115:朝練

朝の爽やかな空気の中、レナパーティは早起きして自然訓練場を訪れていた。
夜行性の魔人族が利用することもあるので、この施設は24時間営業なのだ。
みずみずしい芝生に立ち、モスラが一礼する。

「訓練相手の申し出、誠にありがとうございます。では、よろしくお願い致します。皆様」

モスラの朝のトレーニングに、従魔たちが付き合うと言ったのだ。
全員ヒト型。
スキルの使用は武技のみ可能という縛り。
ヒト型で動く練習にちょうど良い、と全員の意見が合致した。
蹴り技を放ってモスラを驚かせちゃおう! と、リリーとシュシュはわくわく屈伸している。

幼い従魔たちはワンピース姿、ルーカはシャツにズボンの軽装。
モスラは執事服で訓練するよう。

「なぁ。モスラは動きやすい服装にならないのか?」

オズワルドが尋ねる。
積極的に強くなる気はない! と宣言したばかりなので、今回は見学だ。
大岩にちょこんと座るレナとアリスから少しだけ距離をとって、地面に座っている。

モスラが振り返ると、ビクリと耳先を折った。
微笑んでいても、紅目は絶対零度で「怠惰な者は好みませんよ」と言外(げんがい)に訴えている。
「まあまあ」と、レナが苦笑してモスラを宥める。

「スキル[従順]。みんな仲良くね? それぞれのペースがあるんだから。
オズくんもそのうち、自分らしい道を見つけたら積極的に行動できるようになるよ」

「失礼致しました。大人げなかったですね」

モスラがにこりと取り繕う。
見た目は青年だが、まだ生後2年ほどの蝶々なのだが。
オズワルドは気まずそうに頬をかいて、体育座りした膝に顎を埋めた。
モスラが先ほどの質問に丁寧に答える。

「私がこの姿で戦うのは、主にアリス様の護衛のためになるでしょう。
その時は執事服を着ていますので、いざという時にイメージ通りのパフォーマンスができるよう、制服で訓練しているのです。
汚れ防止の魔法付与、伸縮性も優れていて、生地とデザインは一級品。
アリス様が、顧客の方に依頼してわざわざオーダーメイドして下さいました」

モスラは嬉しそうに語り、アリスも得意げだ。
スチュアート組も、良い主従関係を築いている。

「さすがに汗をかくほど動いたら着替えますけれどね。
さあ、皆様はどれくらい楽しませて下さるでしょうか?」

モスラがちょっとイジワルに従魔たちを挑発した。
なにをーー!? と、先輩たちがトタトタ地団駄を踏む。
お互い、ニヤリ! と笑う。

「「へへーーん! 見とけよモスラー、我らが機動力を! 駆逐してやるぅ!」」

「今日ばかりは……本気で、攻撃しちゃうんだから。私と」

「シュシュの!」

「「蹴りはすごいよっ!」」

「ふあー……つられて手を挙げたけどー、早起きしたからもう眠いー……。めぇめぇ……ボク、誰かがガチンコしそうになったら盾の役してもいいよー。[鈍感]と[頑丈]で痛みは相当軽減されるしー。
そのあとレナ様に回復魔法かけてもらってー、寝ててもいーい?」

「今から寝ておいでハマル。別に強制参加じゃないから。
子ども姿の貴方が殴られてるところなんて見たらレナが発狂する」

「そーだねー。じゃー、あとはまかせたぞ、後輩ルーカよー。ボクの分まで頑張ってねー……」

「ハマル、後で個人メニューで走り込みはあるから。
ヒト型の時の動きがけっこう鈍いから、そこは鍛えます。よろしく」

「えーー!? わーーん! レナ様ぁー、鬼教官が虐めるぅー」

ハマルがレナの元にすっ飛んでいった。
泣き真似をしてプニプニほっぺを擦り付ける先が、足元なのが色々アウトである。
オズワルドがドン引きしている。

「いいえ調教師です。うん。この速度を常時出せるなら、ハマルもかなり危なげなくヒト型で戦えると思うんだけどなぁ……いつもは、[駆け足]スキルを使ってもちょっと走り方がたどたどしいし。
よし、このレナ式訓練方法を何度も繰り返すか……」

