105:パフォーマンス2

クレハとイズミがやけにキレッキレのダンスを披露したのは、オズワルドの派手な戦闘を見て『『自分たちだって!』』と、魔物らしい戦闘意欲を刺激されたから。
スライムボディがギラギラと輝きを増している。

『『スライム勝利のダンス、終わりっ! ご観覧、ありがとーございましたー♡』』

『ねーねー……イズたちも、この訓練場でちょっぴり暴れたいなっ?』

『これだけ広いと、いーっぱい伸び伸びできるもんねー! 仕切りの結界のマジックミラー効果で、お隣に見られる心配もないしぃ』

『『先輩たちの実力もご覧あれやでーー!』』

クレハとイズミが、いいでしょ? と上目遣い(レナ視点)でおねだりする。

「スペシャル可愛い……!」

▽レナが 陥落した!

「そうなの? 俺には、ただボディを曲げてるくらいしか変化が分からないけど……」

『『レナは我らが大好きだからねー! 何をしてるか、したいか、よーく読み取ってくれるのだよ! えへへん!』』

クーイズがぷにょーん! と反って膨らむ。
おそらく胸を張っているのだろう。
相変わらず、従魔たちとお熱いことで、とオズワルドがため息を吐く。なんだかこの雰囲気にも慣れてきた。

「じゃあ、先輩たちも訓練していこう。罠も元に戻ってるし。
せっかく来たんだから、料金の分しっかり楽しませてもらいましょう!」

『『『『『はーーい!』』』』』

「了解。尻尾生やしとこうかな」

半猫状態になったルーカと、尻尾を狙う小さな先輩たちが、じり……じり……とささやかな攻防を始めた。

オズワルドもなんとなく自分の尻尾を守りながら、この仲間たちの実力はどれほどのものだろう? と、慎重に思考する。
希少種の魔物らしい、珍しい技を取得しているはずだ。
好奇心を刺激されて、先輩たちを見つめる視線が無意識に熱くなる。

「お手並み拝見」と、岩に腰掛けてのんびりと観覧体勢になった。

その余裕が続くのもいつまでだろうか。

オズワルドの実力を認めながらも、レナに褒めちぎられた後輩を、先輩たちはちょっぴり羨ましく感じていたのだ。
すなわち。
自分たちも褒められるべく、また、後輩に権威を示すためにも、全力で訓練に励もうと張りきっている!!

「みんな、お互いに攻撃を当てないように気をつけてね。それ以外は、自由に動いてみよっか。ここは広いから、暴れても大丈夫でしょう。見てるから、いってらっしゃい!」

レナが余裕しゃくしゃくのオズワルドを眺めて苦笑しながら、先輩従魔たちに告げた。
結界や罠をぶち壊してしまわないようにと、今回は[鼓舞]スキルを使わないことにした。

主人のエールを聞いた従魔たちが勇ましく頷く。
ーー空気がガラリと変わり、それぞれ猛々しいオーラを纏う。
瞳孔が細くなった瞳をギラリと光らせて、獰猛に口の端を釣り上げる!

(あ。まずいかも……)

<今度こそ、全て完璧に撮影してみせます! でえええい! 第3第4の目、覚醒!>

「スマホさん何やってるの!?」

<褒めて下さいまし!>

「すッッッごい!」

レナが従魔の迫力にうっすら青ざめていると、スマホがまさかの成長を見せた。
これまで1つだった浮遊レンズが3つに増えている。視点変更、多画面展開もおまかせあれ!

<ほほほほ! それでは行って参ります!>

『『『『『うおおおおおおお!!』』』』』

▽先輩従魔たちの 戦闘を ご覧あれ!

『スキル[体型変化]ー、からの〜[跳躍]!』

まずはハマルがド派手にキメる!
3メートルの巨大ヒツジに変身すると、ズダダダダンッと土煙を巻きあげて駆け出し、大跳躍!
落とし穴を全てまとめて跳びこえて、ドスゥン!! と着地すると地面がおおきく揺れた!

レナがふらつく。
オズワルドがごふぉっと喉で紅茶をむせさせた。

その勢いのまま、木にくくりつけられた的を、大木数本ぶんまとめて粉砕する。
今回はクレハとイズミも個別に訓練するので、スライム盾を展開していない。

『きゃあーー! ハーくんすごーい!』

『我らも頑張らなくちゃねー!?』

『『スキル[溶解]』』

ハマルの背中にくっついていたスライムたちは跳躍の瞬間、ぽろぽろと落ちて、空中で大きく伸び広がった。
地上でカチカチと金属の歯を鳴らしていたトラバサミたちを、まとめて包み込む。
にいーっと笑うように、ボディをプルプルさせると、トラバサミを溶かし始めた!

