102:オズとの会話

ハマルに[快眠]させられたオズワルドは、かなり深く寝入ってしまい夕方まで起きなかった。
ルーカが体調を覗き視したところ、オズワルドは不眠ぎみで、疲れがたまっていたよう。
ピクリとも動かず、くてっと横になっていたので、レナは心配して、時々きちんと呼吸しているか確かめていたほどだ。
穏やかな寝息を確認して、ホッと胸をなでおろした。

「宰相さんは、難のある子って言っていたけど……体調も含めての発言だったのかな?」

「いや、多分違う。……ステータスは総じて高いし、状態異常や呪いがかけられている訳でもない。
ただの睡眠不足だよ。何か深刻な悩みを心に秘めているのかもしれないね。視る?」

「いえ。お話してみようと思います」

「そっか。レナらしいね。
宰相の言葉は、レナの意思をあらためて聞き出すための嫌味だったんだろう」

「ひー……油断ならないなぁ。恐ろしや……」

レナは優しい目でオズワルドを眺めていた。

『この子の毛皮、ふかふかのツヤッツヤだよねー! 青みがかった黒、すごくキレーイ』

『血統と至れり尽くせりな環境のおかげかしらぁ?
でも、父親の生い立ちを考えるとむしろ野良由来の雑種犬なんだよね。高貴な生まれ感はなぁーい。
起きたらもふらせてもらおっと〜!』

『かならずやオズワルドを、”レナ様にもふられ隊”に引き込んでみせますー。しばしお待ちをー。
そのうち、自ら頭を差し出すように教育するよー。ね、ルーカ!』

「そんな隊に入った覚えはないんだけど。いつ発足してたの? 調教師としての力は貸すよ」

『完全に獣に変身できるようになったら、ルーカももふられ隊に入れてあげる! 今は、ハマルとシュシュだけが隊員なんだよ』

『『ぷよられ隊員、はーーい!』』

『<触れられ隊員、はーーい!>』

「もうみんなまとめて、愛され隊でいいんじゃないかな……? 目的は一緒だし」

『だって、もう……いっぱい、愛されてるもん……。きゃっ!』

リリーがここぞとばかりに乙女を発動した。頬を染めてくるりと回り、恥ずかしそうに微笑んでレナにパチパチ瞬きしてみせる。
純粋な女子力が輝いている!

『『『『<ほんとそれーー!>』』』』

ちいさな従魔たちが一斉に、愛らしい上目遣いで、ベッドに腰掛けていたレナを見上げた。
今回は『』を省略しなかったので、褒められてもいいと思う。

ぬいぐるみのような魔物たちが揃って横並びになる光景はファンシーでとても癒される。

「私、魔物使いに就職してよかったぁ……!」

業務過多で疲労しまくった社員がふと顧客からの感謝に触れて、己の仕事を誇らしげに振り返った時のようなセリフがレナの口から漏れた。

「私、生まれ変わったら千手観音様になりたい……」

ぎゅっ、ぎゅっと従魔たちを順番に抱きしめて、レナがほわわんと呟いた言葉がこれである。
千手観音とは? と、レナの脳内想像図(腕が42本あるレナ降臨)を覗いたルーカが口を押さえて撃沈した。
なにやってんだか。

しかし、大した意味がなくても楽しい時間を過ごせたならそれでいいのだ。
人生を楽しめるのは、素晴らしいことなのだから。
思う存分癒されるといい!

「……では。魔王ドグマと、サディス宰相さんのステータスを発表します」

『『ぱふぱふーー!』』

覗き魔という一部からの評価に恥じないさすがの手腕である。
ルーカは魔王と宰相が訪れる直前に、部屋の壁ごしに2人のステータスを視認していたのだ。
ついでに、ロベルトのステータスも皆で共有しておこう。

高級お宿♡のセキュリティは信頼できるが、一応[サンクチュアリ]で声を遮断して、内緒話体勢を整える。

オズワルドを囲んで、皆思い思いにベッドに寝転がった。
緊張の糸が切れているので、表情はのほほんとしている。

ルーカが紙にさらさらと文字を書き始める。
レナが地球から持ち込んだ赤いシャープペンシルは、いつの間にか祝福を受けていて[無限芯・如意棒]というシブイ魔法効果を取得していた。

あとで記録紙の写メを撮れば、スマホ内に情報がデータとして保存される。
紙ごと異空間に取り込んでもいい。便利だ。

シヴァガン王国の要人たちの極秘情報が丸裸にされてしまった!