「ぷっ、鬼教官ですか。なかなかふさわしい称号なのでは?」

「いいえ猫ですので」

ルーカがケロリと答えると、ややこしいー! と先輩たちからヤジが飛んだ。
さあ、それでは、ヒト型での訓練を始めるとしよう。

「よぉーーい、はじめっ!」

号令をかけるのは、もちろん我らがレナ様。
勝手に名付けの被害にあった件は、ネコミミ調教師を叱っておいた。

▽モスラVSレア従魔たち、戦闘開始!

「「囲め!」」

クレハ、イズミ、リリー、シュシュが四方向からモスラに向かう! 猛ダッシュ!
ルーカは後に続いて、様子見しつつ攻撃するつもりのよう。
尻尾がゆらりと揺れている。

「多人数を相手に訓練をする機会はなかなかありませんから、貴重な経験になりますね」

モスラが身体を適度にリラックスさせたまま、片足を半歩後ろに引いた。
まずは先制攻撃を受けよう、という姿勢だ。

「普段はパトリシアとゴルダロさんのペア、もしくは魔物姿でシャボンドラゴンのウルルと戦っていますから」

「ずいぶん、余裕ねっ? スキル[軽業]、[飛び蹴り]っ!」

「うっりゃぁぁ! [逃げ足]からの〜[スピンキック]!」

▽漢女(オトメ)たちの 先制攻撃!

「「おりゃあーー!」」

リリーは高く飛びモスラのこめかみに、シュシュは脇腹に狙いを定めた!

「それっ」

「「ひゃっ!?」」

「失礼致しました」

モスラは二人の足首を掴むと、蹴りの進行方向にひょいっと少しだけ力を入れて投げた。
アザができないようソフトタッチ。まだまだ余裕である。

リリーとシュシュはくるりと前転して体勢を立て直すと、キッとモスラを鋭い目で見る。
あまりにあっけなく受け流されたので、「いぃ〜〜っ!」と悔しげに唇を噛み締めている。
女子力(純粋)が泣いている。

「「仇うちィ!」」

わずかなタイムラグがあり、クーイズが滑り込んできた!

▽クレハとイズミの スライディングキック!
▽モスラは ステップでかわした!

「「うぬぬぅぅ〜〜ッ!!」」

クーイズがなんとかモスラを捕らえてやろうと、足元中心に抱きつき攻撃を仕掛けるが、ヒラリヒラリと恐るべきバランス感覚でかわされてしまう。
触手は今回はルール違反なので、ヒト型の身体能力で動きを止めなければならない。

「「加勢する!」」

「「おう!」」

「おや? 4人一度はなかなか……」

いっせいに幼い従魔たちが飛びかかろうとする!

「厳しそうです。スキル[ハイステップ]!」

モスラがほぼ直立のまま、脚にぐっと力を込めて、高く飛び上がり後ろ宙返り!
パトリシアたちとの組手で、ヒト型の時に使用するスキルも覚えていたようだ。

四人がハッとモスラを見上げる。
……いや、視線はその少し後ろに向けられていた。

「スキル[瞬発]」

▽ルーカの 飛び蹴り!
▽モスラは 身体をひねって かわした!

「ちぇっ。後ろにも目があるのかな?」

「貴方はのんびり走ってきていたので、先輩方が攻撃している最中の隙をついてくると読みました」

モスラは無茶な体勢から、片腕を地面について、しっかりと着地して見せた。

「まあ、そう考えるよね。それでも空中で避けれたのはすごいよ。けっこう本気で蹴りを放ったのに」

「ありがとうございます。貴方は殺気立たないので気配が本当に読みづらい。勘に頼りました」

いざ戦闘となれば鬼神の如きオーラを纏うパトリシアと、一応冷静なルーカは対照的である。

「なるほど。思考せず身体の経験にまかせたから、どう反応するか読み辛かったのか」

「貴方の[魔眼]厄介ですねぇ。私は戦法を考えることもできない」

それぞれ気ままに会話しながらも、モスラとルーカは、蹴りと拳が次々繰り出される本気の組手を行っている。
[アイアンボディ]を持つモスラ、獣人度が上がって動きが向上しているルーカ、お互いに実力があるので、どんどんと容赦がなくなっている。

