114:赤の祝福装備

爽やかな朝。淫魔ネレネのお宿♡の一室で、ゆっくりと青の瞳が開かれた。
オレンジがかった金髪の幼女、アリスはパーティの誰よりも早く目覚めたようだ。
身じろぎすると、隣で寝ているリリーの腕が絡みついてきてやんわり拘束される。

(……ああ……私……昨日の夜、疲れててすぐに眠っちゃったんだっけ……。リリーに誘われて。……ダメだなぁ、しっかりしなきゃいけないのに)

ふぅ、と息を吐いて反省して、手をぐにぐにと動かしてみると、なんと書類業務で蓄積していた指の疲労がきれいに消えていた。
驚いて瞬きするアリス。
そういえば身体が軽くて、目覚めがとてもスッキリしている。
ハマルの[快眠]の回復効果はすごい! と、改めて感心した。
ありがとう、の気持ちを込めて金毛を撫でてあげる。
リリーが二の腕のあたりに抱きついているので、肘から先だけを動かした。
二の腕がプニプニしていることをアリスは気にしていて、細身のリリーが起きないか少しドキドキしている。

(……ふむ……レナお姉ちゃんたちは普段、こうして寝てるんだねぇ?)

ダックスフンドのように胴体長めに[体型変化]したハマルを枕にして、ハマルの頭側からシュシュ、レナ、アリス、リリー、ルーカ、モスラと並んですやすや眠っていた。
クレハとイズミは魔物型でハマルの首元に埋もれていて、スマホはレナの顔の近くでスリープモード、ブラックドッグ姿のオズワルドはリリーとルーカの間で体を丸めている。

昨夜、人数が多いしソファに行く、と逃げようとしたオズワルドをモスラが捕らえて、「いつも隅っこの、尻尾のあたりで眠っているんでしたっけ? 私がそちらで眠りますので、並んで休みましょう。近くにいないと[快眠]効果がかかりませんし!」と暗黒微笑で誘ったので、隅っこのモスラと隣のルーカに囲まれてなるものか、とオズワルドは現在の位置に自ら移ったという事情があった。
拒絶して、意地になったこの蝶々に捕らわれたまま眠るハメになるなんて絶対ごめんなのである。

みんな一緒で、相変わらず主従仲がよろしいことで……と首を左右に動かしたアリスが苦笑した。
年頃の男女が一緒のベッドに寝るなんてよくない、という一般常識は、どうやらレナパーティには不必要そう。
ド健全もいいとこなほのぼのした雰囲気である。
この仲良しさんたちを引き離す方が酷というものだろう。

(いつも私よりも早く目覚めて、朝食の準備を完璧にしているモスラがまだ休んでるのは、多分、女の子たちの寝顔を見てしまうのは良くない……って配慮なのかも)

アリスはリリーの向こう側、少しだけ見えている黒髪を確認して、推測した。
アリスが起床しても微動だにしないということは、そうなのだろう。
みんなが起き始めたら、さりげなくモスラも目を開けるに違いない。

(モスラもレナお姉ちゃんたちに、せっかくだから金色マクラで一緒に寝ようよって誘われたのかな。
……あ。そういえば、主人の近くにいるほど、【☆7】ギフト[レア・クラスチェンジ体質]の育成効果が力を発揮するんだっけ?)

自分以外にも心の拠(よ)り所があってくれるのは嬉しいな、とアリスは考えている。

忙しい商人アリス・スチュアートを、執事として支える立場のモスラ。
せっかくレア種の魔物になって魔人族として生活できるのに、ずっと住み込みで働いてくれているので、友人もパトリシアくらいしかおらず、遊びに繰り出すこともなく、生き方を縛ってしまっているのでは……と、申し訳なく思っていたのだ。

本人は「これが趣味なんです」といつも笑顔で答えてくれるが、魔物使いの主人たちに会いに行くためにお土産を買ったり、再会ではしゃいだりしている様子を見ていると、存外表情豊かな魔物だとよく分かる。

できるだけ頻繁にレナたちにも会う機会を作ってあげたいな、とアリスは常々考えていた。
そのためにも、魔王国経済部の高位悪魔・マモンとの会合は気合いを入れなければならない!
魔王国といい関係が築ければ、こちらに頻繁に足を運ぶことになるかもしれない。
もちろんモスラも一緒に。
そうなれば、しばらくシヴァガン王国で過ごすらしいレナとも頻繁に会えるだろう。

…………よし! と、アリスが小さな握りこぶしを作りガッツポーズする。
この思考の切り替えの速さと度胸が、数日後にもいかんなく発揮されると言っておこう。

ふと、レナがもぞもぞ動いて寝返りする。
シュシュに身体をガッチリ固定されていたので、体勢がキツくなってきたらしく、ぐいっと無理やりアリスの方を向いた。

「……きゃーーーーーーーーーっ!?」

部屋に乙女力の高い悲鳴が響いた!

