103:歓迎会

ほんのり薄暗くなった、にぎやかな食材街をレナたちが歩いていく。
レナとルーカで小さな魔物たちを抱えていて、オズワルドはヒト型で2人の少し後ろを歩いていた。

「魔人族が魔物の姿で街を歩くことは推奨されてない。
デカくて邪魔になるし、同種族以外に言葉が通じなくて不便だからな。
主さんみたいな魔物使いや、保証人がいる首輪付きの魔物は例外だけど」

「オズくんは私たちよりも色々よく知ってるねぇ」

「……別に。俺の方がこの国に長くいるってだけだよ。
魔王ドグマが俺を連れ歩く時はたいてい小脇に抱えられてたから、魔物姿になってたけど」

「心配性だったのかな」

「…………さぁ?」

特訓場所に移動する時以外、ほとんど王宮で過ごしていたオズワルドは、物珍しそうに周囲をキョロキョロしている。
持ち前の運動センスにより、人とぶつかることなく歩いているが、万が一はぐれるといけないから、とレナは隣を歩くよう勧めた。

「別に、離れても匂いで分かるって。主さんたちは嗅いだ事がない匂いがするから」

「ああ、これ、スライムジェルにお花のオイルを足した香り……。珍しいシャンプーを使ってるの。
私たち、まだこの国に不慣れだから迷いそうで不安なんだよね……見える範囲に、オズくんがいてくれると安心できるんだけど。頼ってもいい?」

「……仕方ないな」

あっさりとレナたちの少し前に進んだオズワルド。
どうやら扱い方は、幼い先輩従魔たちと同じで良さそう。
微笑ましくて、レナとルーカはこっそり顔を見合わせて笑った。

『『オズっちは何が好物なの〜〜?』』

「どうだろ。王宮では、なんかよく分からない生肉をよく食べてた」

「あンの魔王、食育がなってない……!」

「レナ、レナ。形相がやばい。
ハマルやシュシュのように、魔物状態では草しか食べない種族もいるから。魔王は自分がブラックドッグだった時の経験を参考にしたんじゃないかな」

「うん。俺は魔物状態だと肉しか食べられないよ」

『何の、お肉かも、分からなかったの……?』

「あの人適当だから『良い物だ! 食え!』としか言わなかった。
本人が狩ってきた強い魔物の肉らしい。足引きちぎったヤツとかポイって渡された。
食べたら身体に力がみなぎってきたけど、皮や鱗が付いたままだったし、美味くはなかったな」

「む!」

「レナ、顔、顔」

「魔王の息子ってことで会食に呼ばれて、作り込まれた料理を食べたこともある。
あっちの方が味は美味しかった」

「これからいっぱい美味しくて栄養もある料理食べさせてあげるからね!」

「……うん。ありがと」

『王宮でさー、毎日、お給仕とかなかったのー?』

「……魔物によって子育ての方法が違うから、政府がルールを作って押し付けるとこじれるんだ。
子どもは両親のどちらかの種族系統で生まれてくるから、教育方針がまったく合わないってケースは珍しい。
だから親がいる場合はその家庭のやり方が尊重される。
俺の親は……魔王ドグマ、だから」

オズワルドは複雑そうな表情になった。
後ろから見ていたレナたちも、あ、耳がしゅんとしてる……と落ち込みを察した。

オズワルドは父親についてよく語る。
思い出の大半にドグマが関わっているからだが、彼について語っていても、オズワルドの声に嫌悪感は表れていなかった。
父親から遠ざかりたいと告げたが、レナに明かした本心以外にも、繊細な感情を抱いているのだろう。

オズワルドを目で追いつつ、ルーカがとんとんとレナの肩を叩く。

「(シヴァガン王国の警備隊の人たちがつけてきてる)」

「!」

「(ね、スマートフォン)」

<はい! 確認済みで御座います! ロベルト殿では御座いませんが、似た雰囲気でしっかりと気配を消して様子をうかがっておりますので、尾行のプロフェッショナルかと。
赤毛混じりの黒髪、獣耳の男性と、もう1人はおそらく鳥獣人の女性ですね>