モスラが上半身をブレさせずに足の動きのみで鋭く蹴りを放つと、ルーカはネコらしく軽やかに跳躍。
執事の長い足が風をきる音がビュオンッとえげつない。

モスラの拳を、手首を掴んでひねり受け流したルーカが、足払いをしかける。
ガッ! と鈍い音と共に足首に蹴りが入ったが、モスラは微動だにしない。

「ガードが堅い!」

「日々鍛錬に励んでおりますので」

「いや。それもあるけど、パトリシアの作る花のビルドアップハニーの影響が大きいよね」

「目潰ししてもいいですか?」

「レナからの好感度下がっても知らないよ?」

「「いやらしい」」

言っておくが、ただの言葉遊びである。
ただ毒が強すぎるので、とてもじゃないが、横入りしづらい状況だ。

「ねぇー……どうするぅ?」

「二人とも楽しそうなんだけどぉ、手持ち無沙汰ー」

幼い従魔たちが困ったように話し合う。
さすがに今の二人にちょっかいをかけるのは危ないと判断した。

遠方で、ハマルは眠っているが、オズワルドは瞬きも忘れて戦闘に見入っている。
レナとアリスが苦笑している。

「もー、お兄さんたちは我を忘れすぎだねぇ。お互い、珍しく全力が出せるから嬉しいんだろうけど。レナお姉ちゃん」

「そうだね。スキル[伝令]。クレハ、イズミ、リリーちゃん、シュシュ!
しばらく戦闘が落ち着くまで、待つのも手だよ。
傍観者になって両者の自滅を待つ、もしくは疲労したところに乱入して攻撃する。
どちらもリスクが少なく勝つことができるから、テクニックとして覚えておいて。
今は仲間同士の訓練だから、近くで見て手足の動かし方をよく観察しておくのがオススメ」

「そっちなんだ。お兄さんたちに注意するのかと思ったんだけど……レナお姉ちゃんらしいや。
それが一番効率がいいもんね」

「アリスちゃんに褒められると照れるなぁ」

レナが嬉しそうに告げると、オズワルドが目線を前に据えたまま、レナに質問する。

「主さんは、すごく的確に最良の戦法を組むよな。感心させられる……」

「そ、そんなオズくんまで。どうしたの、褒められるとご主人様すごく嬉しいよ! えへへへへへへ」

「主さん自身の身体能力はそうでもないから、戦闘経験が豊富なわけではないんだろ? いつもどうやって考えてるんだ?」

「ふぐうっ……!」

見事な上げて落とす話法であった。
オズワルドのうっかりさんめ。
レナが落ち込みながらも、空中で撮影中だったスマホをつかんだ。

<いやん♡>

「えーとね。例えば、これ。このアニメは毎回怪人が町を荒らして、ヒーローたちがそれを倒すストーリーなの。
その時に格闘技を使ったりするし、ナレーションで戦法も解説もされるんだよ。
私がいろいろ思いつくのは、そーゆー視聴の積み重ねが大きいんじゃないかなぁ」

