109:ちょこっとお話

シヴァガン王国に向かう道中に、レナたちはざっくりと話を済ませておくことにした。
縮こまって冷や汗を流すレナに対して、アリスが大人びた苦笑を向ける。

「別に……頭ごなしに叱りつけようってわけじゃないんだから。
レナお姉ちゃんは、その場で最善の判断をしようと頑張ってたんだよね。それはよく分かるよ。
レナお姉ちゃんの人柄、すごく好き。
ただ……心配もしてるの。
あんまり怖がられると、ちょっと辛いなぁ」

「あ。ごめんね。つい、構えちゃって。
アリスちゃんは私が目を背けてるダメな所をキッチリ指摘してくれるから、耳が痛いんだよねぇ……。
……ありがとう。いつも私たちのことを気にかけてくれて、言いにくいこと言ってくれて。
こんなに有難いことってないなぁと思うよ」

「うん、まかせて!
レナお姉ちゃんが経験したトラブルの原因を見直して、もし別の判断をしていたらどうなっていたかの予測、これから出来るだけ厄介ごとに巻き込まれないで済むための立ち振る舞いを、徹底的に話し合おう!
今夜は寝かせないよ」

「ひ、ひぃーーー!」

レナの口から悲鳴が漏れると、アリスはニヤリと口角を上げる。

「あ、これはちょこちょこスマホ通話で聞いてた、それぞれの旅状況に対する問題点の指摘と分析のお手紙。
私、言い忘れないように考えを全部したためたの。
きっとレナお姉ちゃんのためになると思うから、また何度でも読み返してね!」

アリスは斜めがけしたマジックバッグの中から、分厚い封筒を取り出してレナにチラ見せすると、今度はにこっと可憐に微笑んだ。
笑顔2回で飴と鞭を体現している、なんという幼女。
便箋などという生易しいものではない、書類を入れるためのでっかい封筒である。
あとでまとめてレナに手渡される。

気にかけてもらえて有難い、と発言した直後のレナに逃げ道などなかった。

「合計7冊あるの」

レナの目から光が消えた。
手紙を”冊”で数えるんじゃない。

アリスとモスラは、スマホの友達通話でたまにレナと話をしていた。
最近よく主張するようになったスマホと「いつもありがとう」<従魔として、マスター・レナのために働くのは至上の喜びで御座います!>と挨拶している。

のんびりのんびり、ヒツジが主人たちを乗せながら森を進む。
索敵はもちろんバッチリ。
黒いネコミミがゆらりと一方向を向くと、

「スキル[感電]」

ルーカの指先から青白い光が伸びて、バチィッ! と音を立てて吸血ハチドリを落とした。
ハチドリはピクピクと痙攣して、地面で撃沈している。

「レナ。いる?」

「えっ。ハチドリですか? そうだなぁ、素材として特別な点がなければ、クレハとイズミのおやつにしましょうか。小さいから普通の食用には向かなさそうですし」

「了解。じゃ、どうぞ」

『『わーーい!』』

クレハとイズミが仲良く混ざりあって紫スライムになり、ハチドリをぱっくんちょと包み込んだ。
体内をたゆたっているので、味わって食べているのだろう。

『『雷のピリピリ感が残ってて美味しぃ〜〜♪』』

「それはよかった」

いつもは問答無用でレナに「あげる」と狩りの成果を手渡すルーカだが、今回は、主人と一緒にヒツジライドするアリスに気を使ったらしい。
アリスはまだルーカを少し警戒しているようなのだ。
レナが「よく出来ました」とルーカに声をかけると、嬉しそうにネコミミがピンと立った。

モスラはそのやり取りを、複雑そうな顔で眺めている。

「……ネコミミヒト族、でしたっけ。なんともまた珍妙な事態ですね……」

「貴方と話すの、久しぶりだね。モスラ。元気そうで何より」

「ええ。そちらも、晴れてレナ様の従魔となったようで。これからは仲間としてよろしくお願い致します。今、幸せでしょう?」

「うん。とても」

黒猫ルーカがふうっと肩の力を抜いて、柔らかく微笑んでみせる。
モスラは眉尻を下げて微笑みを返したものの、表情はくもったままだった。
どうしたんだろう、とレナと先輩従魔がその様子に首をかしげる。

