112:ブレスレットを買おう2

全員のブレスレットが決まったので、枠と宝石が接着されることになった。
数が多いので、小人(ピピット)族テグリピピッタと、妖精族クールのふたりがかりで作業を始める。

「あ、あわわわわ私が妖精族クール、です……お客様。よろしくお願い、いたします……」

妖精族クールは店の奥から恐る恐る出てくると、ガチガチに緊張した動作で、顔を真っ赤にして頭を下げた。
最敬礼!!
言わずもがな、王族候補フェアリー・リリーの影響なのだろうが、名が体を表さなさすぎである。

涼しげなブルーの髪に、黒の瞳、白い肌。
青・黄魔法に適性のあるフェアリーだと考えられる。
レナたちに挨拶した後、魔法を使う時は魔物姿の方がやりやすいので……と断り、小さなフェアリーに変身した。
トンボのような、丸みのある翅だ。

彼も服飾保存ブレスレットを装備している。
フェアリーになった時には、ブレスレットも身体に合わせて小さく変化した。

「おいおいー。いつもは『俺が妖精族のクール!』とかカッコつけちゃう癖に、今日はどうしたんだよー?
そんなに赤くなっちゃってさぁー。ぷっ」

▽クールの 飛び蹴り!
▽テグリピピッタの 額に 命中!

「ぐえっ!?」

妖精族の仕様なのだろうか。
キック使いはこれで3名中3名である。
レナの中の誤った妖精族情報が更新された。
いや、いっそここまでくるとこれが正しい気もしてきた。

ちなみに、テグリピピッタは薄茶色のカールした髪とオレンジの瞳。おでこに小さな角が見られる。
これは小人(ピピット)族全員の特徴らしい。
名前には必ず「ピピ」が付くそうだ。

「こ、このおおぉ……意中の相手以外からのデコピンは別に嬉しくないもんだって、前に教えただろ! クールのアンポンタン!」

『知らねーな!』

やかましく戯れていた小さな職人のふたりは、ベテラン店員の恐るべき冷徹の眼差しを受けて姿勢を正し、それぞれの作業にようやくとりかかる。

小人族、エルフ族、ドワーフ族などヒトに近しい姿の種族は、一応魔人族の派生という扱いだが、どの種族にも言葉を届けることができる。
魔物姿とヒト型、という区別はないので、変身しない。
テグリピピッタは職業柄、服飾保存ブレスレットを装備しているが、これらの変身しない種族はブレスレットを使わない者が多い。

長いテーブルの上に白布が敷かれ、ブレスレットと宝石がセットで並べられる。
小さな手が、ブレスレットにはめられている偽物(イミテーション)の宝石を器用に外した。

クールとテグリピピッタがカラフルな液体が入った小瓶と小筆を取り出す。

「それ、なぁに?」

『!?!?!?』

レナの後ろからひょっこり顔を覗かせたリリーがクールに問いかけると、クールは白い頬をしゅぼんっ! と真っ赤に染める。
テグリピピッタと店員が呆れかえっている。

作業を進めながら、クールがボソボソとリリーに説明した。

『これは、宝石と枠の接着液、です……。
頑丈に接着することはもちろん、宝石の美しさを最大限に生かせるように、やわらかく輝く効果があります。
安い接着液だとこの輝きがなく、枠が影になって、宝石に片面からしか光が当たらなくなってしまう。
高級な宝石をアクセサリーにする際に、必ず必要なひと手間なんです』

「……なるほど! このお店の接着液は、やっぱり、いいものなんだね?」

『はい。とても珍しい光属性スライムのスライムゼリーを加工したものです』

これを聞いて、クレハとイズミとレナが、びくっと反応した。

クールの話を聞き続けると、なんと、光属性スライムを飼っている実業家がいるのだそう。
輝くスライムゼリーのおかげでウハウハ! 左団扇で暮らしている。
クーイズのように魔人族になれるわけではなく知能が育っていないスライムは、金を生む家畜という扱いのようだ。

レナたちは少し複雑そうな顔になったが、光スライムは大切に育てられているのだろう。
例えるなら卵を収穫する養鶏、スライムバージョンだろうか。
スライムゼリー収穫、そういう事業もあるんだな……と気持ちを切り替えた。

『それぞれの宝石に似た色の接着液を枠に塗っていきます』

クールはリリーのブレスレットの前に移動すると、スッと瞳を細め、真剣な顔つきになる。
細筆を持ち、深い青色の液体が入った瓶の中に筆先を浸した。
薄く、均一に宝石枠の中に塗っていく。
さすがは熟練の職人、リリーに見つめられていようとも、この作業をしている時に筆先が震えることはない。

