108:モスラ降臨

今日は久しぶりにモスラと再会する日である。
レナたちは、シヴァガン王国から6キロほど離れた森林を訪れていた。
大きな木を目印に、巨大ハマルに乗って移動していく。
目的地に着くと、森の中心部が開けている。
まあるく、平原のようになっており、中央にそびえている木は、ジャイアント・ビーンの樹人族だと分かった。

「樹人族の方を始めて見ました……!」

レナが頭上を見上げながらポカンと呟くと、樹人族はニッコリと静かに笑って、頭の葉をそよそよ揺らして歓迎の意思をあらわす。
そして、根の足を動かしながら、ゆっくりゆっくり広場の端に移動した。
レナたちが目印を見つけやすいよう、わざわざ中央で待っていてくれたようだ。

この姿は魔物型なので、背の高いヒト型に変化することも出来る。木の種類によって、ゴツめだったり細身だったり違いが大きい。緑色の髪に褐色の肌になるのが特徴だ。
普段は魔物型で過ごして自分の木の芽を育て、お茶を作ることを生業にしている種族なので、みんな口数は少なく、のんびりとしているそう。

広場にいるのは樹人族だけではない。
魔法が得意なケットシーが数名。
あとはロベルト、マリアベルも来ていた。

宰相は重要な仕事があるらしく、魔王とともに欠席している。
「誠に申し訳御座いません」と相変わらずド丁寧な謝罪をもらったが、有益なお客様相手にまた魔王がやらかさないよう、隔離しているだけのような気もする。

「お久しぶりです、マリアベルさん。ロベルトさんは今朝ぶりですね。ケットシーの皆さんは、初めまして。本日はよろしくお願いします」

レナがペコッと頭を下げると、従魔たちもそれぞれお辞儀した。
ハマルは元の大きさに戻っている。

「はわあああん……! レナちゃん久しぶりっ、そして妖精女王様ぁ、またお会いできて嬉しいですぅ!」

『うむ! 苦しゅうない、近うよれ』

「へへぇーーっ……!」

昨夜のスマホ鑑賞会は、時代劇だった。
新たに遭遇した非常識に、オズワルドが愕然としていたのが印象的である。

「こらマリアベル、フラフラするんじゃない。みっともないから顔を引き締めろ。今は仕事中で、魔術部の同僚もいる場だと理解しろ。後で映像つきで上に報告されるぞ。何よりレナ様たちに失礼だろう」

「だ、だって……! リリー様が近くに行って良いって言って下さったんだモン! 離しなさいよぉ!」

「良い思い出ができて良かったな。その言葉だけを生きがいにあと100年は仕事を頑張れるな。よし、仕事だ」

「鬼!」

「雪豹だ」

「仲良しですね」

普通の大人サイズで魔王国の制服を身につけたマリアベルが、ロベルトに背中の飾り紐を掴まれてもがいている。
あの制服の装飾は、もしやこのためにあるのではないか……と考えてしまうくらい、マリアベルに必要そうなものだ。

レナの「仲良しですね」の回答がおかしかったようで、小さなケットシーが顔を見合わせてクスクス笑っている。
ふっくらした成猫が2本足で立っていて、魔法使いらしい帽子を被っていた。
4名のケットシーがいるのだが、みんな鼻がピンク、黄色、青、赤ととてもカラフルである。

ぴょこん! とコミカルにレナたちに向き直って整列、片足を一歩下げて、優雅なお辞儀を披露した。

「お会いできて光栄です。とってもすごい魔法使いなんだって聞いてます!」

レナがネコ可愛さに表情をとろけさせながら話しかけると、ケットシーたちはまた顔を見合わせて目をパチパチさせ、まかしとけ! というように動作をそろえて胸をポンと叩いた。
実にあざとい。
ケットシーを真剣に見つめるシュシュは、このあざとい仕草を己の技にしようと企んでいる。

「皆様、無事にたどり着けて何よりです。ご足労ありがとうございました」

タイミングを逃していたロベルトが、ようやくレナたちに挨拶した。
モスラの来訪は秘密裏に、と打ち合わせしているので、誰かに怪しまれないようにそれぞれが現地集合することにしたのだ。
人数も最小限に抑えている。