「何事ですか、アリス様!」

まず、モスラがパッと目を覚ます。

なぜか、アリスがレナにぐいぐい抱きついている!
一瞬、全思考が停止してしまったモスラはまあ主人至上主義なので仕方ない。

「モスラ……っこ、こっちはいいからそこのルーカさんの目、覆っといて!」

「かしこまりました。他に指示は?」

モスラが、室内に部外者の気配がないか確認して、ルーカの顔にハマルのモコモコドリームテールを被せた。
無駄のない早業であった。

「……ねぇ、どうして僕が事態の一端にされてるのかな……寝てただけなんだけど……ふあー。
……尻尾の影が薄暗くて丁度いいから二度寝していい?
とくに部外者の敵意も感じないし。
アリスさんに警戒されてるくらいで」

「なんですって? ルーカティアス、アリス様に警戒される程、何をやらかしたのかお聞かせ願えますね?」

「モスラも警戒されてるけど?」

「えっ」

「ほんのちょっぴりね。爪先くらい。ああもう、落ち込まないでよ……そんな悲劇的なものじゃないから。というか原因は……」

ルーカが、ハマルの尻尾の下で小首を傾げる。
ここで「視えた!」なんて言ってしまうと大火傷するのでやめておく、くらいの判断力はあった。

「レ、ナ、お、ね、え、ちゃぁん……!」

アリスの声が地を這う低さである。
ぶわっとおどろおどろしいオーラが見えるようだ。
起きたリリーがそっと手を離した。

「…………へっ?」

朝が弱い寝ぼすけのレナが、ふにゃふにゃの声を上げる。
ぼんやり意識を浮上させると、シュシュとアリスに強く抱きつかれていて、何事かと驚いているものの、まだ半眼だ。

「……なんて破廉恥(ハレンチ)な格好してるのよーー!?」

「……ハレンチぃ!?」

さすがにレナもバチッと眼が覚めた。

「なにこの、赤いランジェリィィーー……」

アリスが真っ赤になりながら、ごにょごにょと言い淀む。

状況を説明しよう!
寝返りした時にレナのバスローブの前がはだけてしまい、過激なランジェリー♡がアリスに目撃されてしまったのである。
さながら効果音はズギャアアアアアンッ♡、そしてルルゥの高笑いのダブルサウンドだろうか。

『『あちゃーー……アリスにはまだ刺激が強かったのねっ。いやぁーーん! レナ、超ドンマイ』』

『あの下着身に付けるの、最初はレナ様もすごく恥ずかしがってたけどー、今ではもうふつーに抵抗なく着てるよねー。
肌触り最高で魔法効果も素晴らしい! ってー。
確かルルゥの贈り物でー、パトリシアとお揃いのやつなんだっけー?』

パトリシアはついでに極秘情報を暴露された。
ハマルの言葉を理解したモスラが眼を丸くして、とりあえず自分も顔を背けた。

「……ご主人さま。あの赤いランジェリーに、慣れてきて、油断しちゃった……? バスローブの紐、緩んでたの?」

リリーがオズワルドの目を両手で塞ぎながら、困ったように微笑んでいる。
レナのバスローブの前えりは、もうアリスががっつり閉じてくれていたが、念のため。

「う、うわああああ! ご主人様に、恥かかせちゃった……ごめんなさい! シュシュの寝相が悪かったからだよねえぇ!?」

シュシュがおいおい泣き出した。
恥なんて言ってやるな、それは追撃だ。
もう収拾がつかない。

<マスター・レナ。再起動、再起動。フレー! フレー!>

スマホがこっそり、頭が真っ白になって硬直しているレナにエールを贈る!
この場を収められるのは、渦中のレナ以外いない!

「……事情があるので説明させて頂けませんか!?!?」

「よろこんで」

アリスのオーラが怖い! なんて言っている場合ではない。
いたいけな幼女に大人の世界を垣間見せてしまった(物理)責任をレナはとらなくてはいけないのだ。
ああ、なぜこのタイミングでトラブるが起こってしまったのやら……。

ひとまず朝食を食べて落ち着いてから、話し合うことになった。
全員にとって強烈な目覚めであった。

***

「どうぞ。お召し上がり下さいませ。
本日の朝食は、フレッシュな野菜のサンドイッチ・香味レモンドレッシングをかけて。
トイリアで仕上げたヴィシソワーズ(ジャガイモの冷製スープ)に、ラビットの薄切りハムが部位ごとに数種類、デザートにはミックスベリーのジュレを用意してございます」