「ギルドカード:SS
名前:ドグマ
種族:デス・ケルベロス♂、LV.75
装備:高級貴族服、M付与魔法無効ジュエリー、Mバッグ、M服飾保存ブレスレット(藍)
適性:黒魔法[闇]、赤魔法[熱、炎]、緑魔法[治療]

体力121
知力:85
素早さ:108
魔力:76
運:41

スキル:[嚙み砕き]+1、[剛爪]+1、[観察眼]+2、[遠視]、[地割り]、[身体強化]+1、[五感向上]、[全力初動]、[咆哮]、[業火球]、[火柱]、[超回復]+1、[ハイ・テンション]、[拘束離脱]
ギフト:[限界突破]☆5、[野性の本能]☆5
称号:孤高の獣、魔人族、魔王」

「うわっ……! さすがにレベル高いですね! 彼がこの世界の最高峰だったりしますか?」

「あのデス・ケルベロスはまだ年若いから、歴代魔王と比較すると、これでもレベルは低めだよ。
もっと長生きしている種族や、戦闘に明け暮れるヒト族のSランク冒険者など、魔王よりもレベルが高い存在がいる。
でも……武闘大会で優勝するくらいだから、強さは魔王ドグマが別格にすごい。
ギフト2つ、多彩なスキル……どれも強力な技能が揃ってる。あとは本人の戦闘センスも素晴らしいんだろう。
[野性の本能]でこれらを使いこなして、武闘大会に挑んだんじゃないかな。
魔物たちの頂点に立つ存在として、文句なしにふさわしい」

『『人柄はアレだけどね〜〜っ!?』』

「そうだねぇー…………んっ、んんっ! あ、危ない危ない。
あんまりこの感覚に慣れると、今度魔王様に会った時に顔に出ちゃいそうだから、気をつけようっと……」

おそらくそれはもうアウトである。
そして、魔王は自分に都合よくポジティブ曲解するためまるで無問題だ!
これはひどい。

「レベルが高くなればなるほど、成長が途中で停滞する。
同等以上の力を持つ相手がいなくなるから、レベルアップの経験値を得ることが難しくなるんだ。
ツェルガガ王妃が亡くなってから、魔王ドグマのレベルはほとんど変化していない、と視た。
ラナシュにレベル上限があるかは分かっていなくて」

<ラナシュネットワークに接続中……接続中……。レベル上限は御座いません!>

「だそうですね。うっわ、それを研究対象にしてる人たちが目を剥いて驚く情報だよ……!?
スマートフォンでの検索はもはや反則だなぁ……。
ちなみに、これまでのラナシュ世界史上で記録されている最高レベルは”100”だよ」

「ルーカ先生すごい、博識! スマホさんもとんでもない!」

<ほほほほほっ!>

ご主人様に褒められて、得意げに金色ネコミミが揺れ、スマホの画面がキラリと光った。

実力がある高貴な身分の者たちは、災害が起こった時に冒険者ギルドに力を貸すため、特例の『SS』ランクとして登録されている。
魔王ドグマ、サディス宰相も、冒険者として高難易度の依頼を引き受けた事があるのだ。

「ギルドカード:SS
名前:サディス・シュナイゼ
種族:影蜘蛛♂、LV.82
装備:高級貴族服、Mバッグ、書類セット、M服飾保存ブレスレット(朱)
適性:黒魔法[闇]、緑魔法[風、治療]、黄魔法[付与]

