119:説明責任

レナたちの前で強制最敬礼させられたグルニカは腰の骨が? 折れてしまい、立ったまま身体を真半分に折りたたんでいる状態。
みんなが顔を引きつらせたが、それは勢いよく謝罪した(させた)サディス宰相も同じこと。
目元がひくっと小さく動き、眉間のシワが深くなる。
どうやら彼がわざと引き起こした事態ではなさそうだ。

「……大変見苦しいものを見せてしまいました。驚かせてしまった事、さらに重ねてお詫び申し上げます」

謝罪が増えるばかりである。
それもこれもグルニカが問題児だからだ。

「あの、えっと、その、うーん……。グルニカさん、大丈夫なのでしょうか……?」

「全く問題御座いません」

グルニカの頭飾りをぐいっと宰相が持ち上げると、飾りがすっぽ抜けるのではなく、頭そのものがひっ付いてくる。
彼女お気に入りの魔道具の金色カチューシャのトゲが、脳みそに深々と刺さっているのだ。
宰相はグルニカの上半身をしっかり腰の上に据えて、正しいポジションに蜘蛛糸で固定する。

「3秒待って頂けますか」

「あ、はい」

勢いに飲まれたレナがこくこく頷くと、宰相は指を三本立てる。

……グルニカの金色カチューシャが、パリパリと電気を纏い始めた!

「三、二、一」

パン! と宰相が軽めに手を叩くと、白目を剥いていたグルニカがぱちっ! と瞬きした。
眼球がグルリと回転して、元のポジションに戻っている。
オッドアイがレナたちを映す。

美人の残念すぎるホラーな形相にビビっていたレナは、せめて元の顔に戻ってよかった……と安堵した。
常識がだいぶ下方修正されてしまっている。
そのことに気付いて、ハッと気持ちを引き締める。

グルニカがまたにぱっ! と笑って、両腕を広げた!

「ジャジャーーーーーン!!」

▽グルニカは「ドッキリ大成功!」と言いたげなポーズを とった!

こんな猟奇的でグロテスクでちょっぴり地味なマジック(物理)は誰も望んでいなかった。

▽宰相の 蜘蛛糸縛り!
▽グルニカは 動きを封じられた!

殴りかからなかった宰相は褒められていい。
対魔王ドグマで鍛えられた忍耐力の賜物である。

オズワルドが本能で察して、せっかく改善しつつあった父親への尊敬の気持ちを一瞬ブレさせてしまった。
力強い絶対王者の大きな背中を思い出し、なんとか尊敬は保守された。

「…………」

部屋に痛々しい沈黙が満ちる。

「再度謝罪を申し上げます……誠に申し訳御座いません」

「サディス宰相……」

▽宰相は 同情を 集めている!

あのアリスとモスラでさえ、気の毒そうに宰相を見ている。他人に厳しく自分に厳しく身内に甘い、あのアリスとモスラが。相当の事態だ。

「ええと。今日もお疲れ様です。
……お話しすることがあって、訪ねてきて下さったんですよね?
私たち、これから朝食を食べに『ガラパゴスレストラン・デモンズパラダイス』に出かける予定だったんです。
一緒に行きませんか? 大人数が入れる個室もありますし」

レナがそおっと声をかける。
言外に、グルニカの口に食べ物突っ込んで黙らせてる間に話し合いしちゃいましょう、と訴えている。
フォーメーション7だ。

レナの瞳の奥にその打算を見出した宰相が、深く頷いた。

「……。お誘い誠にありがとう御座います。こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。
話の内容を他人に聞かれないよう、この魔道具で防音の結界を張りたいのですが。
よろしいでしょうか?」

宰相はシャツの袖に付いた真珠のカフスボタンを視線で指す。
レナが代表で返事をする。
ゴクリと生唾を飲み込んだ。
……例の金属球について、主人であるレナが上手く説明しなければならないので緊張している。

「大丈夫です」

「感謝申し上げます。それでは、朝食の支払いはこちらが。会食費として計上致しますので、是非提案をお受け頂きたく」

……対応に困ったレナが、チラリと一瞬ルーカを見る。

(大丈夫。これを貸しにして有利に交渉しようという魂胆ではないよ。
言葉通りの意味と、グルニカの粗相への謝罪だね)

「じゃあ……お言葉に甘えて」

モーニングだから安めの料金で収まるし、とレナが同意すると、宰相は心なしかホッとしたように、ほんのわずかに表情筋を緩めた。
最近、鉄面皮と称されるほどずっと使われていなかった表情筋がよく働いている。

