123:服飾商店街ショッピング3

商店街の大通りに並ぶショップはどこも玄関扉が開かれていて、店内の商品がよく見えるようにレイアウトされていた。
しかし、レナたちが訪れようとしている、細い路地にひっそり佇む服飾小物店[エルフィナリー・メイド]は、玄関扉が閉ざされていて、中の様子を伺うことはできない。
オープン、と看板に書かれていなければ営業中とも分からないほど静かな雰囲気は、まるで高級品を扱うショップさながらだ。
服のサンプルを店先に展示しているわけでもないので、ルーカの案内がなければ、絶対に訪れなかっただろう。

レナがそおーっと、使い込まれた金色のドアノブを回す。

「こんにちはー」

ひょっこり顔を覗かせると、店内にいた上品なお婆さんが振り返る。

「あら? 初めてのお客様だなんて珍しいわねぇ。いらっしゃいませ」

透き通るような声で言って、ころころ笑った。
すっかり白くなった髪を丁寧に束ねている、長耳のエルフ族の女性だ。
銀色の瞳が柔らかく細められる。
笑顔になると顔のシワがさらに深まった。かなり高齢の店主だが、華やかに笑うとても綺麗な人だなぁ、とレナは感じた。

「いろいろと服屋さんを巡っていたんです。こちらの商品を見させて頂けますか?」

レナとルーカが抱えた従魔たちは、さっそくキョロキョロと店内を見回している。

「ええ、もちろん!
この店では、私がのんびり製作した衣装や小物を細々と売ってるわ。
もうお婆ちゃんだから、あんまり長時間作業していると疲れちゃって……マイペースに運営しているのよ。
いつもは、若い時の知り合いたちがたまに店を訪れるくらいなんだけど、皆さんともご縁があって嬉しい。
どの服も300年ものの技術を活かして作ってるから、そこいらの店には負けないわよ?」

お婆さんはお茶目に言って、また楽しそうに笑う。
年齢を聞かれることを嫌がる妙齢の女性は多いが、自分でネタにしてしまう彼女はいっそかっこいい。
親しみやすそうな人だ、とレナたちは安心して、店内の商品をじっくりと眺め始めた。

デザインから縫製まで全て一人で仕上げているそうなので、商品数は少なめ。
しかしどれも一目で「良い物だ」と分かる、丁寧に作られたこだわりの逸品ばかりである。

「すごい。こんなに綺麗な縫製を視たのは初めてだ……」

ルーカが感心したように、魔眼で服を視つめながら呟いた。
生地は手作業で織られているのに、まるで地球のセーラー服のように均一な仕上がり。
裁断もほつれひとつなく完璧、刺繍はエルフ族の美しい伝統模様、ボタンは少しの歪みもなく取り付けられている。

「あら、ありがとう。ぜひ、商品を手にとって触ってみてちょうだい。
故郷から仕入れた糸をこの店で織って、服や小物を作っているわ。好評なのよ?
魔法効果は[再生(微)][ジャストフィット][温度調節]がかけられているからね。
デザインは私と孫が考えてるの」

「え、魔法がかけられているんですか!?
それなのに普通の服と同じくらいお安いんですけど……」

「昔馴染み向けにやってる、趣味の店だからねぇ。ここを訪れた人だけへのサービス。
あんまり他言はしないでね?
店にあるだけしか売ってあげられないから、商品がすぐになくなっちゃう」

「分かりました」

レナが頷く。これほどの良品が安価で売られていると噂になれば、人が押しかけてきて、今のようにのんびり服屋を営むことはできなくなるだろう。
そっとしておこう。

「ジミーさん。どの服でも身体に合わせて変化するなら、ここで獣人衣装を買いましょう!」

「そうだね。シンプルな男性用獣人衣装もいくつかあるし。選んでくれる?」

「そんな事言って後悔しても知りませんよぉー? っていつもならからかうところですけど、どれを選んでも似合いそうですね。
……うーん、悩むなぁ。
この、白を基調としたものにしましょうか?
袖なし、腰をベルトで留めるワンピースタイプ、膝丈。うわあ理想的。
青と紫の刺繍が上品です」

ハンガーにかけられた衣装を、ルーカの身体に当ててみると、試着しなくてもすぐ身体に合ったサイズに変化した。
クセのないデザインなので、黒猫ジミーにも、金色猫ルーカにも似合うだろう。
レナとルーカが満足そうに頷き合う。

▽これに 決めた!