「(魔王様がオズくんを心配して、様子見するよう部下をつけたのかなぁ……?)」

「(あり得るね。まあ、害はないと思うけど)」

スマホの第2の目である小さなガラスレンズを経由して、レナの懐から覗いたスマホ本体に男性の姿が映る。
ルーカがチラリと横目で視て、クスッと微笑んだ。

「(大当たり。魔王ドグマの指示もあり、親子どちらもを心配する彼らの意思もあり……みたいだよ。
いろんな人に心配されて、オズワルドは愛されているね)」

「(そうですか。よかった……。オズくんも愛情を自覚できるようになるといいですね)」

何の内緒話してるの? と腕の中の従魔たちが見上げてきたので、あとで話すね、と目で告げて、レナたちはオズワルドの後ろをのんびりと歩き続けた。
青みがかった黒い尻尾が好奇心につられて軽快に揺れている。

「そういえば。何を買うの?」

ふと、オズワルドがレナを振り返った。

「安売りしてる食材を見てから決めようと思ってたよ。オズくん、興味がある食材や食べ物ってある? 貴方の歓迎会だから、ちょっと豪華な食事を作っちゃおう」

「……うーん。ピンと来ない。ちょっと考えてもいい?」

「いいよー!」

大きな通りの端っこを人の流れにあわせて歩きながら、オズワルドが店頭の商品を眺めていく。
自分の歓迎会と聞いて、困惑したように仲間たちから視線を逸らした。
レナはのほほんと微笑んでいて、先輩たちは『初心(ウブ)な奴よのぅ』とニヤリと笑っている。

この商店街は旅人の客が多く、誰もかれもあちこちを見ながらゆっくりめに歩いている。

野菜、果物、肉に魚、パン屋まで。
それぞれの個性が表れた食料品店の看板がずらりと道の両脇に並んでいる。
隣立つ店の系統がバラバラなのは、どの脇道から商店街に入り込んでも望みの食材を買い求めやすいように……とあえてこの配置なのだ。
専門店を一箇所に集めると、ひとつの商店街の中だけでも移動が大変になる。
広大な土地を持つ王都ならではの工夫だ。
もちろん、レナのように各食材の最安値を見極めたい者はたくさん歩くことになるが、自己責任ということで。

ジーニアレス大陸の食材はとても色鮮やか。
虹色の魚、蛍光ブルーの果物など、ミレージュエ大陸では見られない食材がたくさん!
日本人的な感覚としてはあまり食欲をそそられない色だが、味は良いらしく、多くの旅人たちがカラフルな食材を購入していた。
レナは普通の色の食材を買っているが、興味はあるようで、安売りの声がかかるたびに「試しに買ってみようか……?」と悩んでいる。

しばらく商店街を歩いて、そろそろなにか言わなくては、と思ったのか、オズワルドはとりあえず目に入ったパン屋を指差した。
数人が並んでいるので、ハズレ店ではないと判断した。

「えーと。何か、硬めで味が付いたパンを食べてみたい……んだけど」

「了解! 甘めのと塩けがあるの、どっちが好きかな?」

「……んー、あんまり甘くないやつの気分かな。主さん、オススメの選んで」

「いいよ。じゃあ……ライ麦パンにしようか。この店のイチオシみたいだから。
新しいパンが焼きあがるのはお昼くらいまで。ライ麦パンなら、焼きたてよりも時間が経ってる方が美味しいしね。
クルミ入りのはどう?」

「それで」

「うん! 大きなライ麦パンを2つ、夕飯用に。あとは……みんなー、明日の朝のパンも選ぼうか」

『『『『『わーーい!』』』』』

「!」

あれがいい、これが気になる、と口々に話し始める先輩従魔たち。

オズワルドが困ったようにパン屋のディスプレイを眺めた。
たくさんの種類のパンが並んでいるが、オズワルドが目にした事がない種類ばかり。
多少具材が乗っている物もあるが、パンはどれも茶色で、自分で選ぼうにも、味の見当がつかない……。

「オズワルドが好きそうなパンをいくつか見繕うね。焦らなくていいよ。間違わないから。僕にまかせて」

「……!? なんで俺の好みなんか知って…………ッ魔眼!」

ルーカ改め、黒髪猫のジミーがチロリと舌を出す。

「今は使わなかったよ? さっき貴方の起きがけに気持ちを覗いた時に、ついでに視えちゃっただけ」

「あんな一瞬でそんな細々した情報まで読み取れるワケが……」

「レナの体質ってすごーい」

「!?」

「あーもう、ジミーさん、からかわないの! こら! 貴方のそれは元々の得意技でしょうに!
オズくんは怖がらなくてもいいからね。このお兄さん、根暗でねちっこいところあるけど、貴方が好きなもの食べられるように、気にかけてるだけだから」

