107:打ち合わせ

レナたちが自然訓練場を訪れた翌日、オズワルドはなんとも言えない微妙そうな表情で目覚めた。

『……。…………ーーなんか……戦闘した疲れとかはなくて、身体はラクなんだけど』

『うんうんー。[快眠]のおかげでー?』

『……』

『ボ・ク・の[快眠]のおかげでー?』

『………………ど・う・も・ありがとう』

ハマルが勝ち誇った表情でふふんと鼻息を吹く。

『……[快眠]スキルって、確か夢を見ない仕様なんだよな。
でも、おぼろげなんだけど……何かしら、別世界のような空間を夢見てたような気がするんだ……』

「とても恐ろしい夢だったの? オズくん、顔色が悪いよ」

「黒い毛に覆われてて皮膚なんて一切見えてないし、そもそもオズワルドの皮膚の色は漆黒だけど。レナはよく分かるね。感心する。
あっ、話の腰を折ってごめんね」

『アンタはタイミングが抜群に悪いな……。
まあ、いいけど。身体が粉々になるような大爆発が起こって、一瞬もがき苦しんで、そのあと強制的に夢を終わらせられたような気が』

ハマルの夢中での活躍を覚えているだろうか。
そういうことである。
そっ……と巨大ヒツジが顔を逸らしたので、「あっ何か知ってる」と全員が察した。

「上手に言えるかなー? ハーくん」

『ああっ! レナ様ぁ、そんな表情で鞭まで取り出して、命令の言葉と共に[従順]スキルだなんてぇッ! しかも頬をつねるオマケ付き。
そんなそんなッ……おかげさまでヒツジは頑張って話せそうですぅー!』

「どれも一切やってないんだけど!? ねぇ!?」

このマゾヒスト、言葉でさりげなく自分の欲求を主人に提示した。
朝からベリーベリーディープモードである。
怪訝そうに眉をひそめている、まだレナパーティに染まりきっていないオズワルドの視線が痛い。

『ご主人様が鞭を振るうところ、カッコいい!』

キラキラした瞳で見上げてくるシュシュに言いたい、レナの鞭はカッコ悪い!

ルーカがネコミミをぴくぴくさせながらレナに鞭を渡して(一応「呪いの武器」だったので触らないようタオルで包んでいる)、退路が絶たれた。

「ううう……称号[お姉様][赤の女王様]セット!
……自分から頭をこちらに差し出すなんて、よく分かっているじゃない。貴方はいい子ね、ハマル」

レナ様もハマルに要求したーー!

『はうううぅ、何卒! よろしくお願いしますぅー』

ベッドの上で足を伸ばしていたレナの太ももの上に、もふーーん! とヒツジのアゴがすべり込んでくる。

「しょうがないわね。この私の言葉、しかと耳に刻みなさいな」

<承知いたしました! 末代までスマホが記録を守ってご覧にいれます!>

やめてやれ!

「スキル[従順]!
さあ、貴方が昨夜オズワルドの夢で見たものを、上手にお話しなさいッ! 隠し事なんて許さなくてよ!」

▽レナの 鞭打ちビンタ! ぴち! ぴちん!
▽ハマルに そよ風のようなダメージ!

『めえええええぇ……!』

ありがたき幸せぇ、という代わりにヒツジは恍惚の声をあげて崩れ落ち、オズワルドとシュシュ、クーイズをまとめてもふもふで押しつぶした。
ルーカとリリーが「ひっ」と妙な声を上げてお腹を押さえて笑いを噛み殺し、<撮ります! 撮ります!>の宣言で腹筋崩壊する。
すぐに説明を始められなかったハマルは、レナのデコピン(3回めでようやく成功)によりお叱りを受けた。
情報量過多で申し訳ない。

その後、ハマルがレナたちに茶髪の怪しい人物のことと、オズワルドの夢の中で「[夢吐き]|隕石落とし(メテオストライク)」を使ったことを白状する。

オズワルドと通常サイズハマルが、おでこで押し合いして睨み合いを始めたので、また[従順]スキルが使われる事態になった。
なんというヒツジ得。

「オズワルド。貴方、心当たりはあるのかしら?」

『……いや。夢を渡る能力を持つ魔物なんて、レアすぎてシヴァガン王国の王宮にもいない。
噂に聞いたこともないな』

オズワルドがおそるおそるレナ女王様を横目で眺めながら、慎重に考えて回答する。
頭が混乱していたが、夢に介入する魔物に心当たりがないことは確実だった。
レナが顎に指を添えて、ふぅ、と小さく息を吐く。

「そう……。……私の従魔に手を出そうとするなんて、とても不愉快だわ!
ハマル。コテンパンにした判断、褒めてあげる」

『わーい! ありがとうございますぅレナ様ー! 鞭のあとの飴はなおさら最高ですーえへへー』

業界人の鏡のようなマゾヒストだ。

ここで、レナが女王様からふつうの少女冒険者に戻った。

「オズくんは王宮で護衛や魔道具に入念に守られていたそうだし、その不審者は、私たちのパーティ内にオズくんが移ったタイミングを狙ってきたのかなぁ。
だとすると……残念誤算だったね! って言えるくらい、これからもっと戦力を整えておかないとね。
夢の中の不審者はハーくんが撃退してくれたけど、この先、オズくんを狙う他の人物が現れないとも限らないし」

