120:説明責任2

レナが金属球について、詳細に話していく。
デモンズレストランの個室には今や、光魔法[サンクチュアリ]の堅牢な結界が張られていた。
グルニカは絶賛気絶中だ。

ひとつ重要な情報を説明するたびに、宰相の眉間のシワが増え、眉が顰められ……驚きに、魔人族の縦の瞳孔がいっそう細くなった。
全ての説明が終わった。

「……只今、伺った情報をまとめさせて頂きます。
あの金属球は、白炎族が信仰していた古代聖霊が宿るカンテラ。
素材は幻の魔法金属、|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)。
微量に残っていた聖霊の魔力が、藤堂レナ様たちの[精霊の友達]の称号に反応して、なんらかの意思を伝えようと接触してきた……これが、攻撃とみなされていた。
金属球は現在は沈黙しているものの、じきに魔力を回復し、炎の聖霊として復活する予兆がある。
その時、赤魔法適正を持つ者たちが、超高温の白炎を扱えるようになるかもしれない。
……ただし、金属球の回復のためには、赤色の魔道具を変質させる体質である藤堂レナ様が金属球を所有し、側に置いておくことが必要不可欠。
再びシヴァガン王国の宝物庫に返還することはできない……」

「はい。私が説明した通りにまとめて頂いてます。
この金属球の所持を認めてもらえますか?
それから、聖霊が復活したら世界の混乱は必須だと思われます。その時の対応を、シヴァガン王国政府に協力して頂きたいんです」

レナが静かな声で肯定して、要望を述べ、ペコリと頭を下げた。
ちゃっかりと、そちらが元々所有していた金属球の問題だから協力してくれますよね? との気持ちを、最後の言葉に込めておいた。

宰相はしばらく沈黙している。
ヒクリ、とこめかみがわずかに引きつった。きっとものすごい速度で思考しているのだろう。
やがて、重く口を開く。

「……皆様の能力など、重要な秘密を口頭で開示してまで金属球についてご説明下さったこと、まず感謝申し上げます。
大精霊シルフィネシアの加護を受けている件、これだけの情報を読み取る力など……口にすることをとても躊躇われたでしょう」

宰相が、底が見えないほど深みを増した瞳と額の蜘蛛の目で、レナを刺すように鋭く見つめる。

レナの身体の芯がゾッと凍えた。……見定められている。正念場だ。

「は、はい。特殊体質を知られてトラブルに遭う事が多くて、能力を告げるかはすごく悩みました……。
でも、聖霊の復活なんて重要な事案は、私たち個人で対応するべきではないと判断しました。
だから、サディス宰相に相談させて頂いています。
……どうか知恵とお力を貸して頂けませんか?
この金属球が何かを伝えたくて私を頼ってきたなら、応えてあげたいんです。手元に置いて、回復を待ちたいと思いました。
……元々王宮宝物庫の物だったのに、返せなくてごめんなさい。
聖霊への対応について、是非真剣にご検討頂きたいです。
何卒よろしくお願いします!」

金属球を両手で包むように持っていたレナは、勢いよくバッ! とお辞儀して、ゴチン! とおでこを思い切りぶつけた!

『『レナーーーッ!?』』

従魔たちの悲鳴が結界の中に響く。
金属球のすぐ側でスライム姿で控えていたクレハとイズミの悲鳴が一番大きかった。

レナが涙声で「……失礼しました」と言って頭を上げると、おでこが赤くなってうっすら血が滲んでいる。
イズミが頭に乗って、おでこまでボディを伸ばして冷やしてあげた。
アリスがヒールを施してくれる。

サディス宰相はレナを心配する発言をした後、難しい顔でまた沈黙してしまった。
イレギュラー中のイレギュラーなのだ。
即決は難しいのだろう。

クレハの赤いボディの中に、レナが金属球を「とぷんっ」と沈める。
キラキラ光り輝くジュエルボディの中で、金属球がプクプクと気泡に包まれて、ほんのり緋色みを増していく……ように見えなくもない。