ピンと空気が張りつめ、皆が息を飲んで職人の手先をただ見つめている。
細筆とはいえ、フェアリーにとっては身長ほども長い。おそらく重く感じているだろう。
クールのネックレスが光っているので、重さ軽減か、腕力を上げる魔法が発動しているのかもしれない。
リリーが興味深そうにネックレスを眺めた。

すばやく七つの宝石を接着すると、クールはリリーを呼ぶ。

『こちらへ』

「うんっ」

リリーの手首にブレスレットをくぐらせると、ふっと息を吹きかけた。
ブレスレットの宝石が、内側から眩しく輝く……!

『対象はシルバープラチナのブレスレット。付与魔法[魔法効果付与]、[オンリーワン]!』

クールと同じタイミングでテグリピピッタも魔法を発動させたので、妖精の言葉が分からないレナたちにも、どのような効果が付与されたのか理解できた。

付与魔法[魔法効果付与]は、装飾品に特別な力を付与することができる。
今回はブレスレット本体が対象。
[オンリーワン]の魔法がかけられて、ブレスレットはリリー専用のものだと世界に認識された。

「わ! ブレスレット本体にも、魔法が、付与できるんだ……!?」

『この店舗の全ての金属ブレスレットには、目に見えないほど細かい、丸いマジックストーンが練りこまれています。
布製のブレスレットには、留め具のところに小さな宝石が縫い付けられていますね。
それに[オンリーワン]効果を付与します』

「へぇ。いろんなやり方があるんだねぇ」

『魔法陣が描かれた紙を組み込んだり、夜ごと月光に当てて魔力を高めたり、すでに特殊な効果を持った魔物素材を加工したり……。
魔道具作りはとても奥が深い。
このマジックストーンを使う方法は、我々宝飾業界の者が苦労して確立しました。
砂漠で暮らす、大地をまるで海のように泳いで狩りをする魚の魔物たち、砂尾(さび)族から素材を仕入れています。
アクセサリーに魔法媒体の石をゴテゴテと付けてしまうと、肝心のメインの宝石の魅力が引き出せませんから。
宝飾職人たちは、このマジックストーンを重宝していますね』

リリーが「ブレスレットのデザイン、どれも、素敵!」とクールの作品も含めて褒めると、また耳まで真っ赤になってしまった。

まだまだ、レナたちが聞いたことがない魔物の名前がどれだけでも出てくる。
モスラのように新種が生まれる事もあるし、魔物の種類は膨大だ。
商業取引ができるという砂尾(さび)族は、おそらくヒト型になれる一族なのだろう。

テグリピピッタにブレスレットを装着してもらったシュシュが、首をかしげる。

「オンリーワン……あなただけ、って意味。つまりこのブレスレットは、もうシュシュだけのものになった?」

「うん! 君だけが、このブレスレットの装飾保存効果を利用できるよ。
服のコーディネートを登録したり、変身したり、思うがまま。
それに加えて、魔物姿になった時と、この先ヒト型で成長した場合には、ブレスレットが体型にあわせて変形するんだ。
君みたいに小さなウサギの魔物なら、変身した時にはブレスレットも小さくなる。
締め付けられたり、ブレスレットがすっぽ抜けたりする心配はないからね」

「む! シュシュは確かに小さなウサギだけど……将来はビッグになる!」

「応援してるねー」

「ん!」

シュシュの気合いはうまいこと流された。
テグリピピッタ、さすがに接客慣れしている。

「ヒツジの君は今、むしろ締め付けられたいのになぁって思ったでしょ?」

「バレたー? あははー。でもねーレナ様のむ、もがっ」

マゾヒストたちの会話が危ない。
ハマルが「鞭」などと口走る前に、近くにいたクレハとイズミがむぎゅっと抱きついて、ハマルの口を塞いだ。
絵面も可愛いし、ウルトラファインプレー!
今夜のごはんはクーイズが喜ぶドカ盛り飯にしよう、とレナは心の中で感謝の涙を滝のように流した。
ハマルが手枷を望んだ時点で店員からは色メガネで見られているのだが。

▽全員のブレスレットが 腕に装着された!

