122:服飾商店街ショッピング1

「オズくん。白炎の力が出始めたよね。まだ影響が小さいうちに、扱う練習をしておかない? 聖霊が力を取り戻した時には、もっと白炎が強力になるだろうから。もし暴走したら大変だよ」

「……分かった。必要なことだと思うから、練習する」

「良かった! 少しずつ試していこうね」

▽レナは オズワルドの学習意欲を 引き出した!

あっぱれ!
オズワルドの扱う赤魔法に、白炎が現れた翌日。
レナパーティはいつも通り朝練に向かった。
それぞれが組手などを始める中、オズワルドはアリスに防火手袋を貸してもらって、手元を[サンクチュアリ]のミニ結界で囲われた万全の状態で、レナとルーカ、アリス、金属球を内包したクレハに見守られながら、魔法を使った。
レストランで白炎を出現させた時には、爪先が少し焦げてしまっていたのである。
ドキドキ、となんとも言えない高揚に、オズワルドが尻尾を揺らす。

「赤魔法[フレイム]」

ぽうっ、と赤い火種が、手のひらの中でゆらゆら揺れる。
魔力を少ししか込めていないので、とても小さな炎だ。
ーー白くはない。
オズワルドの耳先がしょんぼりと折れた。

「温度はあったかいくらいかな……。ルーカ調教師〜?」

「[鑑定]……今はまったく、聖霊の魔力の気配を感じないね。
レストランで白炎が現れた時には、金属球も、オズワルドのフレイムの炎も、聖霊の魔力を纏っていたんだけれど。
おそらく、レナの側にいることで僅かに回復していた余力が、レストランで使い果たされてしまった状態なんだろう。
明らかに図ったタイミングで白炎が現れたから、聖霊が自分の意思で調整したのかもね」

「な、なるほど。あのままだと、聖霊さんは宝物庫監禁まっしぐらな状況でしたもんねぇ……よほど私たちに何かを訴えたいことがあるのかな?」

聖霊が意思を現し始めている、という予測に、レナは冷や汗をかいた。
えっ、いくらなんでも展開が早いんじゃないか? と心配している。

『聖霊はレナに首ったけ〜♪ レナ様とお呼び〜♪』

「クレハ、ネッシーの真似しないの。ありとあらゆる発言はね、フラグに繋がるんだよ……」

「大精霊シルフィネシア、か……」

オズワルドが炎を消して、呆れた顔でレナを見た。
主人の縁には毎度驚愕させられる。

(俺みたいなのに目をつけられた事も含めて、だけど)

自分はレナたちにとって厄介な存在だろう、けれどこんなに良くしてくれている、と眉根を寄せて考える。

(だったら、白炎取得くらい……努力、してみよう。戦力として必要な分は協力する、って約束してるからな)

オズワルドは練習に参加する理由を、不器用なこじつけではあるが見つけたようだ。

日々鍛錬してグングン強くなっていく仲魔を見て、いつだって胸の奥が熱くなっていた。
一時は冷えて頑なに閉ざされていた心に、光が差し込む。
あんなにも特訓を拒んでいたはずなのに、こんなにすんなり変われるなんて不思議だ、と首を傾げた。

「じゃ、オズくん! もう一度試してみる?」

「……主さんがそう言うなら。なんでおでこ金属球にぶつけてるの!?」

「いや、私の血液、成長促進効果があるらしいから……赤いし……いたた。
これでネッシーも、精霊シルフィーネから大精霊シルフィネシアになったんだよねぇ」

主人の体質の非常識さに顔を引きつらせながら、オズワルドはルーカを「アンタの指示か」とジロリと睨んだ。

「レナの血液をほんの少し金属球に与えてみる? ってアドバイスはしたけど、まさか頭突きするとは予想外だったよ。
しかも血が滲むくらいにグリグリと。心配するからやめてほしいな」

「うっ。……シチュエーションを揃えた方が効果が高いかなと思って……」

「レナお姉ちゃん、天然すぎると思うの。
頭良いはずなのに、たまにどうしちゃうんだろう?」

アリスのトドメで、レナが撃沈した。アリスがレナの傷を癒してあげる。飴と鞭のさじ加減が完璧である。遠方からモスラが拍手を届けた。

「でも、ちょうど良い具合に聖霊の魔力が回復したみたいだよ。本当に微量。
血液で赤く染め上げて、金属球に一気に力を取り戻させるのは正直危険だと思う。
影響が現れ始めているオズワルドへも負荷がかかるだろうから。
様子を見つつ、毎日少しずつ成長させていこう。
それにサディス宰相のサポート準備が整ってないと、不安だし」