「このように、赤みをプラスすることで、赤の魔道具であるとラナシュにより認識させて、金属球の変化を早めたいと考えています」

レナが、どうだ!? と、宰相を見つめた。
従魔とアリスも真剣な眼差しを送る。

「…………先ほどのお話ですが」

「!」

「協力体制の約束はできません」

……長めの沈黙の後、宰相はキッパリと言い切って、首を横に振った。

「白炎族、|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)のカンテラ、炎の聖霊の復活。
この予想(・・)が真実ならば、皆様の仰る通り、我が国の総力を提供して即座に対応するべき一大事です」

「それなら……!」

「率直に申し上げます。皆様のその証言を、手放しに信用できないと判断致しました」

「ッ!」

……レナはぐっと唇を噛みしめる。

秘密にしておきたかったステータスも少し開示して、誠意を持って協力をお願いしたつもりだった。それなのに信用できないと言われてしまって、ショックだった。

宰相とはそれなりに話す機会があり、魔王国の住人から彼の武勇伝を聞くうちに、レナはいつの間にか親近感を持っていたらしい。
だから認識の差に、胸がズキンと痛くなったのだろう。
ここ最近は親切な人にばかり出会い、すぐ信用されることに慣れていたのかもしれない。

「横から口出しをして申し訳ありません。
サディス宰相にとって、今回の申し出はあくまで『予想』に基づいたものという認識であり、不確定な理由でシヴァガン王国政府を動かすことはできない……とお考えなのですよね?」

「アリス・スチュアート様の解釈の通りです」

レナが、ハッと表情を引き締める。
アリスがチラリと視線を送って(認識の違いをなんとか擦り合わせよう)と小さく頷いてみせた。

まだ説得する道は残っている。
手助けされたレナは心の中でアリスにお礼を言って、大慌てで思考を巡らせた。

レナたちにとっては、仲間のルーカが【☆7】[魔眼]で読み取った確実な情報。
しかし宰相にとってはそうではないのだ。

宰相が再び口を開く。

「私たちは数日前に初めて顔合わせをしたばかりですね。
それ以降、交わした会話も共に過ごした時間もまだまだ少なく……魔王様捕縛のため日々協力しているとはいえ、お互いにとって有益な取引を長年積み重ねた仕事仲間ではない。
聖霊復活という壮大な夢物語をすぐ信じるには、圧倒的に信頼が足りません」

「……はい」

「私はシヴァガン王国の宰相という立場ゆえ、文書として契約内容が残らない妖精契約印を身体に刻むことは禁じられています。
先ほどの、妖精契約前提で皆様のギルドカードを閲覧させて頂けるというご提案は、どうしても断らざるを得ず……それなのに信用できないと切り捨てたのは、心苦しく思っているのですが。
嘘を聞かされた、とは感じておりません。
ただ、情報が確実なものだと信じ込んで、私に訴えている可能性が高い……と判断致しました。
以上の理由から、協力体制は約束できません。
何卒ご容赦下さいませ」

大事なことなので2度言った。
宰相の意思は「否」とハッキリしている。

(……妖精契約がなければステータスを開示したくない、って判断した私たちも、サディス宰相の事を完全には信用していない……。
だから、ここはお互い様なんだよね……。
その上で、どう進めようか?
フォーメーション変更する?)

レナが悶々と思考して、ギルドカードが吊るされている首元の細い鎖に手を添えると、宰相は「辞めた方が宜しいかと」とそっと制してみせた。
レナの眉尻が下がる。

「……私たちが信用を得るためには、例えば、どのような解決方法があるでしょうか?」

「方法ですか。そうですね……。
まず、時間をかけて信頼を構築する方法は、即対応が求められる今回の件には適さないとご理解下さい。
[心眼]で藤堂レナ様が嘘をついていないことを確認しても、自らの仮説を信じ込んでいる……と考えるならば、仮説の証明にはなりません。
必要なのは『事実』です。
伺った金属球の由来について”確実である証明”を王国政府の上層部に示して頂けたなら、皆様の主張を信じ、聖霊復活とその後の対応の協力について、検討することが可能です。
……希少種従魔のどなたかの能力で、金属球の素材と記憶を知り、確信なさったのだと予想していますが。
この金属球は王宮の鑑定スペシャリストでも、素材や記憶を視抜けなかったものです。
それ以上の能力をお持ちだと言う事を、何らかの手段で信じさせて下さい。
同じように、藤堂レナ様の体質の証明も必要です。
そして、これらの検証を記載した悪魔(デーモン)文書に署名、血印を頂戴し、王国資料室で厳重に保管させて頂く許可を求めます」