「皆様、とてもよくお似合いです」

「従魔の皆さん、可愛いです……!」

店員たちがにっこり笑って賞賛する。
ミノタウルス警備員が激しく頷き、職人はニッと満足げな笑みを浮かべた。
本当にそれぞれによく似合っているので、みんな自然な笑顔だ。
ベテラン店員がレナの手を眺める。

「とくにレナさんのローズブレスレット。
ブレスレットに選ばれただけあって、しっくり馴染んでいらっしゃるわ。
装着したら宝石の赤色がコクを増して……まさに|貴方だけのもの(オンリーワン)になりましたわね」

「ははは……」

レナは「これはどう成長しちゃうんだろう?」と考えて、苦笑いを返す。
じいっと、魅入られるようにブレスレットを見つめると、ローズミスリルと宝石がうっとりするように赤らむ。

……これで、変身。
とっても魔法少女らしくなりそうで、ポーズまで頭に浮かんできて、なんだかドキドキウズウズしてしまう。
いけないいけない! と、レナは大慌てで頭を振って、昂ぶる気持ちを鎮めた。
中学二年生時代を思い出せ!
いや、忘れろ!

<キラン☆>

スマホの画面が、懐でこっそり光っていたのは内緒なのだ……。

お支払いターイム!!!!

「お会計、よろしくお願いします」

店員に声をかけたレナがマジックバッグから取り出したのは、手のひらほどもある大きな金貨数枚。
ルーカに視線で支払い分の硬貨を聞きだしたので、金額ピッタリ!
使い慣れない高額硬貨を「これで良かったですっけ?」ととりあえず出してドン引きされる展開は免れた。

レナは金貨におののきながらも「数枚でいいと楽だなー」と気軽に店員にお金を渡しているが、それぞれ一枚がトランクケースに入った札束のようなものである。

高級店での買い物は額が大きくなるので、お釣りをジャラジャラ出さなくていいよう、店側は細かい端数を切り捨てて金額設定し、客は価値が高い硬貨を持ち込むのが暗黙のルール。
ラナシュにはかなり額が大きい硬貨も流通しているため、屋敷ひとつを硬貨一枚で支払い、という事も珍しくない。
レナの支払い方はとても好意的にとられた。

「ありがとうございます。お預かりいたします」

支払い慣れしているな、とベテラン店員がキラリとメガネを光らせる。
レナが堂々と、若干ドヤ顔をしているのも良かったのだろう。
笑いがこみ上げてきて小さく震え始めたルーカを、オズワルドが小突いた。

ベテランがさっと硬貨を[鑑定]して、本物だと確認する。
保証書をレナが受け取り、アリスも自分とモスラのぶんの支払いを終えた。
この支払いは私が! と譲らなかったのだ。

アンベリール・ブレスレットでの買い物は無事に終了した!

▽服飾保存ブレスレットを 手に入れた!
▽変身衣装を 登録しよう!

***

「「「「ありがとうございました!」」」」

店員たちの嬉しそうな声で見送られたレナたちは、軽く手を振って店を後にした。
監視用魔道具で店の外を確認してからお客様を送りだす、最後までとても丁寧な接客だった。

いや……そうしなければならないのだろう。
この店に入ったということは、必ず高価な買い物をしている。
もし店を張っている悪人がいれば、絶対目をつけられてしまうのだから、入念に警戒するべきなのだ。

「……うん。再確認したけど、僕たちに注目している視線は感じないね」

「ルーカさんがそう言うなら安心です」

レナたちがホッと息を吐く。
どんな魔道具で索敵するより、これが一番確実だ。

『ねぇねぇ、見て見てーー?』

『なんと! スライムの姿に戻ったら、ブレスレットが頭に王冠みたいに乗っかったのぉ!』

『『クーイズ・クイズ〜! ぱふぱふーー!
どこが頭でしょうかーー!?』』

クレハとイズミが、レナの両肩の上で、くねっと身をよじる。
まんまるスライムボディのてっぺんには、布製のフリルブレスレットがちょこんと乗っかっていた。
本人たちが主張するように、まるで繊細な王冠のよう。
これはこれで可愛らしい。

『……! うーんと、ええーっと……ここ!』

『やぁーーん! リリー、そこはオシリぃー♡』

『残念、ハズレだねー』

『むむ』

リリーが顎に手をやり考えこんでいると、シュシュが答える。

『ん。ブレスレットが乗っかってるのが頭って、今言わなかったっけ……?』

『『シュシュ正解ー♪』』

『やった! カンタン!』

『がーーん……』

リリーは真っ白に燃え尽きて、ハマルの金毛にもふんっと埋もれた。

<ああ、落ち込まないでリリーさん!
今回はクイズ正解ならず、で御座いましたね……しかし、それは伸び代なのだと考えましょう。
正解した時には素敵なものが得られると思えば! 勉強意欲に繋がるのです!
ええ、きっと>

『そ、それは……!?』

リリーが上体を起こして、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

<ズバリ。初体験の快感で御座いますぅ! 次回こそはクイズに正解して、初めての「イイキモチーッ!」を得るのですぅ!>

『リリー、クイズに正解するのって最高にキモチイイよ!』

リリーが刮目する!