「わあ、美味しそう〜〜!」

朝食はモスラが「是非」と名乗り出てくれた。
レナが冷や汗を流しながらも、美しい盛り付けの料理を絶賛する。
レモンの爽やかな香りが目覚めを促し、朝にピッタリ。

久々に再会する仲間たちにも自慢の料理を食べてもらおうと、モスラはトイリアで色々と準備をしてきていたらしい。
日持ちする料理を保冷魔道具に詰めて、マジックバッグに入れてきたそう。
アネース王国産の有機野菜はまるごと運んできてお宿♡のキッチンで切り分けた。
パンは昨日の散策時に購入し、スープやハムは仕込んだものをさっと器に盛り付けている。

「皆さんに水を運んで下さい、オズワルド」

「分かったよ」

『イズが氷入れてあげるね〜! スキル[氷のつぶて]! そおーーっと、ねっ』

「ありがとうございます」

お皿にスープをよそったり食器を出したりと、ルーカとオズワルドも簡単なお手伝いをこなした。
内緒話をしている女の子たちから逃げ…………配慮したのである。
レナたちはひとまず、情緒不安定になっているシュシュを慰めている。

モスラ一人で作業したほうが正直捗ったのだが、後輩たちの気持ちも分かるので受け入れてあげた、と言っておこう。

「まさか、貴方たちはレナ様の着替えを覗いたりしていませんよね……?」

「してない。風呂も別のタイミングで入るし」

「モスラの眼力ほんと自重して。重圧すごいから。見てないよ。
もし見たことでレナに対してまで女性恐怖症を発症しちゃったら、僕はもう自分の人間性が最悪すぎて生きていられなくなる」

「「うわぁ」」

出た、難儀、とモスラとオズワルドがさすがに少し同情した。
男子たちはこんな会話をしていた。
主人が望まず不埒な視線に晒されていたわけではないらしい、と知ってモスラも落ち着いた。

「いただきます!」

みんなで合唱して、豪華な朝食を口にする。
昨夜高カロリーな食事をしてすぐ眠ってしまったアリスを気遣ったヘルシーメニューだ。

「「わあ、ヴィシソワーズなめらか〜! スッとおくちでとろけるね! 何杯でも入っちゃいそう」」

「ウサギのハム食べるの、ボク初めてー。美味しいね〜。これも自作なのー?」

「ええ。肉屋で修行して参りました」

「さらっと言ってるけど、わずかな期間で技術を丸ごと習得されちゃった肉屋は心底驚愕してただろうね」

「スチュアート家の執事ですから、当然です」

「……常識を見失いそうになるな。この輪の中にいると」

「「ようこそ」」

モスラとルーカの会話にうっかり反応してしまったオズワルドは、まさかの返事をもらい、珍妙な表情になってしまった。
リリーとハマルが「ぷはっ!」と吹き出して、テーブルに突っ伏す。
スマホの画面には<wwwwww>と表示されている。

「うん、相変わらず良いお味。
このモスラが作ったドレッシング、私のお気に入りなんだよ。どうかな? シュシュちゃん……」

アリスが、目の周りを赤くしたシュシュに話しかけた。
野菜サンドイッチをもぐもぐ食べていたシュシュが、ごくっと喉を鳴らして口の中の野菜を飲み込み、返事する。

「ん。野菜の味が濃い、トマトが甘くて、レモンの酸味が丁度いいぐあい……ぐすっ……」

まだ、喋ると少し涙声だ。

「驚かせてごめんね」とアリスがシュシュに謝ったので、お互いにわだかまりはない様子。
「ご主人様のランジェリーは真っ赤で派手だから、初見で驚くのは、仕方ないと理解している……シュシュも、いきなり泣いてごめん」とシュシュが返答して、レナが大変申し訳なさそうな表情になっていた。

シュシュの主人愛は諸事情で特に重ためなのだと、先ほどレナがアリスにこっそり話していた。
シュシュは無意識なのだろうが、また、主人に依存ぎみになってきているのである。
今は主人がレナなので悪い方向には向かわないが、レナの言動への反応がいちいち過剰すぎるのはシュシュに負担がかかるし、依存がこれからも加速していくと考えると、良い状況ではない。
教育オカンが頭を悩ませているところである。

甘えてくる我が子はすこぶる可愛いのだけれど!
そこを力説すると、アリスににっこり微笑まれて、レナは「教育頑張ります」と大急ぎで一言付け足した。

とりあえず食欲はあるようで安心した、モスラの食事のおかげだよ、とアリスが視線で語りかけると、モスラは嬉しそうに笑う。

「ごちそうさまでした!」

食事が終わった。

さあ先ほどごまかした事情とやらを話してもらおうか!
レナが、マジックバッグから元呪いの魔道具たちを取り出して、ベッドに並べる。

「これ全部、破格の魔法効果がついた赤の祝福装備なんだよね?」

最後に自分の胸元を指差して、ランジェリーもね、とレナは仕草でアリスに伝えた。
アリスが眼を丸くしている。

そういうことなのだった。

「ではルーカ先生、祝福装備の説明を」

「うん! まかせて!」

『『ぱふぱふーーーっ!』』

久しぶりに解説をまかされたルーカがはずんだ声で頷いて、クーイズが赤のワンピースをヴェールのように被りながら楽しげにぱふぱふした!

