12:クマだーーー!

突然現れた人喰い大クマに向かって、ルーカが瞬時に駆ける。
いつの間にやら隙なく魔剣を鞘から出しており、体勢を低くしながら、真正面からクマに向けて剣をふるった。

「ーーースキル[瞬発]!」

一気に距離をつめ、右手をしならせる。

「ーーースキル[雷剣]!」

バチバチィッッ!!と、激しい雷気が剣にまとわりつき、みなの視界を白く染め上げた。
強烈な光だ。
ドドッと地面を這うように、剣から雷の線が伸びている。
込められた多量の魔力は全て一撃分にまとめられて、クマに襲いかかった。

獲物の視界を確実に奪いながら、ドス黒い毛皮をジジジッと焦がしていく。

…グオオオォォォン!!

毛と脂の焦げる独特の匂いが辺りに立ち込め始めて、たまらずクマが叫び声をあげた。

レナと従魔たちはろくに反応もできずに、ぽかんと口を開けて、光景に圧倒されている様子。

くるりと踵を返したルーカが、またも[瞬発]スキルを使って彼女たちのすぐそばまで駆けてくる。
珍しく焦った様子で、声も無意識に大きくなっていた。

「ーーー逃げるよッ!」

「…ええっ!?」

「早く!
荷物は全部僕が持つから、レナは従魔たちをお願い。
全力で走って…!」

その場に置かれていた鞄やらを肩にかけ、スライム達をぽいぽいっとレナに向けて放るルーカ。

『『きゃーーーっ!?』』

リリーは素早くレナの首に両腕を回して、自力でしがみついている。
数歩分先でせかすようにルーカがレナを振り返っており、なにがなにやらよく分からないまま彼女も、足に力を込めて走り出した。

向かう先は、クマとは真反対の方向だ。
…とにかく遠くへ!

なんとか遅れをとらずに彼に合わせて走りながら、目を白黒させつつレナが問いかける。

「ル、ルーカさぁん…!?
あのクマ、さっきの凄い攻撃でも倒せてなかったんですかー!?」

[身体能力補正]借りといて本当に良かったね、レナさん。
ここでコケてたら大惨事確実だっただろう。ちゃんと今は走れている。

苦い声で返すルーカ。

「無理無理無理無理。あんな程度の攻撃じゃ、全然ダメだよ?
…あの人喰い大クマは多分、この辺りのボスだと思う。
レベル35もあった。視えた」

「ひえーーーっ!?」

『『『…きゃーーーっ!?』』』

「騎士団の精鋭が部隊を組んで狩るレベルだろうね…!
逃げきらないと、これは本当にヤバいよっ」

背後をチラチラ確認しながら、速度を緩めることなく足を動かし続ける一行。
さっきの雷剣の攻撃は、いわば雷の光による目くらましが目的だったのだ。
目が回復したら、クマはすぐにでもまた追いかけてくるはず。

…案の定、早くも持ち直した様子のクマは、辺りをキョロキョロと見回して、逃げ出したルーカたちを見つけ睨めつけた。
やはりか、身体へのダメージは彼の戦意を削ぐまではいかなかったらしい。
いくら強力な魔剣の雷とはいえ、ルーカとのレベル差25というのは相当デカい。

ずんぐりした身体を器用に丸めて、ニヤァと口を歪めたクマは、後ろ足を強く地に押しあて…獲物をめがけて再度駆け出す!

ホントかんべんして頂きたい。
持ち直しが早かったことに、レナ一行は額に冷たい汗を流していた。
ルーカが魔眼でチラ見してみると、あのクマはなんと【頑丈】なるギフトを持っている。やめて。

「…草原を出て、また森の中に入るからね。
心構え、しておいて!
木が多いから避けつつ走り抜けるよ」

「はいいいぃぃぃ、うわアイタァァ!?」

レナさんが器用に舌を噛んでいる。
運動センス補正は、どうやら喋り方にまでは効いてくれないらしい。ドンマイ。

草原の終わりには丈の長い草の茂みがあって、その向こうに人用のささやかな街道が見え、別の森がある。
さいわい、ダナツェラ側とは真逆の森ではあるが…こんなバケモノに追われて、おそらくテリトリーの範囲内の森で、果たしてどこまで逃げ切れるのだろうか。
皆の心が焦る。

人喰い大クマはとにかく食にこだわる変わった嗜好のモンスター。
柔らかい人肉が大好きで、獲物を一度ロックオンしたらそれのみを求めてどこまででも追って行くのだ。

がむしゃらに茂みを抜け、街道へ出る一行。

「!?」

…なんかいる!?…赤色のおっさん!?
こんな時にとてもジャマだ。

「やいやーい!なんだぁさっきの声と光はぁ?
アンタらの悲鳴だったのかいぃ?」

「げははッ!なんとも可愛らしい声を上げてたなぁー!?何から逃げてるって?
俺たちより怖いものかい」

赤色の薄汚れた装備で全身をかためた、妙にゲスい表情のおじさん2人が、レナたちの行く手を阻むように仁王立ちしていた。とても悪そうである。
口を大きく開け、ゲハゲハと笑い声を出している。