納得のいく買い物が出来てご満悦なレナに、リリーとシュシュがまとわりつく。

『ご主人さま! このブローチ……珍しい、お花の形。
ご主人さまの、軍服風メイド服スタイルに、似合いそう……!』

『シュシュもそう思ったよ。これ、身に付けたところ見たいなぁ』

「あ、ロゼットブローチだね。光沢のあるリボンで作られたお花が華やかだ」

レナが、漢女(オトメ)たちおすすめのロゼットブローチを手に取る。
展示されていたのは三種類で、従魔全員とお揃いは難しいなぁ、と少しだけ残念に思った。

(その代わり、このお店の他の小物を一人一人に買ってあげようかな?
どれもひとつ100リル前後だし。
ブレスレットを手に入れたんだから、みんなをたくさん着飾らせてあげなくちゃ!
幼い内にしかできない格好もあるからねー。
容姿も近々ぐっと成長するだろう、ってルーカさんが言ってたから……子ども服は今だけのお楽しみ!)

レナは、自分の服よりもわくわくと従魔のおめかし姿に思いを馳せた。
リリーとシュシュが不思議そうに、とろけた顔をみつめてきたので、えへへと照れ笑いする。

まずは自分のぶんのブローチを選ばなくては! と気持ちを切り替えたが、どれも素敵で、レナはなかなか決められない。

「どの色のブローチが、あの軍服風メイド服に一番似合うだろう?」

『『赤色があったら即決だったんだけどねー? レナのイメージカラーになってきてるしぃ!』』

『実際にお着替えしてー、合わせてみるのはどうでしょー?』

「……そうしようかな。店主さん、どのブローチを買うか迷ってるので、別の服に着替えて合わせてみてもいいでしょうか?
服飾保存ブレスレットで、すぐに着替えられます」

「あらあら。もちろん、大丈夫よ」

店主は快く受け入れてくれた。
それでは!

<変☆身!>

▽キターーーーー!

きらめけシャインガール! 翻(ひるがえ)そう赤の覇衣(ハゴロモ)を!
スマホが控えめにBGMを鳴らして、リリーが[幻覚]でレナを輝かせる。

赤のブーツでくるりと回りポーズ、今日のレナは軍服風メイド服でキメ! フゥーー!

『<きゃあーー! レナ女王様ー! 従えてぇーー!>』

「……ハッ!? ついいつもの癖でノリノリで変身しちゃったぁ……!?」

従魔におねだりされて着替える際、レナはいつもキメポーズを要求されていたのだった。
きらめきにつられて、ついうっかり人前でいつもの癖が発揮されてしまった。

なびいた覇衣(ハゴロモ)は、店の商品に当たったりしていないと一応言っておこう。

オズワルドがかわいそうな人を見る目でレナを眺めて、ルーカが「む、無理」と言いながら口元を押さえて震えている。

「まあ! 斬新で素敵なお召し物ねぇ」

店主は優しいたれ目を丸くして、レナのポージングには触れず、服装をもの珍しそうに観察した。
裁縫職人として気になるのだろう。

「ありがとうございます〜。気に入ってます」

レナは心で羞恥の涙を流しながら、そそくさとブローチに視線を移し、誤魔化した。
スルーされて良かった……ついに「ふっ!」と吹き出したネコミミヒト族はあとで少し叱ろう。

「うん。紫色が一番合うかな」

▽レナは ロゼットブローチ(紫)を 選んだ!

店主も「よくお似合いよ」と褒めてくれた。

「他にも、従魔たちの分も小物を選んでもいいでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ。
私がさっき買いすぎは困るって言ったから、気を使わせちゃったわねぇ。
全て買い占めたりされなければ、問題ないからね。貴方は優しいわね」

店主はまるでひ孫を見るような眼差しをレナに送る。
300歳の彼女にとってみれば、17歳のヒト族などまだ幼児のような存在なのだ。

「じゃあみんなー、ヒト型に変身できるかなー?」

『『『『『はーーい!』』』』』

主人が声をかけると、従魔たちもきらめきを纏って、可愛らしい幼児姿に変身する。
みんな水色ドレスや、天使と悪魔風衣装、萌え袖ふわふわセーターなどのオシャレ着で、わいわいと服や小物を選び始めた。

店主が、失礼にならない程度に、興味深そうに服装をチェックしている。

レナたちの服は、ミレージュエ大陸の港街グレンツェ・ミレーの子供服店[リトル・チャーム]で買ったもの。
シスター姿で店番をしていたお姉さんの、趣味嗜好がよく現れている。

店内にきゃっきゃっと幼い声が響く。
店主も一緒に、あれもいいこれもいいと、幼児たちの可愛さを満喫した!