体力:89
知力:127
素早さ:78
魔力:84
運:40

スキル:[魔力増大]、[束縛技術]+2、[透明糸]、[粘着糸]、[切断糸]、[束縛糸]、[糸質変化(鋼)]、[毒牙]、[直感]、[高速筆記]+1、[速読]、[記憶力向上]、[話術]、[バランス感覚補正]、[威圧]+1
ギフト:[集中継続]☆4、[蜘蛛の嗜み]☆4
称号:魔人族、一族の誉(ほまれ)、教育者(極(きわみ))、宰相」

『わー。あの宰相さんも強いねぇー』

『あの、魔王を……調教するためには。これくらいのステータスが……必要なんだ……! シュシュ』

『分かってる、リリー。鍛えよう。私たちは奴に一発くらわせるために鍛錬を加速させなくちゃ。指導よろしく頼むよ、調教師!』

「2人の言葉のとっちらかり具合がひどいな……。あの魔王がレナを疲れさせたことがとても気に食わなかったんだね?」

『『ん!』』

魔王は漢女たちに敵対視されていた。
実は、よくあることなのだった。

遠くから眺めているぶんには、強くて頼り甲斐がある美形魔王なのだが、しばらく会話しているとあのドグマ節にやられて必ずげっそり疲労する。
魔王という立場を考えて無遠慮に言い返せないことも、ストレスを加速させる原因である。

付き合いが長い王宮の者たちは皆、魔王ドグマを生あたたかい目で見ているのだ。
サディス宰相など、ドグマを立派な魔王に仕上げようと日々壮絶に|追いかけっこ(バトル)している。
彼の辞書に妥協という言葉はない。

拳を交えて和解するまで、漢女たちのドグマ好感度はおそらく上がらないだろう。
ルーカがぷっと吹き出す。

「……強くなるのは良いことだし、じゃあ特訓頑張ろっか。レナを守るためにも、力はつけておいたほうが良いしね。サポートするよ」

『んー? ちょっぴり他人事みたいに言ってるけどー、ルーカも、そのうち魔王から勝負挑まれるんじゃないのー?』

「……そうだね。なんとかなると、思いたい。うぇ……面倒くさい……」

ルーカは遠い目で「運が悪いって良し悪しだな」とつぶやいた。
その運の悪さでレナたちに同情され、今の環境を手にした面もあるので、ただ不幸なだけではない……との考えらしい。
ルーカもすっかりポジティブになった!

「ロベルトさんに獣化指導、頑張ってもらうとしようか……。
あの魔王のことだ、僕が今のまま成長する気がないと感じ取れば、他の従魔に興味を抱きかねないからね。
僕も、これからもっと強くなるよ!」

ロベルトはポジティブの犠牲になったのだ。

「ルーカさん、顔が仄(ほの)暗いですよ?」

「元からだよ」

ネガティブも顔を出してきた。実に難儀な青年である。

レナは苦笑しながら、「いつもみんなのこと大切にしてくれてありがとうございます」と労わり、ネコミミを撫でてやった。

思わぬところで貧乏クジを引いたロベルトのステータスはこのとおり。

「ギルドカード:S
名前:ロベルト
種族:雪豹(スノー・パンサー)♂、LV.50
装備:魔王軍制服、Mバッグ、M通信リング、M服飾保存ブレスレット(白)
適性:青魔法[水、氷]

体力:79
知力:68
素早さ:109
魔力:56
運:20

スキル:[駿足]+1、[切り裂き]、[暗躍]+2、[忍び足]、[氷爪]、[氷鏡]、[パウダースノウ]、[氷点下]、[冷気耐性]
ギフト:[耐久力]☆5
称号:万能部下、万能上司、魔人族」

「ああ。すごくロベルトさんらしい」

『『ねーー!』』

そんな感じだ。会話終了。

……ここで、オズワルドの尻尾がゆらりと持ち上がった。室内照明に照らされて、漆黒が青みをおびて輝く。

『…………。…………寝てた……?』

まだ頭がボンヤリしているらしい。
眠たげにゆっくり瞼を持ち上げて、くるりと首を回すと、仲間全員がじっとオズワルドを見下ろしていると気付いて、少し毛を逆立てる。
先輩従魔たちは、にやっ……と悪そーな笑みを浮かべていた。