「私、[光の壁]で、近づいてきてた旅人の誘導頑張りましたよぉ!」

マリアベルがここぞと仕事をしていたとアピールする。
[光の壁]は目をくらませたり、軽い防御に使ったり、マリアベルほどの実力者になると器用に周辺の景色を映しだして、道筋を誘導することもできるスキルだ。
サンクチュアリの下位互換、と覚えよう。

笑顔のリリーの頷きひとつで「きゃっ!」とマリアベルは喜ぶ。
餌が容易い。

「さっそく始めましょう。進行方法は、サディス宰相から通達があったとおりです」

ロベルトが全体を見回して、声をかける。

樹人族が長い手を掲げて、木の葉のさざめきのような音でスキルを唱えた。
ざわざわっ、と頭の豊かな緑が揺れる。
根っこをしっかりと地面に差し込んで、自分の体を固定した。

『〜〜〜〜〜〜〜〜』

木の葉が揺れ続けている。

……おおっとぉ! これは! 樹人族がぶるっと震えると、頭の上の豆科のツルがニョキニョキと伸び始めたァ!
ツルは数本が絡みあい、太い1本になってグングンと空に伸びていく。
目指す先は、雲の上である。

「モスラさんは雲の上を飛行していらっしゃるそうなので、ジャイアントビーンの先端を目印にして、降下地点を分かりやすく示しました。
先端がつつかれたら、降下してくる合図なのでルーカさんが光の聖結界を空まで構築して下さると。リリーさんがモスラさんを[幻覚]で覆って隠し、秘密裏に彼を迎える……。技が超高度ですね。
魔術部のケットシーたちが衝撃吸収の魔法陣を構築しますので、安全に着陸していただけると思います」

今はこの段階、とレナが手にした遠足のしおり……もとい宰相の計画書を、ロベルトが指差して説明する。

レナたちと船に乗り合わせていたロベルトは[サンクチュアリ]を知っているし、リリーの[幻覚]についても毎日のように目にしているので、誰かに見られて騒ぎになるとは別段心配していないようだ。
すごすぎるので、呆れたように半眼になっているが。
光の聖結界、と聞いたケットシーたちがわくわくドキドキとネコミミヒト族を見ている。

樹人族がこのようにツルや枝葉を伸ばして、日光浴する光景はよく見られるので、怪しまれないだろうとの事だ。
ジャイアントビーンの樹人族はこうしてめいっぱいツルを伸ばして日を浴びることで、栄養ドリンクも震え上がるほど栄養豊富なマメの実をつくる。
それを元にした、プロテインシリーズという食料品が魔王国の隠れた名産品になっているのだ。

「すごい……! (ジャックと豆の木みたいだなぁ)あんなにツルを伸ばして、身体を支えられるものなんですね」

「仕様です」

仕様なのだ。

ケットシーがチョロチョロと走り、4方向に散らばる。
ヒゲをひくひくさせて、きっちり同じ間隔が開くよう、他のケットシーとの距離を測る。
おもむろに魔法ケープの中に腕をつっこむと……サッ! と得意げに小さな魔法の杖を取り出した。
先端に色とりどりの丸い宝石が埋まっている。
よく見ると、それぞれの鼻の色と同じだ。

器用にネコの手で杖を掴んで、ゆらりゆらりと揺らす。
魔力を込めているらしい。丸い宝石が輝き始めた……!
ザクッ! と杖の下部を地面に突き刺す。

『『『『にゃーーーー!!』』』』

▽ケットシーは 呪文を 唱えた!

杖の間をつなぐように、放射状の光る線が描かれていく。
それが繋がって完全な円になったら、円の内側に複雑な魔法術式が出現した。
中央には大きな六芒星。
レナたちが目を見張る。

これで、着陸の準備は完了。
ケットシーたちが、しっぽでバランスをとりながら空を見上げた。

「よぉーし。またひとつのパーティを[光の壁]で誘導しましたよ〜? 私ってば頑張ってるな〜?」

マリアベルがチラッチラッとレナたちを見ながら呟く。
誰に話しかけたか分かりづらかったので、スルーされた。
がっくり肩を落とすが、腐っても魔王国の諜報部、[光の壁]の制御はばっちり継続されている。

