111:ブレスレットを買おう1

「ここだね!」

「お、おっきぃーー……! それに豪華な佇まい。こ、ここここに入るんだね?」

「うん。レナお姉ちゃん緊張しすぎ。
”アンベリール・ブレスレット”トイリアのお得意様のオススメ店なの」

レナたちの目の前には、明らかにハードルがド高い、こじんまりした屋敷のような店舗。
”アンベリール・ブレスレット”……シヴァガン王国のブレスレット専門店の中で一番の高級店である。
大きく立派な看板がかけられているが、窓が小さく、店の中を外からうかがうことはできない。とても静かだが、営業しているだろうか?

「おお。これは……本当にすごい。どのブレスレットも、宝飾界で有名な人物が手がけているね。あ。マリアベルさんが作ったのもあるみたい」

「店員さんの仕事奪うのやめよう。中で説明を聞こうよ、ルカにゃん」

覗きのスペシャリストが中を視ることは可能だった。
店員は4人で警備員が4人、と偵察のようなことを口走る。

ルカにゃん、の名称を聞いてモスラとアリスがぷはっ! と吹き出す。

「ず、随分可愛らしいニックネームをつけてもらったようで……くくっ!」

「あははっ! お兄ちゃん、ご主人様に飼い慣らされてるねー」

「この通り」

ルーカが首輪の宝石を指でつつくと、スマホが<チリリン!>と鈴の音を響かせる。
全員がお腹を押さえて震えることになった。

店の前でこんなことをやっていたらどう見ても不審者である。
扉の傍に取り付けられた監視カメラの役割の魔道具が、じろり、とレナたちを映す。
目玉のような魔道具の瞳孔がスッと細くなった。

「あ。まずいね」

ルーカが呟くと、店の扉が内側から開いて、屈強なミノタウロスの男性が現れた。

▽高級店の 護衛ミノタウロスが 現れた! ×1

扉が大きいので、身長3メートルのミノタウロスも楽々通れる。
筋骨隆々の身体には高そうな黒いスーツを纏っていた。
ミノタウロスの後ろから、同じく黒スーツの女性が現れる。

▽インテリレディが 現れた! ×1

護衛の彼は魔物姿では言葉を通じさせられないので、威圧目的なのだろう。
女性がつんと目尻を吊り上げて、レナたちを見る。

「いらっしゃいませ、お客様。と、お声がけしてよろしかったでしょうか?」

表情はにこやかではないが、口調は丁寧で、もしお客様だった場合に悪印象を持たれないよう最低限配慮されていた。
怪しい動きをしていたレナたちに非があるので、きびしい視線は甘んじよう。

アリスとモスラが瞬時にさっと取り繕う。
ワンテンポ遅れて、他のメンバーもぴしっと気をつけした。

「初めまして。アリス・スチュアートと申します。
知人からこちらのブレスレット店の評判を聞いて、購入目的で伺いました。
店内の商品を見せて頂きたいのですが」

アリスがまず自己紹介する。
幼女だが、紹介されて入店権利を持っているのは彼女なのだ。

最年少バイヤーとして海向こうの商人間では有名なアリス・スチュアートの名前も、ジーニアレス大陸にはまだ届いていないらしい。
インテリレディは「知人の紹介」と聞いて表情を和らげたものの、特に驚く様子などはない。

「ご紹介、ということは、この店に馴染みのある方が勧めて下さったのですね。
遅ればせながら、ご足労下さり誠にありがとうございます、お客様。
ご知人のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」

「はい。紹介状です」

アリスはポシェットから羊皮紙を取り出し、インテリレディに渡した。
おや? 店員の様子が……

「………………………………………………少々お待ち下さいますか。サインの確認をして参ります。ご不便おかけいたしますが、我が店のしきたりなので」

「分かりました」

「ご快諾ありがとうございます」

アリスが頷くと、インテリレディはさっと店の中に姿を消した。
彼女がなんとか冷静な姿勢をつらぬいたのに対して、ミノタウロスは目を見開いて唖然と紹介状を眺めていたので、こちらにはまだまだ接客訓練が必要だろう。

「……アリスちゃん……」

「なぁに? レナお姉ちゃん!」

「……どんな人からの紹介状だったの?」

「知り合いの衣装屋さんだよ。ハット卿っていうの」

「卿」

卿呼びされる衣装屋とは、どのような存在なのだろうか。想像もつかない。こんな事態には慣れている。
アリスの顧客に名を連ねているくらいだ、きっととんでもないのだろう。
ブレスレット店の店員と合わせて、その情報を知れただけで十分だ。