「…………………………分かった」

とばっちりをくらったレナを愕然とした表情で見上げていたオズワルドは、説明されると、とりあえず納得したというように頷いて、またパン屋のショーケースにジト目を向ける。
聞き分けが良すぎるのは、対ドグマ処世術を身につけた影響だろうか。
これまでも父とろくに話し合わず、頷いて済ませてきた可能性が高そうだ。

レナが黒髪ルーカを小突くと、「せめてお詫びに全力でパンを選ぶね」と返ってきた。

ルーカが後輩のために選んだのは、クロワッサン、カスタードクリームパイ、ナッツのデニッシュ。
さくっとした食感が犬耳王子の未だ知られざる好みらしい。

翌朝パンを食べたオズワルドは、あまりにも舌に合う味だったため、夢中でほおばり、簡単にルーカの印象を上方修正する。
わざわざ「美味かったよ!」とルーカに報告するくらい、3種のパンが気に入ったようだ。
素直に感謝されたため、ルーカも後輩の好感度を上方修正した。

それぞれの好みも言っておこう。
レナは食パン、ルーカは玉子サンドイッチ、クーイズはクセの強いチーズ入りのパン、リリーははちみつフレンチトースト、ハマルは柔らかい白パン、シュシュはフォッカッチャが一番のお気に入り。

……と、これはまだ先の話。
たくさんパンを買い込んだレナたちが店を離れると、前方から「大玉のキャベツがお買い得!」と威勢のいい声が聞こえてきた。
「お買い得!?」『キャベツ!』と、レナとシュシュの目が輝く。
チラリと2人を見たオズワルドが声をかけた。

「キャベツ買う? 俺、とくにメニュー思い浮かばないから、それで何か作って」

「いいの? お野菜メインになるけど」

「普段は肉をよく食べてたけど、野菜も嫌いじゃない。美味しく作ってくれるんでしょ?」

「わ、期待されると、ご主人様張りきっちゃう。まかせて! とびきり美味しいキャベツ料理作るねっ」

ご主人様とは……いや、レナはこれでいいのだ。
料理はレナの趣味。趣味を楽しむために、従者がきっかけを提供していると考えよう!

『ねぇ、夕飯、ロールキャベツを推す!』

シュシュが羽根耳をパタパタさせて主張する。
先日口にしたロールキャベツがたいそう気に入ったらしいのだ。

”シュシュ”という名前にはキャベツという意味もあるので、共食い……とも言えなくはないが、羊肉をむさぼるハマル先輩がいる時点で、レナパーティは誰1人として気にしなかった。