「モスラさんはジャイアントビーンのツルに沿うかたちで、垂直に降下されると打ち合わせています。
ツルを傷つけてしまったりしないかと、失礼かと思いながらも聞いたのですが、『私が主人の評判を傷つけることなどありえません』と笑顔で断言されました。頼もしいですね」

ロベルトが苦笑する。
早々と作られた計画書を持って、ワイバーンの魔人族と共に、彼がスチュアート邸を訪れて打ち合わせをしたのだ。
滅多に使われない[ロケット飛行]スキルを使用しての強行軍だった。
しかも、日程調整のために一回と、レナたちの返事を伝えるためにもう一回。誠意を伝えるために、当日指揮をとるロベルトが直接訪問。一回目は宰相と同行である。
最近の彼は、もっぱらレナたちの世話係として働いていた。

それくらい、オズワルドをテイムした魔物使い、という存在が魔王国に重視されているということ。
魔王ドグマは、いつだって息子をきっかけに動き始めるのだから。

「魔法陣の大きさ、足りるかな……?」

レナがうつろな目で、直径20メートルの魔法陣を眺めて、話題をごまかす。
強行軍の件も、おそらくモスラのイラっとした微笑も含めて、ロベルトが気の毒すぎて気まずかったのだ。

スマホ通話でカンタンに連絡がとれる、だなんて。今更言えない。まあ特殊技能すぎるので、方法をばらす予定はないのだが。

魔法陣はドでかい。しかし、前回会った時にはモスラはすでに30メートルだったはず。
ロベルトを見上げる。

「翅をたたんで急降下するから問題ありません、とおっしゃっていました。魔法陣の大きさも打ち合わせしていますので、安心してください」

「また器用になっちゃってる!」

いっぱい成長を褒めてあげなくちゃねー、とレナも空を見上げて、従魔の到着を待った。

***

……しばらくすると、空の雲が濃くなってくる。

「ひと雨きそう……な感じではないよね。モスラのギフトか」

「ほう。どのような?」

「あははははは」

「ふふふふふ」

しれっと情報収集しようとするロベルトをごまかそうか迷ったレナだが、「天候に恵まれるんですよ」とざっくり教えてあげた。
モスラは移動中に騒ぎにならないよう雲の上を飛んでくるので、理由に応じて、天候が気を利かせたのだろう。
精霊の加護もあるのだし、それくらいありえそうである。

『〜〜〜〜』

「!」

樹人族がざわざわと葉を揺らして、手を広げた。
身振り手振りで、モスラが来たと言っているのだろう。

「光魔法[サンクチュアリ]」

『んー、モスラが姿を現わすの、そろそろかな……。……でも、ご主人様、早く見たいよね?
モスラを、隠すんじゃなくて……サンクチュアリの内壁に、あわせて。……スキル[幻覚]ぅ!』

出迎えの準備は整った。
リリーがアドリブで、モスラ単体ではなくサンクチュアリの内壁に沿って広く[幻覚]をかける。外からは完全に内部が見えなくなった。

ロベルトとマリアベルがそれぞれの気持ちを込めてリリーを見たが、モスラの姿を隠す事さえしっかりできれば問題ない、と判断して小言は言わなかった。
レナパーティの戦力情報がズシンッと更新されただけだ。

皆が見上げる中、スパッ! と分厚い雲が切れる。

ーー黒色がほんの小さな点のように見えた。
だんだん点が大きくなる。
まだ、音は聞こえてこない。

「スキル[伝令]。いらっしゃい、モスラ!」

レナが声を届けた。
そんなことされたら超速で向かわざるを得ない!