普通に「落ち込んでる?」と声をかけても、モスラは上手く取り繕ってしまうかもしれない。
先輩従魔たちから、ご主人様お願い! の視線が送られた。

「ご主人様頑張っちゃう!」

「? ええと、応援しております、レナ様」

声に出してしまったら、なんのこっちゃである。モスラが首をかしげる状況になってしまった。

「あ、いやー、その。ね! そういえばモスラ、ネコミミヒト族のこと知ってたんだね。宰相さんたちに聞いたの?
あ、それとも……アナウンスって従魔全員が共通で聞き取れるけど、もしかして海の向こう側から進化のお知らせが届いてた?」

「!! レ、レナお姉ちゃん、それは……!」

「え?」

レナが話しかけた瞬間。モスラの歩みがピタッと止まり、顔にどんよりと影が差した。カタカタと震えて、ぎゅっとかたく拳が握り込まれる。
皆がぎょっとする中、アリスが「あちゃー」と額を押さえた。
モスラの紅色の瞳が、暗い光をギラリと宿す。

「……ええ、ネコミミヒト族クラスチェンジの福音(ベル)はトイリアまで届いておりました。
私はその時、食事の準備をしていて……驚きのあまり、手を滑らせて、皿を……床に落下させてしまい……シリーズで揃えられた廃盤カトラリーセットを台無しに……! くっ、執事としてあるまじき失態……ッ!」

まるで呪詛のようにブツブツと呟くモスラ。
ネコミミヒト族の話題は、完全に地雷を踏み抜いてしまったようだ。
皿を割ったというミスは、完璧執事を目指すモスラのトラウマになっているらしい。

大急ぎでレナがフォローに回る。

「そ、そんなに落ち込まないでモスラ! 誰だってアレは驚くよ。私なんて、魔王国の役員さんの前で叫んじゃったもん! アアーーーッ!? って」

「面目ない。僕の最大のピンチを、赤の女王様の恩恵が助けて下さったというこの」

「宣教師やめましょう、そこ! こんがらがるから!」

「なんと慈悲深い……。……さすがですレナ様、覇気を纏った赤色がよく似合う我らが主!
路頭に迷いかけた旅仲間を救うために懐に招き入れ、くっ語感が……従魔の失態も優しく受け入れて下さる度量。
貴方の従魔でいられて、私は本当に幸せ者です!」

「モ、モスラが壊れた」

いや、出来上がっているのだ。
赤の女王様を慕う信者として。
ドえらく大げさなセリフをほぼ息継ぎなしで言い切ったモスラは、感動のあまり瞳を潤ませると、ヒツジにまたがるレナにドラマチックな仕草で手を伸ばし、力強く頷いてみせた。

「今回お許しいただいたこと、私はけして無駄にはいたしません。
今後いっそうの精進を、誓います。この魂に」

モスラは反対の手で自分の胸の中央を、トン、と軽く拳で叩く。
魂に刻まれた従魔契約印のことを指しているのだろう。

「そんなに堅くなくていいのにな。みんなが笑顔でいてくれたなら、ご主人様は嬉しいんだよ。
でもモスラが色々頑張るっていうなら、応援はするからね」

レナが手を取り、柔らかく笑いかけた。

「! ありがとうございます、そのお言葉で私はまたこれからの特訓を頑張れます。
いつかきっと……100人分のフルコース料理を1時間で作りあげ、1000人分の配膳も完璧にこなし、相手の思考をまるごと奪うような微笑みを身につけ、睨み1つで心臓を射抜き、体当たりで城を倒壊させ、[|風斬翅(カザキリバネ)]でドラゴンを狩り尽くす、そんな執事兼バタフライになってみせます!
ええ、執事たるもの、これくらいできないと!」