「あ。そうですね。さすが調教師。さんせーい! じゃあ……」

「分かったってば。そんなにじいっと見ないでよ、ちゃんとやる」

オズワルドはぷいっと顔を逸らす。
レナが優しく「応援してるね」と声をかけた。

ずっとサボってたくせに今更特訓するの? なんて、軽蔑されたりしない、笑われない。
救いの手は何度だって差し伸べてもらえる。

安心したようにふっと肩の力を抜いたオズワルドは、親切にしてくれた人の期待にくらい応えてみせようと、集中して手のひらに魔力を込めた。

「赤魔法[フレイム]!」

ーーその日は結局、白炎が現れることはなかった。

オズワルドは複雑そうに唇を尖らせながらも、「また明日」と口にする。
えらいえらい! と仲魔に褒められてしまい、むず痒くてダッシュで逃げた。

「あんまり主人から離れてると敬愛が積まれるよー? 恋しくなっちゃうよー? いーち、にー、さーん」

ルーカがモスラの手刀を躱(かわ)しながら呼びかけると、オズワルドは慌ててUターンしてダッシュで駆け戻ってきた。
モスラのように小っ恥ずかしい美辞麗句賞賛を自分が口にするなんてまっぴらゴメンなのである!

オズワルドの白炎特訓は、その日から毎朝のんびりと続いていく。

***

朝練が終わり、レナたちは二手に分かれて、それぞれの目的地に向かう。

「じゃあアリスちゃん、モスラ、商談頑張ってね。気をつけて行ってらっしゃい!」

「ありがとう。レナお姉ちゃんたちもトラブルには十分注意して、街の散策楽しんできてね」

「行って参ります、レナ様。アリス様の護衛は安心しておまかせ下さいませ。
獣人の服探し、良いご縁がありますように」

レナパーティは、獣人用の服を探しに服飾商店街へ。
アリスとモスラは、新たな取引先として狙っていた家具の高級ブランドショップ、ルネリアナ・ロマンス社へ。

「きっと二人は巧(たく)みに交渉して、一番良い結果を掴むんだろうね」とルーカが道中話して、レナたち全員が同意した。
アリスもモスラも話術がえげつな……一流である。

▽レナパーティは 服飾商店街に 辿り着いた!

華やかな店舗ばかりが並んでいる。
シヴァガン王国らしい黒や紫を基調とした建物には、タペストリーや看板などで彩りが加えられていて、それぞれの店のセンスが競われていた。
レナがわくわくと目を輝かせる。

「えーと、獣人衣装の店舗は……」

ルーカが先の長い商店街の奥までざっと視通して、あそことそっちと……と指差していく。
全部経由する最短ルートは、と口にしたところで、レナが背伸びして、両目を手のひらで覆った。

「ちょっ」

「ジミーさん、せっかく時間にゆとりがあるんですから、今日は目的地を決めてそこに最短距離で行くんじゃなく、ウィンドウショッピングしましょう。
道なりにぶらぶら歩いて、気になった店を色々巡ってみましょうよ!
たまにはいいよね?」

『『わー! 楽しみぃ! その方がいいなー』』

仲間らしいのんびりした提案に、ルーカが苦笑する。
すぐ、「いいね」と微笑んで同意した。
こうしたちょっとしたお楽しみが、人生を豊かにするのだと、今のルーカはよく知っている。

『じゃあ……私、あっちの、アクセサリーショップ、覗いてみたいっ。お花のアクセサリー……たくさん、売ってるの』

『シュシュはチョーカーがいいなぁ。ルーカみたいなの、ご主人様にプレゼントされたい……。もーっと従えてー!』

『縛ってぇー、ピチューーンと叩いてぇー!』

「こら二人ともっ、どこの獣人さんが聞いてるか分からないんだからね!? 外での発言には本当に気をつけて……」

「主さん。あのさ、さっき獣人パーティが『あの魔物使いヤベェぞ!』って小声で言いながら通り過ぎてったよ。報告だけしとくね……ご愁傷さま」

「ノーーーーッ! そんなぁ。私、悪い魔物使いだって悪評広がって、捕まったりしないかなぁ……」

<サディス宰相とロベルト殿が全力でなんとかするでしょう、問題は御座いません!
むしろナイスな女王様として評判になるかも……うぐぐぐワレワレノ女王様ガァァ、独占欲ガ暴走スルゥゥ! なーんて、マスター構って!>

「不安しかない! おしおきのホームボタンぽちぽち!
ううう……なんだか妙に運が悪い気がするなぁ……」

「さあ散策に行こうか」

レナがスマホボタンを連打しながら、ルーカをじっとり見ると、ネコミミヒト族は誤魔化すように先陣切って歩き出した。

レナが追いかけなかったので距離が開き、ルーカは石畳の溝にブーツの踵をジャストフィットさせてつんのめるという小さな悪運に見舞われた。

いや、靴の踵が折れた!
これはなかなかの運の悪さ!