ブローチやストール、リボン、靴下、つけ襟などの小物を一人一つずつ選んだ。
アリスとモスラとスマホ、パトリシアへのお土産も購入している。
スマホのこっそり撮影がはかどるはかどる、たまらない。

「たくさん買ってくれてありがとう。私が作った商品を、可愛い子たちに身につけてもらえてとても光栄だわ。
なんだか久しぶりに、創作意欲が湧いてきちゃった。
また服や小物をマイペースに作っていくから、しばらくしたら遊びに来てちょうだいね」

「こちらこそ、素敵な買い物ができました! 是非、また訪れたいです。
……ちなみになんですけれど、こちらではオーダーメイドの受注は受け付けていますか?」

「……あら……ごめんなさいねぇ。
そう言ってもらえるのは嬉しいんだけれど、私はもうお婆ちゃんのエルフだから、1日中眠っちゃう日もあって……納期通りに服を作る自信がないから、オーダーメイドはお断りしているの。ごめんなさい」

「いえ、無理を言ってすみません。
分かりました。体調、どうかご自愛下さいね」

「ありがとう。
うふふ、ヒト族の子たちは本当に精神の成長が早いわねぇ。驚いちゃう。まさか体調を心配する言葉をかけられるなんて。
おてんばな私の孫も、貴方くらい落ち着いていてくれたら良いんだけれどねぇ。
エルフ族は高齢になると、眠る時間が増えるの。そして最期は、一週間ほどずっと眠ったあと、穏やかに息をひきとるのだわ。
私はまだまだ、まーだまだ生きられそうよ?
あと100年くらいかしら!」

反応に困るエルフジョークを聞かされ、レナたちは少し困ったような笑顔で聞き流した。
でも、再会を望んでもらえるのは嬉しい。
これまたおしゃれな紙袋に商品が入れられ、荷物持ち担当のルーカに渡された。

「またのご来店をお待ちしているわねぇ。ありがとうございました」

店主がゆっくり手を振って、柔らかく微笑んで見送ってくれる。
レナたちも手を振り返して、[エルフィナリー・メイド]を後にした。
カラン、と退店の鈴が軽やかに響いた。

***

お宿♡に帰ってきたレナたちは、今日の戦利品をベッドに広げて、あれも可愛いこれもいい! とわいわい話し合う。
みんな魔人族姿だ。

「私のフラワーカチューシャ、シュシュにも、似合うね。たまに……貸してあげる!」

「じゃあ、シュシュのストールをリリーも着ていいよ。交換して、たくさんオシャレしよう。
シュシュたちが可愛いと、ご主人様すごく喜んでくれるもん!」

「もう最高」

レナがリリーとシュシュをぎゅっと抱きしめる。
本日のアメニティを持ってきたララニーが、入り口扉あたりで立ち止まり、鼻血を堪えきれなくてバスタオルを汚し、いったん退室した。
従魔たちがスペシャルキュートなので仕方ない。

ルーカが獣人衣装を試着したり、オズワルドがクーイズのフリルつけ襟をお試し装着されて不貞腐れていたり、ハマルがあったか靴下を履いてのほほんと眠ったりしていると、アリスとモスラが帰ってくる。