歓喜したモスラが加速した。
明らかに、黒い点が大きくなる速度が早くなっている。

ルーカが「シヴァガン王国の魔術部の皆さんが、魔法陣を展開しててくれてよかったな……」と、乾いた声で呟いた。
他の魔法使いが作った魔法陣だったら、モスラ着陸の衝撃に耐えられなかったかもしれない。
ケットシーが4名携わっているものなら、大丈夫……と思いたい。

「魔法陣に魔力を供給してくれ! 予定よりも多めに」

『『『『にゃにゃーーーん!』』』』

ロベルトの判断は間違っていなかっただろう。
ちょっぴり心配していたレナたちが、ホッと息を吐く。

やがてレナの肉眼でも、モスラの姿が視認できた。

大きな翅をコウモリのように身体にまきつけている。
それで小さくなり、弾丸のような速度を出しているようだ。
漆黒のボディに翅の紅色の模様が、青空を背景にそこだけ浮かびあがっているかのように目立つ。
切り裂かれた雲の隙間から、カーテンのように光がモスラに降り注いで、神々しくすらあった。

『『モスラ、降臨!』』

クーイズがケラケラ笑う。

<ああ口惜しや……私の存在を知られる懸念があるため、BGMを流せないなんて! ああーーん!>

スマホがレナの懐で嘆いている。
マリアベルの目ではスマホの生体反応は視破れても、声までは理解できないので、独り言でなんとか自分の気持ちをアピールしていた。

<せめて移動中に、空に分身体を泳がせておいてよかった>

只今、スマホはモスラの大迫力映像を絶賛撮影中である。
上映会が楽しみだ。

『『『『にゃぁぁん! にゃんにゃん!』』』』

ケットシーたちが込めていた魔力をもとに、魔法陣を発動させた!
尻尾をフリフリ!

魔法陣の線がふわっと白く光り……莫大な魔力が渦をまき始める!

ーーモスラ着陸まで、あと10メートルもない。

近づいて来るギガントバタフライのあまりの迫力に、みんな息を飲んでいる。

ーーズォォォオンッ!!

▽モスラが 無事に 着陸した!

わああああっ! とケットシーたちが両手を上げて大喜びする。
|あの(・・)衝撃の吸収に成功した!
すごーい魔法使いの彼らだが、これはかなりの快挙である。

「良かった……」

「お、恐ろしいほど躊躇のない落下だったねぇ。それだけシヴァガン王国側の戦力を信じてくれてたのかな?」

ロベルトとマリアベルが、魔法陣の範囲にできた浅いクレーターを見て、青ざめながらポツリと呟いた。

「もう魔法陣の中に入ってもいいですか?」

「ああ。構わない」

気疲れしていて、ロベルトはうっかり敬語を忘れている。
レナたちがぱあっと笑顔になって、大きな黒い蝶々にパタパタと駆け寄った。

魔法陣のおかげで、土けむりも舞っていない。
着陸直前に身体をひねり、上手いこと顔を上にして着陸してみせたモスラに、レナたちが満面の笑みを向けた。

「久しぶり! モスラ。また器用になったんだねぇ。すごく上手に降下できてたよ! 長旅お疲れさま」

『『『『後輩よー! 久しぶりー!』』』』

クーイズ、リリー、ハマルが『よっ!』と手を上げて挨拶する。
モスラの艶やかな複眼が、懐かしい面々を眺めた。

『……お久しぶりです。レナ様、先輩方。
ああ、またお会いできて光栄です! なんて素晴らしい気分でしょうか』

感極まっているらしいモスラ。
複眼のツヤが増した気がした。

「わあ……かなり喜んでくれてるね?
なかなか呼んであげられなくて、寂しい思いさせちゃってごめんね。私たちも貴方に会えて嬉しいよ」

レナたちがにこやかにそう告げると、モスラは静かに頭を下げて、敬愛の意を示した。

「話し込みたいところだけど……先にシヴァガン王国の皆さんにご挨拶しようか。すぐ変身できる?」

『もちろんです。でも、その前にもう1人……』

「??」

レナが首を傾げる。
従魔たちがモスラに注目し、ロベルトが口元を手で隠して小さく肩を震わせる中、モスラはきつく巻きつけていた翅をゆっくりと解いた。
完全には伸ばしきらず、ゆるやかなカーブを描いたところで動きを止める。
大きさはまた成長していた。
そこには、

「……卵型の、乗り物……?」

高さ2メートルはある大きなパステルカラーの卵を、モスラは抱えて飛行していたようだ。
よく見ると首元に固定用のベルトがネックレスのように巻きついている。
扉が付いているので、中に人が乗れるということだろう。