「ジミーさん……! えーと、肉球靴買ってあげましょうか?」

「普通のでいいや」

オズワルドの「ねぇ主さん、お揃いにしたい」という日頃のからかいへの仕返しにより、ルーカの新しいブーツは肉球仕様のものが選ばれたと言っておく。
珍しいオズワルドの仲良し発言に絆されたレナ、レナのお願いにルーカは頷くしかなかった。
再度言うが、これは日頃のからかいへの仕返しである。
そしてまたルーカが報復にからかい、こうして世界は回っていくのだ。なんだか想定外に壮大になってしまった、失礼。

レナたちがわいわいと移動する。
それぞれが気になる店を告げて、短時間ずつ寄り道していった。

リリーにお花のカチューシャを買ってあげて、シュシュには髪色に似ているピンクのリボンチョーカーをプレゼントする。
クーイズの要望でカフェに入って、サンドイッチを食べた。

服屋、裁縫グッズショップ、雑貨屋、ジュース屋台……初めて訪れた商店街なので、どこを見ても新鮮で楽しい!

「売り物の服に食べ物のにおいが移らないよう、屋台で売られてるのは飲み物だけ、食事はカフェの店内限定って決められてるんだ。
樹人族が経営してるドリンクスタンドは評判がいいらしいよ」

「ここは服飾専門商店街だもんねぇ。オズくん、説明ありがとう。その有名店って近く?」

「あそこ」

「あ、もう看板が見えてるね! 寄って行こうか」

爽やかな緑色の看板のティースタンド。冷たいフレーバーティがウリらしい。
半透明の円筒状の|入れ物(カップ)にお茶が入っていて、全て飲み干すとカップが消えてしまうようだ。
カップは口をつけたら唾液に反応してその部分だけが開く仕組み。傾けてもこぼす心配がなく、ゴミが出ないので大変好評だというカップは、例のグルニカの発明品。

アリスとモスラのお土産に、メープルフレーバーティを余分に購入して、レナはマジックバッグに仕舞った。

「あ。スマホさんも、魔人族になった時の祝杯用に、どれか買っていく?」

スマホに空間管理されているマジックバッグは、大容量なだけではなく、時間経過もしない。
どれだけ食料を保存しておいても大丈夫。

<ありがとう御座います! どれにしましょうか……むむっ、味の想像がつきません……>

『私が、頼んだ……バニラハイビスカスティー、オススメ。美味しかったよ!』

<わかりました! ではリリーさんと同じ物を>

仲良しだね、とレナが微笑ましそうに声をかけると、リリーはレナのシャツのポケットに入ったスマホをすりすり撫でた。
<きゃっ>と声がして、スマホがポッと熱くなる。

この商店街はお宿♡から少し遠いので、あまり頻繁には訪れないだろう。
他にも、青紫ブルーベリーティーやシナモンチャイティー、黒薔薇紅茶など、珍しいフレーバーを数点余分に注文して持ち帰ることにした。

いくつかの獣人衣装店にも立ち寄り、商品を見ていく。

アリスは高級ブランド店でのオーダーメイドを推したが、ロベルトに改めて尋ねたところ、まず安価で動きやすいものを買って、獣人戦闘に慣れてから、身体にあった魔法効果付きの高級品を揃えるといいだろう、との回答だったので、仮の練習着をレナたちは探している。
歴戦の戦士のアドバイスに、アリスも納得した。

おさらいしておこう。獣人の戦闘には三パターンのスタイルがある。
完全獣型、半獣人型、魔人族型だ。

完全獣型は言わずもがな。
魔人族型はヒト族に近い見た目で、武器防具を扱って戦闘する。

半獣人型は、顔と胴体以外を獣化させて身体能力で戦うスタイル。
魔人族の姿から、獣化の割合をどんどん増やしていくと、どこかで完全に獣型になる。
そのギリギリを見極める訓練、獣型で戦う稽古を、ルーカは予定している。

割合は魔物によって異なるので、膝と肘から先だけを獣化させる者もいれば、ほぼ二足歩行の獣として活動する者もいるらしい。
どの型の獣人衣装が合っているのかは、個人差がかなり大きいということ。

ルーカ、ハマル、シュシュにはどのような獣人衣装が合うだろうか。

レナは楽しく想像する。惜しみなく散財するつもりだ。

そのうち、オーダーメイドを依頼する、腕のいい裁縫職人との縁も探さなくてはならない。
まあ、レナが本気で望めばなんとかなるだろう。

「えーと。ロベルトさんによれば、練習用の獣人衣装はスリットの入ったワンピース型で、腰をベルトで留めるスタイルがおすすめ。
その下に膝丈のゆったりしたズボンを着用する。靴はなし、か」

ロベルトから渡されたメモ用紙を見て、必要なアイテムを再確認するレナ。
子どものために制服を用意するオカンのようだ。
良い表現だと思う!