「う。とっても大掛かりですね……!?」

「ええ。正直、この提案をお勧めは致しません……。
皆様のステータスのほとんどを開示して頂くことになる上、検証には時間がかかる。
検証結果は王国各省のトップ全員で共有となります。規則ですので。
……部署長にはグルニカのような厄介な奇人もいる、とあらかじめ警告させて頂きます。
彼女は能力だけを見ればずば抜けて優秀ですので、つい昨夜までは、研究部長を務めていました。
宝物庫侵入への処罰として、要監視対象の一般研究員に格下げとなりましたが……」

それはすっごく嫌だ。
レナたちは、白目を剥いたままのグルニカをげんなり……と眺めた。

レナの視界の隅にまた朱色がチラッと閃く。
万が一にもグルニカが起きて余計な首を突っ込まないよう、相談中は何度も入念に気絶させられていたらしい。
これほど厄介な人物がまだ控えているだって?
シヴァガン王国は魔窟か。
そうなのだろう。

「ええと。白炎が現代によみがえったなら、鍛冶や料理など様々な分野の発展が期待できますよね?
これは全くの仮定ですが、シヴァガン王国の皆様が恩恵を真っ先に受けられるかもしれません。
それによる利益を期待して、先行投資で協力してもらうことも不可能なんでしょうか?」

レナは攻め方を変えてみた。今度はフォーメーション8だ。

「……誠に遺憾ながら、そのご提案もお断り申し上げます。
確かに、我が国にとってとても魅力的な仮説です。白炎がよみがえれば生産技術が一気に向上し、職人たちは素晴らしい品物を作るでしょう。
ただ、リスクも莫大なのです。
シヴァガン王国は現状でもかなりの大国。様々な能力を有する魔人族で構成され、領土は広く、土地も肥沃……そのような国が、白炎の力を真っ先に所有してしまえばどうなるのか?
平和的に均衡している力関係が崩れる、とミレージュエ大陸の国々は考えるでしょう。
白炎を独り占めするかも、と疑心を抱く者が必ず現れます。
白炎は文明を豊かにしますが、争いの火種を生むことにもなりかねない……。
私は一国の宰相として、手放しに聖霊の復活を喜ぶことはできません。
藤堂レナ様との繋がりも、ありとあらゆる手を使って探られるでしょう。その結果は………………きっと、皆様が一番望まない展開になりますよね」

「うううっ」

「どうか金属球を王宮の宝物庫に返還して下さいませ。もちろん、先ほど申し上げた通り、迷惑料を含んだ金額をきちんとお支払い致します。
それが、丸く収まる方法です。
全てが元どおりになり、皆様の身の安全も保証される。
……聖霊復活は、聞かなかったことに致しますので」

宰相は主張を終えると、ふっと息を吐いて、外側に水滴が付いたグラスを持ち上げて、ゴクリと喉を潤した。

彼は利益とリスクを天秤にかけて、安全性を取ったのだ。
研究者や技術者、赤魔法適正を持つ冒険者が聞けば、発狂する勢いでこの判断を批難(ひなん)しただろう。

しかし影蜘蛛一族は、シヴァガン王国の末長い繁栄と安寧を守ることを誇りとしている。
世界的技術の発展に貢献し、名を馳せることなど望んでいない。

影蜘蛛の模範のような思考をするサディス・シュナイゼは、国とレナたちのためを思い、現状維持が望ましいと、堅実に判断した。

むすっと頬を膨らませて不機嫌そうな顔をしているリリー、ハマル、シュシュ……レナの従魔の幼児たちを、宰相はチラリと眺めて、まだ見た目が幼い自分の娘を、ほんの一瞬だけ重ねた。

途方にくれたレナも、とりあえず水を飲む。

くいっ、と服の袖が小さく引っ張られた。

(! オズくん……?)