レナは純粋にブレスレット選びを楽しめるように、そっと危ない思考に蓋をした。

「(趣味で衣装屋を営んでいるハット卿が、実は魔王国のすごく偉い魔人族だって話しようか?)」

「(いいです)」

間の悪いルーカにレナが一言でお断りの返事をした時、店員がまた姿を見せた。
店の中から「ハット様のお客様ぁ!? どどどどうしよう」「丁重におもてなししなくちゃ!」などと他の店員の動揺の声がわずかに聞こえてくる。
インテリレディはどうやら一番のベテランらしく、一瞬振り返り店内に笑顔を向けると、シーーン……と一発で静かになった。
▽効果は ばつぐんだ!

「お待たせいたしました。
店内で、どうぞゆっくりと商品をご覧になってください。気になるものがあれば詳細に説明いたしますので」

「ありがとうございます! 全員分のブレスレットを買いたいと思っているんです」

「まあ!」

インテリレディが今度こそ小さく驚くと、チラリととんがり尻尾が現れた。
ほんのまばたきの一瞬で消えてしまったが。

アリスの畳み掛けるようなファースト・インパクトは大成功であった。
全員が丁重に店内に案内され、ミノタウロス警備員がしっかりと店の前を確認し、扉を閉めた。

***

店の外観とは違い、店内はまさに”ショップ”らしいレイアウトになっている。
ショーケースがたくさん置かれていて、それぞれ職人技が光るブレスレットがゆったり間隔をあけて配列されていた。
ひとつひとつに職人の名前と、使われている素材の名称、製造方法が書かれたプレートが添えられている。
一点物ばかりのようだ。

「現在ブレスレットに付けられている宝石は、お客様にイメージを掴んでいただくための偽物(イミテーション)です。
まずはブレスレットの枠を選んで頂いて、お好みの宝石を後ほどはめ込むのが、当店のスタイルとなっております。
私どもは近くに控えておりますので、どうぞ色々なブレスレットをご覧になってください。
申しつけて頂ければ、手にとって眺めてもらうことも可能です」

インテリレディはそう言うと、一歩下がって礼をした。

ふっ……と店員たちの視線、存在感を感じなくなり、これが高級店店員の技なのか……と、レナも肩の力を抜いた。
みんなが思い思いにショーケースを眺め始める。

「どれも素敵だね」

『『きゃーーー♪』』

『キラキラなのがいっぱい! シュシュ、目移りする……』

『ほんとだねー。自分に似合うのってどれだろー? ピンとくるやつ、探さなきゃねー』

「製造方法とかにもかなり種類があるんだなぁ。
えーと、妖精族が作った繊細な金属のアクセサリーや、ハペトロッティが編んだレースの生地に宝石が縫い付けられるものも……。
ドワーフ族が武器窯で作った、魔法鉄素材のまるで武器みたいなゴツいものもあるねぇ!」

『付与魔法、すごいっ。自動洗浄効果に……ほつれ直し、だって。
わ! 気温に合わせて、登録した服が……ほんのり温かかったり冷たかったり、調節もしてくれるの』

<懐であたためておきました、で御座いますね!>

「主人の仕事の関係でたくさんの宝飾品を目にしますが、これほどの逸品にはなかなか巡り会えません。
高品質なものが揃えられていて、本当に素晴らしい」

モスラがさりげなくこの店をわっしょいすると、店員が誇らしそうに胸をはった。
ミノタウロス警備員のスーツがもうはちきれんばかり、ボタンが吹っ飛んでしまいそう。

このオーラがある執事の主人がアリス・スチュアートその人だと知った時、店員はまた度肝を抜かれるのだろう。
今はまだ、お金持ちの家のお嬢さんが執事と友達とお買い物に来た、と思われている。

(レース編みのブレスレットの枠が……ひえっ! じゅ、100,000リル!?
ケタ間違ってないんだよね!?
シルバーシープの糸を、魔力保有のパールオイルに漬け込んで、月光にあてて乾かしたものを使用している……。そっかぁ、手間がかかってるんだなぁ……)

レナが値札を見て白目を剥きかけているが、まだまだ。
ここに宝石の値段が加わるのだ。
アリスの提示した予算は、王都にお屋敷が買えるくらい! なのだからもっと気を大きく持ってもらおう。