「それ、金属片が少しでも残ってたらまた再生するからね。加減よろしく」

『『ういーーっす!』』

珍しい味にクーイズが舌鼓を打っていると、ルーカが紫の瞳を瞬かせて助言する。
トラバサミは爪先ほどの鉄片を残して、喰らいつくされてしまった……。

「さて。僕はカカシを相手にしようかな」

訓練場の隅に立ち並べられたカカシたちは、弾力があるもの、鉄製のものと様々なタイプが揃っている。

「[瞬発]、スキル[雷剣]!」

ルーカが獣人らしいしなやかな動きで駆ける!
走りながら背中の魔剣をスラリと抜き、自然にかまえた。

カカシの前まで来ると、真横に一振り!
バチバチィッ! と白光が一角に満ちて、カカシ数体を特性に関係なく、なかよく消し炭にしてみせる!

残りはズバッと剣で切り裂いて、切断していった。
ネコミミヒト族になってからの腕力の向上を実感して、嬉しそうに口角を上げる。
カカシは地面下の核が残っていれば再生する、と視て、容赦なくバラバラにした。

『あのウネウネ動くロープ、的にしてみせる。スキル[衝撃覇]! 覇あぁッ!!』

素早く森林の近くに走ってきたシュシュが、ロープめがけてキックモーションを放った!
『覇!』のひと声で、蹴りの威力が飛ばされ、ロープを攻撃する。
バチンッと弾かれたロープが他のロープに絡まって、自由に動けなくなってしまった。

『ん? ……たまたまだけど、これはこれでいい結果! よし、次!』

シュシュはロープを上手く蹴りあげ、[衝撃覇]のコントロールを練習していく。

リリーの上には、小さな岩が降ってきた。

『スキル[軽業]っ』

岩のスキマをすり抜けて、攻撃を避ける訓練をする。
たまに岩の上に乗り、とんっ! と足場にして美しく舞う。
極力翅を使わないよう制限して、感覚向上に努めているようだ。

リリーが足蹴にした小岩は、真下にいたハマルの上に降り注いだ。

『あだっ』

『あっ……ごめんね、ハーくん! 大丈夫……?』

『はいー。耐久訓練(ごほうび)ですー』

『クスクスクスッ』

全ての罠が、瞬く間にぶちのめされてしまった!
だが、大はりきりしていた先輩従魔たちは、まだ物足りない様子。
みんな揃って、遠方からレナを見つめる。

「あー、もう、派手にやっちゃったなー。
スキル[伝令]! ……お疲れ様、みんなすごーい!
お互いに組手してもいいよ。調教師さん、調整してあげてね」

レナが苦笑しながら、攻撃の許可を出した。
施設の備品が完全破壊されなかったので、ホッとしている。
あの戦いぶりを見ても大して動揺していない主人の様子を、オズワルドが唖然と眺めた。

笑顔で頷いたルーカが、仲間に何やら告げる。
効率のいい鍛え方をアドバイスしたようだ。

『いくよーイズ! スキル[火炎放射]!』

『ういっす、クー! その赤い炎で受け止めてぇ[鉄砲水]!』

クレハとイズミが立体的にうにょーんと立ち上がり、羽のない扇風機のような形状に変化した。

まぁるく開いた穴にそれぞれ赤と青の光がきらめくと、お互いに向かって、炎と水を噴出する!
ゴアアアッ! とものすごい音が響いて、攻撃がしばらく拮抗(きっこう)した。

熱風と冷気が一気に押し寄せ、遠くで見守るレナとオズワルドの髪を揺らしていく。
二人とも顔を引きつらせている。
ここだけですでに怪獣大戦争のようだ。
イズミが『スキル』と唱えなかったのは、水の方が炎に有利だからだろう。

巨大化したハマルが、鼻息荒く地面をガッガッとヒヅメで蹴る。

『ぶっ飛ばしちゃうかもよー……? 覚悟、ルーカ!』

「まだまだ、生徒には負けられないね。全力で来るといいよ」

『もちろんー! メエエエェェ!! スキル[駆け足]ィ!』

「光魔法[サンクチュアリ]!」

ヒツジらしい咆哮を上げて、ハマルがドドドドドッと駆ける!
標的はルーカ。
さすがに獰猛なヒツジの突進を真正面から見ていると大迫力で、涼しい表情をしているルーカも、手には汗を滲ませている。