オズワルドがルーカに話しかける。

「半獣人型の戦闘スタイルの使い所なんだけど。
シヴァガン王国の役人はよく、街中で早急に移動したい時に半獣人型に変身してる。
ヒト型の体積のまま、かなり早く走れるようになるから。
屋根の上にも軽々登れて、人混みを避けられるし。
街道でなければ、[俊足][駆け足]とかのスキルも使用を認められてるんだ。
主さんの従魔くらい小柄な魔物はともかく、身体の大きい魔物だとどうしても街中ではヒト型で過ごすことになるから、習得しておくべきだよ。
ジミーの魔物型が大きいタイプかは分からないけど」

「そういう場面で有益に使えるんだね。なるほど。
あとは、剣が使いやすい戦闘、格闘技を生かす戦闘とか、場面によって使い分けるといいのかな。
例えば僕が剣を手放してしまった時に、半獣人型になれば爪で戦ったりもできるってことだよね?」

「うん」

『ボクはどうだろー。二足歩行のヒツジ、走るの早くなるのかなー? 力持ちにはなりそうだけどぉー』

『シュシュ、半獣人型でアクロバットな動きを身に付ける。
腕力が上がれば、ご主人様がピンチの時にカッコ良く抱き上げて運んであげることもできる! 特訓頑張る!』

『なにそれいいなぁ。ボクも特訓頑張ろうって気になってきたよー! めぇめぇ』

「あの。その、気持ちは嬉しいんだけど……幼い子たちに抱き上げられる、絵面が……なんか申し訳なくなるなぁ……」

「士気が上がるのはいいことだよ。レナ、甘んじておいたら? 愛されてるね」

苦笑いしていたレナがお日様のような笑顔になった。
ルーカはさすがにレナの扱いに長けている。

一軒、二軒、とさらに獣人衣装の店舗を巡っていく。

「これはどうでしょう? ……うーん、ジミーさんの体格だと、男性用の獣人衣装って微妙に丈が長すぎるんですよねぇ。
丈がふくらはぎまであって、横幅もゆったりし過ぎてるかな」

「獣人は立派な体格の人物が多いからね。僕はベースがヒト族で細身だし」

「こちらは可愛いけど、今度は丈が短いです。着てみますか?」

「それ女性用」

子供用の獣人衣装はすぐにピッタリのものが見つかったが、ルーカの練習着が絶妙に見つからない。
さすがの運の悪さである。

レナが、ルーカにあれこれと衣装を合わせてみては、眉根を寄せて悩む。
従魔にはきちんと似合うものを着させてあげたいので、真剣だ。

「服の丈を短くするくらいの加工は私にもできるけど、横幅を見栄え良く調整するのは難しいしなぁ。
店舗で丈合わせをお願いすると、また後日受け取りになるのかー。
いっそお願いするのも手かも?
でもそれだと、少しお金を上乗せすれば、最低価格のオーダーメイド衣装が作れちゃうんだよねぇ」

レナが小声でブツブツ呟き始めた。
こうなると、納得いく答えを導き出すまでレナは粘る。

ルーカが微力で魔眼を発動させて、服屋の店先から、ぼんやりと商店街全体を広く見渡した。

「!」

黒いネコミミがピンと立つ。
この先は分かれ道なので、どちらに誘導した方が散策を楽しめるだろうかと、それぞれの店主の魂の光の強さを視つめていたのだが……思わぬ反応を発見した!
つんつん、とレナの肩をつついて、振り向いた瞬間にテレパシーを送る。

「(規格外に技術がありそうな、裁縫職人の魂の光を視つけたよ。オーダーメイドも選択肢に入るなら、訪れてみる?
この服飾商店街に店舗を構えているから、値段が高すぎることもないと思う。
善人だよ)」

「(本当ですか! では、さっそく向かいましょう。
シュシュとハーくんの衣装はもう買っちゃったけど……また、本格的な戦闘服をオーダーメイドする時には、その店舗への発注を考えてもいいかもしれませんね)」

「(そうしてあげよう。さっきのはさっきので、二人もレナも気に入って買った物だし。
ちなみにエルフ族の高齢の女性、レベルは60)」

「(尋常じゃないですよね!?)」

従魔たちにも事情を説明して、みんなでルーカの案内に従う。
向かって行く先は、大通りから脇にそれた小道にひっそりと佇む小さな店舗だ。
はたして、どのような出会いがあるのだろうか?

 

 

 

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