「おはよう、オズくん!」

『……おはよう。主さん』

「体調はどう? ハーくん……このヒツジの子が、いきなり[快眠]させちゃったから驚いたでしょう。ビックリさせてごめんね」

『……』

オズワルドは眉間を寄せて、険しい顔でハマルを見た。
ハマルは堂々と胸をはってオズワルドを見返していて、『何か問題でも?』と言わんばかり。

魔物たちは群れの上下関係をとても重視する。
後輩がどのようなアクションを起こすか、出方をじっとうかがっている。

『俺が攻撃を避けられず、眠りの状態異常に陥ったんだ。たとえ怪我をしてたとしても、非はこっちにもあると、俺は考える。
……だから、主さんの謝罪なんて必要ない。眠らされただけだし。
……深く眠ったから、体調は良くなっていると思う』

レナは苦笑ぎみに、ほんのりと微笑んだ。
まだまだ心の距離が遠く、確かに、歩み寄ってもらうのが大変な子のようである。
でも、完全に拒絶されている訳ではないと感じた。

「そっか。体調が良くなったなら安心したよ」

オズワルドはおそらく『心配しないで、大丈夫』と言いたいのだろうが、冷ややかな言葉で気持ちを表現しているため、結果として愛想がないぶっきらぼうな印象を与えてしまっている。
レナのように溺愛オカンフィルターがなければ、他の魔物使いたちには、不愉快に思われただろう。

オズワルドは金眼にレナを映す。
……清らかな魂の輝きを視認した。眩しそうに眼を細める。
レナは、オズワルドと仲良くなりたいと思っている、と理解した。
お人好しにも程がある……と内心でこっそり毒づく。照れ隠しでもあるのだろう。

……オズワルドはぷいっと顔を逸らしてしまい、今度はハマルを見やる。

レナの謝罪に対しては『別にいい』と言ったものの、驚かせた張本人から何も言われないのはいかがなものか? と考えていた。

『ねぇ……。アンタからは何も言うことないの?』

声がワントーン低くなっている。

『んー? 何がかなー……?
ボク、アンタじゃなくて”ハマル”って名前なんだけどー。星の羊。綺麗な名前でしょ?
レナ様は優しいから、驚かせてごめんねってオズに言ったけどー。ボクは、いつまでたってもそっけない態度の後輩を注意しただけだからー、謝んないよ。先輩としての役目だもーん。
ボクが謝るのはー、レナ様に対してだけ。代わりに謝らせちゃって、ごめんなさいー……』

「……うん」

レナは苦笑しながら、事の成り行きをとりあえず見守っている。

ハマルたち先輩従魔も、オズワルドをいじめたいわけではないのだ。
レナにはよく理解できないが、獣社会特有のルールがあるらしい。
これから皆で行動を共にするのだし、最初に話し合ってわだかまりを少しでも取り除いておいたほうがいい、と成り行きにまかせている。

シャドーボクシングしていたシュシュは万が一爆発しないよう、レナが腕に抱え込んでおいた。

『オズ、自分から望んで従魔になったんでしょー。
だったらー、受け入れてくれたレナ様にもっと寄り添いなよ。それが誠意ってものだと思うけどー?』

『…………。ありがとう、とは言ったし』

『レナ様が抱え込むことになったのは、その一言だけじゃ足りない、もーっと重いたくさんのものだって、ちゃんと気付いてる筈ー!
レナ様、君に難しいものは望んでないんだからさー。
ただ、従魔と仲良くなりたいだけなんだ。ボクたちもそうー。せっかく一緒にいるんだし、君と仲良くなりたいなァー。
かなり破格の待遇だと思うけどー?』

ハマルがチラリとルーカを振りかえり、察したルーカは手元にあった薄手の毛布をミニヒツジにかけてやった。
ハマルが白光をまとって、愛らしいヒト型になる。

「……友達になろーよ? とりあえずー、握手から始めましょー。ね!」

にっこりと笑って、ハマルは手のひらを上にしてオズワルドに差し出した。

こ……これは!
犬っころ相手に、”お手”を要求しているーー!!

