり笑って手を振ってあげたら、膝から崩れ落ちた。

「この世は楽園だよぉーー……! あーんリリー様ぁ、お久しぶりですぅ、会いたかったああぁ」

よほど想いが募っていたらしい。
表現が大げさだなー、とレナたちが思いながらもドン引きしなかったのは、同じようなモスラの敬愛暴走を既に目の当たりにしていたからかもしれない。
もっとも、「ただの種族本能敬意と、レナ様の素晴らしさを知った上での私の敬愛を一緒にされるなど不愉快です」とモスラは主張するかもしれないが。誠に申し訳ございませんでした。

ニコニコニヤニヤとご機嫌なマリアベルとともに早朝の大通りを歩いて、レナたちは宝飾商店街にやってきた。
服飾商店街にあるアクセサリー店よりもワンランク上の、こだわり派の職人たちが店舗を構える商店街である。

「……ひゃっ!? あいつぅ、もー仕事始めてるのね? 真面目か。始業が早すぎて逆に上司に怒られちゃうぞー。
うー、レナさんごめんなさい、ちょっと見つかりたくない奴がいたから……みんなの姿を隠させてね」

宝飾商店街の入り口にさしかかった時、マリアベルが眉を顰めて物陰を見つめた。

「え? おまかせしますけど……」

「よっしゃありがと! 光魔法[錯視隠蔽]」

控えめな光がレナたちを包むと、お互いの姿がぼんやりと透けたようになる。
レナたち一行はお互いを確認できているが、この魔法がかけられていない者には、全く見えていないとのこと。

「ふう、ひと安心〜これで見つからないね。行こうか」

「マリアべルさんの苦手な同僚の方がいたんですか……? それか……もしかして今日、仕事の予定だったのを無理して抜け出したんじゃ……?」

「そ、そんなまさかぁ! レナさぁん穿(うが)った目であたしのこと見すぎだよーあはははは」

『嘘つきは泥棒の始まり、って聞いたの。よくないんだよー』

<さようで御座います! リリーさんの知識教育はこの私が筆頭、抜かりはありませぇん!>

▽リリーの 渾身の一声!
▽マリアベルは 崩れ落ちた!

「すみませんっ……今日非番だった同僚に頼み込んで、かなり強引に休暇をもぎ取りましたー……!
だ、だってどうしても来たくて。
最近仕事やたら忙しくて、次いつこんなチャンスがあるか分かんないしー。
仕事を代わってくれた子、炎狼(えんろう)の獣人なんだけどね。
炎に強いからって、火山地帯におつかいに行ってて、昨日ようやくこの国に帰ってきたの。
だから超不機嫌そうなのよね」

「そ、それはまた。
マリアベルさんに同行してもらえて、私たちとしてはすごく有り難いんですけど、その方には申し訳ないな……疲れてるでしょうに」

ついでに、火山地帯への出張というタイミングに心当たりがありすぎて大変気まずい。
レナは冷や汗をかきながら、話を逸らす。

「他の方とは交代できなかったんですか?」

「うん。あたしたちの所属部署、出張が多くてこの国にいない子が多いし。
あたしの今日の仕事が重要なものだったから、特に実力のある子にしか任せられなかったんだよねぇー。で、炎狼に土下座したの」

安い土下座である。いや、マリアベルにとってはそれ程の一大イベントなのだろう。

マリアベルとロベルトの所属部署はすでにレナたちに明かされているので、このくらいの情報漏えいは問題ない。
さすがにマリアベルとて、さじ加減には気を使っている。

「あとで美味しいもの奢ってあげよ……」とマリアべルは苦笑いした。反省はしているようだ。あとは彼女自身のフォローに任せよう。

静かな商店街をのんびりと歩いて、可愛らしい看板がかけられた「宝飾店メディチ」にレナたちは辿り着いた。
途中、大きなメガネをかけてやけに周囲をキョロキョロしている不審な女性とすれ違ったが、トラブルに巻き込まれないようスルーしておいた。