「全世界の執事が驚愕するからやめよう!? 執事関係ない!」

久しぶりに会ったモスラは執事をこじらせていた。
よほど、従魔契約で結ばれた主人に会えないのが寂しく、皿を割ったことが悔しかったのだろう。

こみ上げてくる寂しさを紛らわせるために、以前よりいっそうシャボンドラゴン・ウルルとの戦闘訓練に明け暮れていた。
ヒト型の体脂肪率は3%である。
表面の柔らかい部分や必要脂肪以外は、しなやかで強靭な筋肉を育てていた。

「モスラは[大空の愛子]だから、風をうまく使って、そのうち本当に1000人分の配膳すらもこなしちゃいそうだけどね……。
蝶々の複眼の睨みはとても恐ろしいだろうし。今の40メートルの巨体に[アイアンボディ]、[風斬翅]を使ったら、トンデモ目標の後半もできちゃいそうなのが、もう……すごくモスラです……」

「風魔法を使う、なるほど。アドバイスありがとうございます」

「なんてポジティブ! そして向上心の塊だね!?
い、今のは独り言だから聞き流しておいて。
あんまり自分を追い詰めないでね」

レナがごまかすように、スタイリングされていない執事の黒髪をサラリと撫でる。
ご機嫌になったモスラを見て、アリスが「もうダメ!」と声をあげて笑い始めた。

「あはははっ! お腹が、く、苦しい。
やっぱり、レナお姉ちゃんたちと一緒にいるとすごく楽しいなぁ。
自然に笑わせられちゃうもん!」

「はは……そっかー。まあ、それは良かった。
もう毎日愉快なことだらけだから、いっぱい笑っていってね!
アリスちゃん、いつも難しいお仕事お疲れ様。
そして、直接言うのが遅れちゃったけど、商業試験の合格おめでとう!
史上最年少商人なんだっけ」

『『アリス、おめでとうー!』』

クーイズがぷよぷよと弾みながら祝いの言葉を贈ると、他の従魔たちも口々にアリスを祝った。
アリスが照れて赤くなり、はにかむ。

「みんなありがとう!
これからもーーっとレナパーティに貢献するからね。
呪いの赤い魔道具なら、バイヤーのアリス・スチュアートにおまかせだよっ」

とんでもない主張である。
堂々と胸をはるアリスがなんだかおかしくて、みんなが声をあげて笑った。

オズワルドのぽかんと開いていた口元も、やがてつられて微笑みのかたちになっていった。
魔王の息子への言及は、またあとで。

***

人数を増やし、再び魔王国にとんぼ帰りしてきたレナたち。
事情を説明されていた検査官に目配せして、そおっと検問を通してもらう。

シヴァガン王国の情報伝達は見事なものだ。
長年、自己主張の激しすぎる魔人族たちをまとめ上げてきたノウハウが生かされているのだろう。

シヴァガン王国独特の、黒やグレーの石畳、建造物が並ぶ街を、アリスとモスラが興味深そうに眺める。
紫の国旗がいたる所でひらめいて、荘厳(そうごん)な印象を強調した。

「すごい。ミレージュエ大陸の国とは雰囲気が全然違う……異国に来た、って実感するね」

「話には聞いていましたが、街を歩いているのはほとんどが魔人族たちですね。
トイリアには魔人族がほとんどいませんから、新鮮です」

「うんうん。そうだよねー、私たちも最初はビックリしたよ。最近ようやくこの景色にも慣れてきたかな?」

レナが、賑やかな街の景色をぐるりと眺める。

「これだけ魔人族たちが多いと、クレハとイズミ、リリーちゃんにハマル、シュシュもヒト型で出歩きやすいかなって」

「そうですね。固有種族の子どもたちもいますし、幼児姿の魔人族というとても珍しい存在もそこまで目立たないでしょう。
ルルゥさんの読みは正確だったようです」

「みんなのブレスレット選ぶの、すごく楽しみでしょう? レナお姉ちゃん」

「うん! とっても……!
ブレスレットがあれば、可愛い服とかを登録してすぐに着替えさせてあげられるもんね。
ずーっと、みんなを着飾ってあげたいと思ってたんだ。
だって魔人族の姿、可愛いすぎるから! 絶対、何を着ても最高に似合うよ〜!」