ベッドの近くに椅子を持ち寄り、みんなで赤の祝福装備を眺める。
どれも目を引く美しい赤色だ。
真紅から、ピンクに近い薄紅色、オレンジがかった赤など色味は様々。
赤色判定はラナシュ基準。

「それじゃ、並べられた順に説明していくね。
えーと、呪いの魔道具になった経緯と素材、祝福装備としての魔法効果について話していくよ。
まず前提として、祝福装備には必ず運ステータスプラスの効果がある。これはレナにはほとんど必要なさそうだけど……幸運が張り切るくらいかな?
もともと強力な赤の魔道具だったほど、早く変化するようだ。

[|怨嗟(えんさ)の鞭]→[赤ノ棘姫(いばらひめ)]……屋敷を焼かれて家系断絶した鞭使いの一族の遺品だね。
素材はブラッドルビーなどの宝石、アイアンドラゴンの骨、東方の鵺(ヌエ)の尻尾。
闇に堕ちた者を打つ時、精神を服従させる効果がある。自分が相手よりも強いほど、服従効果が高い。
攻撃時体力+10の能力補正、運+30。[魅了]、意思により鞭の先端がトゲトゲになって[毒]を与える。

[究極のビスチェ]→[華麗ナル赤ノビスチェ]……服が好きな夫人が莫大な費用をかけて特注した、最高級品のビスチェ。
主な素材は幻獣ユニコーンのなめし皮。
もともとの[魅力強調]の特殊効果に加えて、[美シキボディライン][服飾重量軽減]効果を授かってる。
着用者に負担をかけることなく、腰を女性らしく細く引き締める効果、あとビスチェと一緒に着用した服が軽くなるみたい。
魔力+10、運+20。

[呪いのフリルワンピース]→[華麗ナル赤ノフリルドレス]……前が短くて後ろが長いっていうスカートのデザインが斬新すぎて、このワンピースを顧客に受け入れてもらえなかった有名デザイナーが怨念を遺した。
マーメイド一族が着用するフィッシュテールスカートに影響を受けて作った渾身の力作だったんだけど、売り込む先が悪かったんだよね。
貴族相手にがっつり足を出すスカートは売れなかった。伝統的なマナーがあるから需要が噛み合わなかったんだ。
このデザインはワンピースでしょ? って評価がよほど納得いかなかったらしく、赤の祝福装備になった時に『ドレス』って名称に変更されてた。
面白いことに、服に対するこだわりで究極のビスチェの怨念と共鳴したらしく『華麗ナル』の名称で統一されてる。
素材は実は高級品、影蜘蛛女王の糸を真紅に染めたもの。
効果は[圧倒的存在感]……私を見なさい! ってことかな。ふふっ。隠密行動には向かないね。
[絶対領域防御]この場合の防御っていうのは、丈が短いスカートでも絶対に捲れ上がったりしないということ。
運+20。

[呪いのロング手袋]→[|粛清(しゅくせい)ヲ授ケシ淑女ノ赤手袋]……弱い立場の貴族の女性が、冤罪をかけられて婚約破棄させられた際に、最後の抵抗として自分を貶めた人たちをビンタしてまわった。実は根性のある令嬢だったんだね。その時に身につけていたのがこの手袋。
だから特殊効果は、ズバリ[|粛清(しゅくせい)]。ビンタする時に威力が上がる、相手が悪党だったらぶっ飛ばす。
女王様にピッタリかもしれないね。
素材は桃糸雀(ピチュリア)って魔物の羽毛を、アルケニーが糸のように加工して薄く編み上げたもの。
呪いの魔道具になった時、ピンクの手袋が令嬢の激情で赤く染まったみたいだよ。
ビンタ時のみ体力+8の威力補正、運+10。

[呪いのブーツ]……これはまだ変化していない。現状は、頑丈で歩きやすい綺麗な赤のブーツというだけ。
[状態維持]つまり汚れ防止の効果がある。
また祝福装備になった時に詳細に説明しよう。

[愛のハイヒールパンプス]→[愛ヲ謳(うた)ウ赤ノハイヒールパンプス]……優秀すぎて亡国の女王に攫われた靴職人の男性が、牢の中で、故郷の娘さんのために作った愛情あふれるハイヒールパンプス。
10cmのハイヒールでも転ばず歩けるように[身体能力補正(微)]の効果が施されていた。
今は、[パーフェクトフィット][疲労軽減][美シキ足音][惹き寄せ]の追加効果が更にプラスされている。
靴のサイズが足に合わせて変化する、疲労軽減は文字通り疲れにくい。
足音がとても美しくなり、踵をカツンと強めに鳴らせば一気に注目されるらしい。
僕たち従魔は、かなり遠くにいてもレナのこの踵の音に気付くだろう。
体力+6、運+20。