開店前の宝飾店には裏口から入る。

「おはよう、クリエ!」

扉を開けたマリアべルが声をかけると、

「い、いらっしゃいませええぇ……!」

恐縮しきったか細い女性の声が棚の後ろから聞こえてきた。
ルーカが思考を視てみると、(お、思ったよりも到着が早かった……! 今朝品出しするアクセサリー作りに熱中してて、まだ髪のセットが終わってないよぉ)と半べそをかいている。

仕事熱心なようだから、熱血乙女なリリーとも相性がいいかもしれないな、とルーカはこっそり評価した。
客人をまず出迎えなかったのはマイナスでプラマイゼロだが。

少しだけ間があいたが、やがて棚の後ろから細身の美人が姿を現す。

「お、おはようございます皆様。私は宝飾店メディチの店主、クリエと申します……。
お待たせしてしまいすみません。
い、以後よろしくお見知り置きのほど、よろしくお願いいたしますぅぅ!」

緊張して、ギクシャク話し出した店主クリエは、マリアベルに「重複表現してる、落ち着いて! 気持ちはわかる!」と注意されて、もう耐えきれず顔を覆った。
指の間から、妖精王族候補のリリーを見つめて、耳先を真っ赤に染める。

「せ、接客って実はあまり得意ではなくて……どちらかといえば私、職人なんです……すみません。
私は妖精族の中でも、黄魔法が得意なアースフェアリーです。
十数年前に先代からこの店舗を受け継ぎました」

全種族に言葉を届けるために、クリエもヒト型だ。
作業時にはフェアリーになるらしい。
マリアべルがツンとクリエを小突いて、隣に立ち並ぶ。

「クリエは若手だけど、とても素晴らしいアクセサリーを作る天才で、新人教育も丁寧だから工房から優秀な職人を輩出してるし、彼女の代でこの店は更に有名になったんだよ〜!
リリー様のレッスンをしてもらうのに最適だと思ったんだ!」

「そ、そんなに褒められると照れます、マリアべル様ぁ……」

クリエがふるふると頭を振ると、ミルクティーブロンドの髪がさらさらと揺れた。
黒猫ルーカが、思わずその動きを目で追う。

ヒト型クリエは白い肌に、優しそうな茶色のタレ目。
自作のアクセサリーをいくつもセンス良く身につけている、オシャレなお姉さんだ。
おっとりした話し方で、生徒が理解するまで根気良く教育してくれるそうなので、リリーを安心して任せられそうだ、とレナもホッとした。
「技は見て盗め」と寡黙を貫き、厳しく教育する職人もいるらしいので、この優しい巡り合わせに感謝しよう。

『これから、よろしくお願いしますっ。クリエ先生!』

「はわーーーーーっ!?」

リリーが優雅に舞って、お姫様のように一礼してみせると、クリエが控えめな声量で叫んで、マリアベルが「いい意味で無理」と口元を押さえて悶絶する。
大丈夫だろうか、妖精族。

リリーは楽しそうにクスクス笑っているので、どうやら自分の魅力を分かって行動したようだ。

「リリーちゃん……ほどほどにね……って言おうかと思ったけど、別に間違ったことはしてないんだよねぇ。
きちんとご挨拶できてえらいね。
クリエさん、マリアベルさん、今日はうちの子をよろしくお願いします。
可愛くて魅力的なのは分かりますが、慣れてください」

「「このプリズムシャインビューティの煌めきに、ですかぁ!?」」

彼女たちには、妖精王族候補リリーが神々しく輝いているように見えるらしい。
笑顔を拝見して、美しい声で名前を呼ばれた日には、もー昇天しそうに幸せになっちゃう!
……とのこと。

まあこの話は置いといて。

レッスンできるのは開店まで。時間は限られているので、レナたちは店舗併設の工房へ向かうことにした。

***

工房への移動中、アクセサリーが飾られている店内を少し見せてもらう。
値段はどれも一般市民でも手を出しやすいくらい。
ガラスを使ったもの、ビーズやリボンを組み合わせたもの、純金よりも安価なドッペルゴールドという金属を使ったもの、魔物の素材など様々なアクセサリーが並んでいる。