「うんうん。たくさんお金持ってきてるから、安心して高価なブレスレットを買ってね」

「わぁーーーお……!?」

ここぞとアリスが本題を滑り込ませてきた。
レナの赤いマジックリュックの中には、アリスが「スライムジュエルと交換ね」と手渡した多額のお金がすでに眠っている。
アリス本人が魔王国を訪れることは未定だったので、レナに買い物資金を渡していたのだ。
そのお金でも足りないくらい、高額な買い物になるとアリスは予測しているのだろうか……?

「知り合いの富豪に、魔王国で一番高価なブレスレットを扱っているセレクトショップを紹介してもらったの。
そこで買い物しましょう!
いっぱい!」

アリスの輝く笑顔には、凄みがあった。
レナが一歩後ずさると、ぐいっと距離を詰められる。

盗み聞きを心配するなかれ、モスラがささっと風を操り、周囲に声が漏れないよう配慮している。
ここらでまた一発、ご主人様の大好きなサプライズを差し上げよう。(モスラの主観)

「前に預かったスライムジュエル、すごく高値で売れたんだ!
私の見積もりよりも、お客様たちは更に高く評価してくれたの。
詳細な証明書があったことも大きいと思う。
取り引きしたのは全員、信頼のおける個人コレクターだから、宝石の情報が外部に流出する心配はないよ。
今はまだスライムジュエルは数が少なくて超プレミアだし、しっかり流通調整しないと……ね。
血で血を洗う奪い合いになりかねない。厳重に扱うよ。
これからもっとスライムジュエルのストックが増えてきたら、魔王国政府を巻き込むことも視野に入れて……また調整を考えましょう。
また売ってくれる?」

「うん。今のところ、使い道が他にないし、たくさん持ってるのも怖いからね」

「うふふ! やったぁ。
スライムジュエルを売った余剰分のお金と、今回もスライムジュエルを譲ってもらえたならな〜って持ってきたお金があれば!」

「う、うん」

▽レナは アリスの勢いに 圧倒されている!

「この王都にお屋敷だって買えちゃうよ」

「一体いくら持ってきたの!? ひぃぃぃ!」

「そのセレクトショップはねー、最高級の素材を、最高峰のデザイナーと職人が手がけたブレスレットばかりを扱っているの。
店に入るために、知り合いの紹介と身分証、チップも必要な特別なお店なんだ。
あ、チップは私が持つからね。
お客様から聞いた話だけど、衣類の洗浄機能にほつれ直し、最大7パターンもの衣装の登録が可能なんだって!
とっても素晴らしいよね」

「質問が自然にはぐらかされている……」

「全員分、一番いいのを買おう。レナお姉ちゃんのも! 便利だよ?」

『『レナもおめかしするの〜〜!?』』

『やったぁ! 赤の女王様、フルコーディネート……しちゃおうよ!』

『ご主人様の正装。絶対美しい。よし、高級ブレスレットを購入だ』

『ついに赤色の愛のハイヒールデビューですかぁーー!? わぁぁ! 心待ちにしておりましたー! レナ女王様万歳!』

「いいんじゃない? 着替えが楽になるし。赤の呪い装備は構造が複雑なものもあるから、登録してレナも早着替えできたほうがいい」

『……』

<変身時のエフェクトと効果音はおまかせ下さいませ! 最高の舞台を整えます!>

最後にモスラがにっこりと微笑む。
レナの背後で、女性数人がバタバタッと倒れた。
執事を極める礎にするんじゃない。

まさかの、従魔全員から超賛成されてしまったレナは、頷くしかないだろう。
キラキラな瞳で『おそろい? みんなおそろい?』と見上げてくる従魔たちが愛おしすぎて、ララニーよろしく鼻血を噴出しそうだ。