「ただいまぁー」

「只今帰りました。レナ様たちの方が帰宅が早かったですね。何事もなかったようで、何よりです」

二人はそれぞれソファに腰掛けた。ベッドには幼児たちがもみくちゃに寝転んでいるのだ。

「お帰りなさい! 二人とも。ガッツリ交渉してきたみたいだね、さすがー。
……でもちょっと残念そう?」

レナが尋ねると、アリスが苦笑する。

「うん……ルネリアナ・ロマンス社との商談はとても上手くいったの。
既存商品の人気シリーズを、私のお屋敷宛に送ってもらって、商品を私がミレーの顧客たちに紹介するって約束を交わした。目標通りだよ。
ただ、これからの新シリーズも定期的に送ってもらいたいって申し出たら、有名デザイナーが諸事情でいなくなって新シリーズが刊行できない状況、って断られちゃった……。
会社としてはその敏腕デザイナーにずっと専業でいて欲しかったんだけど、デザイナーの気が変わって、契約を切られちゃったんだって。
今はどこにいるかも分からない。
彼女がプロデュースしてきた家具シリーズが素晴らしすぎて、同じくらいのクオリティを今の従業員だけでは創りだせないそうなの。
あの方のセンスに頼りすぎていた、会社としても反省すべき事態で、残念に思っております、って社長も落ち込んでたなぁ」

「そうだったんだ……。そこまで詳しく話してくれたってことは、会社はアリスちゃんを信用したんだね」

モスラが誇らしげに頷く。

「ロベルトさんのサインカードがあったから、私の人脈が広いと思われたみたい。
そのデザイナーとの再会を期待して、私に打ち明けてみたんじゃないかな?
もちろん『いなくなったデザイナーに頼りきりではなく、今の人員だけでも新シリーズを創れるように精進します』って意気込んでいたけどね。
私は商業ギルドCランクだから、口が固いって信用があるんだよ。
公(おおやけ)にはしてない秘密を打ち明けたのは、いろいろな計算があってのことだと思う」

「ひえー……商人の世界、恐るべし……!」

「大国のトップと宰相を相手にするレナお姉ちゃんほどじゃないかな?」

「それは不可抗力だよぉ……慣れてきたけど……。
うっ、ギルドのランクアップ、私たちもそろそろ真剣に頑張らなくちゃね」

レナは気まずそうに頬をかいて、もう一度「お疲れ様」と言うと、ジューススタンドで買ったメープルフレーバーティーを渡した。
アリスたちが喉を潤して、ふぅ、と幸せそうに息を吐く。
スッキリとした甘みが程よく、話した疲れを癒してくれた。

「レナお姉ちゃん。もしも今後、そのデザイナーを見かけたら教えてくれる?
エルフ族の若い女性で、ハチミツ色の髪に、虹色の光彩を持つ銀の瞳のすごい美人なんだって」

「目立つ容姿なんだねぇ。それなら視界に入ったらすぐ分かりそうかも。分かった、覚えておくね」

そういえば今日出会ったエルフ族のお婆さんも、銀色の瞳だったなぁとレナは思い出す。
虹色に光りはしなかったが。
ハチミツ色の髪は、船で出会った双子エルフのオーウェン・ライアンと似た特徴だ、とぼんやり考えた。

「今日ね、すごい裁縫職人さんに会ったんだよ。エルフ族の上品なお婆さん。
アリスちゃんたちのお土産も買ってきちゃった!」

「わあ! 可愛い帽子。……生地の素材、手触り、縫製のどれもが一級品ね。
レナお姉ちゃん、詳細を聞いても?」

レナが深紅色の帽子を手渡すと、商人
アリス・スチュアートの瞳がギランッと輝く。
「残念ながら、細々とした経営を望んでるみたい」とレナが伝えると、がっくり項垂れた。
アリスでも驚く、裁縫技術のみならず、デザインセンスの光る逸品だったようだ。

モスラにはリボンネクタイを贈る。
「とっておきの場面で使おうと思います。ありがとう御座います」と薔薇が咲き乱れるような微笑みで喜ばれた。

明日は、フェアリー宝飾店メディチに全員で向かう予定である。
朝早くからマリアベルがレナたちを(主にリリーを)迎えに来てくれるので、早めに休むことにしよう。

▽獣人衣装(練習用)を 手に入れた!
▽レナパーティの おめかし服が 豪華になった!