レナはこんな調子だが、紹介状を持ってきたアリスは堂々としているので、店員もホッと胸を撫で下ろしている。
言ったばかりだが、ブレスレット本体の値段だけで怖気づいていられては困るのだ。

レナがゴクリと生唾を飲み込む。
ルーカに視線を送った。

「(大丈夫だと思う。店員たちの人柄もいいし、悪者に監視されているとも感じない。申し出てみたら?
むしろ店側はその一言を期待しているみたいだし。
ここをレアな魔物が訪れることもあるみたいだから、対応にも慣れていると思う)」

同じく[心眼]を持つリリーが『おーよしよし、怖くない、怖くない』とレナの頭を撫でて微笑みかけたところで、レナも覚悟を決める。

「あの……魔物たちにそれぞれ一番似合うブレスレットを選びたくて。ここでヒト型に変身させてもらうことって可能ですか?」

「はい。着替え部屋がございますので、そちらに案内いたします」

店員がにこっと笑みを浮かべて、レナと小さな従魔たちをカーテンの奥に案内する。
レナは「そんなに目立つ行動じゃなくて良かったぁ」と安堵しながら、ルーカからシュシュを受け取り、両腕にシュシュとハマル、両肩にスライム、クスクス笑うリリーにまとわりつかれ、仕切りの向こうに移動した。

「主さんは慎重派だな……良いことだと思う。
従魔全員がヒト型でこの高級店街をうろついていたら、絶対にどこかでろくでなしに目を付けられるもんな。目立つから。
このパーティには威嚇に向いた強そうな見た目の魔人族がいないし」

「おや。喧嘩売られてます?」

「そのようだね」

「モスラは大きいけど、一見体躯が細身だし令嬢受けする従者って感じ。
ジミーは率直に頼りなさそう。
実力どうこうじゃなくて、見た目が弱そうだから寄ってくるやつもいるって話だよ」

オズワルドが「分かってるだろうに、言葉遊びが好きな人たちだな」と呆れながらモスラとジミーを見上げると、性格が厄介なお兄さんたちは「親しみを込めた冗談だよ」と大人げなく答える。
よくしゃべりよく甘える他の従魔たちに圧倒されて、つい口を開く機会を逃してしまうオズワルドをリードしてあげているのだ。
話題のフリがめんどくさいだけで。

シヴァガン王国政府から国民には、もう「魔王の息子が王宮を出た」と伝えられている。
珍しいことではないので、自然に受け入れられているようだ。
オズワルドが魔物使いとともにいるということはもしかして……と店員は考えているが、口には出さない。

そうこうしていると、簡易なワンピースに着替えた従魔たちがカーテンの向こうから顔をのぞかせた。
案の定、着替えながらレナに甘えていたのだろう、レナがほくほく顔である。
店舗のフィッティングルームで何をやっているんだ。

それぞれ、宝石のような赤と青の髪の双子、きらめく乳白の髪の褐色肌の美幼女、星の金髪のヒツジ獣人、ミルキーピンクの髪のウサギ獣人。
見よ、これが可愛いの極みである!!

「えっ。全員、まだこんなに幼かったの!? か、かわいっ……!」

「うわぁ、お顔整ってるなぁ……装飾が華美なブレスレットでも問題なく着こなしそうだねぇ」

うしろに控えていた店員とミノタウルスがとろんと表情を緩めたところで、ベテランがゴホンと咳払い。
ぴしっと背筋を伸ばし直していた。

「あのね、これがいいのー!」

「お揃いで二つあるしね!」

クレハとイズミまず小走りで駆けよって、指差したのは上品な輝きのマジカルシルクレース編みブレスレット(白)。
細い繊細な糸をハペトロッティたちが手編みして、フリルのように重ねている。
贅沢な品だ。

「宝石の枠は金色と銀色のがある」

「どっちが、クーとイズに似合うかな〜?」

「「アリスー!」」

クレハとイズミが、店員にショーケースから出してもらったブレスレットをそれぞれの手のひらにそっと乗せて、アリスを振り返る。
こてんと小首を傾げた。
レナが崩れ落ちかけて、店員とミノタウルスたちがふるふる震えている。