「味付きひき肉をキャベツで包んで煮込む料理だよ。どうかな?」

レナがオズワルドに確認を取る。

「じゃ、それで」

「味はあっさり、こってり、どっちが好み?」

「あっさり……」

「トマト系のスープで煮込もうか。よし、キャベツと、トマトの瓶詰めソースを買っていこう」

『やったぁ! 野菜がいっぱい! オズワルド、ありがとう』

「別に……提案に不満がなかっただけ」

ぐいぐい距離を詰めてくる先輩従魔たちからまだ遠ざかっていたくて、オズワルドはそっけなく返す。

<アラヤダ、臆病な性格で御座いますねー。攻撃力よりも素早さが高い、特殊アタッカーといったところでしょうか。
……ふっ、またつまらぬことを言ってしまった>

自覚があるようでなによりだ。なお、楽しんでいるため改善はされない。
無駄は美学、とスマホの待ち受け画面にデカデカと書かれている。

こっそり臆病呼ばわりされたオズワルドは、自分の意見が反映される食材選びが終わってホッと一息ついていた。
自己主張があまり得意ではないのだ。

買い物を終えたレナたちは、賑やかな商店街を後にする。
歩きながらこんな話題になった。

「そういえば。オズくん、米っていう穀物を見たことはないかな?」

「米……。細かい白い粒の、柔らかいやつ?」

「!? そ、そう、それ!」

驚いたレナは、思わず抱え込んでいたスライムとシュシュをぎゅぎゅっと圧迫してしまった。

『『きゃああっ♡』』

『ふぐっ!? ……このくらい、耐えられる。今のシュシュは愛されている、愛があればなんでもできる』

「あ、ごめんねっ!?
オズくん……どこでお米を食べたのか、聞いてもいい? 私の故郷の主食なの。また食べたくて、ずっと探していたんだ」

オズワルドは瞬きすると、記憶をたどって、虚空に視線を彷徨わせた。

「そうなんだ?
……俺が米を食べたのは、東方の民族代表との食事会だったと思う。
シヴァガン王国に東方の民が訪れたときに、手土産に特産品を持ってきてくれたから、来訪歓迎の証として、彼らの前で米を口にしたんだ。
彼らは長旅の間は米が食べられなかったらしくて、やっと胃が落ち着きました、ってわざわざ料理長にお礼を言ってくれたのが印象深い……。穏やかでいい人たちだった。
主さんは出身地があっちなのか。確かに東方の民に見た目が似てる。
……米は早めに食べた方が美味しい、って言ってたから、あの時のはもう王宮で消費されたんじゃないかな。
この辺りの商店街では、東方の食料品は扱われていないと思う」

「う。そうなんだぁ……」

魔王国政府に相談してみようか……と想像してみて、レナは何とも言えない顔になった。

凶悪に笑って「いざ東方へ!」とナナメ上に走り出す魔王ドグマ、無表情で目をキラリと光らせ「報酬について相談しましょう」と持ちかけるサディス、仕事を押し付けられるロベルト、頼りになりそうもないマリアベルが頭をよぎったのだ。

……これはいけない。
対価、もしくは借りを作ることになるので、できれば頼りたくない。

しかし、レナの舌はいい加減にお米を渇望(かつぼう)している!
炊きたてのツヤツヤのお米! 真っ白な身体の神々しさといったら! 噛み締めたときの優しい甘みに包まれたい! ああッ!!

実はハマルの[夢吐き]で炊飯器はひと足早く確保していた。
ずっと「欲しい!」と願い続けていた極上の米が炊き上がる最新型の炊飯器を、レナは夢に見たのだ!
しかも一番容量が大きいやつ!
地球では買えなかった高級品が手元にあるというのに、肝心の米が無いなんて……と、こっそり悔しがっていた。
高級炊飯器は、主に圧力鍋として煮込み料理やカンタンなケーキ作りに使われている。

「……まあ……お米があるって分かっただけでも進歩だから……」

湧き上がる欲望を抑えようと、レナはギリギリ歯を食いしばっている。

「里帰りする……とか?」

「あー、んー、えっとね。
……帰れないんだ。またきちんと話すね」

「? ……分かった。
あ。そういえば今年は、東方の星の収穫年なんだっけ」

オズワルドはうかがうようにレナを見上げたが、レナは少し憂いた表情のまま、話題に乗れず口を閉ざしていたので、独り言をよそおって話を続けた。
先輩従魔たちがホッと小さく息を吐く。

「”恵(めぐみ)星の収穫年”……東方の民はこの1年間、一切の外交を閉ざして、国に引きこもるんだ。
彼らが信仰してる白い精霊が姿を現して、夜空が最も美しい夜に、特別な星を集めて人々に分け与えてくれるんだって。
どんな効果があるのかは秘密にされてる。
でも、東方の民にとってとても大切なイベントのようだよ。
国を出てる人たちもみんな帰っちゃうくらいだから」

「へぇ。トイリアのジーンさんも帰国するのかなぁ……でも、今年に入ってから1年間、鎖国なんだよね? あれ。まだトイリアにいるってことは……微妙に出身地が違ったのかな」

「東方の暦(こよみ)はミレー、ジーニ大陸の国々とは少し異なってるよ。
彼らにとっての1年の始まりは、まだ数ヶ月先にあたる。寒くなってからだな。
少数民族は個性的な文化を持ってるところが多いんだ」

「そっかー。オズくん、色々教えてくれてありがとう」

「……どういたしまして」

東方、レナに似た顔立ちの民族。
もしかしたら地球のアジアのような雰囲気で、レナにとっては懐かしい文化や風習、食べ物がある地域なのかもしれない。
いつか訪れてみたいなぁ、とレナはそっと故郷に思いを馳せた。
スマホの<魔物になったらやってみたいことリスト>に、マスターたちと東方に旅行、と項目が追加されたのはまだ内緒である。