チラリと黄金の瞳と目が合う。
一瞬だけ、オズワルドの瞳孔がほんのりと緋色みを帯びたようにレナには視えた。
首を傾げたが、オズワルドのアクションを見守ることにする。

「……サディス宰相。あのさ。金属球を宝物庫に返しても、元通りにはならないだろ?
主さんはもうこの聖霊に見込まれてしまったんだから」

レナがむせた。間が悪かった。

「きっとこれから、何かすごい事が起こるよ。
……そう確信してるんだ。
トラブルも、良い事も起きそう。主さんの周りは、いつもそんな感じだから。
……俺がさっきの話を保証したなら、政府の協力を仰げる?」

思いもよらないところでオズワルドが助けに入ったので、皆が注目している。

レナは感激して、宰相は驚きに目を見張りながら、少し居心地が悪そうにしているオズワルドをじーーーっと見つめた。

「……。短期間でよくここまでオズワルドが懐いたものですね。
藤堂レナ様がオズワルドを従魔としてしっかり受け入れ、大切にして下さっている事がよく分かりました。
誠にありがとうございます。魔王ドグマ様の代弁者として、お礼申し上げます。
オズワルドが他の従魔の皆様とも信頼関係を築けているようで、何よりです」

▽レナは 胸を張った!

宰相に従魔想いを認めてもらえた! 実に気分がいい! 単純である。

オズワルドは他の従魔たちから「やるじゃん!」と小突かれたり、肩を組まれたり、頭を撫でくりまわされたりしている。
無遠慮な仲良しスキンシップに時たま面倒くさそうな顔しても、オズワルドが幼児の小さな手を払いのけることは無かった。
宰相が目を細める。

「……それはそれとして。話を戻しましょう。
先ほどの申し出ですが、オズワルドの肯定は何の保証にもなりません。
私が求めるのは引き続き、金属球の返還のみです。藤堂レナ様、ご検討頂けませんか?」

「……えっ! なんでっ」

オズワルドが尻尾の毛を逆立てた。

「説明が必要ですか? オズワルド」

……オズワルドは厳しい失望の眼差しを、怖がっている。
レナにはそう見えた。

「よろしいですか? 今の貴方はあくまで『藤堂レナ様の従魔』です。
交渉の場において、従者は主人の発言以上の権限を持ちません。
魔王の息子として王宮で暮らしていた頃の貴方の発言なら、重視していたでしょう。
しかしそうではない。
立場を手放すということは、自由を得る代わりに、権利・権限・信用などを失うという事です。
……選択したのは貴方自身だと、お忘れなく。
今言ったことを、よく覚えておきなさい。二度は言いません」

「〜〜〜〜ッ……」

オズワルドはシヴァガン王国の身内ではなく、今では他人という扱い。魔王の息子という立場で無くなれば、まだ幼くて教育を受ける立場だったオズワルドの証言なんて、信用されない……と冷たく告げられて、見事な漆黒の獣耳は、ぺたんと頭に伏せてしまった。

宰相が口にしたのはド正論だ。
全部、自分の落とし前。
オズワルドの頭の中を「まだまだまだまだ自分は甘くて、どうしようもない……」と葛藤が巡る。

オズワルドはだらりと腕を下ろすと、拳をぐっと握りしめた。
ーー胸と拳がとても熱い。

ーーうちの可愛い可愛い従魔が落ち込んでいる……だと?

レナの中のヤル気スイッチが連打された。
ドドドドドドドドッ!!
頭がスウッとクリアになる。

ルーカが急いでスマホの分身体を視て、テレパシーでレナの意思を伝えた。

<ピンポンパンポーーン! えー、テステス。フォーメーション13、始動で御座います!>

スマホからみんなに脳内通信が行き渡った。

レナパーティの雰囲気がガラリと変わった……と肌で感じた宰相は、怪訝そうに眉を顰める。
とりあえず、発言を待つ姿勢だ。

レナはきりりとした表情を宰相に向けて、口火を切る!