「……ア、アリスちゃん。もっとシンプルに言ってくれたら、私も覚悟できるかも!」

「評判のいい高級セレクトショップと良好な関係を築きたいの」

「よし! 普段お世話になってるアリスちゃんのためだもの、私は買っちゃう……!」

「わぁい! レナお姉ちゃん大好き!」

いざとなれば幼女らしさを前面に押し出してお姉ちゃんを籠絡(ろうらく)するアリスは、商魂たくましかった。
きっと将来大物になる、いや、すでに化け物級の貫禄を醸し出している。

庶民感覚が根付いているレナは、大金を使うことにドキドキしてしまって胸をそっと押さえた。
スマホが<きゃっ>とほんのりあたたかくなる。
少し気が紛れた。

「ふぅ。はぁー……ビックリしたけど……アリスちゃんが一緒にいてくれるなら、きっと良い買い物ができるね」

レナが穏やかに話しかける。持ち直しが早いのはレナの良いところだ。

「そこは安心して! レナお姉ちゃんたちに一番似合うものを、店員さんと相談してきちんと選ぶから。バイヤー・スチュアートの名にかけてね」

アリスのセンスと商品の見極めは一級品。
主従それぞれが望むブレスレットをきちんと見極めてくれるはずである。
こんなに心強い同行者は他にいない。

高級ショップの店員にまとわりつかれることを心配していたレナは、ホッと安堵の息を吐いた。
アリスが推し負けることはないだろう。

アリスから「高額の買い物ができるように」と渡されていたスチュアート名義の紹介状は必要なくなってしまったが、これがあったからこそ、魔王国政府にモスラを呼び寄せる配慮をしてもらえたのだから、役に立った。

レナがそんなことを考えていると、アリスがふと黒猫ルーカの方を向いて、丁寧に頭を下げる。

「……スライムジュエルの鑑定書を書いてくださった方ですよね。
その節はありがとうございました。
おかげさまで、スライムジュエルを正しく評価してもらうことができました」

まだ若干ジト目のアリスは、どうやらルーカの人柄を測りかねているよう。
しかし既にレナの従魔になっていることと、実際に会ってみて穏やかな雰囲気を感じたことにより、疑心や嫌悪感などは抱いていなかった。
以前、モスラとパトリシアに「元ガララージュレ王国の王子で、魔眼の覗き魔」と聞いたので、ルーカに対して偏見を持っていた時期もあったのである。
黒いネコミミがぴくりと反応する。

「ああ、どういたしまして。
僕はレナたちに長くお世話になっているから、お礼に少し力を貸しただけだよ。
実はクレハとイズミが宝石を吐くたびに、鑑定結果を記録していたんだけど、今後宝石を預ける時にはその紙も一緒に欲しい?」

「下さい! よろしくお願いします!」

アリスの中で、ルーカへの好感度がぐーーん! と上昇した。

「いいよ」

ルーカがアリスの心情の現金な変化に気付いて、くすっと小さく笑う。
判断が早いのは優秀な商人の証だな、とアリスを評価した。

「前に渡した鑑定結果は、もちろん正式文書に書き直したんだよね? 合ってた?」

「はい。正式な宝石鑑定書として使用できるのは、ギルド所属の鑑定士が記した、押印入りの書類だけですので……失礼ながら、知り合いのツテをたどって再検査させてもらいました。
かなり熟練の鑑定士に視てもらって情報を照合したのですが……貴方の鑑定は、すべて完璧でした……。
鑑定士の方は眼を見開いて『こんなに素質のある人が鑑定士を生業にしていないなんて、信じられない!』って叫んでいましたよ。
職人気質の方なので、是非どのような人物が鑑定したか知りたいって粘られましたが、私とモスラが全力で隠し通しました。
その点はご安心下さい。
貴方の鑑定の件は秘密にして、これからもスライムジュエルの鑑定書作りを秘密裏に請け負ってくれるそうです。
本来、付与魔法の耐久値など、宝石の情報を余すところなく鑑定するには、何日もかけて目を酷使しながら探っていくんですけど……貴方の鑑定の下書きがあれば、照合だけですぐに終わります。
本当に、すごいです……!」