『……なんで狙われたんだろ? サディス宰相は仕事が早いから、もう俺は魔王の息子として扱われないよう処理が済んでるはず。
手を出す価値なんてないのにな』

さらっと呟いて、不思議そうに首をかしげるオズワルド。
気付いていないだろうが、耳の先っぽがしょんぼり折れている。
自分から父と距離を置いたとはいえ、心の片隅では一抹の寂しさを感じているのだろう。
無意識に、瞳は赤ピンクのペンダントを見つめていた。

自分に価値がない、と自然に呟いてしまっていることに、レナとルーカは目を合わせて苦笑する。

「(なんかちょっと、僕に似てるかもね)」

「(おや。よくお分かりで。ネガティブな所とかね!)」

「貴方は魔王の息子じゃなくても、いろんな人にとって大切な子なんだよ」

「だから狙うって悪党もいるだろうし、そんな奴らは先輩たちが追い払ってやらないとね」

『……!?』

オズワルドが金眼を見開く。
優しい言葉が、耳にすっと入り込んでくる。そして、もっと心の中まで。

『商店街で買い物してる時、街の警備員さんがチラチラオズのこと見てたのよー?』

『同時に我らレナパーティのみんなを見て、不安そうな顔をして……んもぅ! 失礼しちゃうわぁ! 強いんだぞ!』

『自然訓練場の……ゴーレムの従業員も、オズを、気にかけてたよ。私の[フェアリー・アイ]は凄いんだぞ!』

<ひゅーひゅー! リリーさぁんすごぉい! イカスー!
私は大切な仲間のために『オズワルド成長日記』を日々付けているほどの後輩マニアですので、何卒よろしくお願い致します>

『パーティの一員って認めてなかったらー、ゴールデンベッド使うの許してあげないしー? 価値ないとか戯言いうの、気分悪いからやめてよねー』

『ご主人様がオズの価値を保証してる。こんなに安心できることってないでしょ? 自信持つといい!』

1人1人の言葉を聞くたびに、オズワルドの硬く閉ざされた心に少しづつ光が当たっていった。
光は暗闇をこじ開けて、水晶を青く輝かせる。

まだ、明るいのはほんの一角だ。
しかし壁に小さく開いた隙間は、これから仲間の愛情を受け続けるかぎり、もう塞がることはないだろう。

オズワルドは蚊の鳴くような声でなにやら呟いた。
おそらく、お礼の言葉だったのでは?

先輩たちがグイグイと、『聞こえんなぁ〜?』『もっと大きな声でリトライ!』とブラックドッグを埋もれさせるようにして群がり、絡む。絡む。絡む。
精度のいいネコミミを持つルーカが、くくっとおかしそうに小さく笑った。

***

さらに数日が経ち、そろそろマタタビツリーのにおいも収まってきそうかという頃。
モスラがシヴァガン王国を訪れる日が決まったと、サディス宰相が報告に訪れた。
会合場所はもちろん、我らが淫魔のお宿♡である。

「お久しぶりです」

「ご無沙汰しておりました。
長らくお待たせしてしまいましたが、アネース王国にいる藤堂レナ様の従魔、ギガントバタフライのモスラ様をお迎えする方法について魔王国会議で決定しましたので、報告に参りました」

「そ、そうですか。早いご対応、ありがとうございます。嬉しいです」

宰相は相変わらず、話し言葉が堅い。
緊張したレナはピシッと背筋を伸ばす。

「はい。つきましては、日程の相談をさせて頂きたく。
あちらは現在から1週間後、予定を空けて下さるそうです。それから数日はシヴァガン王国で過ごしたいとのこと。
藤堂レナ様の今後のご予定はいかがでしょうか?」

「あ! そうなんですね。数日滞在なんだ。
私たちの予定は特にありません。モスラが来てくれるなら、それを最優先します」

「承知いたしました。問題なさそうで良かったです。
それでは1週間後に、モスラ様をお迎えする準備を致します。
こちらが当日の資料になります。疑問点、要望などは御座いますか?」

宰相が差し出したのは、魔王国会議の内容をレナたち向けにわかりやすくまとめた書類。
1枚の紙に、必要な情報を厳選して書き出している。

なんとも丁寧なことに、当日のレナたちの服装はいつも通りでいいだの、高度な魔法を使うから魔力酔いしないように朝食は控えめにだの、遠足のしおりか! と言いたくなる出来だった。
用紙の下部には「サディス・シュナイゼ」のサインが書かれているので、直筆なのだろう。

「問題ないです。よろしくお願いします」

「承知いたしました。それでは、当日はよろしくお願い申し上げます。追って連絡があれば、またうかがいますので。
失礼いたします」

宰相は角度を測っているのかと思うくらい完璧な礼をすると、足音もなく、スッと消えるように立ち去る。
滞在時間はわずか10分ほどだった。

「早っ。多忙なんだろうねぇ……」

「早く帰らないと、縛り付けて仕事部屋に押し込んでる魔王が脱走するかも、って思考してたよ」

覗き視の技術がまた向上しているようで。
ルーカの言葉に、オズワルドが小さくため息を吐いた。

▽モスラを 出迎えよう!

 

 

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