「それではグルニカ。その脆くなっている腰の部分を再生させて下さい。
……朝方謝罪に伺うまでに身体のメンテナンスをしておくよう、昨夜申し上げたはずですが」

宰相はドスの効いた声で、グルニカをギラッと目を細めて睨む。
視線を向けられていないレナたちでさえ冷や汗をかいてしまうほどの迫力だ。

「あー。そーだったよねぇ? ごめーんね!
イヤー実はねぇ、昨夜、注文していた骨董品の壺が届いて、いてもたってもいられなくて! その研究にとりかかってたら、メンテナンスのことはすっかり忘れていたんだなー!
複合屍喰鬼(ユニオングール)の崩壊っていう珍しい技にドッキリしてもらって、場が和んだから良かったんじゃない?
ってことで、ごかんベーん!」

▽グルニカの 謝罪(亜種)!

部屋の空気がゴッ!! と冷え込み、極寒地帯になった。
長い舌をチロリと出して自分の頭をコツン☆と叩くある意味破壊力バツグンのグルニカの仕草により、宰相の血管がプツンと切れた音が聞こえたかのようだ……。

「は や く 支 度 を し な さ い」

宰相が無表情で告げる。
後で減給の刑である。

「はぁーーいっと。まだ腰の上に上体を乗っけただけの状態だからねぇ、縫い合わせる必要があるんだよ! お嬢サンたち☆
スキル[縫合]、[肉体調整]〜」

グルニカがスキルを口にして、さあ人体結合マジック始まるよ! と言わんばかりのウインクをすると……宰相が大きなスカーフをどこからともなく一瞬で取り出し、修正中のグルニカの身体が見えないようにスカーフを掲げて隠した。
グルニカへの気遣いではない。
グニョグニョと肉が動く様がかなりグロテスクなので、レナたちへの配慮である。

「ああんっ! アンデッド種族の見せ場がぁ……」

ズチュッ、ぐにゅ、ギュッ……ギュッ……

音はそのままレナたちに届いた。
全員がドン引きして、恍惚の表情で変身するグルニカから視線をそらす。

(ご飯前なのに……)

そこであった。

シヴァガン王国研究部職員、複合屍喰鬼(ユニオングール)グルニカの第一印象は、強烈を極めた強烈! という表現がピッタリだろう。
言葉で表すのが難しいほど、個性的な人物であった。

「はい再生出来上がり! 改めまして挨拶を〜☆ 複合屍喰鬼(ユニオングール)のグルニカでぇーす!
色々と迷惑かけちゃったみたいで本当にごめんなさぁい」

この人物に注目されているレナパーティ……不安しかない。
宰相とロベルトにも手伝ってもらいつつ、頑張って今後の接触をできるだけ回避したいところである。

再びグルニカが「ジャジャーーーーーン!」などとふざけたポーズをとる前に、蜘蛛糸で口元から腰までをグルグル巻きにして、さあ外出の用意はできた。

宰相はアリスへの挨拶が遅れたことを詫びて、一緒にお食事を、と誘う。
アリスもこれを了承した。
もちろん、主人が同意したということは、従魔、執事も一緒という判断である。

みんなでぞろぞろとレストランへ向かった。

***

ガラパゴスレストラン・デモンズパラダイス。

入り口扉を開けると、ふわっとスパイスのいい香りが鼻に入ってきて、客の食欲を刺激する。
辛いスパイス料理から、あっさりした軽食、肉に魚に野菜に、甘ぁいスイーツまで、なんでもござれ!
様々な料理が揃うガラパゴス系統の料理店の中でも、特に評判のいいこの店は、実は魔王国政府の料理管理部のトップ・悪魔(デーモン)ニスロクが監修して作られた店なのだとか。
厨房で働くのは、ニスロクに憧れて就職した悪魔族たちが多い。

個室ではなく共同空間に置かれたテーブルからは、オープンキッチンで料理人たちがテキパキと手際よく料理を作っていく過程を楽しむことができる。
大鍋を軽快に振ってみせたり、焼いているステーキにお酒を注いで燃え上がるフランベの炎を見せたりと、パフォーマンスに余念がない。

店内の構造は、中央の共同空間に大きめのテーブルが30ほど並べられており、その向こうにキッチンが設置されている。
両サイドの壁が扉の形に複数くり抜かれて、カーテンがかけられており、その奥が個室だ。
カーテン程度の仕切りとはいえ、他の客が視界に入らないので、落ち着いて食事することができる。
ベルを鳴らせば、ウエイターかウエイトレスが注文を聞きに来てくれるところはまさにファミレス。
レナがちょっぴり懐かしさを感じていた。