<アニメの力は偉大なので御座います!>

深夜アニメでも規制もののグロイ作戦を多数思いつくあたり、レナ本人の素質も十分にあるだろう。

「へぇ。あとで見せてくれる?」

<きゃーーっ! オズワルドさんのえっちーー!>

「いいよ。じゃ、今夜の鑑賞会はそれにしよう」

「主さんが見てたのってどういうの?」

「えーとね。お気に入りは………………うん。魔法少女もの全般かな」

レナは冷や汗を流しながら、最新の魔法少女アニメのOPをオズワルドに見せた。
オズワルドはチラリと横目でスマホ画面を見て、目を見開く。

「!? こんな派手な祭り衣装の女の子が、巨大な魔物をただの格闘技で倒すのか!?
……なんだ、リリーとシュシュか。現実的だな」

「あれっ、そうだね。実は魔法少女はノンフィクションだった……? まあ、ここラナシュだし」

「まあ主さんの従魔だしな」

「レナ女王様〜。くすっ」

「女王様ッ!?」

アリスが乗っかってきて、ハマルが女王様の単語を拾いガバッと覚醒した。

「みんなぁ……私をオチにしすぎ」

レナがアリスとオズワルドの頭に手を置いてぐりぐりと強めに撫でてやり、脚にしがみついていたハマルを膝でうりうりと構ってやる。
アリスがおかしそうに笑い、オズワルドが慌てて、ハマルがとろけた。
反応は三者三様だ。

<……ぐすん……ボケをスルーされてさらには蚊帳の外、悲しい……。
ハヤク魔人族ニナリターイ!
マスター・レナ、あとでミニゲームのプレイを要求致します。存分に画面をタップして下さいませ!>

「ス、スコア更新を狙うね。ごめん。たくさん連鎖起こすから……」

<わぁぁい!>

スマホの画面にニッコリ顔文字が現れて、シャランラランと効果音が鳴った。
誰も彼もちょろい。馴れ合い上等のレナパーティだからだ。

そうこうしていると、拮抗していた戦況がついに動いた。

▽ルーカの 薙ぎ払い!

自分に有利な距離を保つため、ルーカが後退しながら、モスラの追撃を牽制するように腕を真横に払った。

「!!」

▽モスラの手の甲に ルーカの指先がヒット!

モスラの白い手袋が切り裂かれ、じんわりと血が滲んでいる。
紅色の目が驚きで見開かれている。

ルーカはにんまりといやらしく笑った。

「予想外だったみたいだね?」

ルーカの両手の爪が鋭く伸びて、片手の爪先にはモスラの血が付着していた。
獣の割合が増えて、身体能力も向上したため、モスラは動きを測りきれなかったのだろう。
悔しげに、ピクリと眉を上げる。

ーーここが、隙!

「[覇]ぁッッ!!」

▽シュシュの [衝撃覇]!

モスラの視界の外で、シュシュは[|暗躍(あんやく)]スキルを使い、じっと気配を消してタイミングを測っていたのだ。

さすがのモスラもこの不意打ちはかわしきれず、背中にスピンキック一撃ぶんの衝撃を受けて、バランスを崩してしま……わない。

スキルを使ったとはいえ幼児の全力蹴り程度では、鋼の肉体を持つ執事はビクともしなかった。
全ては筋肉のなせる技である。
しかし注意力は拡散してしまう。

おまけに、正面からまたルーカが仕掛けてくる!

「「うぉら! 両脚頂きぃーー!」」

「くっ!」

▽クーイズが モスラの足元に へばり付いた!
▽モスラは 動けない!

さすがに子ども姿の先輩を足蹴になどできない。
レナ様とは違うのである。

「スキル[軽業]」

リリーが翅のように軽やかに、高くジャンプした。
モスラの首元にがしっ! としがみつく。

「スキル[吸血]ぅぅ!」

「それは……!? 武技に、該当するのでしょうか……」

ルーカが正面から、モスラの頭にポンと手を置いた。
ばしっと払われた。

「許可した覚えはありません」

「この主人至上主義。はい、終わり。今回はもうモスラの負け、だね?」

「……そのようですね……この状態になれば、もう動けませんから。降参です」

「「へへーーん! やったぜ!」」

コアラのように脚に絡みついているクーイズが、得意げににししっと笑う。

前にルーカ後ろにシュシュ、両脚にクーイズ、背中には今だに[吸血]に夢中なリリー。
まるで幼児用ジャングルジムとなったモスラは、苦笑すると、ふう、とじんわり汗をかいた髪を耳にかけた。
激しく動いたので、髪のセットが乱れている。