お宿♡の前に着く。
ショッキングピンクの電飾に彩られた淫魔の城の本気を目にしたオズワルドが、青いような赤いような顔のまま硬直する。
今はバリバリの営業時間なのだ。
この光景を見るのは初めてだったらしい。

「……………………………………………………………………………………………ここに、泊まるの?
え、これから俺も入るってこと……か? ま、毎日?」

『オズ、もう中でひと眠りしてるじゃんー』

『『そーそー。事後だよ、事後ー』』

『クスクスクスッ! お部屋は、快適だった、でしょ? ノープログラムなの! …………あれ?』

<リリーさん可愛い!>

『やったぁ♡ …………何か、考えてたような? ま、いっか』

『早くロールキャベツ! ロールキャベツ!』

先輩従魔たちがオズワルドの反応をからかう。
レナがぐいぐいとオズ少年の背を押して、ルーカが玄関扉を開けた。

オズワルドの様子を目の当たりにした受付のララニーが、「ぶはあっ!」と噴き出して肩を震わせている。
鼻を押さえたハンカチが赤くなってきているのはさすがにどうかと思う。
笑いながら鼻血も出すとは、器用な淫魔だ。

「お宿♡の前で立ち止まってると余計に目立っちゃうよー、オズくん! 損だよ? さ、歩いて歩いて。お腹すいたから早くご飯にしようー」

「うちは基本的にお宿♡に連泊だから、腹を決めておいてね。大丈夫、そのうち慣れるよ」

主人たちに退路を断たれたオズワルドは、ぎこちない足取りでお宿♡に入っていった。

***

「それでは。ロールキャベツを作りまーす!」

『『『『『はーーい!』』』』』

「いいお返事ですー。またみんなにも子供用エプロン買ってあげようね。いつもお手伝いしてくれるもんね! いい子! 助手のルーカさーん」

「はーい。もうかなり料理にも慣れたから、なんでも申しつけてね。
とりあえず家具ににおいが移らないよう[サンクチュアリ]展開しとくよ」

「自主的にいろいろ動いてくれて助かります! いい子!
もう何でも安心して任せられますが、お料理中にはくれぐれも私かシュシュから離れないようにお願いしますね。食材切ってる時とかに悪運が発動したらシャレにならないので。
それではスマホさん、今日のオススメレシピをお願いします」

<かしこまりました! 検索中…………”お口でとろける♡たまんないロールキャベツ”をオススメ致します!
こちら、ひき肉にマヨネーズを加えてコクを出すとのこと。
ユーザー評価の高いレシピです。
トマトスープがあっさりなので、ひき肉の味はしっかりしていた方が良いと判断しました>

すっかりマヨラーになったルーカの耳がぴこぴこし始める。
肉ダネに少しマヨネーズを混ぜたくらいでは卵の味はしないだろうに、という言葉をみんなは飲み込んで、微笑ましくお兄さんを眺めた。

スマホが空中にウィンドウを創り出しレシピを表示してみせると、オズワルドがぽかんと口を開く。

「な、なにこれ……!?」

「えっとねー……スマホさんは情報をこんな感じに映像化できるの。そういうもの! ってことで。それ以上説明のしようがないなぁ」

レナは苦笑している。しかし本当に「そういうもんだ」としか言えない。今後、SF映画などを鑑賞させるとオズワルドもなんとなく理解するかもしれない。

「早くご飯が食べられるように、オズくんもお手伝いしてくれるかな?」

「……それはいいけど。何をすればいいの? 料理したことないから、俺、まだ何も分からないよ」

「先輩たちと一緒に、お皿やフォーク、ナイフを用意してくれる? オズくんはみんなより背が高いから、高いところのお皿もとれるよね。食器棚にたくさんお皿があるから、どれがいいか貴方に選んで欲しいの」