個室に入る前に、レナはいつも厨房を興味深そうに眺めていたので、気を利かせたスマホが、今日も分身体を飛ばしてバッチリ撮影しておく。
あとでレナに披露して、喜んでもらうのだろう。

「いらっしゃいませ! ……!?」

ウエイトレスが元気よく振り返って挨拶したあと、入り口に立っているのが”あの”サディス宰相だと気付いて驚愕の表情になる。
デモンズパラダイスでの恒例となっている政府官僚たちの飲み会にも、サディス宰相が参加したことは未だかつてなかったというのに。
なぜいきなり!? と軽いパニックに陥った。

店舗経営の不正などには心当たりがなく、後ろ暗いところはないつもりだが、「もしや宰相直々に監査に当たるほどの事態が!?」「なにか見落としていたか!?」と他の従業員の脳内も阿鼻叫喚の地獄絵図である。

悪どい不正などが疑われる場合、サディス宰相が直接店舗に訪れて監査をする場合がある……と、商人の間で怪談のように語られているのだ。
どのような小さな違和感でも見逃さず、瞬く間に真実を暴くスーパー監査! と、実は恐れられている。

厨房の料理人たちもウッカリ火傷したり、機材の角で小指をぶつけたりと焦っていたが、料理を台無しにするほどのミスは犯さなかったので、さすが有名レストランのプロだと言えよう。
サディス宰相は小さな朱蜘蛛経由でそれを観察していて、デモンズレストランの評価を上げた。
抜け目がない。

「本日はご来店頂き、誠にありがとうございます! 何名様でしょうか?」

なんとか持ち直したウエイトレスが、営業用の笑顔を死守する。

「ただ食事をしに訪れただけなので、他のお客様と同じように接客して頂いて構いません。
人数は大人が5名、子どもが7名です。個室の使用を希望します」

「わ、分かりました!」

かしこまりました、と硬い挨拶はしなかった。よい対応だ。
この臨機応変な対応は、あとでニスロクに「デモンズレストランの接客が良い」と報告されて、レストランとニスロク双方に喜ばれる。

従業員一同はひとまずホッと胸を撫で下ろして、団体を個室に案内した。
ぞろぞろと後ろから現れたレナたちには驚いていたが、入店した時の従魔たちの可愛らしい挨拶に和んだようだ。
ようやく、笑顔が柔らかくなった。

そして、蜘蛛糸でグルグル巻きにされて歩くグルニカを確認したウエイトレスは「ぎゃあ!」と内心で叫ぶ。

たまーに訪れるグルニカは、たくさん注文して完食してくれるものの、酔っ払って好奇心を抑えられずに皿を[溶解]して研究を始めたり、食べ方が解剖に似ていたり(一人客として訪れて共同空間のテーブルで奇妙な食べ方を披露するので、苦情が入る)、マイペースな食事が10時間にも及んだり……と、なかなか厄介なお客なのだ。
そのうえ食事代金はツケにしようとする(お断りしている)。

「あはっ! こんな格好で照れちゃう」とグルニカに照れ笑いされたウエイトレスは、「必要最低限の接客をきちんとして深入りは避けよう。あの魔物使いの女の子の人脈、どうなってるのかしら……?」と、今日の仕事の方針を決めた。

全員が席に着き、それぞれのモーニングメニューを注文する。
ウエイトレスが立ち去ると、

「『サウンドカットカフス』発動」

宰相が魔道具のカフスを発動させた。
結界がうっすらと個室を覆い、音声を遮断する。
この結界は堅牢なものではなく、空間内の音をさりげなく漏らさないことを目的に作られていて、誰でも違和感を感じることなく結界を通り抜けられる。

宰相が何を話すのだろう! と野次馬根性をみせてコッソリ耳を澄ませていた獣人たちは、声がまるで聞こえないので、カーテンの向こうの席でガックリと肩を落としていた。

「料理が来る前に、本日の訪問理由を先に申し上げます。
ドワーフ鍛治工房イーベルアーニャで、こちらのグルニカが手違いで販売してしまった金属球に藤堂レナ様が攻撃されたと伺っております。
その件への深い謝罪と、『購入された金属球の買い戻しについて』……相談に参りました」

「ぐぼっ!」

サディス宰相がバッサリ単刀直入に発言して、不意打ちをうけたレナが、口にしていた水を吐き出すまいとしてむせた。
この申し出は超想定内(・・・・)だったが、タイミングが悪かった。
サディス宰相が話し始めた時点で、レナの喉がカラカラに喉が渇きを訴えたので、水を飲み始めてしまったゆえの自爆である。

▽レナは 同情心を 集めている!