『サプライズですよ。レナ様、お好きですよね?』

そこはかとなくほの黒い笑みを浮かべるギガントバタフライを見上げて、レナは悟り顔で、冷や汗をダラダラと流し始めた。
サプライズは確かに好きだ。仕掛ける方がな。

カチッ、と軽い音が卵の内部から響いた。もう逃げられない。

扉が開けられて、白く柔らかな女の子の足が現れる。

「久しぶりだね。レナお姉ちゃん」

「ア、アリスちゃんーー!」

たんっと軽快に卵の乗り物から降りたのは、天才バイヤー幼女アリス・スチュアート。
オレンジ色の髪を白いリボンで飾って、お出かけ用の可憐なコートを身につけている。
驚愕するレナを見上げて「にっこり♡」微笑むと、周辺をくるりと見渡す。
ロベルトが会釈をしたので、シヴァガン王国側に向き直り、|淑女の礼(カーテシー)で挨拶した。

「アネース王国でのお仕事がひと段落したから、私も来たの。
レナお姉ちゃん、先に少しだけあちらに挨拶をしてきてもいい?」

「う、うん」

「あとでゆっくりお話しようね」

相変わらずしっかり者の幼女である。
レナパーティの仲間のために、ここまでの設備を調整してくれたシヴァガン王国を、まずは優先しなければいけないと判断した。
大国相手に印象を悪くする事態は避けたい。

お友達との再会を喜ぶのは、あとでそれはもうゆっっっっくりと。
初顔合わせの面々と自己紹介をするのは、時間がかかるだろうから。(時間を|かけたいから(・・・・・・))

ポーカーフェイスのアリスと視線を合わせてしまったルーカが、スッ……と顔を逸らした。
大変気まずそうである。

レナが「後でゆっくり……自己紹介してもらうからね……」と上ずった声でルーカ、シュシュ、オズワルド、スマホに話しかけ、リリーに指示をする。

「リリーちゃん。モスラが変身するから、目隠しをお願いしてもいい?
あとモスラが視界を確保できるように、身体の周りを避けて、見えないように霧でおおってほしいの」

『了解なの! ……スキル[黒ノ霧]』

▽モスラが 黒い霧に包まれた!

▽お着替えターイム!

<あああああ……BGMを流したいぃ……! ぐぎぎぎ……!>

スマホの哀愁のうなり声が仲間の脳内にのみ響く中、黒い霧からはみ出していたモスラの翅が、ふっと消える。
内部でヒト型に変身したのだろう。

そのうち、霧の中から背の高い青年が現れた。
リリーが霧を拡散させた。

美貌の執事モスラは、紅色の目を柔らかく弧のかたちにして、上品に微笑む。
彼の周囲の空気がぱあっと華やいだ。

かなりの早着替えだったので軽装だが、ピシッとネクタイを締めて、しわ1つないシャツとスラックスを完璧に着こなしている。
これぞまさにモスラ。

「お待たせ致しました」

美形を見慣れている貴婦人たちすらもほうっと見惚れてしまうだろう一礼……。

モスラは久しぶりに会ったもう1人の主人を気にしていたが、眉尻を下げてこっそり笑いかけると、魔王国の面々に挨拶するべくアリスの少し後ろに控えた。
アリスがシヴァガン王国の要人たちに笑顔を向ける。

「こちらの準備が整うのを待って下さって、ありがとうございます。
私は藤堂レナさんの友人で、商人のアリス・スチュアートと申します。
本日は私たちのシヴァガン王国訪問を手助けして下さって、ありがとうございました。
おかげさまで安心して、モスラとともに訪れることができました」

アリスが深く頭を下げた。
ロベルトとはスチュアートのお屋敷ですでに会っていたため、比較的砕けた口調だ。

「ようこそおいでくださいました。アリス・スチュアート様、モスラさん。
遠方からの継続飛行ということでしたが、道中何事もなかったようでなによりです。
モスラさんの安定した飛行も、あの卵型の乗り物魔道具も素晴らしいですね。
さすが、有名なバイヤーでいらっしゃる」