「……? そんなんでいいの?」

「うん! とっても助かるよ。お料理が出来上がったらすぐに盛り付けられるから」

「分かった」

「よろしくね。
じゃあ、みんなも魔人族姿になりましょー。クレハとイズミは先にスライム蒸し器になってくれる?」

『『ガッテン!』』

レナが言うと、リリー、ハマル、シュシュがヒト型に変身した。
汚れ防止の魔法がかけられたワンピースを着用する。

「さすがにみんな希少種だけあって、きらびやかな見た目だな」

「「可愛い? 知ってる!」」

オズワルドの呟きをひろって、リリーとシュシュが自信満々に宣言した。
褒められたよーとレナに報告しに行くまでがワンセットである。
レナは自分の従魔が認められると、ひときわ嬉しそうに笑うのだ。

漢女たちから返事を求められなかったオズワルドはさっさと支度にとりかかった。
お宿♡オーナーネレネが用意した客室用のお皿がたくさん食器棚に並んでいる。
スープがこぼれないように深さがあるものがいい、どんな柄がふさわしいだろうか……とオズワルドが吟味を始めた。

クレハとイズミがうにょうにょと混じり合い、”紫スライム”になる!
楕円型に変形して、ボディの中に空洞を作った。
レナが大きなキャベツをそこに入れる。

『『蒸されろ〜〜蒸されろ〜〜♪ キャベツ〜〜、シュ〜シュ〜♪』』

イズミが水魔法[アクア]で”ミスト・シャワー”を発生させ、クレハが赤魔法[フレイム]で熱を加えていく。
じんわりキャベツが温まっていく……。
再度言っておくが、スライムは調理器具としてとても優秀である。

「ん! 呼んだ?」

『シュシュ、食べちゃうぞ!』

『お肉をシュシュで巻くぅ!』

「あ。そっちか。シュシュ♪ シュシュ♪ シュ〜シュ〜♪」

幼児たちのソプラノの歌声を聞きながら、レナとルーカが下ごしらえをしていく。
人参と玉ねぎを細かく刻んで、フライパンで炒める。
ストックしてあった少しお高い牛ひき肉を取り出して、塩胡椒とマヨネーズを混ぜてこねていく。
マジック・リュックの異空間は今やスマホが完璧に管理しているので、入れておいた食料は時間すら経過しないのだ。

「キャベツがちょうどいい柔らかさに蒸しあがったと視たよ、レナ」

「お疲れ様、クレハ、イズミ! ルーカさんも視認ありがとうございます。
じゃあキャベツの芯を削いで巻きやすくして、タネを葉で包んでいきましょう。
ここ、ルーカさんにまかせていいですか? 私はトマトスープを作っていきますね」

「うん!」

うきうきと作業を始めたルーカが、キャベツの葉の隙間からこぼれた熱い水滴に「あつっ!?」と声を上げさせられたのは、いつものささやかな運の悪さのせいだろう。

レナは瓶詰めトマトソースに水を足して、調味料で味を整え、[|熟成(エイジング)]して一晩煮込んだほどのとろみをつけた。
美味しい食事のため、魔力を惜しみなく使用している。
今回は調理量がかなり多かったので、炊飯器を使わずに、寸胴鍋でロールキャベツをまとめて煮込んでいった。ウインナーも一緒に放り込む。

グツグツ、グツグツ、赤いトマトスープに泡が浮かび上がるたびに、食欲を刺激するいい匂いが結界内に広がる。
みんながソワソワと肉に火が通るのを待った。

「ご主人さま。テーブルを拭いて、ナイフとフォーク、スプーンを並べたよ」

「ふちに金の飾り模様があるお皿をオズが選んだ。あと、水洗いもしてくれた。
シュシュとリリーでお皿をふきんで拭いたの!」

「えらいー! 完璧に出来るようになったね! うう、お皿を落っことさないよう下にクレハとイズミが待機してお手伝いしてくれてた頃が懐かしい……ぐすっ。成長したなぁ。
オズくんもありがとう!」

「……水で適当に皿を濡らしただけだけど」

オズワルドは気まずそうに俯いている。洗剤で皿を洗うほうがいい、と思っていたが、万が一割ってしまったら……と考えて一歩ひいてしまったのだ。

「それでも十分助かったよ。選んでくれたお皿もすごく素敵!
たくさんお手伝いしてくれたね」

レナが嬉しそうに笑顔になると、オズワルドは眉間にしわを寄せた。

「……そんなことで褒めるのか?」

「? もちろん。綺麗なお皿に盛りつけたら、ロールキャベツをもっと美味しく感じられそう」

この主人は従魔にめちゃくちゃ甘い。
オズワルドはそう呆れながらも、心がほんのりあたたかくなっている、と自覚した。
……気をまぎらわせるように頭を振った。
ルーカとリリーが顔を見合わせて、しめしめ、懐柔されてしまえ、とにやつく。