[赤ノベルベットリボン]……これはミレージュエ大陸の港街で購入していた魔法リボンが変化したもの。
[感触良好]の魔法効果がついた、なんてことないサテンの赤リボンだったんだけど、祝福装備になって、ベルベットのような高級な質感に変化した。
立派な魔道具ではなかったから、効果は運+20のみ」

「[赤ノベルベットリボン]はルカにゃんの尻尾の飾り用に使ってもらうつもり。
どれだけの効果があるかは分からないけど、できるだけ小さな悪運を呼び込まないようにね」

「ありがとうご主人様。本当に助かる……!
最後に、問題の[乙女ヲ彩(いろど)ル赤キランジェリー]。
ルルゥからの贈り物の高級ランジェリーが、祝福装備に変化したもの。
もともとの効果は[感触良好][魅了]、新たに[絶対領域防御][乙女の魅力]、運+10が付与されている。
各種ランジェリーをフルセットで身に付けるのが効果発動の条件。
ええと……詳細はレナに聞いて。

以上、この場に並べられている赤の祝福装備の情報だよ」

ルーカの長ーい説明が終わり、アリスとモスラがはあーーっと感心の息を吐く。

「本当に、赤の魔道具がレナお姉ちゃんの体質で変化しちゃうんだね……!
すごい。こんな貴重な品、お目にかかったことがないよ。
どれもとっても綺麗な赤色。それに運ステータスプラスの魔法効果って市場でも珍しいの」

「それぞれの赤い装備を組み合わせて、何通りものコーディネートができそうですね。
祝福装備のフルコーディネートを身につけたレナ様は、きっと神々しいほどのお姿なのでしょう。
アリス様」

「分かってる。あとで試させてもらおうね」

「アリスちゃんはセンスが良いから、コーディネートしてもらうの楽しみだなぁあはははは!」

アリスとモスラの目がキラリと光り、レナを見る。
レナは冷や汗を浮かべながら、照れくさそうに笑った。

そしてアリスとモスラが今度は半眼になる。

「「どうしてランジェリーの効果をルーカティアス(さん)が知っているのでしょうか?」」

キターーーとルーカが悩ましげな表情で言葉を絞り出した。

「祝福装備の効果を知っておくべきだろうから、とみんなで相談して、情報だけ読み取ったんだ。
僕が布で目隠しして、ランジェリーそのものは視ずに、効果だけを透視・鑑定した」

両手を軽く上げて「なにもやましいことはありません。信じて下さい」とアピールする。

「ええ……モスラぁ……」

「はあ……彼を信じて良いでしょう。嘘は言っていないと思います。先ほど確信しました」

「そうなんだ? じゃあ……分かりました。祝福装備の鑑定は必要ですもんね」

「理解してもらえて良かった」

ルーカがホッと額の汗をぬぐった。
あとでまたシャワー浴びよう、とぼんやり考える。

ルーカの役割はこれで終わり。お疲れ様。

『『あとはレナのぱふぱふよーー?』』

そうなのだ!

「そのランジェリーの着心地がいいから、毎日身につけてるの? レナお姉ちゃん……」

アリスが顔を赤くしながら、レナの耳元で小声で尋ねる。

「うん! [絶対領域防御]で着崩れしないし、それにね、[乙女の魅力]はバストアップ50%(当社比)の効果があるんだよ!?
手放せないの……!」

レナが得意げに胸を張る。

「その[絶対領域防御]が、是非バスローブについてて欲しかったよ……ランジェリーは着崩れしなくても、大人向けなデザインなんだもん……見られたらアウトだと思います。ほんとに。フリルやリボンが可愛いけどね。
あとで私から、[状態維持]の効果が付与されたブローチを贈るよ。
ブローチを装着した服は着崩れなくなるの。
バスローブにつけて寝て。
着崩れ防止は一般的に[状態維持]なんだけど……[絶対領域防御]なんて聞いたことないなぁ」

「うーん。赤の祝福装備に悪い人が触れると、皮膚を熱したりする効果があったから、それが効果の表現に反映されてるのかも?
[闇焼き]とは表現されてないから、軽いヤケド程度とか」