「どっちの色もお互いに似合うだろうけど……そうだね。
はめ込む宝石は、お互いの髪の色にするつもり?」

「「うん! クーとイズらしくていいでしょー?」」

「じゃあ……クレハは赤と金、燃える太陽のイメージ。
イズミは水色と銀、涼しげなブルームーンのイメージ。どう?」

「「か、かっちょいいー……!!」」

クレハとイズミのハートに、アリスのナイスな言葉がズギュゥゥン! と刺さったようだ。
上手いこと厨二心をくすぐってみせた。

「「それにしよう〜! 店員さん、お願いっ」」

「かしこまりました」

ご機嫌なクーイズのおねだりを真正面から受けて、ベテラン店員も思わず表情を緩める。

「赤と水色の宝石が良いということなので、こちらに50種類ほど用意いたしました。
ブレスレットの枠に合わせて、丸みのある宝石を揃えております。
どれか気になるものはございますか?」

「「これ!」」

クレハとイズミの選択には迷いがない。
ケースに並べられた宝石にさっと目を通すと、それぞれ一つをはっきり指差してみせる。

「まあ。お目が高いですね……!
こちらはとても希少な、フレアルビーとマリンサファイヤです。
フレアルビーは火山帯に近い鉱山だけで、極々稀に見つかる鮮やかな赤の貴石(きせき)。
マリンサファイヤは、その昔航海船から落ちたサファイヤの粒を飲み込んで成長したと言われる、希少な宝石貝の核を磨いたもの。
最高級品でございます」

「「えへん!」」

ベテラン店員がちらりとレナを見る。
従魔たちのブレスレットの支払いはレナだと聞いている。

「それでお願いします。宝石の枠の7つ分、同じものを揃えてもらえますか?」

「承知いたしました。ありがとうございます」

レナが答えると、後輩であろう店員ひとりが一礼してスッと店の奥に消える。
おそらく同じ種類の宝石を準備するために退席したのだろう。

「他の方にもブレスレットを選んで頂いてから、魔法で台座と宝石を接着してブレスレットを完成させましょう」

「「はーーい! ちゃーんと待てるよ!」」

ベテラン店員がしゃがんでクレハとイズミに声をかけると、2人は元気いっぱいに返事をする。
みんなが笑顔になった。

「リリーちゃんはどれが気になる?」

「この、白銀のブレスレットがいいの……。宝石は、青が合うかな?」

「繊細な銀細工だねぇ」

リリーがうっとりと見つめるショーケースの中には、細やかな模様が彫られた、華奢な白銀のブレスレット。

「あ。いや、プラチナみたいだよ」

「あれっ……ほんとだ……。てへ」

ブレスレットの美しさに魅せられて説明書きをきちんと読んでいなかったリリーはペロリと舌を出してごまかし笑いした。
スペシャル可愛いので、よし。

訂正するタイミングを見計らっていた店員は、気づいてくれて良かった、とホッと小さく息を吐く。
レナたちは怒らないだろうが、訂正されて機嫌を損ねるお客もいなくはないのだ。

「これ!」

リリーも迷わず宝石を選ぶ。
レナが褒めてくれる、自分の瞳の色にそっくりの深い青色の宝石。

レナの従魔はみんな、自分の容姿が好きだ。
ルーカも下心なく髪や瞳を褒めてもらうのは嫌ではないらしく、寝室にいる時は素の金色のままくつろいでいる。
おそらく全員、ブレスレットは容姿に似た色を選ぶだろう。

「マジカルレイク・ラピス。地底洞窟で暮らす地底族が守る、魔力に満ちた特別な湖マジカルレイクに、高品質の瑠璃(ラピスラズリ)を沈めて作られています。
じんわりと魔力が浸透して内側から輝きを発するようになるまで、約500年。
その中でもとくに美しく仕上がったものを仕入れました」

店員がはきはき説明すると、リリーは目を瞬かせる。

「わあ。由来も……とっても素敵だね!
ラピスラズリ、だったんだ。変わった輝きだから……別の宝石かと思ってた。トパーズとか。
色々あって……宝石、面白いね!」

「「えへん!」」

クーイズがまた胸をはった。
ジュエルスライムという種族を感づかれないかとレナはヒヤヒヤしていたが、幼子の仕草なので、微笑ましいわね、という評価でまとまった。

リリーのブレスレットはプラチナに青の宝石で決定!
さくさく行こう!