「この金属球はグルニカさんが鍛治工房イーベルアーニャに持ち込み、販売され、私たちは対価を払って正当な手続きで購入しました。
この流れの中に、私たちの非はあるでしょうか?」

「……御座いません。全て、シヴァガン王国所属のグルニカの不始末です」

「そうですよね」

「……」

アリスがここぞとばかりに、売買領収書をマジックバッグから取り出して掲げた!

なにやら不穏な流れになり、宰相の表情が曇っていく。
レナが咳払いした。

「ごほんっ。金属球は現在、私の所有物です。
シヴァガン王国政府はこれを強制的に没収する権限をお持ちでしょうか?」

「いいえ……。宝物庫の扉が溶かされて中の財宝が持ち出されるなど、前代未聞です。
その対応について明確に定めている法律は御座いません。
……ですので、醜聞を覚悟の上で藤堂レナ様に全ての事情を話し、グルニカと私が深く謝罪する事で、良心に訴えかけているという状況です」

先ほどの交渉内容は、レナたちからの”お願い”だった。
今は、シヴァガン王国の”お詫び”に話が移っている。
すっかり立場が逆転してしまった。まだまだ。

「強制的に取り上げられなくて、良かったです。 状況について理解できました。
早朝からご足労頂いて恐縮ですが、私は……金属球を渡したくありません。
買い戻しのご提案は、お断りさせて頂きます。
申し訳ありませんが、諦めてどうかお引き取り下さい」

「……! お待ち下さい。宝物庫に納められていた金属球は、一見そうは見えなくても、言わば財宝です。
そのような物を個人が所持していれば、ともすれば厄介な者に狙われかねません」

「厄介なトラブルならもう色々と抱え込んでいますから! ええ、色々と。本ッ当に色々と……」

レナの目が胡乱である。

「……心中お察し申し上げます」

「お気遣いありがとうございます……。
オズくんが言ったように、私はもう金属球と縁ができてしまったので、離れようが宝物庫に隔離しようが、おそらくまた事件に巻き込まれるんじゃないかなーと思っているんです。
それなら、手元に置いて管理しておいたほうがまだ安心かなって」

「……先ほどの話では、所有物として側に置いておくと聖霊が蘇ってしまうと仰っていましたが、よろしいのでしょうか……?」

「仮説ですけどね?」

こう言われてしまうと、宰相はもう口をつぐむしかなくなる。
白炎やヒヒイロカネ、聖霊復活の話を、信じられないと言い切ったばかりなのだから。
聖霊関係のトラブル回避を口実に、レナに交渉を持ちかける事はできないのだ。
はははははははは!

レナが少し表情を和らげる。

「いじわるな言い方をしてしまってごめんなさい。
つまり、仮説じゃなくなればいいんですよね?
それでは、私たちはそのうち金属球が変化すると信じていますので、もし聖霊が復活したら、一緒に対応を考えて下さいませんか」

「……それは……現段階では即答致しかねます」

「はい。結果が出てからで大丈夫です。その時には、早急にロベルトさんに報告しますね」

「……ロベルトとの連絡体制を強化して、一報をお待ちしております」

宰相は苦々しく返答して、どうやら本当に金属球は返還されないらしい……と、額に手を当てて一瞬だけ天を仰いだ。

仕事が増えたばかりで、何一ついい成果が得られていない!

交渉事はほぼ百戦錬磨の宰相でも、今回はさすがに相手が悪すぎた。

腹が黒いアリスとルーカとモスラに入れ知恵され、入念に戦術を練っていたレナが本気になれば、手強いことこの上ない。
しかも|我が子可愛い(モンスターペアレント)モードなのだ。
普段のレナが言わない事もズケズケ口にするし、図太くなった神経は疲労なんてしやしない。

レナが微笑み、宰相はほぼ無表情のまま、多分に含みのある視線を交わらせた。

「……あ。オズワルドの尻尾の先がほんの少し白くなってる」

「え!?」

ルーカが目ざとくオズワルドの尻尾の変化に気付いて、先っぽをつまんで視る。
……にっ、と人の悪そうな笑みを浮かべた。

「今ここで、フレイムを使ってみせてくれる? 込める魔力は少しでいいから」

「……? う、うん。赤魔法[フレイム]」

▽オズワルドは 呪文を 唱えた!