とんだ腹黒マゾヒストである。

『!? ……アンタさ……』

「ハ、マ、ル。ハーくんでも、先輩って呼んでくれてもいいけどー。
せっかくレナ様がつけてくれた名前をアンタで上書きするなんてー、許さない」

オズワルドが、じとっと半眼で、幼児の柔らかそうな手のひらを眺める。
ひくっ、と鼻が動いた。
獣なので表情は分かりづらいが、ドン引きして顔を引きつらせているのかもしれない。

レナがハラハラと2人を交互に見ている。
さすがに咎めるべきかと手を伸ばしかけたが、シュシュに『まだ!』と訴えられて、もう少しだけ耐えようと腹を決めた。

すると、オズワルドも青い光をまとって、ヒト型に変化してみせた。

「……よ、ろ、し、く」

仏頂面で告げて、ハマルとがっしり握手する。

”お手”なんてしてなるものか! 飼い犬のように手懐けられるつもりはないんだ、とギラついた金眼が明瞭に語っていた。

ハマルは「ふーん?」と眉を跳ね上げたが、まあ、よろしくって言葉引き出せたからいいやー、と満足そうにニヤリと笑った。
後でレナに「ちょっと強引すぎだったよ!」と叱られて、ぺちぺちとビンタを頂戴して反省すると言っておく。

ホッと息をついたレナの腕から、ぴょん! とシュシュが飛び出した。
オズに向かっていく。

『もふもふ獣仲間!
私は羽根飛(ハネト)びウサギのシュシュだよ。名前お気に入りだから、絶対にシュシュってきちんと呼んでね。
オズ、よろしく』

シュシュのピンと伸びた背中に、リリーがのしかかって、オズワルドをじいっと視上げる。
戸惑うようにオズワルドの青白い魂の輝きが、ユラユラ揺れているのが視えた。

『私、リリー。ハイフェアリー・ダーク、なの。……よろしくねっ』

「……よろしく」

オズワルドは控えめに返す。
この2人は、魔王ドグマに一撃食らわすだとか言ってのけた者たちなのだ。
距離を測りかねていた。

クレハとイズミが、ぽよよん! とオズワルドの膝の上に飛び乗る。触手を伸ばして、手のひらの形を作ってみせた。

『クレハ!』
『イズミ!』
『『ジュエルスライムなんだよー! 握手しようぜ、後輩くんよー!』』

「そういえば、主さんの従魔は全員魔人族になれるって聞いたけど……スライムの2人も……?
スライムの魔人族なんて、この世界で初めてなんじゃないか。
すごい魔物使いなんだな……」

オズワルドは目を見開いてクーイズを眺め、おずおずと触手の手と握手した。

<ええ、スライムの魔人族はこの2名以前には観測されておりませんね!
こんなの初めてぇ! はレナパーティの常套句で御座います!>

「うわっ!? 頭に……直接声が!?」

オズワルドが、驚いてぴぃん! と立った耳を手で押さえた。いや、脳内アナウンスは防げていないぞ。

<初めまして、スマートフォンと申します。こ、の、私が! マスター・レナの従魔歴最長で御座います!
ソイヤーーッ、経歴表示!>

スマホの画面に、レナとの出会い(ケータイショップ)から今までが一覧で表示される。所々に写真付きだ。
学校だの何だのと言葉で表記されているが、オズワルドは「一部のヒト族は学校に通うって聞いたことがある」と適当に納得していた。
それよりも、あまりに鮮明な写真と、見たこともないスマホの造形が興味を引いた。

「これ、どんな魔物なんだ? 主さん。見たことも聞いたこともない存在だ」

<しゅん……>

「わわ、スマホさん落ち込まないで。そのうち魔物に進化できるよ。うん、もうそりゃ、すんごいやつに。
そして私の中学生時代の写メをそろそろ非表示にしてくれるかな!? け、消した筈なのにデータが残ってるなんてぇ……! うう……ムーンライト・ヘアぁぁーー……。
あのね、オズくん。この四角い魔道具はスマートフォンっていうの。
意思を持ってるけど、まだ魔物未満の存在なんだ。これから多分、進化する」