「へぇ。色々経験してるね。レナお姉ちゃんは正義を身につけてるんだ」

「その言い方、むずがゆいなぁ……自分の生きやすいように生きてるだけだから」

バストアップ効果が作用しているのだろうがなだらかなレナの胸元を、アリスは心配した目で眺めていた。
お姉ちゃんの尊厳を守るために口はチャックしておいた。

『『ぱふぱふタイム終了なのぉーー!』』

赤裸々な告白が終わった。
アリスとモスラは、レナたちの説明を聞いて全て納得したようだ。

レナがほっと緊張を解いて、赤の魔道具を片付け始める。

「あれっ。片付けちゃうの……? ご主人さまの、お着替えした所、見たいなぁ」

『せっかくアリスがコーディネートしてくれるって言ってるしね。赤のフルコーディネート、今すぐ見てみたい! わくわく……!』

<賛成! 賛成! 賛成! アルバムが潤いますね!>

『是非そちらのハイヒールで踏まれた……着用したところを拝見したいですぅーー!』

従魔たちが口々に、赤のフルコーディネートをブレスレットに登録しようよ! とおねだりしだした。
かなり精神的に疲れていたレナだが、キラキラの大きな目で見上げられるとお願いを聞いてあげたくなる!
決めた、着替えよう!

「アリスちゃん、コーディネートお願いしてもいいかなぁ?」

「今から? いいけど……着付けとか髪をいじったりとか、ちょっと時間がかかるよ。
レナお姉ちゃんも赤の魔道具もせっかく可愛いんだから、中途半端な仕上がりにはしたくないの。
今日は戦闘訓練しようって予定してたみたいだけど、それは大丈夫?」

「また今度にするよ。ドレス着るの初めてだから、楽しみ!」

「気ままだねー。お姉ちゃんたちらしくて、いいと思うな。ふふっ」

アリスたちは、今日は身体を休めて明日からまた商店に出かける予定だったので、レナの着替えに付き合ってくれるようだ。

▽赤ノ祝福フルコーディネートを 完成させよう!

***

アリスが選んだ赤色アイテムは、[華麗ナル赤ノビスチェ][華麗ナル赤ノフリルドレス][|粛清(しゅくせい)を授ケシ淑女ノ赤手袋][愛ヲ謳(ウタ)ウハイヒールパンプス]。
それにラチェリの呪術師戦で大活躍した、[赤ノ祝福ヲ賜(たまわ)リシ覇衣(はごろも)]を腰に巻こうと提案した。

今更だが、この覇衣(はごろも)の魔法効果はこれまた破格なのだ。
おさらいしておくと、[防火][防水][魔法反射][覇気][闇焼き]、運+100の効果がある。

元になった恐皇のローブと[|怨嗟(えんさ)の鞭]が同じくらいの価値だとルーカが鑑定したので、そのうち[赤ノ棘姫(いばらひめ)]も、今よりもっとすごい魔法効果を得るだろう。
あの鞭はまだ進化途中らしい。
成長が段階分けになったのは、レナがあまり鞭を有効活用しないから……かもしれない……。

服を選んだら、女の子たちだけが化粧部屋へ。

「まずドレスに足を通して、レナお姉ちゃん。足細くてきれーい……いいなぁ。
う、やっぱりそのランジェリー見るのは、は、恥ずかしい……!」

「ほんとごめんねアリスちゃん……う、後ろ向いてて」

「そうする……ルルゥお姉さんに一言言うべきかなぁ。イタズラにしてはちょっと過激すぎですよって」

「やめときなよ、差し入れされるよ! 大人の階段登ることになるよ」

……なんてことを赤い顔で話してクスクス笑って、ドレスとビスチェ、覇衣(はごろも)を着用してから、レナは、リリーとシュシュから手袋を受け取った。

『ブレスレットも、身につけてるから、手袋は……片方だけにしてみる……?
せっかく、ローズミスリルのブレスレットも、可愛いもんね』

『片方でも魔法効果発動するのかな?』

『おためしあれーーー!! ここに! ここに実験体立候補者がおりますよ! レナ様レナ様!』

「うっ」

片方だけに赤手袋をはめたレナが、手のひらをぼんやり眺めていると、スキップせんばかりにハマルがすっ飛んできた!
いけない話題が出てしまった……!

「……………………や、優しくするからね……?」

『今日はそれで我慢しますー。さあさあ』

「今日限りにしたいっ! いくよっハーくん!」

▽レナの よわよわビンタ!

<ピチューーーーーーン!!>

▽効果音として 桃糸雀(ピチュリア)の美しい鳴き声が 部屋に響いた!
▽ハマルは 恍惚の表情!