***

カランカラン、と扉につけられた鈴が鳴る。
閉店した後の服屋[エルフィナリー・メイド]に、一人の背の高い女性が|帰ってきた(・・・・・)。

「お帰りなさい、私の可愛いエリザベート。
あらあら、疲れた顔をしているわよ? こちらに座って、ホットミルクをどうぞ」

「ありがとうお婆ちゃん、ただいまぁ。
ああ……今日も心ときめく斬新なものに出会えなかったぁ! 私、妙に最近ついてないな……」

背の高い女性エリザベートが上質な帽子を脱ぐと、ハチミツ色の髪が溢れて、サラサラと背中に落ちる。
メガネを外して瞬きしたら、ありふれた茶色の瞳は、珍しい銀色に変化した。

席について「私もう子どもじゃないのにぃ、お婆ちゃんてば」と拗ねたようなことを言いながらも、エリザベートは甘めのホットミルクをあっさり飲み干す。
店内を見渡して、驚いたように声を上げる。

「……商品がかなり減ってる?
それも、売れた商品の系統がバラバラ。不思議。
ねぇ、今日は一体、どんなお客様が来ていたの?」

「初めて来店した、魔物使いの女の子よ。
その子が、従魔の魔人族たちそれぞれに似合う服や小物を買ってあげていたの。
みんなとっても可愛らしくて、礼儀正しくて気に入っちゃったから、私もつい秘蔵の商品までオススメしてしまったわぁ」

「へぇ! お婆ちゃんがそこまでするなんて、珍しいね」

エリザベートのカップに、おかわりのホットミルクが注がれる。

「全員、見たことがないデザインの服を着ていたわよ。ついまじまじと見入ってしまうくらい素敵だったわね」

「斬新で衝撃的で刺激的なニュータイプの服ぅっ!?」

「そこまでは言ってないわ。落ち着きなさいな、おてんば姫」

ガタッ!! とエリザベートが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、お婆さんは「どうどう」とたしなめる。
口の端に滲んだミルクをハンカチで拭いてあげた。

エルフ族の若者は子どもっぽいとはいえ、あのヒト族の女の子のようにおしとやかになってくれないかしら……と考え、おしとやかとはちょっと違った印象だったわね、と評価を改める。
回転ポージング覇衣(ハゴロモ)バサァ! が後からじわじわ効いてきていた。

「その斬新な服って、どこで買ったか聞いた……!?」

エリザベートが食いつく勢いでお婆さんに尋ねると、

「忘れていたわぁ」

のんびりした回答が返ってくる。
エリザベートがガクッと机に突っ伏した。
また、ガバッ! と上体をはね起こす。

「そうだ! 明日はその子たちを探して、王都をどこまでも散策しよう!」

「見つかるかしらね?
確かに目立つパーティだったけど、エリザベートは自分の我儘でひとに迷惑をかけたばかりでしょう。
良くないことをしたら、その報いが訪れてしまうものよ。
なかなか魔物使いちゃんたちには出会えない気がするわぁ。
これ、お婆ちゃんの経験ね」

「うっ。……だってぇ、私の湧き上がるパッションが、会社でのルーチンワークはもう我慢の限界って訴えかけてきてたんだもの。
真新しいデザインを、職人魂が求めて止まないんだわ!」

「まあ職人として、気持ちは分かるけどねぇ。
その子たちを探せたらいいわね。
もし出会えなくても、しばらくしたらまた来店してくれるそうよ。
商品のストックを増やして待っていれば、喜ばれるんじゃないかしら?」

「お婆ちゃん……! やったぁ、たくさん服や小物を作っておこうっと。
でも待ちきれないから、やっぱり探しにも行っちゃうだろうけど!」

「すれ違っても知らないわよ?」

「きっとなんとかなるって!」

「私の若い頃にそっくりね、貴方って」

エリザベートは華麗にウインクして立ち上がると、さっそく織り機を使い布を織り始めた。
久しく触っていなかったのだが、エルフ族の故郷で二十数年ずっと親しんできた経験が彼女の手をなめらかに動かし、あっという間に、見事な生地ができあがる。
頭の中には、素晴らしいデザインが緻密に描かれていた。

「やっぱり、デザインだけを任されるんじゃなく、自分で作り上げるって楽しいわ」

エリザベートの気分が高揚すると、瞳には虹色の光が灯る。
なんだかんだ孫に甘い店主は、微笑ましそうにその様子を眺めて、自分も編み物を始める。
高齢の店主も久しぶりに、創作魂を燃やしていた。

新たな糸が織り機にセットされ、カタンカタンと軽快な音が、エルフ族の耳を打つ。
ドワーフ族にとっての鍛冶の音のような、懐かしい子守唄だ。

店には次々に、新しい服や小物が揃えられていった。
可愛らしい訪れ人を待っている。

 

 

 

 

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