ゴウゥン!
尋常ではない衝突音とともに、サンクチュアリにヒツジの頭突きがきまった!
あとはお互いの力比べ。
ハマルのおでこがギリギリと結界を押し、ルーカも剣を掲げて、結界に魔力を込め続ける。
静かで熱い攻防が繰り広げられていた。

『スキル[幻覚]! ……さあ、本物の、私はどーこだ? 『『『シュシュ!』』』』

『上等。根性には自信がある。本物のリリーに当たるまで、攻撃をやめないッ! [覇]ッ! スキル[スピン・キック]!』

『はーずれ。スキル[跳び蹴り]!』

漢女たちが怒涛の勢いで蹴り合っている。

たくさんのリリーをシュシュがひとつひとつ蹴り、消滅させていく。
時々蹴りスキルを放ったり、[吸血]しようとしてくるのが本物のリリーだ。
とはいえ、途中までのモーションだけなら偽物も仕掛けてくるので、油断ならない。
ニヤリと笑って楽しそうに戦い続けるその様は、まさに戦士と言っても過言ではないだろう。

スマホの3画面ディスプレイを横目で眺めつつ、目の前で起こる攻防も肉眼で確認して、自分の元まで届く衝撃などに臨場感を感じながら、レナとオズワルドは呆然と戦闘を眺めていた。

『『『『『<どや!>』』』』』

「……すっごくすごいー」

約1時間後。
全力に近いほどの力を見せつけた従魔たちがわらわら集ってきて、レナにご褒美のナデナデを要求した。
ぷよん、もふん、サラサラ、とそれぞれの感触を満喫するレナ。
苦笑が、しだいにとろけた笑みへと変わっていく。

「さすがに疲れたでしょう。スキル[従魔回復]」

ふんわりとした緑色の光が従魔たちを包み込むと、それぞれが気持ちよさそうに目元を緩めた。

先輩も後輩も、お互いの力を認め合った!

「みんな……凄かったな。強い、と思った……!」

「貴方の仲間として、恥ずかしくない戦力でしょう? ようこそ、こちら側へ」

ルーカがオズワルドに笑顔で告げた。
オズワルドは眩しそうに、先輩従魔全員を眺める。
紫の瞳が、ほんの僅かに細められた。

レナたちは訓練を終えて、森林訓練場を後にする。

えぐれた地面、剥がれた芝生、倒された大木が数体。
なかなかの惨状を引き起こしたため、ストーンゴーレムたちに注目され、シヴァガン王国政府に報告が届いて、赤の女王様伝説がひそひそと王宮でも囁かれるようになった。

……オズワルドはまた、レナたちの少し後ろを歩いていた。
仲間たちの堂々とした背を眺めて、耳の先を少し折れさせる。

従魔たちはとても強かった。
別に、俺が特別ってわけじゃないみたいだな……と、誰の耳にも入らないくらい小さく、ボソッと呟いた。

***

お宿♡ に戻ってから、オズワルドはずっとどこか上の空でぼーっとしている。
心配したレナとルーカがこっそり目を合わせて、オズワルドについて語り合う。

「(オズくん、みんなの戦闘を眺めている時、目をキラキラさせててすごく楽しそうだったのに。今は落ち込んでる……どうしてでしょう?
私、平等に褒めてたと思いますけど……)」

「(……どうやら、それがオズワルドの隠れたコンプレックスだったみたいだ。
誰かの特別になりたい、誰より褒められたい、と無自覚に強く願っていたようだよ。
今は、戦闘力が一番ではなかった自分がこの輪の中にいていい理由を、必死に考えている。
無理やり契約を結ばせたんだからって、罪悪感を持っているようだね)」