ボッ!! と、小さな火種にしては異常な音とともに、オズワルドの手のひらの中に炎が出現する。
ーー青い炎の上部が、白い!!

「ーーーーーッッ!」

「白炎だね?」

ルーカが口にすると、みんなが息を飲み、目が愕然と見開かれた。

聖霊の応答、早ッ!!
まだ聖霊が復活してもいないのに!? と、レナはあんぐり口を開いている。
どうしよう、厄介度が増してる。

「……あのさ。これ、『事実の証明』になるかな」

オズワルドがおずおずと、宰相に火種を見せた。
自分自身の事なのに、何が起こっているかまるで分からなくて、ただ胸と手がすごく熱くて、混乱していた。
しかし宰相に差し出されたオズワルドの手は、ほんの僅かに震えながらも、炎をしっかりと抱えている。

宰相は至極真剣に、炎を見つめる。

ーー30秒も持たずに、白炎は青い炎と同化して消えてしまった。
頬を焦がすようだった熱気も、嘘だったかのように感じられない。

まだ聖霊の影響力が弱いからだろう、と考えるのが適切である。

いい加減、宰相の頭痛が酷い。

「……確かに私は、白炎をこの目で見届けました。一瞬ではありますが。藤堂レナ様」

「は、はい」

「今後、金属球のことで何か相談があれば、ロベルトではなく、私に直接取り継ぎして頂けますか。
魔王様捕縛の連絡用魔道具を3回連続で起動して頂ければ、迅速に皆様の元に駆けつけます。
ええ、何よりも優先致します。いつでもご連絡下さいませ」

「……! ありがとうございます!」

▽レナは 宰相呼び出しの権利を 取得した!

おっそろしい。
王宮の従業員が聞けば、いやそれ喜ばしいか!? とレナの正気を疑うだろう。
実際、|我が子可愛い(モンスターペアレント)モードになっていてハイテンションなので正気ではなかったりする。おっと、蛇足であった。

「……我が国の協力体制については、議題を持ち帰って会議させて頂き、結果をできるだけ早く連絡致します。
復活した聖霊がどのような主張をするかによって、その後の対応が大きく変化することでしょう。
そのため、まず議題とするのは、他国への配慮について、皆様の安全保証について、混乱を防ぐための情報統制……などに限定されます。
何卒、ご了承下さいませ。
……金属球の所持については、認めざるを得ません」

レナがホッと肩の力を抜いた。
言わせてやったぞ!

「皆様、どうか十分にお気をつけて過ごして下さいませ。
申し上げた通り、これは財宝です。それだけではなく、聖霊が宿っているのでしょう?
万が一にも盗まれたら、一大事では済みません」

「はい。肝に銘じておきます」

レナが生唾を飲み込んで、しかし力強く返事をすると、宰相は頷いて、メモ用紙にサラサラと何かを書いた。

自分の名前を署名し、魔力を込める。
簡易契約書類だ。

「金属球の所持を受け入れる、と記録致しました。
控えをお渡し致します」

「あ、ご丁寧にどうも……」

相変わらず律儀だな、とレナは苦笑した。

後ほど正式な書類を届けます、と宰相が比較的穏やかな声で告げる。
ここまでイレギュラーが揃えば、もういい加減諦めもつくというものだ。
一周回って心が落ち着いている。

気が付けば、かなり長居してしまっていた。
宰相が伝票を手に取り、綺麗な姿勢で腰を浮かせる。

「本日はお付き合い頂き、誠にありがとう御座いました。
藤堂レナ様、アリス・スチュアート様、従魔の皆様方」

「こちらこそです。濃い話ができましたね」

「ええそれはもう。驚愕致しました」

「ですよねー。私たちもです」

他愛もないやり取りをするレナと宰相。
理想通りに話が進んで、機嫌を持ち直した従魔たち。
宰相に「絶妙なフォローでした」と褒められてホクホクのアリス。

全員が、ようやく訪れた和やかな雰囲気を満喫していた。

ただ一人を除いて。

「アタシも仲間に入れてよおーーーッ!?」

▽Next! グルニカの事情(本人談)

 

 

 

 

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