「レナ様ぁ〜〜」

「うん。ハーくんはこれね。ずっっっと目が釘付けだったもんね……うん……。これを私に渡して、それからどうして欲しいのかな?」

「 ああ〜〜そんな事を聞かれるなんて〜〜わーい!
レナ様、これで心のみならず腕も束縛してくださいー!」

「うん…………」

大はしゃぎでぴょんぴょん跳ねながら、ハマルがレナに差し出したブレスレット。
それは……まるで手枷のような形状だった!
マゾヒツジ大喜び不可避。

店員が「えっいいの? 今までは幼児それぞれのイメージに合ったブレスレットを選んでいたのに、この子はそれでいいの?」と激しく動揺している。
これは、大型のごつい魔物が好む形状のブレスレットなのだが……。
可憐なくるくる金髪の男の子が装着したところを想像すると、イケナイ絵面しか浮かんでこない。

さすがに余計なお節介になるので無遠慮に口を挟んだりはしないが、店員は複雑そうな表情だ。
でも、ハマルはこれがいいのである。
喜び具合を見て、慣れっこのレナが苦笑した。

「この子のは、これでお願いします。気に入ったみたいなので。
ブレスレットにはめ込める宝石を見せてもらってもいいですか?」

「は、はい。こちらに用意してあります。
……お気分を害してしまうかもしれませんが、ひとつ提案させて下さい。
このブレスレットを作った小人(ピピット)族が店舗に控えております。
もしご興味がおありでしたら、ブレスレットのデザインをもう少しハマルさんに似合うよう改良いたしましょうか?
今の状態ですと、その、大柄な成人男性向けに作られているのでかなりごつく、コーディネートしづらいかと……」

「そういう事もできるんですか!」

「はい。小人(ピピット)族テグリピピッタ、妖精族クールが作ったブレスレットでしたら、既存のデザインに手を加えることが可能です。
宝石とブレスレットを接着させるために、彼らは店員として控えているのです」

「どうする? ハーくん」

「うーー……」

ハマルがブレスレットを凝視して、むむむ……と悩んでいると、小人族テグリピピッタが現れて、ハマルとそっと目を合わせた。
小人族は成人していても、平均身長が男女どちらも100センチほど。
今のハマルよりも、隣に並んだテグリピピッタの方が少し小柄である。

「君は、僕が作ったブレスレットを気に入ってくれたの? ありがとう」

「うん……。あのねー、この手枷みたいなのがいいなぁって思ったんだー。変えたほうがいいのかなぁ……」

「!! 君のそのセンス、素晴らしいと思うよっ!」

「本当ぉ? それじゃあ……もしかして同志?」

「おそらく」

「わー! いえーい」

ハマルとテグリピピッタが、元気よくスパァン! とハイタッチした。

周りの者は皆、目が点になっている。
どうやら業界人同士、ビビッときたらしい。
レナが額を押さえた。

「この手枷の形状、ゾクゾクするでしょ?」

「わかるー!」

「だよね!? なかなか共感してくれる人がいないから、嬉しいなぁ。
ごつくてカッコイイブレスレットをお求めのお客様はいるんだけど、『手枷だから好き』って言ってくれたのは君が初めてだよ!
じゃあ手枷の見た目のまま、デザインだけ一般向けにしてみようか。
色を入れたり、厚みを薄くしたり。
鎖も君の手に巻くなら、もう少し華奢なほうがいいな」

「うんうんー、貴方に任せたら大丈夫そうだねー。
あのね、レナ様に装着してもらうのー。僕のご主人様だからー」

ハマルとテグリピピッタがレナを見上げた。

「……そんな目で見ないでぇぇぇ……!」

「テグー、視線が不躾でお客様に失礼です。控えてください」

スパッとベテラン店員に注意され、小人族は「いっけね」とブレスレットの改良を始めた。

幼児よりも小さな手のひら、しかし指は長め。
器用にくいくいっと指先を動かしながら、少しずつ手枷の形状を整えていく。
最後に[スポイト][ペイント]スキルで金属に色をつけた。

「ブレスレットのポイントに、君の夜空みたいな目の色を写したんだ」

「すごく気に入ったよー! ありがとうー。ここに藍色が入ってるからー……宝石はちょっと色が薄めのを選ぼうかなぁ」

ハマルが選んだ宝石は、色の組み合わせ重視で、ウィステリア・スターという藤色の宝石。
ほんのり青みがかった薄紫で、きれいに磨かれた表面には、クーイズがたまに吐き出す宝石みたいなスターの光の筋が見られる。

「ひと仕事ついでに」と、テグリピピッタ、略してテグーが宝石をブレスレットに接着してサイズ調整してくれた。
ハマルが輝く瞳で、さっそくレナに手枷を差し出す。

「しょうがないなぁ……。はい」

苦笑したレナがカチン、と留め具をとめて、華奢な鎖を手首に巻きつけてあげた。
ハマルは心底嬉しそうに、ブレスレットに頬ずりしている。

それでは気を取り直して、シュシュのブレスレットを選ぼう!