『なん、だと……! ……ふふふ……やる気出てきた。勉強、頑張る。
協力して、くれたまえっ、スマホ先輩!』

<おうともよォ! そのいきです、そおーーれッ! リ・リー! リ・リー!>

『シュシュも応援する、次のクイズ頑張ろう』

3名が騒ぎ出してしまい、テンションにイマイチ乗り切れないオズワルド、アリス、モスラたちが困ったようにレナを見つめる……。

レナだってこの中身のない会話を上手くまとめる自信なんてない。

ブレスレット店で静かにしていたスマホは、相当会話欲が高まっていたようだ。
構ってちゃんなのである。

『なんとなくノリでクイズしちゃったけどぉ……レナー』

『あれって勉強してどうにかするものなのー? レナレナー』

「…………う!」

「(クレハ、イズミ、レナも答えづらいからその質問やめてあげてね)」

『『(いっけね。はぁーーい)』』

はたして、レナが捻り出した解決方法とは……!?

仲間たちの、期待と動揺と同情の眼差しをすべて受け止めた女王様は、バッ! と派手な動作で赤のローブをはらい、前方を指差す!
手首には、赤いブレスレットが燦然(さんぜん)と輝いている!!

「みんな、カフェでおいしいもの食べよっかぁ!!」

『『やったぁーー!』』

<むむ、格式高い高級店街のオシャレなカフェとな!? シャッターチャーーンスッ!>

これ以上ない誘い文句だった。

レナパーティの中でも特にノリがいい天然のふたりと、養殖無邪気なスマホはころっと先ほどまでの話題を忘れた。
頭の中はもうカフェスイーツのことでいっぱい!

「お見事ですレナ様!」

モスラの信仰心がおかしなところでまた高まっていく……!
拍手までしている。けして煽っているのではない。

『『?』』

「ああ、モスラ落ち着いて……リリーちゃんとシュシュが不思議そうな顔しちゃってるよ。(せっかくごまかしたところだから!)さぁさぁカフェに行こっか!」

レナがリリーとシュシュをひょいっとハマルに乗っけて、小走りに駆け出した。
うしろを振り返り、早く早く! と手招きする。

モスラがショックを受けて固まっている様子を見て、顔を少し引きつらせた。
このバタフライも冷静そうに見えて、再会ハイテンションの真っ最中なのだ。

「大変失礼いたしました……」

「モスラ、レナお姉ちゃんそんなに気にしてないって。
貴方のそんな表情見るの、ちょっと面白いけどね! ふふ!
さあ、歩いて歩いて。魔王国のカフェだって。楽しみー!
私のことスマートにエスコートしてくれるよね?」

機転を利かせたアリスが、モスラの手を引いてレナたちに続く。
心底楽しそうにクスクスと笑っている。
瞬時にさっと前に進んだモスラを見て、ああ表情が明るくなった、とレナも胸をなでおろした。

最後尾のルーカがオズワルドを見下ろす。
戦闘力が低いレナ、アリスを真ん中にして歩くと決めていたので、従魔の誰かがこの位置にいなければいけないのだ。

「僕らも行こう。レナかシュシュから離れすぎると、僕は災難に見舞われる可能性があるし……。
あのね、オズワルド。レナは貴方にも、なにか装飾品を買ってあげたいみたいだよ。
魔王から贈られた服飾保存ブレスレットがあるから、あの店での買い物は遠慮したけど、従魔を平等に可愛がってあげたいって思ってる。
どんなアクセサリーが欲しいか、早めに考えておいてね。
僕からレナにそれとなくアドバイスするから」

レナの思考は覗いておいた。

「……!? …………。主さんはほんとに律儀だな。別に、そんなに気を揉まなくていいのに……」

「レナの人柄、そろそろ分かってきてるでしょ。魂の繋がりもあるんだから。
オズワルドはあの子の従魔になったんだし、もう諦めて素直に愛でられなよ」

「…………アクセサリーどんなのにするかは、考えてみる」

「よろしく」

オズワルドが落ち着かなさそうに目を泳がせて駆け出したのを見て、ルーカは「まあ、気長にね……」と先輩風を吹かせながらスカした表情で呟く。

そして自分もみんなの後を追った。
心配した主人が、ちらりと振り向いたのを見て嬉しそうに笑った。

▽Next! 散策してから帰りましょ

 

 

 

 

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