「! ……また新種が生まれるのか! アネース王国の従魔も新種なんだっけ」

「うん」

オズワルドはレナを鋭い視線で射抜く。

「……ねぇ、僕も新種だよ。もう知ってると思うけど自己紹介するね、初めまして。
ネコミミヒト族のルーカティアス。ルーカって略して呼んで」

ルーカがひょっこりとオズワルドの前に顔を出し、キツイ視線を遮った。
暗い紫眼にまっすぐ視られて、たじろいで少し後ろに顔を引く。

「元ガララージュレ王国の王子って経歴も多分聞かされているよね。お互いの立場、少し似てるのかもね。
言いたいことがあるなら、ただ睨むんじゃなくて言葉にしたほうがいい。せっかく伝わるんだから。
レナはきちんと聞いてくれるから、大丈夫だよ」

「! ……なんで、そんなことが分かるんだよっ」

「バレバレ。僕はみんなよりお兄さんだからね。それだけだよ?」

『『『『「ぶーぶー!」』』』』

先輩従魔たちから速攻ブーイングが飛んできて、ルーカがクスクスと笑った。

「いいや、ネタバレしよう。
僕はレア度の高い魔眼ギフトを贈られているんだ。だから、隠し事はできないと思って。
もっとも、常に思考を覗いてるわけじゃないから安心してほしい。
今回は、ご主人様を睨んだ罰として、君の心を覗きました」

<『『やーーーん! ムッツリー!』』>

「クレハ、イズミ、スマートフォン、あとでお話しね。
というわけで、オズワルド。
レナに聞きたい事があるなら、きちんと口に出して言ってみるといい」

「…………」

オズワルドはぐっと口を引き結んでしばらく黙り、言葉を選んでいる様子。
ルーカが座り直して、レナがまたウズウズと顔を覗かせた。

「どうして、こんなに希少種ばかりなのか気になっただけだ……。
主さんは、希少種の魔物をテイムできるほどの戦闘力を有しているのか……?
悪いけど、とてもそうは見えない。
じゃあ、テイムしてからクラスチェンジさせたの?
それもすごく難易度が高いはずだけど」

オズワルドはもうレナの従魔として契約している。魔王国から離れる決断もしてみせた。
それならば、全部話しておいても問題ない、とレナは判断した。
穏やかな微笑みをオズワルドに向ける。信頼してもらえますように、と願いを込めて話す。

「希少種の子たちばかりなのは、私に贈られたギフトが関係しているんだよ。
【☆7】[レア・クラスチェンジ体質]……職業選択権が魔物使いだけになるかわりに、テイムした魔物はみんな希少種にクラスチェンジする。成長促進の効果もある。
強くない種族の魔物をテイムして、数レベル特訓したら進化したんだ」

「……!? そんなの、反則級じゃん!」

「あはは……私もそう思うよー。
私の運ステータスが[測定不能]なのも影響しているかも?」

レナは、これまでの極端な運にふりまわされた旅路を思い出して、苦笑した。
難しい顔になっているオズワルドにしっかり目を合わせる。

「私の従魔になったからには、貴方にもレア・クラスチェンジの未来が約束されている、ってこと。
それを望む?
オズくんは、お父さんが言ったように、最強になりたいのかな?
貴方の意思を聞かせて欲しいな」

どうして、自分にそれを確認するんだろう……とオズワルドは金眼を見開きながら思った。
実は一番、レナに聞いて欲しかったことだったのだ。
この件については、交渉して、受け入れてもらわなくては、と色々言い回しを考えていたのに。こんなに早く、主人の方から尋ねられるとは予想外だった。