「ん!」

ハマルのブレスレット調整が長引いたので、シュシュはうずうずしていた。
自分の番が回ってくると、好みのブレスレットと、店員に用意してもらっていた宝石をレナに見せる。

「どう? ご主人様!」

「天使の羽をモチーフにしたブレスレットに、濃いピンクの宝石にするんだね。
シュシュによく似合うと思うよ」

「やったー! 上手に選べた? シュシュ、褒めてもらえる?」

「えらいー可愛いーシュシュ最高〜」

レナが柔らかいピンクの髪を優しく撫でると、シュシュは満面の笑顔になる。
いちゃつきはこれくらいにして、宝石の説明を聞こう。

「このブレスレットは白い貝殻の粉を練って作られたものです。魔法銀と乾燥ヒカリゴケの粉も加えられていて、月光花ハチミツで練り上げ、高名な光属性のフェアリーが手がけました。
まるで陶器のようななめらかな触り心地でしょう。
羽のように軽くて、個性的なデザインも職人ギルドから高く評価されています」

「マリアベルさんの作品なんですね」

「……職人と既にお知り合いでしたか。さすが、ハット様のご知人ですね」

そういえばマリアベルは、魔王国のかなり重要な人物なのだった。お忘れなく。
失言には気をつけなきゃ、とレナはごまかし笑いした。

「こちらのピンクの宝石はロードクロサイト・ハピネス。濃厚なピンクカラーが女性に人気です。
大昔の薔薇の花が化石になったものが、この宝石の原石。
原石のままでは赤茶色なのですが、これを土に埋めて、その真上で薔薇の花を育てます。すると花の中央に、ロードクロサイト・ハピネスの宝石ができあがるのです。原石と同じだけの体積の宝石が収穫できます。
恋愛運アップ、ほんのりと薔薇の香りがしますよ」

「うんっ。この香り、好き……」

シュシュが鼻をひくひくさせ、宝石の匂いを嗅いでうさみみを揺らした。

小粒のロードクロサイト・ハピネスが7粒と、飾り用に、しずく型のピンクダイヤモンドも取り付けてもらうことにする。
こちらは魔法がかけられないそうだ。

「……僕のはこれで。動くときに邪魔にならない、シンプルなのがいい。
ブレスレットの説明は気にならないから、割愛でお願いします」

ルーカの選択は、いかにも芸術性にこだわらない彼らしい。
はちみつ色の金属に楕円(オーバル)型の宝石がはめ込まれる形状。
自己申告しているように、華美な装飾はなくシンプルである。

ブレスレットの説明という重要な仕事を奪われた店員が口端をひくっとひきつらせていたので、レナがわき腹のポイントを小突いて膝を折らせた。

「ア、アリスさん。どの宝石がこのブレスレットに似合うか、選ぶのは貴方に任せるよ。
僕は運が悪いし、貴方が一番センスがあるでしょ」

「当然です」

ルーカが身悶えしながらアリスに頼むと、なぜかモスラが誇らしげな顔になった。
運が悪い、というのは、「もしかしたら由来がよろしくなかったり、検品でも見抜けなかった不良品を掴んでしまうかもしれないから」と考えたらしい。
仲間たちが神妙に頷く。

レナが視線で「(アリスちゃんの見せ場を作ってあげたの、えらいです!)」と褒めてあげる。
けして、わき腹に思ったよりも指が深くグリイィッとめりこんだお詫びなどではない。
これで機嫌を持ち直すのだから、ルーカもちょろいものだ。
ネコミミは嘘をつかない。

「では、このロイヤルアメジストにしましょう。深い紫色が、ジミにゃんにぴったりだよね」

「ナイスセレクト! アリスちゃんが選んでくれたなら間違いないね」

アリスは自分で言った「ジミにゃん」にウケて震えている。
レナは何かをごまかすように、輝きマシマシの笑顔を見せた。
宝石の説明はバッチリ割愛された。

「モスラは?」

「こちらをお願いいたします。普段の執事服にも合うブレスレットで、袖に引っかからない布製のものを選びました」

モスラが選んだものは、黒のダイヤパターンの布地に、珍しいひし形の宝石が付けられるようだ。

「ありがとうございます。
ただ、大変申し訳ないのですが、ひし形で付与魔法がかけられる宝石は数が少ないのです。
こちらの中から選んで頂きたいのですが……」

店員が申し訳なさそうに店の奥から持ってきた宝石は、今回はわずか9種類ほど。
付与魔法がかけやすいのは、丸みがあり、内包された輝きが美しい宝石らしいのだ。
なので、ひし形で魔法付与された宝石は珍しい。