常にほんのりと効果を発揮する[トラブル体質]の称号がレナのドジっ子に磨きをかけていた。

「す、すみません。ごほっ。えっと。あの金属球の攻撃のこと、鍛治工房の皆さんから報告があったんですか?」

「ハンカチをどうぞ。……その役割は従者に任せた方が良さそうですね。失礼いたしました」

その通り、主人に尽くすのが執事の楽しみ……いや仕事である。

「ええ、仰(おっしゃ)った通りです。
昨夜、事業主のドミニク・ドゥーチが鍛冶屋街の王国政府相談窓口を訪れて、報告をしていきました。
その知らせが早急に王宮に届き、私が本日、藤堂レナ様たちの元に伺うことを決めました」

「……それだけ急いでいらっしゃったことに、驚いてます。事態を重視したって事ですよね?」

レナが困惑した表情で対応する。頑張って演技している。
事情はとっくに知っている。

グルニカの方は見ないように気をつけている。
高速で頷いてみせたり、指パッチンして「せいかーい!」と表してみたり、やりたい放題なのだ。今にも笑ってしまいそう!

なお、ルーカは出かける前にトイレの中で[サンクチュアリ]を展開して、称号[笑い上戸]をセット、集中的に爆笑して、そのあとはスッ……と笑いの衝動を鎮めることに成功していた。
この称号は、大笑いした分だけ、しばらくは笑えなくなる。
笑い対策をしていなかったら、現在はおそらく笑いを無理やり堪えて口の中が血みどろだっただろう。
ナイス判断!

「実は、とんでもない事態が発生しています」

宰相が重く告げる。
どんな事態か、すごくよく知ってる!!!!

「詳細は食事が届いてからにしましょう。誰かの耳に入ってしまうと大変宜しくない」

(そうでしょうね!)

「アリス・スチュアート様が同行して下さって助かりました。購入の件についても相談させて頂きたかったので」

「あ。あの金属球はレナお姉ちゃんに売り渡してしまいました。
彼女にピッタリの品だと、私のバイヤーとしての思考が訴えていましたので!」

(うわこっち来た!?)

()はレナの心の声。
宰相の視線が、アリスからレナにバッ! と移り、レナが思わずバッ! と反対方向を向いてしまった。
しまったウッカリ!

ルーカとたまたま目が合う。

(首輪の魔力に干渉してレナと[感覚共有]しておこうか?
今の僕はすごく冷静な状態だから、その影響を受ける。
宰相にいちいちビビることもなくなるはずだよ。
ある程度思考も共有できるから、この後の説明がし易くなるって利点もある)

(助かりますー……!)

[感覚共有]が器用に無言で行われると……レナの焦りがすうっと収まって、視界がクリアになり、背筋がピンと伸びた。

「すみません、ウチの子が可愛すぎて取り乱しました」と、横を向いた時にたまたま目に入ったリリーを指して、レナが取り繕う。
リリーが『きゃっ♡』と頬を手で押さえた。

(……あ。みんなの感情がうっすらと視えてる。
ルーカさんの魔眼の能力がほんの少し私にも影響を与えてるんだろうけど、それだけでこんなに視えるなんて、すごいなぁ。
グルニカさん……うわぁ、すっごく楽しそうに私たちを観察してる。……悪意は感じられないから、本当に研究者的な興味の対象なんだね。
サディス宰相さんが、ひ、疲労している……顔に出ないだけで疲れてたんだ。
これだけ自由な部下のフォローは大変なはずだよね……)

レナが急に冷静になったことで、宰相とグルニカは「もしや、噂の女王様スタイルになった?」と勘違いしていた。
なんだか運が悪いレナである。

……ホカホカと湯気を立てた、レストラン自慢の料理が運ばれてきた!