オズワルドの喉が震えた。レナを見ながらも、焦点はどこかボンヤリとしている。

「……俺は……強くなることなんて望んでいない」

「!!」

レナが、オズワルドの真意を見逃すまいと真剣な顔つきになる。
従魔たちも、驚いて、浮かない表情のオズワルドを凝視した。

「毎日、強くなるためにって、魔王ドグマ直々の特訓をこなしてたよ。生まれてしばらくは、それが『普通』だった。だから、がむしゃらに親の背中を追ってた。
でも、だんだんとその日々が嫌になった。
俺の理想……将来どうなりたいのかが、まるでイメージできなくて。愕然としたんだ。
魔王ドグマはひたすら同じ事だけを繰り返す。強く、強く。強くなることこそがお前の望みだろう、と。望むならば全力で勝負してやる、我が最強への礎になってやってもいいのだ……と。俺の生きる道を決めつけてくる。
武技で最強になる、っていうのは魔王ドグマの夢だ。
きっと自分以上の存在に出会いたくて、素質がありそうな俺を鍛えているだけ。別に俺じゃなくても良いんだよ。
母が亡くなってからは、魔王ドグマはずっと退屈そうにしていたからな。
……暇潰しのために、人生をくれてやるつもりはない」

レナたちがハッと息を飲む。
オズワルドは低い声で希望を述べた。

「だから、俺の教育係を探すと聞いて、この意見を聞き入れてくれそうな主人をえらんだ。
それが主さんだと思ったから、[逆契約]を使った。
……期待はずれの怠け者で悪かったね。
現時点での戦力は、提供するつもり。役に立つと思うよ。
だけど、強くなるためのハードな特訓なんてしたくない」

オズワルドはここで黙る。

「…………そっか。それが貴方の正直な気持ちなんだね?」

レナの問いかけに、こくりと頷いた。

「いいよ」

レナの声はオズワルドを柔らかく包み込んだ。

あまりにあっさり受け入れられてしまって……警戒して尻尾の毛を逆立てているオズワルド。
レナは友愛の笑みを浮かべる。

「じゃ、ゆっくりと貴方の将来について考えていこう。
一緒に、たくさんいろんな経験をしてみよう。
やりたい事が見つかった時は私たちも全力で応援するからね!
冒険者ギルドでの依頼とかは、手伝ってくれるかな? 旅の資金調達のために必要だから。
貴方はこれから、どんな夢を見つけるんだろうね?
ふふっ、楽しみ!」

「……本当に。いい、のか?」

「うん! のんびりするの大好きだから!」

レナのあっけらかんとした回答を聞いて、オズワルドは、ふうっ……と肺に溜まっていた息を吐き出した。
深く眠って体力回復した身体が、さらに軽くなった気がした。

「実は私ねー、魔王様に武闘大会までのオズくんの成長を期待されて、どうしたものかと悩んでたんだよねぇ……。
そんなの、どうなるかなんて確実じゃないからお約束できないし。
今回のお話を聞いて、ちょっとホッとしてる。
魔王様は、オズくんの望みを叶えてほしいって言ったもん。
だからもしオズくんの意思に反して魔王様が乱入してきても、守るからね!
宰相さんから緊急呼び出しブザーも頂いたし〜」

レナがしずく型のキーホルダーを指で摘んで目の前に持ち上げた。
レナたちは助けを求められる、宰相は魔王を捕獲できる、WINーWINな関係である。

「魔王ドグマは独自解釈がすさまじいけど、無理やり俺を連れかえったり、主さんに暴力をふるったりはしない筈だよ。
……俺を受け入れてくれて、その…………ありがと。主さん。
……最低限の戦力は提供するつもり。よろしく」

「よろしくねー!」

ようやく、オズワルドのぴぃん! と立っていた犬耳が緊張を解いて、柔らかく揺れた。

オズワルドの戦闘力の確認はまた明日にしよう。

そろそろ夕食の食材を買いに行こう、とみんなで立ち上がる。
歓迎プチパーティのメニューはどれがいいだろう、デザートの好みは? なんてわいわい話し合いながら、お宿♡を後にした。

レナパーティののほほんとした雰囲気がとても新鮮で、オズワルドは肩の力をそっと抜いて、レナたちから少し離れた位置で、共に歩いている。
ゆっくりと足が動く。
なんだかとても穏やかな気持ちで、カラフルな主従の後ろ頭をぼうっと眺めた。

▽Next! 歓迎プチパーティ(騒ぎたい!)

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!