アリスの目がキラリと光った。
どうやら商品がお眼鏡にかなったらしい。

それぞれの職人が独自色のあるアクセサリーシリーズを展開していて、小さなアクセサリーのどこかには、蝶々の翅のメディチの紋章、職人名がそっと刻まれている。

職人名が刻まれているのは、高級店の特徴であり、商店街にある店舗ではここでしか採用されていない。
作成者が責任を持って良い商品を作るように、そして誇りを持てるように、との願いを込めて、クリエの代からこの方針を取り入れたのだ。

「こちらの”夜の海”シリーズは男性に人気です。爽やかな青の宝石と、黒ガラスを組み合わせたアクセサリー。
黒でもガラスの透明感で重くなりすぎず、普段使いしやすいです。ネクタイピン、ペンダントトップ、ピアス、カフスなどがございます。
こちらは女性に人気の、ピンクと白を合わせたロマンチックな”天女の初恋”シリーズ。
素材はローズクォーツと乳白水晶。乳白水晶を細く伸ばして、繊細にローズクォーツを包んでいるデザインが多いですね。華奢で可愛らしいので、デートの時に身につける方が多いです。
イヤリング、ピンキーリング、ブレスレット、ブローチなど。
他には……」

卓上にシリーズごとに並べられたアクセサリーについて、クリエが簡潔に説明していく。

どれも、彼女が手塩にかけて育てた職人たちが作ったものだ。
説明をしていくうちに、おどおどしていた様子から一転、クリエは誇らしそうな表情になっていった。
ようやく気持ちが落ち着いたらしい。
この調子なら、リリーのレッスンも問題なく行えるだろう。

店の奥に、工房へと繋がる扉がある。
関係者以外立ち入り禁止、と書かれているのは、まるで地球のデパートのようだ。

「見学者様がいらっしゃいました。皆さん、静かに作業を続けていてください」

工房の扉を開けて、クリエが職人たちに一声かける。
宝飾職人は妖精族、小人族が多いそう。みんな来客を珍しがっている気配がしたが、尊敬する店主の顔に泥を塗ってはいけないと、なんとか手元に視線を集中させて、騒ぎ立てることはしなかった。

工房の中は薄暗い。窓にはカーテンがかけられていて、室内の各作業スペースに発光ランプが置かれている。
加工前の宝石の原石に強い太陽光が当たってしまうと、質が劣化してしまう場合があるので、常にカーテンを閉めているのだ。
ランプの真下で、アクセサリーの色を定期的に確認して、職人は作業を進めている。

「リリー様には、まず基本の作業工程を見て頂きます。
その後、実際にアクセサリー作りを体験していただきましょう」

『分かった! クリエ先生が……全部、教えてくれるんだねっ?』

「え、ええ。職人たちはそれぞれ、基本の作業工程を自分でアレンジして、独自の宝飾加工方法を身に付けていきます。
そのため、最初からアレンジが施された作業を見てしまうと、どうしても手法が似てしまうという弊害がある。
同じ商品の量産化を行っている店舗はあえて皆が同じ手法をとりますが、当店では、職人それぞれの個性を大切にしよう、という考えです。
リリー様、レッスンを始めるまでは、他の職人の作業をご覧になるのは控えてください」

リリーはうずうずと待ちきれなくて、板で個別に仕切られた職人の作業スペースを、上からチラリと覗こうとしていたのだ。
クリエが苦笑しながら注意する。
てへぺろっ! と誤魔化してリリーが仕切り板から離れると、新人職人がたまらず机に突っ伏す音が聞こえてきて、レナたちは深く頷いた。分かる、可愛いのだ。

先生と呼ばれて顔を赤らめていたクリエが、自分の作業スペースにみんなを導く。
机は綺麗に整頓されていて、端の方に彼女が先ほどまで作っていたのであろうブローチが置かれていた。
色の薄い天然石を7色組み合わせた、うっとりするような逸品。高価な宝石のような派手な輝きはなくても、デザイン次第でこうも目を引くアクセサリーになるのか、と素人のレナたちも感心する。
心からクリエを褒めると、嬉しそうにはにかんだ。

「さあ、それではご覧下さい。説明しながら進めていきますね」

▽宝飾加工を 見学しよう

 

 

 

 

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