「ロールキャベツが上手にできましたーー! 頂きましょう!」

「「「「「わーーーい!」」」」」

各自のお皿にロールキャベツがまず2つずつ盛られ、赤いトマトスープが注がれた。
薄くスライスされたライ麦パンとチーズ、サラダは大皿。
大食いのクーイズの前には、満腹になるように、バゲットがででん! と2本も置かれている。毎度の光景だ。

テーブルの中央には、シュークリームを重ねたケーキ「クロカンブッシュ」が。
歓迎会といえばケーキなのである。
以前シュークリームを作った際に、余りを異空間に保存してあった。それをレナが即興でアレンジしたのだ。
新鮮なフルーツとミルククリームが飾られていて豪華な見た目。まさにとっておきの一品!

メッセージプレートは飾られていないが、その代わり心を込めて、歓迎の気持ちを言葉で伝えよう。

「オズくん。私たちのパーティにようこそ! これからどうぞよろしくね」

「「理由はどうであれ、なんだかんだ歓迎してるんだからねッ!」」

「うんうんー。仲良しが一番だもんー。ねぇ?」

「「いらっしゃーい!」」

「仲間入りおめでとう、オズワルド。これからどうぞよろしく。何かあったら相談にのるからね」

オズワルドは目を白黒させている。
まさか食事前の挨拶でそんなことを言われるとは思ってもいなくて、驚いていた。
しばらく尻尾を逆立てて沈黙していたが……こくりと頷いて、緊張してこわばった声でぽつりとお礼を告げた。

「……歓迎会、ありがと。……嬉しい、と思う」

全員がにっこりと微笑んだ。

それでは、食事の時間だ! 食らい尽くせッ!!

ロールキャベツはナイフがスッと下まで通るほど柔らかく、溢れた肉汁がトマトスープに黄金のいろどりを加えていく。
なんと美しい!
大きく一口分を切って噛み締めれば、口内がワンダフルッ! 肉の旨みとキャベツの甘み、トマトスープの酸味が絶妙に絡み合って素晴らしいハーモニーを奏でている。
サラダ、パン、チーズを時々つまみつつロールキャベツを食べきり、旨みが溶け込んだトマトスープを口に運べば、もうパラダイスが止まらないー!!

ほわわんと夢うつつの表情でお代わりをして、夕食をしっかりお腹に収めると、最後にデザートの甘い誘惑が待っている。
知ってた! そのためにほんの少し胃袋のスペースを空けておいたのだから!

まず主役のオズワルドが、シュークリームを一口齧る。
さくっ、と経過時間ベストコンディションのシュー生地が歯に心地いい食感を与えた。香ばしい香り。
そして……ふんわりホイップされたミルククリームが舌の上でとろけていく。
フラワーシロップが混ぜ込まれていていて、優しい風味が鼻に抜けていった。

たまらず、オズワルドは大きな口でまた齧り付く。口の端に付いたクリームも舐めて、うっとりと尻尾を揺らした。

<我ながらナイスショット! 撮ります! 撮ります!>

うずうずタイミングを計っていた先輩従魔たちも、あわててシュークリームを口にする。
とりわけた時には普通のシュークリーム扱いになってしまうのは、クロカンブッシュの切ないお約束。

シュークリームをまるごと口に収め、ハムスターよろしく頬をモゴモゴさせるクーイズ。
可愛らしく小口で食べるリリーに、クリームをつけた手を舐めながら夢中でシュークリームを頬張るハマルとシュシュ。
大人組はさすがに落ち着いてデザートを食べている。

ごちそうさまでしたー!

レナたちは大満足で歓迎の食事会を終えた。

「……。明日は、現状の俺の力を見ておく? 主さん」

「うん。是非お願いしたいなー。楽しみにしてるね」

穏やかな声で約束が交わされた。
お宿♡の一室の照明が消えて、優しい静寂が訪れる。
みんな深く[快眠]していて、夢を見ることはなかった。

▽Next! オズワルドの実力

 

 

 

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