「アリス様、何事ですか!」

扉の向こうからモスラが声をかけてきた。

「なんでもない! レナお姉ちゃんのいつもの」

「かしこまりました」

「それで通じちゃうの!? 私って……」

アリスの見事な説明によって、一言でモスラが鎮まった。あっぱれ。

『『ハーくんお靴運ぶって張り切ってたのに、飛び出していっちゃうんだから〜〜。
もー、罪なご主人様っ!
はいレナ、ハイヒールパンプスだよ〜』』

「ありがとう、クレハ、イズミ」

ハマルが床でとろけているので、クーイズがぷよぷよと片方ずつハイヒールを運んできてくれる。
レナはハイヒールを受け取り、足を入れてみると、ぴったりサイズ。
立ち上がって動いてみると、とても歩きやすい! 転ける気がまるでしない! [疲労軽減]効果もあるし、これで走れそうなくらいだ。

とてもきらびやかでエレガントな見た目なので、普段使いはできなさそうだが。
ハイヒール冒険者なんていい見世物である。
なお、一部重鎮勢からはすでに好奇の目で見られていることは周知の通り。

「髪がいつもと同じ三つ編みおさげのままじゃ、豪華なドレスにはちょっと似合わないかな……ヘアアレンジも私に任せてくれる?」

「うん。アリス先生、よろしくお願いします。
あ、髪のどこかは三つ編みにしておいてもらってもいい?
えっと……こうしてると、気が引き締まるんだよね。もう習慣になってて」

「了解。じゃあ三つ編みを頭の後ろにスッキリまとめてみよう」

レナの三つ編みが一時的にほどかれて、アリスがゆっくり櫛を通す。
いつもより太めの三つ編みに編みなおし、それをピンで綺麗にまとめていく。
魔法のピンはアリスがふっと息を吹きかけると、透明になって目立たなくなった。

髪を優しく触られる心地よさを感じながら、レナはほうっと肩の力を抜く。
こうして女の子たちとのんびりオシャレを楽しむのは、随分と久しぶりだ、と考える。

毎日賑やかに外を走り回って、気がつけばくたくたになって夜を迎えているのだ。
金色ベッドで眠り、また朝を迎えて、みんなで顔を合わせて笑って「おはよう」と口にすることがレナの今の幸せ。
レナは日々、この異世界で一生懸命に生きていた。

「少しだけお化粧するね」

アリスがレナの顔に白真珠粉をうっすら付けて、チーク、アイシャドウとメイクを施していく。
レナの唇を、口紅でほんのり淡く赤らめる。

「できたよ!」

高校に行く前にリップを塗っていたことを思い出して、レナは少しだけ口の中に甘酸っぱさを感じた。
にっこりと可憐に微笑む。

▽赤のフルコーディネートが 完成した!

『『『『『きゃあーーーっ!! ご主人様ぁーーっ! 従えてぇぇーー!!』』』』』

<こっちの角度にも笑顔を下さいませ、マスタァァーーッ! そう、もう少し左を向いて……そうです! 最高!
アリスコーディネーターと一緒に、はいパシャり!>

従魔たちはもう大興奮!

「あはは、みんな大喜び。我ながらかなりいい出来だもん。すっごく綺麗だよー、レナお姉ちゃん!
もっとサービスしちゃう?」

この空気にアリスも乗ってきたようだ。
そして誰よりも乗せられやすいのが我らがご主人様。

「そ、そう? そんなに似合う? えへへ。じゃあ、サービス……しちゃおうかなぁ……」

「はいこれ、鞭」

『『『『『レーーナ! レーーナ! ご主人様フゥーー!』』』』』

「称号[お姉様][赤の女王様]セット!」

▽キターーーーーー!!

「オーーーッホッホッホッホ!!」

レナ女王様が降臨して、化粧部屋は大騒ぎ!

お宿♡は完全防音とはいえ、室内では扉越しに音が普通に伝わる。
レナの高笑いもリビングに丸聞こえであった。

「うわあ出来上がってる。なんとなくそんな予感はしてた。
リクエストされて乗っちゃったんだろうなぁ、レナ女王様。
あとで頭を抱える様子が目に見えるようだ」

ルーカ大正解! 付き合いが長いだけある。

「早くお姿を拝見したいです。きっと素晴らしく美しいのでしょうね!」

「こっちも出来上がってるんだけど……。モスラって、普段はこんなんじゃないんだよね?
冷静沈着の完璧執事って聞いた。……俺の冷静沈着の解釈、間違ってないよな……?
ちょっと再会の感動が長引いているだけ、なんだよな」

「さっきも話したけど、僕たち従魔は本来、主人の側で生活することを前提に契約するんだよ。
だからモスラのように、契約したまま遠く離れてしばらく会わないパターンはラナシュの想定外。
レナの側にいると、僕らはなんだか安心するでしょう?
モスラはそれが敬愛として積み重なって、今、一気に好意が溢れている状態異常なんだよね。
魔物使いの契約には、まだ明かされていないこういうイレギュラーな部分がありそうだ。
僕の目でも探れなかったから、まだ明確に条件が決まっているわけではないんだろう」

「……感情に干渉されてるってこと?」

「多少影響があるって程度だよ。洗脳されるわけじゃない。
例えば嫌いが好きに、無理やり変わったりはしないから。
主人と従魔たちに魂の繋がりができて、お互いを信用しやすい、共存を心地よく感じる、とかそのくらい」

「でも、積み重なると厄介かもしれない?」

「そう。僕の悪運のようにね!」

……軽快に発したルーカのブラックジョークはまたウケなかった。
オズワルドがうんざりと表情を歪めている。

「笑えないにも程があるんだけど」

「そっかぁ。あっちは?」

ルーカが誤魔化すように、隣の化粧室を指差した。

このタイミングで、バァァン!! と派手に扉が開けられた! ヒューーー!