宰相は主食と副菜のバランスがいいモーニングプレート、グルニカは激辛と甘味のダブルパンチ! ハバネロソースとハチミツがかかったホットケーキ。
ちなみにクーイズもグルニカと同じメニューである。

みんながウキウキと飲み物を手に取り、ささやかに乾杯する。

従魔たちがヒト型になった。
グルニカが関心を抱いた気配をレナは視界で察したが、これからは可愛い服でおめかしさせて魔王国を観光するつもりなので、美幼児姿も、いずれはグルニカの知るところとなっただろう。
それならば、宰相が一緒の時に変身姿を見せておいた方が安心である。

「わ! みぃんなかーわいいねぇ! レア種族の魔物ってヒト型になると必ず美形なんだよねー。
レア種って、魔物の時に、その種族系統にとっての至高の美形なんだよ。
ゴーレムならボディが硬くて大きかったり、獣人なら毛並みが良かったり、ドラゴンなら立派な翼と輝く鱗を持っていたり、ね」

グルニカがご機嫌でウンチクを垂れる。

興味深い話だったので、レナたちは耳を傾けながら、朝食を楽しんだ。
グロテスクな話に移りかけたら、宰相が巧みに軌道修正する。

食事が終わり、みんながのんびりと飲み物を口にし始めたところで、ようやく再び本題に入った。
お腹が満たされて、先ほどよりも和やかな雰囲気で話し合いが始まる。

「金属球に攻撃されたものの、私は結果的に怪我を負いませんでしたし、ドワーフの皆さんにしっかりと謝罪して頂いたので、もうお二人に謝って頂かなくて大丈夫です。
どうか頭を上げてください。
あの……グルニカさんの折れた首……いったん蜘蛛糸で支えてもらえますか? 見慣れないので気になっちゃって……。
あ、縫合は後ほど行ってもらえると助かります……」

「承知致しました」

再びの謝罪でぽっきんしたグルニカの首を、宰相が朱色の蜘蛛糸で引き上げて固定した。
しばらくこのままで話がすすむだろう。

謝罪を受け入れて下さった上にお気遣いまでありがとう御座います、と宰相が口にする。
グルニカも眉尻を下げて「危ない目に合わせちゃって悪かったよー」と彼女にしてはよく出来た謝罪を告げた。

「あの修復作業を発注していた金属球ですが……実は販売するつもりはなかった物でした。
それ以前に、鍛治工房に持ち込まれてはならない重要な物だったのです」

宰相の重い声が、ゆ っ く り と個室に響く。

レナパーティの面々の顔が驚愕に染まり、ピシャァァーーーン!! と稲妻が走り抜ける!(イメージ)
目が見開かれて、顔色が瞬く間に白くなっていく!
まるで漫画のような大胆な超絶演技!

「まず、一連の流れを聞いて頂けますか。
あの金属球はグルニカの研究対象である骨董品では御座いません。王宮の宝物庫に収められていた重要文化財です」

ピシャァァァアン!!

な、なんだってーーー!?
知ってるーーーーーー!

「それがなぜ、鍛治工房イーベルアーニャに持ち込まれたのか。
グルニカが好奇心を抑えられず、宝物庫に不法侵入、金属球を修復依頼に出してしまった……という、言わば国の職員の醜聞です。誠に申し訳御座いません」

知ってるーーーーーー!

「彼女は修復作業が終われば、金属球を王宮に戻すつもりだったそうです。……しかし、返還要請をウ ッ カ リ 忘 れ て しまったそうで」

「あっはっはっは、アタシねぇー、脳みそ腐ってるからー! なんでもすぐ忘れちゃうの。なーんて。
アンデッドジョーくぉぉんっ!? …………」

▽グルニカが 白目を剥いて黙った!

精度を増したレナの目には視えていた。
一瞬朱色が視界の端をかすめて……蜘蛛糸が、おそらくグルニカの喉をスッパリと横一文字に切断しているであろう衝撃の場面が。
それで強制気絶させたのだろう。

おっと。
な、なんだってーーーー!?
そんなしょうもない理由で金属球が幸運にもレナの手中にーーーー!?
運命的ーーーーー!
もう手放す事なんてできないーーー!

「……金属球の返還を我々が求める理由は、申し上げた通りです。
こちらの都合を皆様に押し付けることになってしまい、誠に申し訳御座いませんが、国の一大事です。
どうか前向きにご検討頂きたく。
迷惑料も含めた金銭保証を、私サディス・シュレイゼが約束致します」

宰相がじっ……と真剣にレナを見る。

レナが一呼吸おいて、口を開く。

「返還には応じられません……。ごめんなさい」

「……アリス・スチュアート様は、もしまた金属球が暴れても自己責任だという書類まで残されたそうですね。
そこまで欲した金属球を藤堂レナ様に早急に売却し、王国政府からの返還要請にも応じられないと仰るのは、事情があるのでは? ……。
お聞かせ願えますか」

「はい。今度は私の話を聞いて下さい」

レストランの個室に、今度は偽りのない二人分の衝撃が走った。

 

 

 

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