「こんなに特殊な動きをする相手が数名だと、さすがに立ち回りきれませんでした。
まだまだですね。
ルーカティアス、貴方の戦い方はなかなか見事でしたよ。
その動きは……故郷で?」

聞くのは悪いなと思いながらも、モスラは自分の技術向上のために、申し訳なさそうにルーカに質問した。
ルーカは涼しげな表情で返す。

「それはどうも。この投げ技中心の戦い方はスマホのアニメで学習したんだよ。魔法少女じゃないから、さすがにビームは出せないけど」

「性別の壁は厚いですね。教えて下さったお礼に、今回は貴方の冗談に付き合って差し上げます。ビーム取得、頑張って下さいませ。
……リリー先輩……あの、そろそろよろしいでしょうか?」

「んぐ?」

モスラの顔色がだんだんと白っぽくなってきている。これはいけない。
ルーカが医師的判断で、リリーにストップを告げた。

「ぷはっ! ……モスラの血、あまーくて、美味しかったの! ご主人さまの極上の血液には、敵わないけどねっ」

「普段の食生活の影響だね。モスラは甘いものが好きで、蜜をよく摂取しているから。
これは蝶種の性質だし、ヒト型の血が甘くなってても健康に害はないよ。安心して[吸血]されるといい。また今度ね」

リリーが嬉しそうに「はーい!」と返事をする。

「リリー先輩が望むなら、まあ……提供いたしましょう。しかし結構痛いものですね……」

「ヒト型の時はリリーの牙も太くなってるから。
[吸血]スキルに痛みを緩和させる効果なんてないし。
レナが血を吸われる時はリリーが妖精型か蝶型だから、モスラが一番痛い思いをしたんじゃない?」

「敗者の宿命です。この痛みを忘れず、今後も精進致します」

モスラは赤い噛み跡がふたつ残る首筋に手を当てて、手袋に血を吸わせる。
どうやら、血も汚れの範囲にカウントされるらしい。
いっそう気を引き締めなければ、とポツリと呟いて、ふぅーーと細く長く息を吐いた。

「とても有意義な時間でした。鍛錬にご協力頂き、ありがとうございました」

そしてにっこりと微笑む。スッキリした表情なので、心からこの戦闘を楽しんでいたのだろう。

「「「「また負かしてあげるから!」」」」

先輩たちはニッと笑って挑発。

「いいえ。次こそは私が勝ちますよ」

モスラがクスクス笑いながら帰すと、生意気なーと先輩たちからポカポカ叩かれる。
そして幼児たちは「手、レナに治療してもらおーよ!」とモスラの手を引いて歩く。

「……あれ!? 手袋が破れてない!」

「確かに、裂けて、たよね……?」

「「なんでー!? 直ってるー!」」

「……ああ。この手袋も魔道具ですから。リジェネレーション・グローブといいます」

モスラがアリスの方を見ると、にこりと微笑まれる。

「リジェネレーション・グローブ。モスラの手に合わせてオーダーメイドした特注品。
銀毛狐(ギンギツネ)の毛から作られた生地に、ホウオウの尾羽が少量だけ編み込まれているの。
完全に焼けて繊維の全てが消滅しなければ、何度でも手袋は復活するんだ」

「ひえっ! すごーい……!」

レナがぽかんと口を開けて、モスラの手袋を見た。
銀毛狐(ギンギツネ)は柔らかい白銀の毛を持つキツネ。
銀毛羊(シルバーシープ)と同等のレア度らしい。

レナはハッとして、治療を始めなきゃ! とモスラに声をかける。

「手袋を外してもいい? あ、傷にこすれないかなぁ……」

「多少の痛みくらい平気ですよ」

「そんなこと言わないの。大事なうちの子なんだからね」

「そうそう」

手を煩わせるわけには、とモスラが自分で手袋を外すと、皮膚は浅く切り裂かれていて、重症ではなさそうだ、とレナとアリスはホッとした。
ルーカはきちんと手加減したようだ。