「(な、なんと! ……もう仲間なんだから、理由なんて、なくてもいてくれていいのに。
オズくん、強引なところもあるけど、根本的には、気遣い屋さんなんですよねぇ)」

「(この子がきちんと愛情を自覚できるまで、しっかり丁寧に向き合ってあげよう)」

「(分かりました。いつもフォローありがとうございます、ルカにゃん)」

「(うっわ台無し。レナ、そういうとこあるよね。
まあ、貴方はいつも通りにいてくれたら大丈夫だよ。きっと、そのうちここに馴染めるだろう)」

「(はい)」

お風呂に入って身体を清めたレナたちは、みんなでベッドに入った。
寝そべった大きな金色ヒツジのお腹を枕にして、レナたちが並んで眠る。

オズワルドはハマルの背中側で、そっと仲間に寄り添って眠っている。
金色の柔らかいもふもふが、丸まったオズワルドの背中に触れて、優しく温めていた。

***

ーーオズワルドの夢の淵(ふち)。
いかにも怪しげな濃紺のモヤが、どんよりと蠢(うごめ)きながら近づいてきていた。

モヤからは時々、長いブラウンの髪の毛が覗いて、緩やかになびく。
一瞬覗いた口元は、むっすり歪められていた。
時たまキラリと光る夜空のような藍色は、モヤの中にいる人物の瞳の色。

音もなく一歩、一歩、ゆっくりと、オズワルドの夢を土足で踏み歩いていく。

やたらと歩みが遅いのは、夢がほとんど閉じられているためだ。
[快眠]しているオズワルドは、意識を深く休ませている。

人物は己の高い能力にものを言わせて、なんとかオズワルドの意識に介入しようとしていた。
これまで毎夜、そうしていたように。

……しかし昨夜は、オズワルドが幸福感を感じていたため、弱みに付け込む隙がなかった。
今晩は、心にわずかに暗い感情が視えている。

たどり着いたオズワルドの心の中は、まるで青い水晶の洞窟のようだった。
どこに触れても硬質で、誰もを拒絶しているかのよう。
光もわずかしか差し込んでいない。
しかし水晶を近くで覗き込んでみると、キラキラと澄んだ輝きを内包している。
天井は高く……まだ幼い彼の、心の広さを表していた。

また、一歩。
モヤがブワッと広がって、オズワルドの心を覆い、ネガティブな感情を増幅させていく!
眠っているブラックドッグの眉間が苦しげに顰められる。

ニヤリ、と闇が歪んだ気配がした。

「ねぇ……。ボクの仲間の夢にー、何の用?」

「!」

「ボクがみんなの夢の管理人なんだけどー?
他人に勝手なことされるのー、すっごく不愉快ー!」

ふと、星のような淡い金色の髪が、夢空間できらめいた。
謎の黒い靄に、夢の世界に介入したハマルが対峙したのだ。
言葉がきちんと届くように、ヒト型になっている。
人物よりもよほど不機嫌そうに、剣吞に瞳を細めて、グルルッと喉を鳴らす。

……人物が歩みを止めた。
まさか、自分のように夢を渡れる存在がいるなどと予測していなかった。

「悪者はー、撃退しちゃうよー。スキル[夢吐き]!」

誰かの夢の中では寝こける事なく[夢吐き]するための夢の選別ができるらしい。
ハマルがバンザイするように、腕を大きく上げた。

「|隕石落としぃ(メテオ・ストライク)ッ!!」

な、なんという過剰戦力ーーー!!
レナがいつぞや見た悪夢をここぞとばかりに使った。

青色のオズワルドの心全体に、物理的な影が落ちて深夜のように暗くなる。

ゴオオオオ!! という耳をつんざくような不快音に、不審者が上を向くと、なんと超巨大隕石が出現していた!
ラナシュには隕石というものが存在しないので、不審者も正体が分からずに困惑している様子。

一瞬の隙が命運を分ける、と思った?
いや、隕石の衝撃範囲からは逃れようがないのだ。

「ええーーーいっ!」

ハマルがバンザイした手を不審者に向けて降ろした!
凄まじい勢いで、隕石が落下する!

ーー轟音!
そして暴風が吹き荒れ、熱波がハマルの身体をゴウッと包みこむ。

夢の支配者ハマルは、この場に限っては無敵なのだ。ふらつくことなく、しっかりと立っている。

目標にぶち当たった隕石は、やがて、煙と共に消滅した。

この場から逃げるには、また細い細い糸のような夢を、ゆっくりと渡らなければいけないはず。
不審者をやっつけられた、と考えていいだろう。

「ふふ〜ん!」

夢喰いヒツジが得意げに鼻歌を歌う。

「ゆっくりお休み〜、後輩よー」

あらためてオズワルドに[快眠]スキルを使用し、ハマルは彼の悪夢を終わらせた。

▽Next! ブレスレットを購入しよう!

 

 

 

 

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