「そっか。お役に立てたようで良かったよ」

ルーカはさらりと流すだけにとどめた。
アリスの目には、いつのまにか尊敬の念が滲んでいる。
[鑑定眼]ギフトを義祖父に見初められた彼女には、いかにルーカの能力がすごいのかよく分かるのだ。

一方、鑑定の奥の深さなどまるで知らなかったレナは、そんなにすごい技術だったんだ……とあらためてルーカの能力の高さに驚いていた。

スペシャル極まる魔眼ギフトに、魔剣と雷魔法の遠近戦闘力、サンクチュアリによる最高峰の防御、さらには獣人の戦い方も学ぼうとしているルーカ。最近では掃除・料理もそつなくこなすし、容姿も美麗。
だがしかし、性格がややこしくて、途方もなく運が悪かった!
すべては世界のバランスなのだ。

話していくうちにルーカと打ち解けた様子のアリスを見て、モスラがホッとした表情になる。
ルーカについて、アリスに偏見を持たせる説明をしたことに罪悪感があった。
こっそりあとでルーカに謝るつもりである。
その前に一言。

「貴方がアリス様のことを敬称なく呼んでいたら、睨んでしまったかもしれません」

主人愛までこじらせている。
モスラはこれと決めたものをとことん大切にするタイプなのだ。と、ソフトに説明しておこう。

「モスラの睨み? それは恐ろしいな。じゃあ僕もアリス様って呼ぼうか?」

「ええ……ちょっと……従者以外にそんな風に呼ばれるの、気持ち悪いです……」

「確かに」

黒猫ルーカがおもむろに頷く。

「どうしてちょっと嬉しそうなんでしょうか!? えっ……!?
……あっ、魔法使いのジーンさんに[マゾヒスト]の称号押し付けたの、貴方でしたよね。もしかしてもしかしなくても……」

「違うよ。それは不幸な事故」

ルーカはばっさりと切り捨てる。本当にジーンがお気の毒な事件だった。合掌。
今は例の称号に馴染んでいるので、「だった」と過去形にしてみた。

「本来の姿の僕は容姿が整っているから、トラブルに見舞われることが多かったんだ。だからすぐ好意を寄せられるのは正直怖くてね。これくらいの距離感だと安心できる」

「うわあ。美形って、自分でそれ言う……?」

「ああ本当に、少し記憶を遡るだけでいろいろあったなぁ……。レナたちと出会う前なんて地獄のようで……ブツブツ……」

「何この人、情緒不安定で怖い!
ジーンさんにそっくりの顔で無表情なのがまた不気味!」

ジーンが損だからやめてやれ。

「まずい、こうなったらしばらくネガティブモードが直らないんだ。
リリーちゃん、久しぶりに思いっきりやって! 脳にダメージを与えないように、スキルは控えてね」

『うんっ! いくよ! ……根暗撲滅キィーーーック!』

▽ルーカの後頭部に リリーの跳び蹴りが クリティカルヒット!
▽久しぶりぃーー!

「ぐあッ……!? ……おはようございます」

「おはよう、ポジティブなルカにゃん。さあ、口直しのレモン飴をどうぞ」

「いただきます」

「なにこの一連の流れ……」

レナがルーカの口にぽいっと小さな黄色の飴を放り込むと、黒猫は機嫌良さそうに飴を味わい始めた。
しばらくお口チャックしている間に、ネガティブは抜けるだろう。

『そのうち慣れるさ』と、オズワルドがアリスに神妙な視線を送っていた。

▽Next! シヴァ空便で セレクトショップに向かおう!

 

 

 

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