とりあえず、ブレスレットに装着する7粒ぶんが揃っている宝石を持ってきてくれた。
この店舗にあるブレスレットは、どれも最大数の7パターンぶん、宝石がはめ込めるよう作られている。

モスラはさっと目を通しまつげを伏せると、嬉しそうに、指先でひとつの宝石をつまみ上げた。

「私はどうやら運がいいようです。この中に、とても好みの宝石がありました」

「おや、それは僕への挑戦なのかな? モスラ」

「自意識過剰なのではないでしょうか?」

ルーカと軽口の応酬を楽しむモスラの指先を見た店員は、なるほど、と頷く。
選ばれた宝石はモスラのイメージそのもののような、深みのある紅色。

「|皇帝の石榴石(インペリアル・ガーネット)。ルビーと同じく、輝石として扱われるとても格が高いガーネットです。
遠目にも映える鮮やかな紅色なので、この宝石を愛用する王族も多い。
頑丈で魔法をかけやすいので、様々な形状に加工される傾向があります」

「素晴らしいです。では、ブレスレットの布地は?」

「闇魔法のスペシャリストが[漆黒ノ霧]を何度も染み込ませた、何物にも染まらない絶対の黒色が高く評価されている闇絹です。
着用者が望めば、気配を消す効果があります」

気配を一切感じなかったのに、振り返るとそこにいるモスラ……。なんて恐ろしいのだろう。
このブレスレットと宝石の見た目のみならず、効果・由来もモスラはとても気に入ったようだ。
スペシャルな笑顔で「では、こちらでお願いいたします」と店員に告げた。

「アリスちゃんは……」

「このオレンジがかった金色のブレスレットにしようと思う。
さっきクレハとイズミに見せてた丸い宝石の中にあった、コバルトサファイヤの宝石をはめ込んで頂けますか」

「は、早い!」

レナがビックリしている。
アリスはとっくに、自分のブレスレットを脳内でコーディネートしていたらしい。

この店を紹介されたアリス本人が何も買わないわけにはいかない、それに早着替えができるのは便利だから、と魔人族ではないがブレスレットを買うと決めていた。

ほとんどのヒト族は服飾保存ブレスレットを使わない。
魔人族のように早着替えが絶対必要なわけではないし、ブレスレットは最低価格でも高価なので、それならば新しい服を買う、とヒト族は考えるのだろう。

資金に余裕がある貴族は、使用人に着替えを手伝わせることがステータスでもあるので、このブレスレットをわざわざ買い求めない。
Sランク相当のヒト族冒険者が、洗浄魔法が付与されているブレスレットを買うことがたまにあるようだ。

アリスが特に価値のある宝石を選んだので、店員も感心している。

「こちらのコバルトサファイヤは、当店でも今回お求め頂いた7粒しか在庫がございません。
青い目のドラゴンが討伐された際、こぼれおちた涙が偶然にもコカトリスに見つめられ、宝石になったものなのです。新しく素材を手に入れることは非常に困難なので、もう二度と手に入らないかもしれません……。
確かな目をお持ちですね」

「私の職業はバイヤーですもの。目は商売道具なの」

アリスがそう告げて、ここで初めて、アリス・スチュアートが史上最年少商人だと明らかになった!

<ジャジャーーーーン!!>

スマホがレナたちの脳内でだけBGMを鳴らすので、仲間の腹筋が鍛えられている。

店員たちが冷や汗を流し、慌てて佇まいを直した。
この幼女の貫禄はただ者ではないと思っていたが、まさかそれほどの逸材だとは……!

「今後も何卒、アンベリール・ブレスレットをよろしくお願いいたします」

「こちらこそ! 是非、お取引させて頂きたいです」

アリスとベテラン店員が、お互いの魔力が込められた名刺を交換した。

どうやら店長は不在のようだ。
ベテラン店員が残念そうに詫び、アリスも「連絡せずに来てしまってすみません」と返す。
良好な関係を築けそうだ、とお互いの目が貪欲にギラリと光った。

……それでは。お待たせいたしました!
レナのブレスレットを選ぼう!