舞い散るバラの花びらとオーロラライトはリリーの[幻覚]。
カッ! とハイヒールの踵を鳴らして注目を集め、全身赤づくめの女王様が凄絶に笑う!
スマホの効果音<シャララララララン!!>

「待たせたわね、可愛い子たち! オーーーッホッホッホ!!」

『『ぱふぱふーー! レナ女王様の、おなーーりーー!』』

『『『きゃーーっ! 従えてぇーー!』』』

「あははははははっ!」

華麗にポーズをキメるレナ女王様の後ろで、スライム、妖精、ヒツジ、ウサギがドンドンぱふぱふーっとコミカルに手を叩く!
まるで遊園地のパレードのごとき光景だ。
レナと一緒にポーズをしてみたアリスは、もう耐えきれずに大笑いしている。
ルーカの限界もそろそろ近い。

「ご覧なさいな。どの祝福装備も私をよく引き立てる美しい赤でしょう?」

「大変お美しいです、レナ様……! フリルドレスが大輪の薔薇の花びらのようで、よくお似合いですね! それすらも貴方様の魅力をただ飾るだけの舞台装置」

「あー。レナの内心のダメージが半端じゃないからそろそろやめてあげなよモスラ……」

「こ、こうはなりたくない!」

美辞麗句を並べ立ててレナ様信者と化しているモスラを見て、オズワルドがブワッと尻尾の毛を逆立てている。
どちらかといえば優雅というより野性的な魔王国の王宮で育った魔物王子は、このような文句に全然慣れていなかった。
レナの側から長く離れすぎると危険、と心に深く刻んだ。

お祭りハイテンションがようやく落ち着いてきた頃、レナがアリスに感謝の言葉をかけた。

「綺麗に着付けてくれてどうもありがとう、アリス」

「光栄だよ、レナ女王様! なーんてね。
私も楽しかったよ。可愛い衣装もメイクも大好きだから。また是非、レナお姉ちゃんがおめかししたい時は誘ってね。メイクの腕を磨いておくよ」

「貴方にはいつも助けられてばかりね。心配かけることも多いけれど、これからも仲良くしてほしいわ」

「もちろん! 力一杯サポートするから。
アリス・スチュアートを今後ともよろしくお願い致します」

ここで、アリスが|淑女の礼(カーテシー)を披露する。

それを仁王立ちで眺めたレナも、片足を半歩引いて綺麗なお辞儀を返した。

「あ、そうだ。昨夜の約束、覚えてるよね?」

▽アリスの 上目遣い!

「オホホホホホ!! 私に恐れるものなんてなくってよ!!」

「そうこなくっちゃ! さっすがレナ女王様。じゃあ昨日の予定を今日に持ち越して……OHANASHIしましょう」

「よろしくてよ!」

皆さん覚えているだろうか、レナの言葉は現在[お姉様]称号によって全て高飛車変換されているということを。
つまり「怖い怖くない怖い怖くない逃げちゃダメだ」という呟きが、「恐れるものなんてなにもなくってよ!」の堂々たる一言に変換されていたのだ。
恐るべきラナシュの適当仕事である。
よろしくてよ、はヤケクソだ。
ルーカが膝をついた。K.O!

ーーレナ女王様とアリスの白熱しまくりの議論は、なんと、夜になるまで十数時間続いた。

休憩を挟みつつではあるが、二人はほぼ喋り通しで、今後トラブルに巻き込まれないためにはという無謀な話し合いをじっくりと……失礼。トラブルへの対処法も同じくらい話し合われていたので、有意義な時間であった。

疲れた従魔たちがぐったりと耳を折る中で、レナとアリスがようやく最後の一言を交わす。
はれやかな笑顔だ。

「お疲れ様でした、レナお姉ちゃん!」

「貴方の頭脳は本当に素晴らしいわ! 褒めて差し上げてよ! アリス」

「ふふっ、ありがとう。今後も頑張るね」

また余計な一言を付け加えてしまったレナ。ナイスファイト。
ただ一人、レナの内心を知るルーカが、静かに合掌した。

 

 

 

 

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