「「そんなもの、ないなーい!
俺たちこそはぁ、この辺り一帯を牛耳るぅーーっ!赤好(アカズキ)盗賊団よッ!
おそれおののけ、ひれ伏せ!!」」

▽野生の 盗賊が あらわれた!×2

「スキル[感電]」

「「げああああああっ!?」」

▽野生の 盗賊を たおした!×2

「むごい!」

はやっ。名乗らせてももらえなかったモブ盗賊さんたち、あわれ。
レナが思わず空気を読まない言葉を漏らしてしまっていた。

気を失ったのか、突っ伏して倒れてしまっている盗賊たち。
はいバチバチーっと、軽ーく感電させた先生だが、こんな時に前に立たれたことに相当イラっと来ていたのか、実は感電死一歩手前の強烈な雷を浴びせていた。
制雷マスターは生死の境目となる雷制御もお手のものだ。
そして、今回多めの魔力を込めたことには理由がある。

「よし、オトリにしよう」

こうです。

「むごい…!」

「悪党たちよりも、自分の身が大切でしょう?
彼らの犯罪歴、聞きたい?正直同情の余地ないよ。
……ただ肉がマズそうなんだよねー」

「すみませんでした!
時間かせぎをお願いしましょうっ」

「キレイにまとめたね」

『『確かに、あの人たちマズそーーっ!』』

『…幻覚、かけとく?』

「「ナイスリリー(ちゃん)!」」

リリーが片腕で首にしがみつきながら背後を振り返り、人差し指を盗賊たちに向けた。

『…スキル[幻覚]!』

なんということでしょう。
盗賊たちの姿が、美味しそうな特大骨付き肉に変わってしまった!
魔物好みな生肉仕様なので、血の滴る断面がえぐいえぐい。

「…”人(・)”喰い大クマだって僕言ってたよね!?」

『あっ』

ルーカ先生がらしからぬ荒ぶった声を上げている。だいぶ切羽詰まっている。

そう。せっかく美味しそうにアレンジしてくれたけれど、追ってきているのは人(・)を喰らうのが好きなクマなのだ。
あんな、元が何かも分からない謎肉には食いつかない可能性が高い。
まだ小汚いおっさん姿のままの方が良かったかもしれない…
せめて人型肉だったならと考えるも(いや怖いけど)、リリーのチョイスはまさかの漫画風マンモス肉だった。
こんな街道にぽつんと謎肉、怪しすぎる。

『……えへっ』

忘れてはいけないのだ。照れ笑いしているリリーの初期知力が[4]だと言う事を。

「かわいい!!!」

しかし主人は血の涙を流しながらも従魔を褒めている。いい加減、叱るということを覚えるべきかもしれない。

…ルーカは、ここにきて出来上がっているほのぼのワールドに頭が容量オーバーで真っ白になりかけた。
が、なんとか持ち直してこの先の事を考え始める。
木に登るか?
…いや、あの攻撃力で幹が砕かれる。
どこかに隠れる?
…野生ゆえ鼻はよく効くだろう。確実に見つけられる。
「ああもう。…どうしようねっ」

このまま逃げ続けていても、体力が尽きてそのうち追いつかれてしまうことだろう。
ドタバタ騒がしい音で、王国捜索軍が自分たちの場所に気づく可能性だってあった。

チラリと後ろを振り返ると、クマは案の定、謎肉など気にもかけず一目散に自分たちを追いかけて来ている。

とりあえず、目の前の森へと視線を戻して、大股で思いきり低い石段を駆け上がるルーカ。
レナも、荒く息を吐きながら後になんとか続く。

そうして森の中を十数メートル走った辺りで、ふわっと二人の身体が浮かびあがる。

「「!」」

…周りはデコボコしてはいるものの、どこまでも平坦な森林の地面だ。崖も窪みも見当たらない。
なのにこの浮遊感は何なのか?
そう考えられたのは一瞬だった。
高いところからひたすら落ちるかのような、圧倒的な感覚が思考を停止させていく。

ーーー悲鳴すらもその穴(・)は全て飲みこんで。
入り口は、閉じられた。
あとにのこるのは再び静寂の支配するいつもの森のみ。

人喰い大クマが喉をグルルと不満げに鳴らしながら、彼女らが消えた辺りを、名残惜しげにぐるりぐるりと何度も回っていた。

▽Next!ラビリンス・フォール?

 

 

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