「ルーカさん。武技で戦うから多少の怪我は仕方ないって言ったけど、さすがにネコの爪でのひっかき攻撃は驚きましたよ?」

「ごめん。熱中して、つい一撃入れたくなっちゃったんだ」

ちくりと叱られる。
しかしモスラも「獣人と対戦する時のいい参考になりました」と言っているので、これでお小言は終わりにする。
男友達のじゃれあいってこんな感じなのかなぁ、とレナは苦笑いした。

「スキル[従魔回復]」

レナがスキルを発動すると、モスラの手のひらに淡い緑の光が集まって、傷を癒していく。
緑魔法[ヒール]よりも、[従魔回復]スキルの方が魔力のコスパがいい。
モスラは心地よさそうに瞳を細めている。

「ありがとうございます」

「うん! 綺麗に治ってよかった。痛みももうないみたいだね。首筋のけっこうグロかった吸い後もきちんと治ってる」

「てへ」

リリーが可愛らしくごまかした。
ルーカの切り傷よりもこちらの方が傷口がえぐかったかもしれない。

「モスラのステータスを確認しておこうか」

レナがギルドカードを取り出して、モスラの項目をタップした。

「名前:モスラ
種族:ギガントバタフライ♂、LV.25
適性:緑魔法[風]

体力:42(+6)
知力:33(+1)
素早さ:45(+4)
魔力:30(+2)
運:22(+2)

スキル:[吹き飛ばし]、[威圧]、[風斬]、[旋風つむじかぜ]、[風避け]、[|風斬翅(カザキリバネ)]、[アイアンボディ]、[ハイステップ]、[話術]、[体幹強化]
ギフト:[大空の愛子]☆5
称号:魔人族、カリスマ、クラーケンキラー、努力家」

ーーー
[ハイステップ]……ステップスキルの上位。足首の動きが柔軟になり、軽やかで無理のない、優雅なステップを踏むことができる

[話術]……パッシブスキル。言葉を噛まず、スムーズに話すことができる。自分の考えを相手に伝えようとする時、頭がクリアになり、思考速度が上昇する。

[体幹強化]……パッシブスキル。身体の筋肉が鍛えられやすい。バランス感覚が向上し、攻撃を受けてもふらつきにくくなる。

・努力家……日々、自分の目標に向かって鍛錬している者に贈られる称号。努力した物事がスキル取得に結びつきやすい。
ーーーー

モスラは日々忙しく過ごしているため、魔物を倒すなどの効率のいい経験値取得ができず、レベルアップは+5に留まっている。

しかしレベルが上がるまでの間にしっかりと鍛錬しているため、ステータス数値が大きめに上昇していた。
スキルは短期間で3つも取得している。
努力家という称号がそれを可能にしたのだろう。

[ハイステップ]でバク宙が出来たのは筋肉と合わせた力技であった。

いつも頑張っててえらいね、とレナがモスラの髪を撫でてあげた。
汗をかいたので……と一度遠慮されたのだが、レナはもうとっくに、砂まみれの幼児たちに群がられている。
冒険者なんだからそれくらい気にしないよー! と笑って言われたので、モスラもおずおずとではあるが、おとなしく頭を差し出した。
あたたかい触れ合いによって、従魔の一員であるモスラの成長率は、さらに上昇していく。

しばらくみんなで休んでから、少しだけ走り込みなどをしたあと、レナが立ち上がる。

「じゃあ、お宿♡でみんなでシャワーを浴びてから、今日は朝食を食べに行こっかぁ。
いろんなカフェでモーニングサービスをしてるらしいから! 楽しみだね〜」

「「ねーー! どんなメニューがあるかな〜♪」」

「パンケーキに、甘〜い蜜をたっぷりのが、食べたい……ウフフ……」

「リリー先輩とは蝶同士、趣向が合いますね。私も同じものが食べたい気分です」

「モスラは毎日それじゃない? あはは、本当に蜜が好きだねぇ! …………私は、ヘルシーメニューにしようかな」

「シュシュはね、山盛り野菜サラダがあると嬉しい!」

「ボクはー、うーん……シリアルの気分かな〜。ドライフルーツがいっぱいのがいいー。ヨーグルトに浸すんだー」

「オムレツが食べたい」

「……俺はおまかせで」

<内装が綺麗なお店を希望致します! 撮影向きの!>

「みんな見事にバラバラだねぇ。
ファミレス的なカフェがあればみんなの望みが一度に叶うんだけどー……うーん。
私の幸運がなんとかしてくれないかな? お願いっ!」

レナが祈るように手を組んで、念じてみる!
心得た! と幸運が応えた!