「「「「「これがいいーー!!」」」」」

もう選ばれていたーーー!
幼児たちが、わくわくと1つのショーケースにレナを案内する。
みんなで手を引いて、シュシュなんてスキップしている。

「は、派手じゃないかなぁ?」

ひとつのショーケースに、ひとつだけブレスレットが収められている。
まさにそのブレスレットのための舞台だ。
レナが恐る恐る、ショーケースを覗き込んだ。

「すっごくオシャレでキレイ……!」

無意識に、ほうっと甘いため息をつく。
こんなに美しいブレスレットが似合うだろうか? と己の手首を見て、自信がなさそうに苦笑した。
しかし、またうっとりショーケースを眺めてしまう……。
それほどの魅力がある作品なのだ。

「薔薇の花みたいなデザインがとっても可愛い、と思った!」

「繊細な装飾だよねー。レナ様の白い手に映えそう〜ふふふ〜」

「「とろみのある金色の宝石枠もきれーだしー♪」」

「私たちの、特別なご主人さまに……ぴったり♡ だと思うのっ」

<賛成! 賛成賛成賛成賛成賛成賛成賛成賛成! 賛成率100%!>

従魔たちは、これ以外ありえない! と口々にレナに主張した。
みんな主人が好きなのね、とやわらかく微笑みながら、店員が素材について説明する。

「宝飾界の天才が創造したブレスレットです。
ローズミスリルでつくられた薔薇の花、太陽金の装飾……女性向けのロマンチックなデザインですね」

「レナお姉ちゃん、もう魅了されたみたいだね」

「アリス様のおっしゃる通り。自ら装着者を選び、魅了するブレスレットだと聞いております。
これまで魅了効果が発動したことはなかったのですが……レナ様のお人柄にブレスレットも惹かれたのでしょう」

「ええ? そんな、まさかぁ」

ベテラン店員の持ち上げに、レナがひくっと頬を引きつらせる。
これは……従えてぇーーーー!!

「レナ、レナ」

「ジミーさんお口チャック!
……詳細に説明されずとも分かりましたから、そのネコミミがすべてを物語ってますから! ……ッ」

▽レナが ローズブレスレットを チラ見した。

▽ブレスレットの 魅了の輝き!

▽諸刃の剣となった!
▽ブレスレットは 女王様の魂の輝きにひれ伏した!

▽レナは びしっとブレスレットを指差す!

「これ下さい!」

「「「「「わーい、レナ女王様にぴったりーー!」」」」」

「し、しぃーーーっ」

レナ様ってば思い切りがいい。
1,000,000リルのとんでもないブレスレットを勢いで買った!
店員もホクホクである。
このブレスレットは長い間、店で売れ残っていたのだ。
ブレスレットが好まなかったお客様には、色がくすんで見えると不評だった。

「ありがとうございます! では宝石は……」

「赤色の宝石を準備して頂けますか。レナ様によくお似合いになるでしょう」

「は、はい」

レナが息つく間もなく、モスラの一言で今度は赤の宝石が運ばれてくる。

レナの髪色に合わせて黒い宝石が準備されていたので、店員は大忙しだ。

「ジミーお兄ちゃん。宝石の選別、真剣にお願いね」

「まかせて」

ルーカが一瞬レナをチラ見して、好みを分析、赤い宝石の中から一番性能がえげつないものを選び抜く。
選別ガチ勢に隙はない。
アリスの悪ノリがいい。

「これでしょ?」

レナの好みドンピシャ!
内側から光が溢れるような、キラキラの薔薇色の宝石をルーカは満足げに選ぶ。

ブレスレットの形に合わせて、大粒の宝石をひとつ、小粒の宝石を5つ。
大きな宝石には、2パターンの服装がまとめて登録できるとのこと。

「ローズライト・クイーンルビー。
とにかく赤が美しく、帝国の女王様も愛用しているという宝石です。
ジーニアレス大陸の一部でほんのわずかに採れる希少石。
身につけた者に自信と勇気を与えてくれる、ポジティブな宝石です」

これ以上レナがポジティブになるということかーー!

「宝石の名称に、クイーン……。なんという巡り合わせ……」

<運命! 運命! フゥーーーー!>

スマホが大はしゃぎしている。
従魔たちがキラキラの眼差しでレナを見つめている。
▽従魔の 上目遣い!

「これ下さい!!!!」

「ありがとうございます!」

▽レナの 大人買い!
▽超高級、赤い宝石のブレスレットを 手に入れた!
▽祝福の魔道具シリーズに 育てよう!

「主さんって、ひたすらエンターテイナーだよな……」

オズワルドの的確な一言が、レナの精神にトドメをさすのだった。

 

 

 

 

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