「いえ、まだ商人として活動を始めたばかりですので、今の名声は義祖父のものですよ。
でも、負けるつもりはないですけれど!」

「それはこの先が楽しみですね。ぜひ、我が国でも活動して頂きたいです」

「ふふっ、もちろんです。
今回は友人に会うためと、取引先を増やしたくて来たんです。
ジーニアレス大陸には優秀な職人さんが多いけど、まだ人脈がほとんどなくて」

「そうでしたね。訪れる場所の候補はありますか?
よろしければ場所の助言や、私から口添えなどさせて頂けたら」

アリスが数枚のカードを、ロベルトに見せる。
それぞれ、既存顧客からのオススメ先が書かれていた。

「ふむ。国家と直接取引しているところもありますね。
ドワーフ鍛冶工房イーベルアーニャ、小人(ピピット)族経営のルネリアナ・ロマンス社、フェアリー宝飾店メディチ。どこも良いものを作っていると保証します」

ロベルトはそう言うと、アリスにことわってカードの後ろに自分の署名と、それぞれ店のカンタンな地図を書く。

「商人というより職人相手になるので、気難しい者もいるでしょうが、これで門前払いされることはないはずです」

「ありがとうございます! シヴァガン王国政府の皆さんとも繋がりができて、親切にして頂けて、とても嬉しいです」

「こちらこそ。数日後、経済部トップのマモンとの会合もよろしくお願いしますね」

「ええ! 喜んで!」

レナの知らない予定がすでに組まれていた。
魔王国政府トップ、マモンとはもしや強欲の悪魔として有名な種族だろうか。
アリスを通して、また恐ろしい縁ができそうだ。

アリスもモスラも、お仕事と休暇をあわせて数日滞在するらしい。
お話しし放題ということである。
レナの目から光が消えた。

「フェアリーの宝飾店ですかぁ? それなら、私が同行しましょうかぁ! 知り合いの店なんですよー!」

「いいんですか? 是非よろしくお願いします、マリアベルさん! 3日後なんてどうでしょう?」

アリスが速攻で返事をして、予定まで組み始める。
マリアベルはおそらくリリーと遊びたくて、予定に無理をさせるつもりで申し出たのだろうが、ロベルトがお小言を言う前に約束を確定させた。

案の定ロベルトが頭を抱えているので、マリアベルには期待されていた仕事があったのだろう。
心の中でペロリと舌を出して、見ないふりをしているアリスはしたたかだった。
▽幼女バイヤーの 完全勝利!

モスラも執事として手短にだけ挨拶する。
アリスはケットシー、樹人族ともにこやかに触れ合った。

それでは、ここらへんで現地解散としよう。

「「本日はありがとうございました」」

レナとロベルトが頭を下げあう。
ロベルトは実のある取引ができたため、レナはなんだかんだ友人と従魔との再会を喜んでいるため、疲れているが満足そうな表情。

「ロベルトさんとはまたすぐに会う機会がありそうですけどね。
アリスちゃんとモスラも一緒に、お茶会しましょうよ。
お茶会の席で話し合いとかもすればいいし、お仕事に含まれますよね?」

「お気遣いありがとうございます。ふう……是非。ルーカさんの獣化特訓の打ち合わせをしましょうか。それでは、この辺りで」

「またねー! またねー! お会いできて大変嬉しゅうございました、リリー様ぁ! 数日後にまた会えるなんて夢のようですぅ!」

『『『『にゃにゃーーーん!』』』』

マリアベルがぶんぶんと手を振って、ケットシーたちが別れのミニ花火を見せてくれて、ロベルトたちは賑やかに広場を立ち去っていった。

樹人族はまだしばらく日向ぼっこしていくそうだ。
頭の豆の木は、にゅるにゅるとまた引っ込めて高さ10メートルほどになっている。
栄養のある豆を実らせるため、これも大切な仕事だそう。

レナたちも広場を立ち去る。
結局、アリスたちに名前と種族を告げただけで、またあとゆっくりとOHANASHI……ということになった。

大きくなったハマルにレナとアリスが騎乗して、街に向かう。
ルーカの[身体能力補正]スキルを一時的に借りたレナは、なんとかお姉さんとして恥を晒さずに済んでいる。

ハマルに乗った時、レナの前に座ったアリスは振り向いてぽすんと胸に身体を預けて、至近距離からレナを見上げた。

「今夜は寝かせないよぉ。レナお姉ちゃん」

「ひえーーーーーっ!?」

▽Next! ブレスレットを買いに アクセサリーショップに行こう!

 

 

 

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