その結果。
さっぱりと汗を流したレナたちは、カフェ街散策中にロベルトに出会い、魔王国の重鎮たちが集まる会場としてよく利用される<ガラパゴスレストラン・デモンズパラダイス>に連れて行ってもらう。

魔物たちは料理の好みがてんでバラバラなので、多種族グループが利用するとなるとレナが言うところのファミレスが必須になるため、国内には「ガラパゴス」と名のつくカフェ、レストラン、居酒屋などがいくつもある。
その中でも特に評判の店を紹介してもらうことができた。
ロベルトの顔が効いて、割引までしてもらえた!

▽ロベルトの株が 上がった!

途中、モスラがこっそりとレナに耳打ちする。

「……レナ様。オズワルドですが、かなり戦闘に感心を示していると感じました。
なぜ、戦いたくないと頑なになっているのかは、まあうかがった事情通りなのでしょうが……強くなることを本心では望んでいるようです。
もしかしたら、この場にいる誰よりも渇望している……と言って良いかもしれません。私はご主人様たちをお守りするために鍛えていますが、彼は違う。
チープな言い方ですが、”最強”を望み、生態系の頂点に立つことを本能的に願っています。
私とルーカティアスが鍛錬している間、ギラギラした尋常ではない闘気を彼から感じ取りましたから。
……報告まで。
教育に生かしてもらえたらと思いますが、念のため、彼の行動に十分注意して見守って下さいませ。あの者が望むのは、|全て(・・)の魔物の頂点、です」

「あ。ありがとうね、モスラ。
そっか、モスラもそう感じたなら、オズくんの本心はそれで確定なんだろうなぁ……。
オズくんが素直に夢を追えるように、どんな手助けをしてあげたらいいだろう? って、今考えてるところなんだぁ」

「やはりご存知でしたか。
出過ぎた発言をしてしまい、申し訳ございません」

「いや、聞かせてもらえてよかったよ。頭をあげて。
……私も、ようやく覚悟が決まったかな……。
……今まで、魔王様がオズくんに会いにくるのをルーカさんに察知してもらって、宰相さん呼び出しスイッチを押して遠ざけてたんだよねぇ……。
でも、一度ちゃんと親子で話し合わなきゃいけないと、改めて感じた。ずっと先送りにしてると、どこかでオズくんが苦しむことになる。
どのタイミングで話してもらおう? とか、先に私だけが魔王様と話しあってみるべき? とか、調整が難しいところなんだけどさ……。
きっと和解することが、オズくんが前に進むきっかけになると思うんだ。
あの魔王様も、人の話全然聞かないし自由人だし話好きで威圧感が疲れるんだけど、父親として息子のことを大切にしてるみたいだから。
きっと大丈夫」

モスラが、魂で繋がったもう一人の主人を柔らかな眼差しで見る。

レナは、オズワルドの装備一式がとんでもない高級トレーニング服なのだと話した。
ペンダントの破格の魔法効果について聞くと、モスラも驚いた表情になった。

「相変わらず、レナ様はとても従魔想いでいらっしゃいます。
嬉しく感じております。
オズワルドがレナ様に牙を剥くことは、ないでしょう。貴方の側はこんなにも心地よいのですから。
私にも何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃって下さいね。
拳骨も言葉攻めも得意ですので」

「ありがとう。モスラが最終的に控えててくれると思うと、すごく安心できるなぁ!」

レナがおかしそうに笑う。
従魔が幸せに生活できるように手を尽くすのが、主人としての役割だし、喜びなんだよ、と明るく言った。

▽ドワーフ鍛冶工房<イーベルアーニャ>に 向かおう!

 

 

 

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